第3章 企業、産業、国民経済計算における生産理論

序文 管理総利益図理論より導かれる生産理論

営業利益管理を併用した標準原価計算損益分岐点図による利益管理の推奨

ワルラス一般均衡理論の否定証明

ケインズによる非自発的失業論理の支援

シュンペーターによるイノベーション論理の会計的表現

                                                      工博 林有一郎

 

 第1部、§2では、筆者が創始した管理総利益(決算書上の総利益ではなく、俗語としての粗利益(アラリエキ)=売上の何%などという)という概念を中心に据えて、標準原価計算損益計算書に対する損益分岐点図の作成方法と損益分岐点公式を記述した。なお、「粗利益」を辞書で調べると「(売上)総利益」のこととあるので、それと区別するために、「管理総利益」という用語を筆者が造語したものである。この論述の中で、もっとも難解であり、学問的に意義があったのは、ソロモンズ理論を否定証明する根拠になった、45度線損益分岐点図における「正味製造間接費配賦額η」の理論的取り扱いであったので、読者は筆者の発明がηの取り扱いを主眼としたものであると考えたかもしれない。しかしながら、筆者の発明の中で最も重要視していることはそのことではなくて、標準原価計算に対する管理総利益図の提供の方である。このことにより、利益計画に対して、直接原価計算における限界利益図に代わり、標準原価計算における管理総利益図の利用の道を開いたことである。

 文献[1]において、管理総利益図の利益計画における使用方法とその有効性が述べられていないので、管理総利益図の経営実務における意義を読者はいぶかったかもしれない。実は、筆者は管理総利益図理論を10年以上前に創始し、それ以来、実際に管理総利益図を自社の経営管理で使用し、社員にも常に開示していたところであったが、もう一歩、管理総利益図を有効に使い切れないところがあった。その理由は、管理総利益図の中に隠されている秘密に筆者が長い間気づいていないためであった。そして、当今の日本の不況の中で、自社利益計画の策定が真に重要となり、筆者は管理総利益図利用のさらなる研究の必要にせまられた。

 一方において、筆者による損益分岐点図理論を国民経済計算に適用したところ、今まで経済学においては全く知られていない図形(国民経済計算損益分岐点図)が現れた。この図形の意味するところは、ケインズによる投資乗数効果図形を否定するものであった。筆者は、二つの理論を比較検討して、ケインズによる投資乗数効果理論、即ち有効需要原理が数学的に誤っていることを証明した(第2部、第1章、§6)。

 その過程の中で、ケインズ投資乗数効果式が均衡理論によって誘導されており、その均衡理論の論理が投資乗数効果式の誤りを導いたことを知った。それによって、均衡理論には何かの論理の欠陥が存在しているのではないかという疑念が筆者に生じた。それで、均衡理論の理論的基盤であるワルラス一般均衡理論の研究に取り組み始めた(第2部、第1章、§9)。

 筆者は、失業の原因の考え方に関する限りは、乗数効果公式の誤りを除いては、ワルラス一般均衡理論よりもケインズ理論の方が正しそうだと考えた。しかしながら、そのためには、ワルラス一般均衡理論を否定証明(反証明)しなければならない。ワルラス一般均衡理論の否定証明には、筆者の知る限り、100年以上、数学的には誰も成功していない。その中で、シュンペーターは直感的な推察により、或る均衡状態から別の均衡状態に経済が動的に移行するイノベーション理論を提示している。

 ここに、企業と国民経済における筆者の生産理論を2編に分けて提示する。論文の目的は、企業経営と国民経済解析のための生産理論を創出することである。筆者は経済学教科書に記述されているワルラス一般均衡理論中の生産理論の部分を全否定するが、純粋交換理論については、限界効用関数の存在の仮定を認めた上で、同意する。

 現行の教科書中に記述されているワルラス生産理論については、筆者が誤りとして全否定したわけであるから、生産理論中のどの部分がおかしいのかを指摘する作業が残っている。しかしながら、筆者には、これから発表したい数多くの複雑な経済理論がある。このことと、筆者の年齢と職業からくる時間上の制約のために、ワルラス理論の欠陥部分の指摘は、何年か先のことになるかもしれない。その時には、読者には、誤りの部分の解析のための幾つかの要点を文章のみで記述することで終るかもしれない。

 利益(1企業の成長=機械が減価償却費よりも働いたか+労働者が支給賃金よりも働いたか+経営者が支給賃金よりも働いたか)と売上高の関係に一定の法則は存在しない。そのことは、1人企業から何十万人企業までが共存し、且つ、どれもが栄枯盛衰を繰り返していることから分る。

 読者には企業における利益の意味を知って欲しい。利益とは企業という法人の成長である。利益最大原理(dπ/dY=0)の本来の意味とは、「企業にとって利益を最大にするための一番簡単で確実な方法とは、(国民への)の賃金支給を最少にして、かつ技術的に(経営的に)最大能率を図ることである。」ということになる。こんな理屈は無い。企業の成長とは国の成長の一部であって、企業の成長策とは、国全体のGVAを最大にすることである。この中での一番大きなウエイトは(国民の)賃金総額(雇用人口増が先、次に賃金増)である。しかしながら、それができなくている、即ち、高賃金国から低賃金国へ生産基盤(雇用や工場)を移している(世界趨勢としてglobal経済へ向かっている)のが実際経済である。

 なお、赤字財政の下では(赤字財政でなくても)、GVAを最大にすることが経済効果には逆効果になることがあることに注意する。例えば、地方、中央政府における自己取引(公務員賃金)の増はGVAを増大させるが、規模に関する収穫逓減の法則により、経済状況を悪化させる。この理由は、政府支出(公務員賃金)は固定費であり、これはGVAの中で、直接費ではなく、間接費(その業務内容がGVAの増減と直結しない)であるからである。これらの論理は、§1、§2で説明されている。

 日本語読者へ。ワルラス理論は大変難しい。筆者は、日本語では次の文献を参考にした。「ミクロ経済学(奥野正寛、2008)」、「理論経済学講義(関根、山崎、野崎共著、2000)」、「ミクロ経済学(西村和雄、2000)」、「森嶋通夫著作集9・ワルラスの経済学」(2004)、「純粋経済学要論(手塚壽郎訳、Wesiteより入手)」、その他英語文献を含む数多くのWebsite上の講義用教科書。直接的にはワルラス理論に関するものではないが、「国民経済計算と国民所得(武野秀樹、1996)」における第7章古典派的均衡とケインズ的均衡は、両理論の考察の上で大変役にたった(筆者の目にした限りでは、第II部全体が経済学上の問題点考察のための第1級文献)。

 営業利益管理を併用した標準原価計算損益分岐点図(下の論文に明示)による利益管理方法を習得すると、売上が損益分岐点に達するまでの経営の苦しさと、それを越えた以降の安心感とそれ以降の売上増による驚異的な営業利益の伸び(逆も又真である)を会計期間内で時々刻々実感できる。何よりも社員全員が利益の意味を理解し、利益計算や利益管理におもしろみを感じる。そのためには、損益分岐点図を自動計算で導く地道な帳簿体系のシステム作りが必要である。営業利益管理とは、売上高増ではなく、営業利益増を経営管理目標とする不況下における利益管理方法である。

§1 標準原価計算を採用する企業における利益計画 :PDF 

-損益分岐点を使った営業利益管理の推奨-

-ケインズによる非自発的失業論理の支援-

§2 人間の英知作用と地球事象作用を解析するための生産理論 :PDF  -ワルラス一般均衡理論の否定証明-

2009/6/8 発表。2009/7/14 §2付録に追加、各論文の誤植訂正。2009/8/18小修正。2010/8/5 「標準原価計算を・・・}」の付録部分を修正。

(c) Dec. 2003, Yuichiro Hayashi