§1 CF行列解析法補足

工博 林有一郎

平成15年12月発表

 ここの部分の記述は、近いうちに論文様式で全面的に書き換えます。しばらくの間、CF行列解析法の補足として見てください。(H21.12.3)

産業連関表の図形的意味 

  キャッシュフローに用いられる勘定関係の説明は、本ホームページにおける§8 経済学のためのキャッシュフロー計算書を参照されたい。なお、本文の段階では、キャッシュフロー解析にまで到っていないので、産業連関表という用語を併用する。 

 図1に2産業部門の場合の産業連関表を示す。

図1 産業連関表

 産業連関表の意味を探るに当たって、前節式(1)に対応する勘定1と勘定2は、それぞれ別の勘定を表しており、2種類の損益分岐点解析を行っていることを示そう。勘定1と勘定2に対応する図が図1と図2である。勘定1と勘定2は、取引先内訳勘定と言えるだろう。

   勘定1               勘定2

1                図2

 前節式(7)に対応する勘定3と勘定4は、図3と図4に対応する。勘定3と勘定4は、損益勘定である。

勘定3               勘定4

図3                図4

 図1〜図4を連結したのが図5である。図5により、前節式(12)はVXに拡大していく過程、前節式(5)はXYに縮小していく過程であることが分る。なお、図5の中で、VやYに対して平行線(固定値的な値)が入っているのは、VやYは変動値や固定値で構成されていることを表している。

図5

企業会計の産業連関表表示

 現代のサービスを含む産業製品は、各産業間の分業によって製造される。産業連関表とは、衆知のように、総付加価値が原材料に付加されて最終製品に到る価値の流れを、製品生産の始点から最終製品に到る過程を通じて、主として中間投入(中間需要)に着目して表現したものである。

 産業連関表解析手法は、本質的には、1企業内部の配賦手法を取り入れた原価計算を採用する企業決算書作成手法と同一である。企業決算においては、部門間の配賦原価と配賦収益は、決算段階で全て相殺され、結果的に、1企業全体に対する外部売上と実際原価との関係が得られる。そして、部門間の配賦関係を利用して、全実際原価をうまく各部門原価として配分できれば、1部門内における、外部売上と実際原価(この場合は外部からの仕入れを含む)との関係が得られる。そして、その結果を図化する理論が、本ウエブサイト、第1部会計学、特許明細書の主目的である。

 産業連関表と企業決算書を対比すると、総付加価値GVA(上述の)と最終需要GDP(上述の)は、それぞれ、自社内部発生総付加価値と[総生産額-外部からの仕入れ額]に当たる。企業の損益表を産業連関表形式で表現できることを示そう。このことによって産業連関表の意味するところがより明瞭になる。

 ある企業が存在し、簡単のために、その企業には、減価償却費Dを代表する施設部と、雇用者報酬Wを代表し、かつ外部より中間投入財貨Mを仕入れる加工部と外部に製品を売り上げて(売上高=X)利益πを得る販売部があるものとする。外部の販売高Wには、今のところ付加価値はないものとし、外部から仕入れたものとする。

 この企業は、配賦制度による原価計算を行っており、施設部は加工部へ原価Dの全額を配賦するものとし、配賦額δDとする。加工部は、販売部へ原価の全額= δ + M + W を配賦するものとし、その配賦額をαとする。販売部の外部売上高をXとする。従って、付加価値売上高Yは、次式で求められる。なお、一般的には、例えば、δDとなる必要はなく、その残差は、部門損益、あるいは原価差異となるだけである。

Y = XM

(1)

 販売部における利益πは次式で求められる。

                     π = Xα

                      = X(δ + M + W)

(2)

  各部の損益勘定を勘定5に示す。配賦の一般的な姿は、特許明細書中の表7に示すが、その本質は勘定5と変わるところはない。

勘定5 各部の損益勘定

 勘定5を産業連関表の形式に作り変えることができる。それを図62に示す。損益勘定の借方が産業連関表の列方向に、損益勘定の貸方が産業連関表の行方向に対応しているのが見て取れる。勘定5と図6は互いに等価である。

図6 産業連関表形式に書き換えられた勘定5

 図6を用いて、中間投入(=中間需要)の意味を探ってみよう。以下に、前節の手順で、行列要素を求める。

図7

 図6によると、外部と企業の総生産額∑Xi,∑Xi = δ + α + M + Xと表される。図8に各部の売買取引のつながりを示す。図により、∑XiXiYの意味が読み取れよう。

図8

 CF行列解析法を国民経済計算に適用する場合には、実際は、図9に示すように、営業余剰(及び、GDPに比例する成分)は他のGVA成分(GDPの増分に比例しない成分)との間で、損益分岐点図を構成するように決められていることに注意しなければならない。これが時系列型インプット・アウトプット図と損益分岐点型インプット・アウトプット図との違いである。営業余剰は、固定費に対する損益分岐点売上高比率で定まる。営業余剰はGDP(売上)が定まった後で、他のGVA成分との残差で定まる。それは固定的なGVA成分が営業余剰の量に影響するからである。このことは、企業の損益計算と変わるところはない。

図9

 この例解で注目してもらいたいことは、1企業だけに着目した場合に、その企業の経済の中での真に価値たるべき生産は、D+W+πだけであるということである。Mはいくら大きくても小さくても、その企業が真に生み出した生産価値としては無価値なのである。即ち、例解の中で、企業内の部門は、内部取引に当たって任意の値で標準価格を決めることができる。しかしながら、社外売上が一定であれば、その標準価格の大小でD+W+πが変化することはない。社外売上が増大する中で、それに応じて社内取引の数が多くなれば、Dは固定費、Wの中の一部は固定費なので、πが増大する。

C/F行列解析法の発展 

 レオンチェフ産業連関表は、無価値の資源から総付加価値を有する最終生産物売上に到る過程を表現したものであるから、その流れの中に財貨の重複取引(転売など)は存在しない。しかしながら、CF行列解析法は、生産から最終生産物の売上までに到る売買取引を表現するものであるから、取引に、単なる利ざや稼ぎのための転売が含まれていてもよい。従って、最終売買に到るまでに中間投入(中間需要)はいくら膨らんでいってもよい。これらの現象は、1企業内部の部門間で配賦収益と配賦原価とが何度も錯綜取引される場面としてイメージできる。

 CF行列解析法、産業連関分析に留まらず、新たに、多方面に渡る経済事象解析に非常に有益な手法となるであろう。その理由は次の通りである。

(1) 産業連関表の元々の適用分野は、物から物への生成であるが、CF行列解析法は、生産財貨に対してだけではなく、土地や中古財貨を含む実物資産、株式を含む金融資産、貸付金を含む現金預金(キャッシュ)の流れ、即ち信用取引を含む全ての財貨とキャッシュの流れに当てはまるからである。

(2) GVAとGDPとによって表される生産物間の取引関係と、株式や土地などの非生産物間の取引関係を表現するCF行列の発見により、全ての経済価値の流れを関係付ける行列関係式表示への道筋が開けたことになる。CF行列表は、信用乗数理論の正否にも決着をつけるだろう。

§2 国民経済計算におけるキャッシュフロー行列(CF行列)解析法の提案とレオンチェフ産業連関表解析法の考察(第1部)(PDF)

本文の骨格は、本ウエブサイト立ち上げ時(平成15年12月)に発表。最終更新日 2009/12/3 現在、論文スタイルで発表準備中(2009/12/3)。