第3部 吊橋構造解析

工博 林有一郎

南備讃瀬戸大橋(吊橋)の構造解析
1. 筆者の吊橋構造解析に関する研究
参考文献は、英文、"Structural Analysis of the Minami Bisan-Seto Bridge( Suspension Bridge)"参照。
2. 構造設計
(1) 南備讃瀬戸大橋(吊橋)と北備讃瀬戸大橋(吊橋)は、それらの中央に、一つの橋台(共用橋台、又はセンターアンカレッジ)を共有している。共用橋台は、両者のケーブル張力を連結し、張力を大地岩盤に伝えている。南備讃瀬戸大橋片側1本当たりののケーブルは、271本の平行線ストランドからなり、1本の平行線ストランドは5.12mmφの127鋼線からなる。南備讃瀬戸大橋のケーブル最大張力は約43,600t /1本である。北備讃瀬戸大橋の中央支間長は南備讃瀬戸大橋の中央支間長より短いので、両者のケーブル張力は互いに異なっている。我々は、両橋の側径間のケーブル入射角度を下部構造の位置条件のために水平にすることはできなかった。従って、共用橋台には、両側のケーブルにより、大きなせん断力とアプリフトが生じる。

南備讃瀬戸大橋

北備讃瀬戸大橋

筆者が新しく海峡部橋梁の構造設計部署(旭一穂課長)に配置されたとき、共用橋台の構造設計検討案として、幾つかの案が残っていた。我々はその中で2案を選択した。1案は、三角板方式であり、他の1案は、ケーブル空中交差方式である。三角板方式は、次のようなものである。必要な枚数の三角板を橋台中央に設置する。三角板は、リブで補強されている。三角板の両上端部にケーブル両側のストランドを定着する。三角板の下端部を橋台の底部からプレストレス鋼棒で引き込む。その設計案の難点は、いかにして三角板底部を設計するか(静的、動的摩擦問題)と、海上気候においてプレストレス構造を保証できるかということであった。
ケーブル空中交差方式を次の図に示す。ストランドの末端には、ソケットが定着されている。この案の最大難点は、ストランドの空中交差部で、いかにしてストランドをハンドリングするかにあった。ストランド空中交差部では、ストランド間のクリアランスは非常に小さく、架設工が空中交差部に近づくことはできない。ストランドの配置は非常に錯綜するだろう。その案の利点は、動的条件においてでさえも、あるいは、経年後のコンクリート劣化時においても、ケーブル張力によってケーブル定着構造を破壊することは難しいだろうという点にあった。何故なら、ケーブル張力は、コンクリート躯体中で圧縮力に変わっているであろうからである。筆者は、海上気候の下で、200年間の耐久性構造を求めていた。
筆者は、特別仕様の油圧クレーンを製作すれば、おそらくストランドソケットの定着は可能であろうと考えた。同僚の福井幸夫氏(現、㈱インテグラル代表)は、1本のケーブルのストランドを鉛直に幾つかのグループに分け、両側のケーブルストランドグループを鉛直に、かつ交互に配置してアンカーフレームにストランド定着していくというアイデアを出した。ケーブル空中交差方式を採用した橋台が実際に建設された。そして、その時には筆者は既に本四公団を辞職していた。今、来島海峡大橋で同じ方式の共用橋台を見るとき、筆者は深い感慨を覚える。
ついでながら、南備讃瀬戸大橋のもう一方の海中部の橋台(BB7A)は、独特の形をしている。これは、筆者達が橋台下部の基盤部の岩盤応力度を考慮して設計していった結果、自然にこういう形になったものである。

図 共用橋台

参考文献:林有一郎、福井幸夫、津山繁昭、杉田卓男、「吊橋ケーブルのストランド架設工法」、日本国特許、特許第1302592号、昭和61年2月14日。

(c) Dec. 2003, Yuichiro Hayashi