§9 経済学のためのキャッシュフロー計算書
工博 林有一郎
2006/5/9(2010/9/13修正),2012/9/20 新規作成
前節のキャッシュフロー計算書に対する基本的な作成方法の補完として、繰越欠損処理について説明する。
9.4 キャッシュフロー計算書の作成方法(その4):繰越欠損処理,税効果会計に対するCFSの作成方法
1. 概要
課税所得100を得れば、40(実効税率0.4)が課税され出金する。それでは、ある年度に赤字(欠損)が100である場合には、課税額40が返金されるか?もちろん、そんなことはない(課税額=0)。しかしながら、その欠損金額100は、一定期間の期限付きではあるが、繰り越して将来の課税所得100まで、即ち課税額40まで将来納税額と相殺することができる。従って、繰越欠損金は将来の納税額を減少させる効果を持っているので、税効果会計を適用(準用)できる。しかしながら、税効果会計を適用したからといって、実際の財務諸表の納税額が変わるわけではなく、税効果会計は、経営者や株主に対して、繰越欠損状態に対する広報周知の役割を果たすだけのものである。しかしながら、企業経営者にとっては、欠損処理の期間と金額の認識の観点から、大変有り難い仕組みである。
2. 繰越欠損におけるキャッシュフロー
(1) 税効果会計を適用しない場合のキャッシュフロー
◇対象とするCFS
次のような企業があるものとする。その企業は、或る年に赤字300を出し、しばらくの間、課税所得=0の状態を続けており、X0年度の決算結果は、純利益πN=0、純資本Π=−300であるものとする。その企業が、X1年度とX2年度の両年に、各商法課税所得200を出した。この場合のCFSを表1に従って作成する。
表1
◇表2に対するCFS
表2に、X1年度における税効果会計を適用しない場合のPLδBS表を示す。
表2 繰越欠損企業のX1年度PLδBS表
表3に表2に対するCFS基本作成表を示す。
表3
表4に、表2のCASH・PLδBS表を示す
表3
表3より、表4と表5に示す直接法CFSと間接法CFSを得る。
表4 直接法CFS
表5 間接法CFS
◇表6に対するCFS
その企業がX2年度に、表6に示すように、同じく商法課税所得200の利益を出す状況になった。同じく税効果会計を適用しない場合のX2年度のPLδBS表を示す。
表6 PLδBS表
表7に表6に対するCFS基本作成表を示す。
表7 CFS基本作成表
表8に、表6に対するCASH・PLδBS表を示す。
表8 CASH・PLδBS表
表9と表10に、表6に対する直接法と間接法のCFSを示す。
表9 直接法CFS
表10 間接法CFS
(2) 税効果会計を適用する場合のキャッシュフロー
◇表2に対して税効果会計を適用した場合のCFS
表11に表2に対応する、始めて税効果会計を適用する場合のPLδBS表を示す。表2と表11における実際課税法人税TAX1は0であり、両者変わっているわけではないが、表11においては、会計所得200に対し、法人税等調整後の法人税は80(=200・0.4)、純利益=120(=200・0.6)であり、見掛け上、会計所得と課税額が対応している。
表11
表12に、表に対応する繰延税金資産に関するCFS基本作成表を示す。
表12 繰延税金資産のCFS基本作成表
表13 表11のCFS基本作成表
表11に対する直接法CFSは、表4と同一である。表14に間接法CFSを示す。表5と表14の違いは、表5では純利益=200であるのに対し、表14では、純利益+過年度税効果調整額−繰延税金資産=200となっていることである。
表14 間接法CFS
◇表6に対して税効果会計を適用した場合のCFS
表15に、表6に対応する税効果会計を適用した場合のPLδBS表を示す。表15に対する直接法CFSは、表9と同一である。表14に間接法CFSを示す。表5と表14の違いは、表5では純利益=200であるのに対し、表14では、純利益+過年度税効果調整額−繰延税金資産=200となっていることである。
表15 表6に対する税効果会計
表16にPLδBS表を示す。
表16 PLδBS表
直接法CFSは、表9と同じであり、間接法CFSは、表10において、純利益πN=160を純利益πN120+繰延税金資産δΓ40=160と置き換えただけのものである。このように、 税効果会計をすることによって、決算書の実質が変わるものではないが、税効果会計が経営者や株主にとって有益なのは、決算書BSに繰延税金資産残額が計上されており、繰延税金資産残額/0.4の値が期限内に無税で繰越欠損を回収できる利益額を示しているからである。