音楽室(2)




[ 12音技法=”相互の間でのみ関係付けられた12の音による作曲技法”・第2回 ]


 さて、重い筆もようやく進み、このシリーズも2回目を迎えることとなるのであるが、ここでは前回に引き続き12音による作曲技法の基本的な”お作法”について紹介してみたい。しかしながら前回でも一部ふれたように、この12音技法にあってはその用いられ方というものはかなり自由度が高く、この技法が技法たる根本的な底辺が遵守されている限りにおいては、それに端を発する作曲の仕方、この技法を用いての構成の仕方といったものは作曲する者の意に従う部分が大きいのだという事はご理解願いたいと思う。

 したがって、これから述べる事の細やかな点についても、この作曲技法にあって明確に規定されているといった種類のものではないのであって、大事な事はこの技法の上において、それぞれの音をどのように扱うのかは作曲家当人の音楽思想・理念に基づいたねらいによって、多様に用いられ得るのであるという事である。この事は例えばシェーンベルクとその弟子のヴェーベルンやベルクらの作風の違いにも現われている。これはひとえにこの技法の根本的原理がきわめて単純明快(しかし、扱い方は複雑を極めるが・・・)である事と、であるが故にそこから展開されるべき用法的な可能性に富んでいたからであろう。その可能性は時代を経て開発され、そして新たな発端となりつつひとつの時代を牽引してきた。そして現在においても直接的、間接的にその影を落としている。

 12音技法とはいっても所詮は音楽を創造するための術でしかない。シェーンベルクでさえも自らの12音の作曲原理に忠実であったという事ではなく、自身の音楽的直感の命ずるままにこの技法の原理を逸脱する事も見られるのである。しかしこの事はこの作曲技法に限った事ではなく、いつに時代にも見られる事であろう。バッハやベートーヴェンなどのように。


・音列の用法上の通則2

 12音技法という新しい作曲技法が用いられ始めたその黎明期においてより、先ず何よりもかつて隆盛を極めたヨーロッパの伝統的和声法の根幹たる”調性”の崩壊をうけて、その後様々現われた”無調性”を旗印とする作曲法の中にあって、もっとも体系的に完成された作曲形態として一般に認識されてきた。したがって、次に述べるこの技法の規則にあっては、如何にかつての調性的性格(表面的な言い草にも聞こえるが)を、この技法によって作られる作品から除外するのかという観点での規則付けが最優先する。


 a、12音技法による音楽作品を構築するにあたっては、まず12音による音列の構成音全てを提示しなければならない。この場合、提示されるべき音列の型は基本形(O
1〜O12)である必要はない。12音技法において、4つの音列形はいずれも同等である。

 b、12音音楽にあって、その音列は様々な音程関係の連鎖によって構成され得るであろうが、しかしながら、あまりに多くの同一音程を使用してはならない。これは旋律的にも和声的にも、ある音程の多発により単調さをもたらしてしまうであろう。

 c、ひとつの音列において、複数の長・短三和音を構成する3音からなる音のグループを用いる事は避けなければならない。長・短三和音により暗示される調性的な響きは、その古典的・調性的な特性とは対極的なものとしての限りでの”無調性”と呼ばれる在り方とは相容れないものだからである。

 しかしながら、作曲家の意図するものからすればこのような規則も決して絶対的なものではない。下記の音列はアルバン・ベルクがヴァイオリン協奏曲で用いた有名な音列であるが、この音列を構成する音のグループは全て古典的和声法における三和音と全音音階を含んでいる。ベルクはこのたくみな音列を駆使してこの協奏曲にかつての和声的追想を織り込んでいる。



 d、12音技法において、#とbとは全く同等である。古典的和声法での、ある調内部における一時的な変化音に付される等のような意味合いはなく、それによって表現されるのはそれぞれに固有の音名でしかない。

 e、旋律と伴奏、あるいはあるひとつの声部に対する他の声部などという、複数の要素に対するひとつの音列の扱い方については、例えばひとつの旋律を奏する声部とそれを伴奏する声部がある場合、旋律で使われている音列内の音以外の部分を伴奏の声部に割り当てなければならない。

 例えば下記の音列を例にとれば、旋律部/A-B-C-D・・・と続く場合、伴奏部/C-D-A-B・・・という具合に。



 またこの場合、旋律部と伴奏部において互いに異なるタイプの音列を用いる事も出来る。例えば旋律部は基本形、伴奏部は逆行形などといったように。

 f、ある特定の音を重複する事は避けなければならない。特定の音を重複するという事は、その重複された音を強調してしまい、音列内の反調性的な”平等”性を崩してしまいかねない。

 g、基本的に、ある音列の12音が連続して用いられる場合、最後の音(12番目の音)は、最初の音(1番目の音)と連結される事が望ましい。

 h、そして原則的に音列は最後まで続けられなければならない。

 i、同じ音の反復は同一オクターブ内でなら許される。

 j、音列内の隣り合った2音によるトリルは許される。

 k、トレモロ、またトレモロに類似の音形についても同様である。

 l、ある音群内での補助音として認められる場合。この種の反復は2つの連続する音の間においてのみ可能である。



 m、ある音群(例えば、4,5,6,7)に先立って”8”(譜例のGis)が奏された場合、その”8”が次に奏されるべき”9”に連結されている場合は先取音的な用法として容認される。





 12音技法による音楽=12音音楽というものは、その書法においてフーガやカノンなどの対位法的特色が色濃く現われてくる。この事から”12音技法とは対位法の特殊なバリエーションのひとつである”などと評される事もあるが、しかし、それに先んじて在るのは垂直的(和声的)・水平的(旋律的)要素のより密接な連関の融合であり、それはもとよりただひとつの音列から求められるのである。

 そして音列そのものと、その音列の内部的特性の持つべき可能性の反復と再現による絶え間ない運動性、要素へ向かっての集中と、構造と全体に向けての拡大により楽曲総体が構築されるのと同時に、音列そのものが自身に向かって終結する。12音音楽における音列とは、その楽曲での唯一の主題、あるいは動機としての機能を担っている。

 ”音列はひとつの動機のように機能する”

 ”理想的には音列が最初からひとつの主題としてのかたち、性格、句節構造で現われてくる”事。

 (A.シェーンベルク)



[ 第2回・終了 ] 2003.7.15





参考文献
 20世紀の作曲 現代音楽の理論的展望 ヴァルター・ギーゼラー著 音楽之友社 (理論)
 新訂・近代和声学 近代及び現代の技法 松平頼則著 音楽之友社 (理論)
 新ヴィーン楽派 音楽之友社 (楽曲分析)
 和声の変貌 エドモン・コステール著 音楽之友社 (理論)
 その他。

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