Inside Farming Vol.94 10年後には林檎が高騰するという10年前の噂 先日、農業に携わる友人達と飲んだ。久しぶりだ。友人の一人は生産から市況まで果実農業全般の現状についての知識を必要とする仕事をしている。友人の一人は低農薬栽培で独自の販売ルートを開拓し、安定した林檎園経営を営んでいる。そして園主は、ここ1,2年、兼業による農のスタイルを模索し始めたばかり。同年代で、近隣の市町村で農業に携わりながらも、そのスタンスは3者3様である。しかし、だからこそ話は面白い!。園主は、この飲み会で友人たちに問いかけたい事があった。それは、果樹栽培の10年先はどうなんだ、ということ。自分と農業の10年後をどうイメージしているのか、ということ。 10年後の話題の前に、園主はまず、10年前から続く"噂"の真相を友人達に問い掛けた。12,3年ほど前に園主が農業を始めた頃からの噂である。その噂とは、10年もすれば林檎園や林檎農家の数は減少し、供給が需要に追いつかなくなるから林檎は高値水準で推移するだろうというもの。当時、園主はこの噂を密かに信じていた。当時から既に生産者の高齢化、兼業化による耕作面積の減少傾向が顕在化しており、今後は一層拍車がかかるだろうという見通しがあったからだ。それに加えて、ちょうど当時、近隣でも松本空港を作る際に相当の面積の林檎園が敷地として買収されるなどにより、実際に相当の生産量が減少したから、噂の根拠となったのかもしれない。この噂は5、6年ほど前に再び繰り返された。長野オリンピックの大会施設造成のために大産地である長野市周辺の林檎園がかなり減り、その結果、長野県内の林檎の生産量は激減し、高値が期待できるという形で。 だが、ここ10年、一向に、林檎の価格水準が上昇する気配はない。これはデフレのせいなのか?なにもかもが低価格化する不景気の世の慣わし。景気が回復するまでジッと耐えて待っていれば、噂が現実となって、需要に供給が追いつかない高値市場が形成されるのだろうか? しかし、どうもそうではないらしい。林檎全般を知る友人の話によると、林檎園や林檎農家は実際に激減しているが、それを上回る勢いで林檎の消費量が減っているのだという。眼から鱗。そうだったのか。これで、前記の噂が現実にならない理由が氷解した。つまり、林檎の生産量は減少傾向にあるにもかかわらず、ここ10年間、供給が需要を上回るという供給過剰状態から全く脱することがなかったということか。だから価格は上昇しないのだ。 友人は続ける。消費量の減少は林檎に限ったことでななく、国内果実全般にいえる傾向らしい。その結果、価格低迷と消費減少による流通量の低下というダブルパンチを受け始めているのは、農家だけではく、地方の市場、仲買、卸である、と。確かに、市場、仲買、卸は、取引する農産物の流通量×価格の数パーセントを手数料とし、主な売上としているのだが、流通量と価格がどちらも減少傾向にあるのだから大変だ。インターネット等による農産物のBtoB(生産to流通)や直売(生産to顧客)の活発化は必死だから、さらに深刻になる可能性もある。そこで、国内農産物を扱う中小の地方市場、仲買企業は生き残りを賭け、提携、合併、統廃合が盛んに行われているという(本当のことだ)。 その話をじっと聞いていた、独自販売で安定経営をしている友人(BtoB実践者といえる)が口をはさんだ。確かに、取引量の減少傾向を感じる、と。現時点ではまだ、特に自分の経営に影響を与える量ではないが、今後は、取引先の企業販売戦略(例えば、扱い品種、量、使用農薬量)の変更などをいち早く察知し、自分の経営に影響でないように渉外や営業をして、取引量の維持を目指していくことが必要だと言っていた。なるほど、そうか。 林檎の消費量の減少の原因は、園主が(当てずっぽう)に考えるに、@まず、多種多様な果物、果汁などの氾濫がある。国内林檎は輸入林檎には確実に対抗できる味と品質だが、季節感なく一年中氾濫する多種多様な輸入果実の消費によって林檎消費のパイは減っている。果汁は海外からも入っているから、その分は、国産果実を直撃している。A次に、食生活の変化。もう若者は、ビタミンやファイバーをサプリメントで補給する時代になってしまった。レモン10個分のビタミンC、林檎3個分の繊維やカリウムを、錠剤やドリンクで得ているのだから、必然的に果実消費のパイは減ってしまう。例えば「林檎3個分のカリウム」という表現は、実際に林檎を3個食べてカリウムを得ることとは決して等価ではないはずだが、全く同じ気にさせてくれる(林檎3個分の重さとキティちゃんの体重は等価だといえるが)。Bさらに、ライフスタイルの変化もある。昔は、おかあさんが食後に林檎の皮も剥いて食卓に出してくれたものだ。でも、今は家族揃って朝夕食事をしない。おかあさんも忙しい。食後に家族で林檎をかじる時間もない。林檎の季節である年末年始も昔は家族一緒だったが、今は子供たちは友達と過ごす。家族で食べないものを、子供どうしで食べる姿は想像できない。Cそして、最後は景気。米、パン、野菜は欠かせなくても、果実は節約。経済の摂理である。 こうしてみると、マイナス要因が次々と浮かんでしまう一方で、拡大要因を探すことが難しい。林檎が持つ機能性をアピールして、TV番組とタイアップして再々に渡り消費拡大を呼びかけてきても、減少には歯止めが係っていなかったのである。、タイアップでもイイ、広告でもイイから、もっともっとやらなければだめだぁぁ!。 10年間の疑問がやっと解決した。でも、まだまだ、国内果実の消費は減るのかな?もしそうであれば、10年先の農業も心配ということになるが・・10年後の友人達が持つ農業経営のイメージはどうなんだ?(続く)。 Go to Inside farming index page kawai@wmail.plala.or.jp 写真、本文とも Copyright(C) 河合果樹園 |