Inside Farming Vol.95 10年後の農業経営のイメージ 2000年の雹被害に遭った同じ町の友人達は、多分、農業経営の中で、自然災害の影響が少ない新作物の導入(例えばネギ)という方針を実践することにより10年先の農業経営イメージを持つことができているのだと思う。つまり、今までの経営スタイルの延長として、今後10年をイメージできている。だから精力的に農業を継続できている。素晴らしいことだ。 一方で、園主には10年先の農業経営がイメージできなくなっている。できなくなっている理由の第1は、やはり雹被害のトラウマのせい。今後も再び降雹に遭う危険性があるなら、これからする全ての投資や努力が水泡に帰す可能性もある。園主の性格かもしれないが、そう考えると耐えられなくなってしまうのだ。第2の理由としては、10年後の家庭内の労働力の高齢化による作業量の限界が目に見えている点もある。昨年、自分自身が体調を少々崩したという体験も不安要素となっている。この問題を雇用により解決するためには、ある程度の売上増が必要だか、第3の理由として、果樹価格の先行きの不透明感があるから、第2の問題の解決は難しいと思わざるをえない。これらのネガティブ要因が園主にとっては大きくて、それらを凌駕するイメージが湧いてこないのである。 つまり、園主の考えでは10年後が少々悲観的なものなので、農業経営のイメージができないでいるのだ。その結果、農+αという兼業スタイルを選択しはじめた。でも愛着ある農業のその悲観的な部分を覆したい気持ちは強い。生産の喜びを味わえる農業を大切にしたいと思うからだ。だからこそ、雹被害に遭わなかった町外の友人たちの10年先の農業の展望を知りたいと思った。雹被害から離れた客観的な視点、あるいは、異なる視点から、どんな農業がイメージできるか教えて欲しいと思った。ほろ酔い気分で楽しく飲んでいる時に、突然「10年後の農業と自分をどうイメージするか?」と言われても、簡単に答えられるものではないとは分かっている。それでも、友人達は答えてくれた。そこには、多くの示唆があった。 生産から販売まで果樹全般の知識を有する友人(実家は果樹園経営だ)は、確かに現時点では、果実需要の縮小もあり、果樹専業農家は不安定な状況にあると分析する。だが、暗い未来ばかりではない、という。 その理由の第一に、高品質品を作るための生産技術の向上の余地がまだある点を挙げる。農業者は自分の属する地域が大型の産地を形成していれば、いるほど、その地域の生産技術が全国的にも一番高度な技術で栽培していると思い込みやすい。そのため、なかなか新しい栽培技術を入れようとしない。しかし、全国各地のそれぞれの産地で、それぞれに発展している栽培技術を視察し、柔らかい頭で取り込むことができれば、もう一段階上の、高品質品の栽培と管理の省力化による人件費の節約(または規模拡大)ができるのではないか、と指摘する。第2の理由としては、不況の現在でも儲かっている果樹農家が存在している点、高値で安定している作物も存在している点を指摘する。彼は栽培や生育管理は非常に難しいが、だからこそ高値で販売できる作物を例示した。そういった新作物を柔軟に導入できれば、農家もまだまだ生き残れるだろう。第3の理由は、最近の相次ぐ食物不信。その結果、信頼できる農産物なら需要が伸びる可能性はあるとみる。 なるほど。友人の話を聞いていたら、園主は前記トラウマのせいで、果樹農業あるいは農業全体の可能性を(天候に左右されるという理由のみによって)過小に評価していたのかもしれないと思わされた。やはり、視点が違えば、情報も異なる。彼はこの不況の中でも高収益をあげている果樹農家や作物、生産地域を知っているから、経営イメージが描けるのだ。確かに高収益モデルがあるということは、勝ち残る方法が存在しているということだ。もちろん、それに見合う努力は必要だろうが。雹被害に遭った同じ町の友人達が描いている農業経営イメージとかなり近いものがあるかもしれない。 低農薬栽培林檎を独自ルートで販売し、安定した果樹園経営をしている友人は、園主の問いかけに、10年先の農業がこれからどうなるか?とかよりも、仕事が楽しいか、楽しくないかが問題なんじゃないの?と答えた。LOVE&PEACEが信条の彼の独特の言葉。うーん、深い。 そういえば、彼の果樹園にお邪魔すると、いろんな人が遊びに来たり、手伝いに来たりしていて、それだけで面白い。最近は果樹園を農作業によるメンタルヒーリングの場として専門家に提供しているというから、もう、一般的な農家による果樹園経営のレベルではないのかもしれないが、そこまで、農業というライフ・スタイルを楽しんでいるから、農業に邁進できる。だから10年後の経営も揺らがない。安定経営を継続する自信に基づく答えかもしれない。 彼は酩酊を深めながら、農業以外にも活路を求めはじめた園主に対して、「新しい仕事にチャレンジすることが楽しいか?」と尋ねた。その上で、「でもさ、30後半で転職しても年収400万以下なら農業やってた方がいいんじゃないの。それ以上で、今後収入がまだまだ伸びる見込みがあるなら、トータル収入を考えながら、農業の割合を段階的に減らして、本気で転職も考えればいいじゃん」と明確な提言をした。彼のその設定した金額の根拠は不明だ。なぜなら、彼にその根拠を聞く前に、彼は、「明日、朝4時から仕事する!」といって帰ってしまったから・・(笑)。が、田舎での転職者の平均給与水準や会社員が享受できる厚生年金・社会保障のメリットと、彼が果樹園経営の経営者として償却できる経費や雇用人へ支払っているの給与などから、割り出した確信の高い数字かもしれない。いや、あるいは直感かもしれない。たとえ直感でも、多分、まんざら外れていないのではないかな、と園主は思ったりする。アドバイスありがとう。 <<この金額は、根拠不明&酩酊発言だが、2002年現在の同世代の優良農業経営者の発言として価値があると思ったので公表しておく。それは、園主が兼業を考えた2年前に30代後半で農業から会社員へ転職した場合の給与水準について、ずいぶんネットでサーチを繰り返したが全く目安となる情報がなかったからだ。だからもし、河合果樹園のHPを読んで下さっている地方の農業者で農業から兼業や転職を考え悩んでいる方がいらっしゃれば、一つの参考にして下さいませ。ただ、一般に田舎の給与水準は低く、首都圏のそれとは比較にならない点、地域格差がある点も十分注意して、あくまで参考に。逆に田舎で、会社員から農業へ転職を考えている人にも(今、就農ブームだっていうけど、本当?)、これが分岐点の指標の一つとして何らかの参考になるかもしれないですね>> それぞれの立場で、それぞれの考え方がある。友人2人の10年後の農業と自分をイメージは、園主のイメージとは異なっていたし、それで良かった。話をしていてたら、なんだか気分も晴れてきた。そして再認識したことは、農家はみんな経営者だっていうこと。それぞれが独自の情報と視点で経営判断をし、経営をしている。結局自分の責任だから、どんな展開もありだ。そして、農業だって、他の仕事だって、自分の未来のイメージを語れない仕事に携わっていたのでは、人生がつまらなくなってしまう。希望は活力。こんな時代だからフットワーク良く、軽く考えようね。 Go to Inside farming index page kawai@wmail.plala.or.jp 写真、本文とも Copyright(C) 河合果樹園 |