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Inside Farming Vol.106


剪定の自由(林檎に特化して規模縮小を考える)


 「面積を減らさない規模縮小」=「作業量の削減」は、一般的な農業経営でも直面する問題であるという視点から、和歌山でみかん農園を経営する大橋さんが提案を寄せて下さいました(大大大感謝)。大橋さんに影響された園主は、今度は「林檎」という作物に限定した場合の、さらなる作業量の削減の方法を探ってみたいと思います(専門的な話も出て来てしまいます。すみません。そこらへんはニュアンスだけでも掴んで読んでくだされば幸いです)。

 そんな今回のテーマは「剪定の自由」。林檎栽培において「剪定」は、林檎の品質、作業量を左右する重要な仕事と位置付けられている。そのため、林檎に限定した場合の作業量の削減について検討すべき第一は「剪定」であるともいえる。

 検討する前にまず、河合果樹園のある長野県の中信地方の「一般的な林檎の剪定」=「剪定の結果としての樹形」について説明しよう。
 長野県の中信地方では、林檎栽培は矮化栽培が一般的なので、樹形はスレンダースピンドルといわれる樹の天辺を鋭角な頂点とする二等辺三角形になっている。定植後8年くらいで林檎の樹は高さ3.5~4mにも達する。主幹から出ている側枝の本数は8本〜13本くらい。側枝の間隔は40~70cmで、上下の枝が重ならない方向に延ばす。最も下の側枝は地上から80cm〜1mくらいか。全ての側枝は水平から僅かに下方に誘引されている。側枝から出ている枝は適度に間引かれているが、その意図するところは、最終的に、側枝の果台から延びる枝や、さらにその枝の果台から出ている小枝に果実を適当な間隔で結実させることである。樹間は平均で3m〜4.5mくらい。そして、土壌が窒素成分が多めな黒ぼく土のため、樹の勢いは強め。・・というのが園主の認識である。

 これをどうするのか。

 問題は樹の高さである。
 地上から全ての作業ができるようにすれば、「作業量の削減」+「作業が楽」という相乗効果を生ずる。脚立や昇降作業台を用いて樹の上半部を管理する作業は、辛いし、作業性が悪く、地上の作業と比べて時間がかかる。そこで、樹高を2.3m程度(170cmの人が地上から果実を収穫できる高さ)にすれば、作業は劇的に楽になるだろう。3次元的に30%程度の規模縮小だ。

 机上の論理のみで理想(妄想)をいえば、間伐により樹間が6m〜9mになることを前提とし、まず、側枝を従来の2倍近い3mから4mに伸ばす。その分、樹の高さを制限できるとして2.3mとすれば地上から全ての作業ができる。高さがないから、側枝は6〜8本で、水平よりやや上向きに伸ばし、果実が結実した状態でほぼ水平になる。全体の樹形は結果として偏平なひし形であり、果実の結実時に頂点が鈍角となる偏平な二等辺三角形になるというもの。

 現実的には、今ある3.5mの成木の樹高を1m小さい2.3m程度にするということは不可能だということを、ほとんどの林檎生産者は知っている。その理由は、植物は高く高く成長していくという基本的な習性があるからだ。したがって、樹の高さを今より低く制限しようとして樹の頭頂部を人間がいきなり1mも切ってしまえば、樹は切られたことに反発して、なんとか上を目指そうとして、幹や側枝からも垂直に反り立つ枝が乱立する。成長ホルモンの分泌も盛んになり、その結果、果実を結実させようという生殖ホルモンが、果実の品質も低下してまうという結果を招く。
 それならば、数年かけて徐々に切ったらどうか。実は園主は今年、第一段階として、かなり弱い樹勢のジョナゴールドの成木の果樹園を一律に30〜50cm切り詰める剪定にチャレンジしてみた。その結果としては、樹の勢いはなんとか落ち着いていたが、例年に比べてビター・ビットといわれる生理的な問題に起因するといわれる斑点の発生が多くなってしまった。それもあらかじめ予測して、キレート化されたカルシウムなども集中的に散布したのが、極端な切り詰め(+極端な摘果)の影響があった、という結果である。やっぱり、林檎の性質と反する剪定は、なかなか難しいものである。でも、作業は格段に楽になったから、来年も、あと20cmくらいは、やる価値があると思っている。

 大橋さんの提案して下さった「改植」の際に、新しい苗に対して、当初からこのプランで剪定するというのはどうだろうか?もちろん、樹の勢いを弱めるために台木を切ったり、中間台木を長くする、果樹園に窒素系の肥料をやらない(低窒素の方が果実の品質が高いという調査結果があるようだし)など、多面的に取組めば、不可能ではないのではないだろうか。
 ただ、林檎栽培において園主の考える程度のことは先人が既にトライして、結果を出している可能性の方が高いと考えるべきである。そうすると、林檎栽培の長い歴史の中で、このような樹形の果樹園が増えていないということは、そこには、何かしら技術的に実現困難な問題があるのかもしれないし、または、樹の高さを下げることで、果実の生産量、又は、品質が著しく低下するなどの経済的損失が大きすぎるのかもしれない(情報ありましたら教えてください)。
 でも、もし過去の取り組みの結果が、生産性のみがネックとなり却下されたものであれば、現在の園主にとっては「生産・採算性」よりも「作業の軽減」の優先順位が高いから、ダメもとでチャレンジしてみようか!とも思う。今確立されている剪定技術は、狭い日本で単位面積当りの収穫量を効率的に上げることを第一として確立されてきた技術であるからだ。

 そう考えると、剪定する時に生産者は「樹のことを考えながら」「樹のために」剪定をしているようなつもりになっているのだが、結局は、収穫量を増やすために、樹の形を人間の都合の良い形に人為的に変える作業こそが「剪定」なのだといえる。だから、いかに作業性をよくするか、樹の高さを低くするかが第一の剪定があったっていいわけだ!などと、勝手に解釈してしまう。

 林檎栽培の技術指導する立場にある友人は、かつて、林檎の樹を1.5mくらいの高さで一律に切ってしまっている林檎園を見て驚いたという。もちろん、前述のように幹や側枝から垂直に反り立つ枝が乱立してしまい、高品質果実の生産は難しいだろうというような園の状態になっていたらしい。そこで彼は、そこの園主に「なんで、このような高さで切ってあるんですか?」と尋ねたところ「なにしろ、足が痛くて脚立に登れないから、手の届く範囲で樹を切った」との事。この話、林檎を知っていれば知っているほど呆れてしまう話だが、今の園主にとってはなんとも示唆深い話である。

 さらに、この話には続きがある。その園主は友人に対して、「今まで来た人はみんな頭ごなしに、こんなところで切っちゃいけない!というだけだった。まず、切った理由を聞いてくれたのは、あんたが初めてだ」といって、いたく感激していたのだそうだ。つまり、この園主には「自分の出来る範囲で林檎栽培を継続したい>樹高を低くする」という作業軽減のポリシがあって、それに基づいて、プライドを持って林檎を切っていたのだ!。そうか、そうか、そういう事なら、その結果はともかくとしても、このチャレンジに河合果樹園の園主は「密かに」拍手を送る(大胆すぎて、決してまねはできないが)。そして、切り詰めたことの理由を聞いた友人にも、拍手だね。
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