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Inside Farming Vol.85



或る兼業のスタイル〜紀州からの便り〜<その2>


 前回のInside Farming84で温暖化について便りを下さった和歌山県でみかん果樹園を経営されている方のメールには、農業を大切にしながら、新しい兼業農家のスタイルを模索されているという、ご自身の現状も書かれていました(今回も掲載許可を快諾して頂いています)。河合果樹園の園主は、このメールに大いに共感いたしました。

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 昨年秋は、みかんは豊作で価格が暴落しました。私は、地域の共同選果・販売をしている団体を通さず、東京の小売業者と直接契約して出荷しているので、周囲の農家と比べると相対的には良い方で、がんばって切りつめれば乗りきれそうですが、共同選果場に出荷している人は、生活もおぼつかないような惨状であったと聞いています。みかん栽培の農業1本で生計を立てるには、東京でブランド化しても、薄利多売による以外の所得確保の選択肢は残されていないようです。

 しかし、今後強いられるであろう体力勝負の薄利多売式の農業に耐える自信も正直言ってありません。近所に体を壊し、農業ができなくなって無収入となった気の毒な方がおり、つい自分の将来と重ねてしまうのです。そこが私の弱さなのでしょうが、このような現状を打開するために、農業以外の他の活路も模索するようになったのです。農業以外の他の活路を見出すことにより、一定の収入を確保しながら、体にストレスを与えない程度に農作業し、賄えない分はアルバイトを雇って埋め合わせる、というのが今後の経営スタンスです。

 農業以外の他の活路と言っても、やはり農業に対する未練や愛着はあります。春に着荷し、それが結実して育っていくのを眺めるのは楽しいですし、できれば時間的拘束を受ける宮使いはしたくありません。そこで、河合さんが農業と両立できる仕事として行政書士の資格を取得され、弁理士を目指されているのと同様、私も税理士の資格を取るべく勉強を始め、昨年1科目合格しました。農業で安定した収入が得られるなら晴耕雨読の生活をのんびりと楽しめますが、時代はそれを許してくれませんね。農作業をしたあとで夜に受験勉強をするのは大変ですし、モチベーションを維持するのはさらに大変ですが、お互い頑張りましょう。
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 みかん栽培と林檎栽培は共に政府の農家の経営安定化策の対象となっているくらい、周りを取り巻く経済的な状況は似ているのかもしれません。園主の場合も、きっかけは自然災害に対応するための緊急避難的な措置であった資格取得を目指しながらのワークシェア的なこの兼業スタイルが、@温暖化、雹などの気象条件に左右されない収入を得るA長引くデフレ下の農業生産物の価格低下傾向により景気に左右されない収入を得る、という目的のために、もはや後戻りのできないスタイルになっています。

 実は、園主は何年も専業で農業をやっていましたから、農業に誇りも持っておりますし、そのため、兼業という農業の経営スタイルに関して少々負い目を感じたりしていました。なぜなら、自然災害による農業経営への打撃に対する対応は、本来ならば、農という産業の中から解決策をみつけることこそ最も好ましいことなのですから。実際、周りの友人達は新たな作物や新たな栽培技術で、これらに対応しているのです。でも、このメールで、少し勇気が湧いてきました。こういう兼業スタイルも"あり"だ、と共感できる農業経営者もいるってことが実感できたのですから。

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写真、本文とも Copyright(C) 河合果樹園