東洋医学
潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis:通称 UC),過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:通称 IBS)の治療方法
(5)野上龍太郎,島田達生,”潰瘍性大腸炎患者の直腸粘膜の形態的特長”,形態・機能,第5巻第2号2007年3月の概要
●インターネット検索により、標記文献(以下、野上・島田論文と称する)に、IBS, UCの原因考察に対して、大変参考になる論文があったので、その内容を紹介する。
写真1(図1)
写真2(図2)
写真3(図3)
写真4(図4)
表1 IBS, UC
患者の上皮状態直腸粘膜 | 陰窩内部 | 自由表面 |
正常部位(健康人) | 上記参照 | 自由表面上の杯細胞の表面は比較的平坦である。 |
偽正常部位(UC患者)
:肉眼で炎症・潰瘍の無い部位 |
症状の程度により、健康者部位と下記悪化部位との中間的な状態をとるであろう(林)。 | ・自由表面上の大部分は、吸収上皮細胞によって占められている。
・少数の杯細胞が見られる。杯細胞の先端部に若干の膨隆が認められる。杯細胞の表面は比較的穏やかで、短い少数の微絨毛と粘液の分泌を示す大小の隆起をなしている。 ・陰窩(インカ)はほぼ規則正しく配列し、大きく開口(内径20μm〜25μm、長さ100〜150μm:写真より判断)している。 |
悪化部位(UC患者)
:明らかに炎症が認められる部位 |
・直腸陰窩の深さは、偽正常部位のそれの1/2〜1/3に縮小している。
・陰窩は浅く、杯細胞は減少し、また小型化している。 ・杯細胞下部の膨らみがなく、陰窩の萎縮が見られる。陰窩からの粘液排出量の減少が示唆される。 |
・陰窩の数が減っており、しかも開口部が著しく狭窄している。
・吸収上皮細胞はやや暗調で、肥大した杯細胞によって強く圧迫されているように見える。 ・粘膜自由表面における杯細胞が偽正常部位に比べて増加している。粘膜上皮がもっぱら杯細胞で構成されているようである。 ・自由表面上の杯細胞は、細胞質に多量の粘液顆粒を有しているばかりでなく、細胞先端部は球状に突出し、内部に密集した粘液顆粒を有している。 |
別文献(悪化部位) | 上皮内部で見られる症状
・大腸リンパ管の拡張 ・粘膜固有層内のリンパ球増加と湿潤に伴う浮腫 ・血管の充血と拡張等 |
●論文執筆者(野上、島田)は、上記観察から、次のような結論を与えている。
@悪化部位では、陰窩の大きさそのものが偽正常部位のそれに比べて1/2〜1/3に縮小しており、その中に本来含まれるはずの杯細胞は減少し、また小型化している。
A悪化部位では、粘膜自由表面の杯細胞が明らかに増加している。このことは、陰窩の萎縮に伴う陰窩の杯細胞の減少と小型化、および開口部の狭窄による粘液排出量の減少を補うための代償性変化と推測される。
Bそれに伴い、悪化部位自由表面上の杯細胞が肥大化し、機能上、過剰な粘液分泌亢進状態となった。
Cそのため、杯細胞先端部の大きな膨隆は、直腸粘膜上皮表面に激しい凹凸を形成した。
D結腸で徐々に水分が吸収されることで、より固くなった便がその凹凸面を通過するとき、上皮の破壊とともに出血するのであろう。
E先行研究によると、上表の別文献(悪化部位)に記述した「上皮内部で見られる症状」の報告がある。これの症状が原因となって、「陰窩の萎縮と開口部の狭窄」がもたされたのではないだろうか。
●筆者(林)の標記論文に対する見解(仮説)
筆者(林)は、@〜Cの記述は大変参考になり、かつ同意する。Dに関しては何とも言えない。Eの記述が実は治療法の組立に大きく関係する。筆者の見解は、「陰窩の萎縮と開口部の狭窄」が真の原因(本)であり、自由表面上の「杯細胞の代償性変化」は、生命に本来備わっている人体に有益な作用(働き)である。但し、代償機能は、当然ながら本来機能を完全に代償することはできない。代償機能においては、人体に不都合な作用を余分に伴う(副作用)か、本来機能よりも不十分な作用しかできない。この不都合な症状がIBS, UC症状(標)である。治療法は、大腸機能(便をスム−ズに排出する機能)の本を回復させることである。IBS, UCの治療法が現在なお見つかっていないのは、大腸炎でありながら、大腸にはその病因の本が存在せず、本は人体の別の部位(器官)に存在するからである。
即ち、陰窩の萎縮と開口部の狭窄を生じさせている原因は、大腸そのものではない。陰窩は大腸とは別の器官から萎縮させられているのである。(c) Dec. 2003, Yuichiro Hayashi