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Inside Farming Vol.107


摘果がポイント?(バランスの中で作業効率を考える)


 「林檎」という作物に限定した場合の「作業量の削減」の方法の第1は剪定を工夫すること。次なる方策は?といえば、今回はまず、作業を洗い出すこことから、検討を始めるとしよう。

 そもそも、林檎1個を出荷するために、何回、人間が直接手を触れる管理をするのだろうか?

 一番手をかける場合を考えると、長野県の「ふじ」の場合、4月下旬の開花から11月の7ヶ月間に、1花摘み、2粗摘果、3仕上げ摘果、4葉摘み、5玉回し、6収穫、7選果、8箱詰め、の8工程がある(人工受粉が必要な地域ではもう1工程増える)。1000本の樹がある果樹園で、一本に120個の林檎を実らせた場合、全部の林檎を出荷し終えるまでの人間の作業は、8工程の各工程で1回触れるとしただけで、単純に96万回タッチするということである。例えば1タッチ5円の人件費で計算すると、林檎1個に含まれる(これらの作業だけについての)農家の人件費は40円。全体で480万円となる(数字によるレトリックに過ぎないが)。

 面白いから、もっと数字で遊んでみると、林檎を一本の樹に130個ならせると、全体で104万タッチ。1本の木で10個増やしただけで、120個の場合に比べて8万タッチ=40万円の人件費が増える。つまり1万個の増産とひきかえに40万円の人件費だ。この場合、増産した1万個について平均単価が80円なら、売上は80万円増える。よって、人件費+資材費+諸経費を加えても利益が出るかもしれないが、増産した1万個について平均単価が40円なら、人件費だけで既に赤字だ(数字によるレトリックに過ぎないが)。

 逆に20個減らした100個にしたらどうか?。この場合は、120個実らせた場合に比べて80万円の人件費削減だ。結実する数を少なくしたことで、林檎が肥大化して1個平均当り100円の林檎が平均12円の高値で売れたとすればどうか?。なんと、人件費を差し引いた利益は同じになる。つまり、多くの作業をアルバイトに依存している農家なら、摘果の徹底により結実数を減らすことにより、以後のアルバイトの作業時間を減らした方が高利益を得られるということになる(数字によるレトリックに過ぎないが)。

 ここで、この8工程を2つ減らして6工程にしたらどうか。72万タッチである。初めに戻って一本に120個の林檎を実らせた場合では人件費は360万円となる。480万円から比べると、なんと120万円も削減されている。林檎1個あたりの人権費は30円。つまり、売上が変らなければ120万円の利益が出る。同じ作業量で売上を上げたければ、24万タッチ分の330本、4万個の生産を増やすことができる(すべて1タッチ5円という設定によるレトリックだが)。

 なんか、スゴイ計算になってきた(注:この計算を信じないでくださいよ。あくまで、面白くするためのレトリックなんですから)。いずれにせよ、ここまでのレトリックによって園主が言いたかったことは、つまり、作業の省力化はこれほど重要だっていうことだ。それと、作業量と生産量のバランスを考えるながら、着果量を確実にコントロールすることが重要だっていうことだ。

 そこで、作業の効率化から検討すると、収穫に近い作業は、直接林檎の品質に影響するから、なかなか、省くことはできない(葉摘みと玉回しは同時に行われることが多いだろうけれども)。そうなると、摘果(花)作業について、なんらかの対策を立てることが省力化への近道となる。同時にまた、作業量と着果量のバランスで結実を確実にコントロールするという視点から検討してみると、やっぱり「摘果」が重要だということが分かる。

 そうだったのか!。

 「摘果」ってそんなに重要だったのね。しかも、徹底的にやらなければならないのに、効率化もしなくちゃならないなんていう、背反する命題を抱えている。だから「摘果」って、「単純な作業なのにどうしてこんなに難しいんだろう」、と園主は毎年感じていたんだ!。

 で、今回の結論ですが、「収穫量とのバランスを考えた作業の削減のためには「摘果」を徹底的にやることが必要」ということです。作業効率にとっても、林檎の品質にとっても、「甘い摘果は、百害あって一理なし」ってことですね。そして、それが難しいのです(実感)。

 p.s. なお、具体的な摘果(花)作業省力化については、実践されている方も多いと思いますので、参考程度に挙げておきます(園主には問い合わせないで下さいね〜(笑))。
 まず、病害虫防除との関連で、開花直前に黒星病を予防するために散布する薬に替えて(あるいは別に)、開花とほぼ同時に石灰硫黄合剤を散布する、または、5月中下旬に発生する害虫対策として、生理落下を助長する効果のある薬剤を用いるなどがあります。
 また、2の粗摘果と3の仕上げ摘果を、なんとか同時にやろうという試みも各農家で行われていると、思われます。つまり、アルバイトに粗摘果をお願いする際に、初めから「この枝には10個以上果実をつけないように!」などと指導するというものです。この指導がうまく実行される可能性は全くないといっていいのですが(粗摘果でいきなり、最終的な果実量だけを残すことは20年のベテラン農家でも不可能)、それでも、この指導は、粗摘果のみをやってもらう場合に比べて、仕上げ摘果の作業削減にはかなり有効であるといえます。
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