装備=拳銃
先込め式の時代には、とても持ち歩くような代物では無かった拳銃も、1878年にサミュエル・コルトが発明した画期的な拳銃コルト・パターソンの登場で、急速に進化を始めます。世界初の回転式拳銃により、連射が可能となり、携行性も増しました。
その後、ピースメーカーとして名高いコルトシングルアクションアーミー(コルトSAA)や、ライバルS&W社のリボルバーが登場していきます。
1908年。ドイツ軍が世界で初めて自動拳銃を採用しました(ルガーP08)。
その頃、アメリカ軍では38口径のリボルバーを使用していました。しかし、フィリピンで反乱が起こり、アメリカ軍とモロ族との間で戦闘が生じます。
この戦いで、38口径の弾丸を全弾撃ち込んでも突進してくるモロ族に、弾薬の威力不足を痛感したアメリカ軍は更に大口径の弾薬の開発を始めます。
連射性と装弾数も求められた結果、次に採用するのは自動拳銃とされ、ここに二つの銃が激突します。一つはサベージ社、もう一つは銃設計の天才ジョン・M・ブローニングが設計し、コルトが生産していたM1906の改良型。当初、サベージ社が優勢でしたが、結果はコルト社が勝利。
ここに45ACPを使用するM1911が採用されます。
※45ACPは、.45inAutomaticColtPistolの略。
M1911は、ガバメントと俗称され、以後、45口径神話を築き上げ、アメリカ人的には「漢の銃」として伝説となっていきます。
※他に30口径神話というのもありまして……故にM1ガランドライフルも漢の銃とされています。他にはM1921トムソンSMG(M1928,M1含む)も漢の銃と認知されています。
M1911は1926年に改良を受け、M1911A1が誕生。
世間では、同じくジョン・ブローニングが設計したブローニングハイパワーで採用された複列弾倉や、ヴァルターP38が搭載したダブルアクションなどを搭載した拳銃が誕生してきますが、45口径神話と、その信頼性故に使用が続けられ、何より、補助的兵器にすぎなかったために後継者も誕生しなかったのですが、やはり、オーバーホールで延々と使い続けるのも支障が出てきたために1979年からアメリカ軍は老朽化したガバメントの後継を採用するためのトライアルを開始します。参加したのは、第1期にコルト、S&W、H&K、スター、FN、そしてベレッタで、第2期にSIGが加わり、結果的にベレッタ社のM92Sが採用されます。
が、ここでS&Wから不正があったとクレームが起こり、トライアルの結果は一端キャンセル。再度、トライアルが行われましたが、何しろ、一丁当たりの単価が捨て値に近いベレッタ社に太刀打ちできる訳もなく、再度、ベレッタ社のM92FがM9として採用されました。
※例え、捨て値であっても大量に需要があるため、利益は出るそうです。ていうか薄利多売?
久しぶりの外国製武器(しかもイタリア)の採用と9mmという時点で偏見は確実で、加えて初期のベレッタが製造工程の問題で、スライドの後部がちぎれ飛ぶという事故が発生。
海兵隊では、信頼が置けないとM9の使用を一端中止し、M1911A1が復活することとなりました。
その後、スライドの強度不足は改善され、あくまで補助兵器である関係上、M16問題のような政治問題に発展することはなく、M9の使用が再開されます。
現在、イラクで用いられているのですが、再度、悪評が高まっているようです。支給された弾倉が古く、スプリングがへたっているためにせっかくの多弾装の意味が無く10発程度しか使えないとか。しかし、拳銃で戦う戦闘など普通はあり得ないので、大問題になりはしないでしょう。
とはいえ、拳銃を使う戦闘がむしろメインになる対テロ部隊では、倉庫に眠っていたM1911A1を再度復活させた改良型を採用しました。
※45口径は弾速が遅いために人間の体を貫通しないが、9mmでは貫通し、第3者を殺傷する恐れがあるため。実のところは装薬量を減らすことで十分対処可能なため、むしろ、45口径神話の方が影響を与えていた可能性はあります。
なお、室内における戦闘で、最も有効な兵器は何かとアメリカで研究が行われ、SWAT(警察の特殊部隊)の意見などにより、拳銃が最適という結果が出ました。
M1911A1
M1911A1 全長:218mm 重量:1360g 口径:0.45in(11.4mm) 装弾数:7発+1発 |
誰がなんと言おうとアメリカ人にとって、最高、そして問答無用に漢の銃。
1926年になり、1911年に採用されたM1911の細部を改良して、1926年、M1911A1が採用されました。
全体的には、グリップ周りの改修ですが、メインスプリング部の改良、フロントサイトの大型化、各パーツの滑り止めの加工の変更など細部にわたって変更されています。
サイトの大型化 グリップセフティの形状変更 グリップハウジングの形状変更 トリガーの短縮 トリガー部にくぼみを追加 ランヤードリングの位置もマガジンから本体に変更されています。 |
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この中でグリップのハウジングがストレートからアーチ状の物に変更されたのですが、遙か後年、シューティングマッチカスタムに用いられる際に、必ずストレートハウジングに変更されている辺り、改良と言うよりは改悪だったようです(M1911.orgという専門サイトでも賢明ではない判断とされています)。 |
基本設計は変わっていないために安全性の問題もそのままで、あのパットン将軍の足を撃ち抜いたという偉大なる戦果も上げています。
※銃を愛することで知られるパットン将軍でしたが、おそらく、暴発事故もあって、M1911A1はすぐに譲って厄介払いをします。しかし、送られた人は将軍が銃を大事にする方であることを知っていたためにすぐに返却されました。なお、M9ピストルのトリガーが異様に堅く重くされたのも、この事故が理由の一つになります。
第2次世界大戦が勃発するとM1911A1の生産数も増大します。これにより、コルト社だけでは生産が間に合わず、ウインチェスター、イサカやレミントンといった他社においても生産が開始されます。
最終生産は1945年。以降、1982年に紆余曲折を経てM9が採用されるまで、実に40年以上、使用が継続されることとなります。
※新型拳銃の採用は、何より、M1911A1の老朽化が理由でした。
45年以降、オーバーホールで何とかしのいでいたM1911A1も老朽化が進み、M9にその座を明け渡します。しかし、元々、38口径(9mm)の威力不足によって45口径を採用した訳ですから、38口径のM9は外国―イタリア製ということもあって不信感を抱えたままの採用となり、兵士たちには案の定、重大な問題が発生。
製造工程の問題から、当初、納入されたM9はスライドの強度に問題があり、このため、M9の射撃中にスライド後部がちぎれ飛ぶという事故が数件発生した時点で一端海兵隊はM9の使用を打ち切り、再度、倉庫からM1911A1が引っ張り出され、限定的に復活しました。
ここでやっと役目を終えたかと思いきや、対テロ部隊の編成で制式拳銃の選定を始めた海兵隊は、倉庫に眠っていたM1911A1をまたもや引っ張り出します。これをベースにしたカスタムが採用されたことにより、90年以上経つ今でもM1911は健在です。
※10年以上前になりますが、某県某市駅前交番の警官がM1911A1を下げてました(ニューナンブは全体を隠すフルフラップですが、ガバメントのホルスターはストラップ式でした)。茨城県警ではM1911A1の使用を継続し続け、ベテラン警官の中には愛用者が多かったそうです(今はどうか知りませんが)。
M9
M9 全長:217mm 重量:973g 口径:0.38in(9mm) 装弾数:15発+1発 |
最終生産年が1945年というM1911A1も、70年代に入ると老朽化と、やはり、時代遅れの感が拭えませんでした。
1979年次期主力拳銃選定委員会が立ち上がり、ここにトライアルが始められます。参加したのは、コルト(アメリカ)、S&W(アメリカ)、スター(スペイン)、H&K(西ドイツ)、ベレッタ(イタリア)の5社、比較としてM1911A1とM1917が参加します。
軍の要求条件を満たすのは、この中でベレッタ社のM92Sだけでした。しかし、軍がもう少し考えようと言い出したために、第2期トライアルが開始されます。この時、更にSIG(スイス、西ドイツ)が参加し、H&KからP7が新たに加わりました。
ここでも、M92は優秀な成績を収め、1982年、M92Fが「M9」として制式採用されることが決定しました。
が、この決定に、S&Wが、結果があらかじめ決定していた不正な物と不服を申し立て、裁判沙汰にまで発展します。
それでも、捨て値安価なM92Fの採用を取り消すまでにはいたらず、採用以前からけちがついたものの、かつて第1世界大戦の頃、フランスの粗悪品を使って戦って以来、久しぶりに外国製の武器をアメリカ軍は採用しました。
しかし、M1911A1のトリガーが軽く暴発事故が発生したために、重く堅くされたトリガーやアルミフレームの耐久性の懸念、誰がなんと言おうとアメリカ人にとって、最高、そして問答無用に漢の銃の後継者となった不運などにより、評判は散々で、とどめとばかりにスライド問題が発生します。
M9の製造は、ベレッタがアメリカに設けた工場で行うことになっていたのですが、初期納入分に関してはイタリアの工場で作成された物が混じっており、その幾つかが製造工程のミスにより規定の強度をまるで満たしていないまま組み込まれてしまったために、射撃中にスライドがちぎれ飛ぶ事故が数件発生。
ここに来て、海兵隊は一端採用したM9の使用を中止し、M1911A1を倉庫から引き出して復活させることになります。
結局、強度不足問題は製造工程の改善で解消し、またスライドがちぎれ飛ばないように若干の改良も施されました(M92FSと呼ばれるタイプ)。
こうしてスライド問題は一応終結し、M9の使用は再開されますが、出だしでつまずいた場合の信頼回復には時間がかかります。また、9mmパラベラムは決して威力が無い弾薬では無いのですが、長年慣れ親しんだ45ACPと比べて、対人制止能力では見劣りするため、対テロ部隊の拳銃を選定する際、海兵隊は倉庫に眠っていたM1911A1をわざわざ引っ張り出したくらいです。
※実のところ、貫通力がありすぎるため、敵の体を貫通し、人質などに被害が及ぶ危険性が考慮されたため。但し、これについては装薬量を減らすことで対処可能。
現在も使用されていますが、最近、また評価を落とす事態が起きています。
本来、M1911A1の装弾数不足を改善するため、というのも新型拳銃の採用理由であり、7発から15発と倍増したのですが、現在、M9はマガジンのスプリングが弱く10発以上装填できないと不満が出ています。一端、支給されたマガジンをばらしてスプリングを引き延ばして組み直す必要すらあるとも。
※実のところ、支給されているマガジンが古く、スプリングがへたっているのが原因らしいのですが。
先代が偉大だと後継者が苦労するというのは、兵器の世界でも同じようです。
ヴァルター社が開発したロッキングラグ式。真似をするのは複雑なことが好きなベレッタだけと揶揄される方式。
スライドが裂けるのも、この辺り。 |