§9 経済学のためのキャッシュフロー計算書の新しい作成方法

工博 林有一郎

2006/5/9(2010/9/13修正),2012/9/20 新規作成

CF行列解析法の基礎とするために、損益計算書と貸借対照表により、キャッシュフロー計算書を直接法、間接法により作成する手順を図解で説明する

なお、2006年発表の内容は削除した。

本章のキャッシュフロー計算書の内容は全て、税引後純利益から出発しています。通常の企業会計に対する方法は、税引前利益から出発します。その理由は、次の文献が参考になります。税効果会計に対する取扱いは、9.3に記述していますので、参考にしてください。なお、経済学解析においては、当然ながら、配当を考慮した当期純利益から出発します。標準原価計算に対する損益分岐点図を利用する会計方法が2013年11月に米国特許を得たことに伴い、その後の解析の結果、製造間接費配賦額の取り扱い(棚卸資産原価扱い)がキャッシュフロー解析に影響することが分かりましたので、それを加味して、本章の改訂準備中です。(2014/07/12))

本節の内容は、キャッシュフロー解析というよりは信用フロー解析というべきものとなりますが、その手法は標準原価計算理論と密接に関係します。2015年4月に「管理会計と財務会計とを統一する損益分岐点図を利用する標準原価計算会計方法」が日本国特許に認定されたことに伴い、本節とそれらを一括した会計理論体系を著作とすべく現在とりまとめ中です。(2015/5/14)

参考文献:Prominent consulting、”なぜ営業活動は税金等調整前当期純利益から始まるのか”、http://www.prominent-c.com/accounting/CF/pg122.html

9.1 キャッシュフロー計算書の作成方法(その1):直接法と間接法の基本的なCFSの作成方法

1.概要

 本節の内容は、会計学専門家や会計学徒を対象としたものではなく、そのため、企業会計審議会による「連結キャッシュフロー計算書等の作成基準(平成10年3月13日公表)」に基づくキャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement。以下、CFSと表す。)の作成方法には全く沿っていない。その理由は、筆者による行列変換による経済解析理論の構築過程で、キャッシュフロー解析理論(国民経済計算の行列解析)を取り入れる必要が生じ、経済学解析理論構築の便のために、企業キャッシュフロー計算書の意味するところをまとめたものであるからである

 本文では、経済学解析に必要ない些細な処理は省略している。しかしながら、そのために本文の内容がキャッシュフロー計算書としての厳密性を欠くものではない。本文に紹介するCFS作成方法とは、国民経済計算(以下、SNAと表す)に対する経済行列解析のために、企業会計勘定の借方、貸方上の意味と約束(現金の入力増や債権の増は借方正値、現金の出力増や債務の増は貸方正値)を守って、CFSを機械的に、単純に記号表示するための技法である。

 本文は平成24年9月にまとめたものであるが、現在の時点で(平成26年5月)で本節の方法(林法)を企業会計審議会による方法(基準法)と比べてみると、当然ながら、直接法、間接法の結果的な内容は両者とも同じであるが、次のような違いがある。(1)基準法ではキャッシュ項を重要視して大きな分類でまとめ、キャッシュ項に決算書内の勘定項目をそのまま生かした形(もちろん。多少の変換は行うが)で表現するため、簡潔である。(2)林法では、キャッシュというよりは、信用(キャッシュも信用の一部とみなす)を構成する勘定項目と信用以外の勘定項目との違いを認識する形で表現しようとする。そのため、信用の違いを示す記号が複雑になっている。(3)基準法では、同一活動区分内におけるキャッシュ項の数は1個であり簡潔であるが、林法では、キャッシュ項の数は複数(基準法におけるキャッシュを再分割する)になり、その分、表現が複雑になっている。(4)林法では、後々の解析や図化のために、減価償却費Deと標準原価計算における正味製造間接費η(標準原価計算における損益分岐点解析を参照のこと)を顕わに残して表現することを意図する。さらに、各種の損益πとは、単純に着目する範囲の取引の際に発生する単なる信用のInputとOutputとの差額とみなすが、そのような考え方は基準法にはない。例えば、企業勘定と政府勘定(個人企業を考慮しない家計に対しても)において、πは両者に生じ、そのπの意味は両者において同一である。(5)林法では、実物財貨と、証券等金融価値の取引をさらに取引実施のための信用手段の違いを考慮して表現しようとする。そのため、取引の表現法が二重になっている(取引対象勘定と、その取引実施信用勘定)ため、複雑である。

 このように、キャッシュフロー計算法を必要とする目的が違うため、林法は複雑、基準法は簡潔となっているが、その優劣(経済学適用においても)は、筆者が新しい経済解析法を創造する上において林法を必須とし、且つその創造に成功できるか否かにかかっているだろう。 

CFS作成のための準備

 本文の読者は、最低限、PLとBSの意味を知っていることが望ましい、多少の知識がないと、例えば、純利益、棚卸資産、減価償却費等が直接法では何故消去されてしまうのかというCFS作成の最初の段階でつまづいてしまうからである。基本前提として知っておいてもらいたいことを次にまとめる。筆者の経済学思想(筆者が解析的に表現したい事象を含む)と関連するところもある。

(1)何故、損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)のどちらの表にも同額の純利益が含まれているのか。

(2)PLとは、損益振替集計表であること。PLの中だけにおいて、借方と貸方間で勘定が発生することはない。何故なら、PLとは、自社営業活動に対する振替集計表であって、集計表の結果同士を直接に取引することはないからである。PLとBSの間では、取引勘定は発生する。重要なのは、BSの間で取引勘定が発生することである。例えば、売掛金が順々に現金化される場合である。

(3)売上製品原価は全部原価であり、一般管理費は期間原価であること。繰越棚卸資産原価の所在に関係する当期製造原価と売上製品原価との違いを知っていること。

(4)PLにおいては、期首勘定の全科目数値は0であり、期末勘定がPLであること。一方BSにおいては、期末BS勘定項目数値=期首勘定項目数値+増分勘定項目数値、となっていること。

(5)企業固定資産の減価償却費の本質とは、生産者側の投資資本財の評価損という概念の発生の必然性であり、減価償却費とはその評価損の生産者側からの回収概念であり、そしてその処理ための会計テクニックである。そのため、その数値の確定には恣意性(法律の改正により、いかようにでもできる)がある。従って、その恣意性の影響を受ける勘定集計値としての利益にも、恣意性が混じる。

 減価償却費は、財産上・金銭上の利益を得る目的をもって事業を行うことを目的とする利益法人に最も意味のあるものであり、例えば、投下資本の回収を目的としない(明確なる利益事業を除く)寺社仏閣には減価消却費の意味はない。特に、減価償却費という概念が無意味なのは、政府事業であり、いくら減価償却費という概念を形式的に導入していても、会計学の意味における一定期間内の投下資本の回収という目的概念が歴史的にも、意識的にも、避けられており、権力者(内閣)による税金徴収者責任の範囲を定めてもいない。従って、現状のままで財政に減価償却費を取り入れてもその結果は徒労に終わる。

(6)製造産業では、通常、原価計算の過程を経る。原価計算における注意点をあげる。受注生産業(建設業や造船業など)と見込み生産業における原価計算使用用語の使い分けの問題がある。見込み生産業では、製造過程にある製品を仕掛品(実際は棚卸資産原価)と何時でも販売できる、即ち売上先が未定である完成製品(実際は棚卸資産原価)に、完成製品を売上製品(実際は売上製品費用)と売れ残りの完成製品(期末棚卸資産原価)とに分類する習慣がある。一方受注生産業では、売上先が未定である完成製品という概念はない。そこで、当期製品製造原価を集計する過程で、多少、原価計算処理の方法と使用用語が違ってくる。しかしながら、売上計上した製品のみが売上製品費用の対象となり、それ以外の製造活動は全て棚卸資産原価の対象であるということを理解すれば、結局は同じ処理となるが、初めは使用用語の理解ができず混乱する。

(7)会計学教科書においては、原価(COST)と費用(EXPENSE)の用語の使い方の違いが解説されている。ところが、製造面においては、全ての教科書においてこの使い分けが厳密になされていない。この理由を、米国インターネットで調べたところ、実は会計学では歴史的にCOSTという用語の方が早く生まれて長く使用されており、EXPENSEという用語が後で生まれたために、歴史的慣用を無視することができず、現在、定義通りには用語が使われていないのだそうである。

(8)経済学におけるケインズ3勘定行列を考えるとき、最も基本的な経済要素は、P=中間生産物の購入、Y=GVA=総付加価値=W(雇用者所得)+πO(営業余剰)+De(固定資本減耗)+TaxP(間接税)、T=経常移転(各種税金、各種社会給付、その他)、C=消費財の販売、I=総資本形成=固定資本財の販売、在庫品増加、金融資産の増加=金融負債の増加である。πOは、企業会計におけるほぼ営業利益の概念であるから、企業キャッシュフローと同じく、経済解析においても、営業利益を得るまでの活動が一つのまとまった活動表現単位となる。なお、輸入財貨とは、外国が為したGVAであり、輸出財貨とは、その逆である。本文において、原価の記号表現をP、W、Deとしているのは、SNAへの結びつきを考えているからである。Pとは、SNAにおける中間生産物であり、これは実はレオンチェフ逆行列要素であることが筆者により明かにされている(第2章参照のこと)。営業余剰あるいは、各種利益、損失のキャッシュフロー上の意味はいづれ詳しく説明する。

(9)製造原価計算とは、会計基準で、利益の算出は、製造間接費原価(個々の製品別に直接的に割り当てることが難しい製造費用)に対しても、売上製品に帰属する部分と、次期棚卸資産に帰属する部分とに仕分けすべきであると規定していることによる。製造間接費の中には、減価償却費や検査費用など、売上高の大きさにあまり左右されない費用、即ち固定費であるとみなされる費用が含まれる。この固定費を変動費化して、個々の製品に費用を配賦することによって、個々の製品原価を算定する。当然に総集計された製造間接費配賦額を含む製造間接費と実際費用としての製造間接費は、原価差異分だけ違ってくる。この原価差異は標準原価計算における利益計算そのものに大きく関係するのであるが、以下の表では、全て実際費用計算に基づき、原価差異修正がなされた原価計算として表している。

 標準原価計算における製造間接費配賦差異は、営業利益そのものと密接な関係があることが筆者の研究により明らかとなった。このことについては、別章米国特許の内容と、直接原価計算と標準原価計算の統一理論である新規申請中の特許明細書(H25年3月米国特許明細書公開予定)の内容を参照されたいが、ここではその説明を省略する。筆者は、経済とは各種経済機関会計の集合であるのだから、経済そのものも、変動費と固定費と営業利益、あるいはその分解経済要素とで動いていると考えている。それで、何時かは経済解析の中に標準原価計算的概念が取り込まれるであろうと思っているが、ここではその問題は取り扱わない。

(10)筆者は、経済学現象の中においては、現金と売掛金(貸付金)、買掛金(借入)金=信用とは本質的には同じものであり、経済学解析として着目すべきものは、むしろ信用の方であると考える。その理由は、こうである。

 ある売買取引における取引金額をPと、契約日時をτ0と表し、日時の進行をτiと表す。信用支払される=契約金額(売掛金等)をP=Σfi( t - τi)と表し、t - τi=0のとき、Pは現金化されるものとする。即ち、t=τ0 のとき回収現金=f0、未回収現金=信用=P-f0、t=τ1のとき、回収現金=f0+f1、信用=P-(f0+f1)、t=τ2のとき、以下同じ。tとは、取引慣習常識の範囲内にある信用回収期間であるから、現金と信用の解析表現上の差は無いものとしてよい。しかしながら、回収現金と未回収信用の差は、後者には、未回収信用=0となる場合、即ち貸倒れがあることである。

 貸付金(借手側からは借入金)は、未来の貸付金回収を義務とする貸手側からの現金支出である。貸付金は回収されれば経済解析としては何も問題はない。貸手は、現状から判断する限り、未来において貸付金を回収できると判断するから貸し出す。貸付金額の総量に事実上制限がなく、かつ現状の経済が拡大していれば、貸付金額は無制限に大きくなる。その貸付金で財貨が生産され、生産物ではない土地などが値上がりするから、経済は貸付金の増大に伴って拡大する。しかしながら、それも経験によれば何時までも続かない。経済が破綻すれば、借金を増やして景気を回復させようとする。しかし、それは大抵の場合、失敗に終わり、さらに経済の傷を深くする。

 何故、このようなことが繰り返し全世界で起きるのか?それに対する経済解析上の回答は未だ無い。一つ言えることは、経済を回復させるために借金を増やし、投資乗数効果を期待するKeynes理論の適用は、筆者の証明により理論的に誤りであるということである。もう一つ分かっていることは、或る国家が借金を増大させていけば、その国家は何時かは利子を支払うためだけに再借金を続けることになる。こういうことはありえない、あるいは、あってはならない(資本の無限循環拡大であるから貸手側の受取利子は全くの不労所得となる)から、やはり何時かは借手機関は破産(債務不履行)するか破産させるべきなのである。

 (11)本文の初稿は2006年に著された。そのときのインターネットで調べたCFS作成方法は、全て公的なCFS作成方法の紹介であった。筆者は、初稿では、各種の資産増分勘定の等価変換式を誘導し、それを用いてCFSを作成した。その方法は、今でも類似した方法は見当たらないが、筆者は経済解析へ展開を考える上で、多少普遍性に欠けているのではないかと考えるようになった。その後試行錯誤しながら、本文に示す筆者なりの方法を考えた(仮に4桁式(又は、4列式)空白記号法と名付ける)。それは、当然ながら結局は従来の方法と類似した方法の内の一つであるが、キャッシュフロ-の意味を視覚に訴えて説明できることが大きな特徴である。キャッシュフロ-の内容は、いづれ図形的(勘定形式ではなく)に、あるいは、ベクトル・行列変換形式として表現されるようになる。

 CFSには、直接法と間接法がある。直接法は、営業売上に伴う収入・支出を直接CFSに記入するので、営業活動における現金の流れを表現するとされる。さらCFS作成のためには膨大な作業量が必要であり、我が国ではあまり適用されないとある。間接法は、税引前純利益から出発し、それに他の現金の流れの要因を加減調整して作成していくと説明されている。筆者のCFS作成方法は、図4に表される。本方法によれば、直接法と間接法の作成上の差は何も無い。

 筆者は、CF行列解析を進めるに従ってそれらの意味を次のように考えつつある。直接法とは、経済解析における売上高Xと売上費用PとWが保持されており、2者間、あるいは多者間の相互取引を表現することに適している。しかしながら、その内部勘定における相殺項である減価償却費や純利益等が消えている。何故なら、相殺項は当事者における内部事情勘定であり、内部事情だけが2者間で取引されることは無いからである。一方、間接法では、2者間、あるいは多者間の相互取引を表現することはできないが、直接法における相殺項、即ち減価償却費、純利益、各種損益項が残っているため、着目経済主体の内部情報を知ることができる。従って、経済解析にとっては、直接法も間接法も同等に重要であり、必要である。従って、CFSにおける直接法と間接法の意味を十分に理解し、それらを簡単に作成する方法を知ることが重要なのである。このように直接法の意義を理解すれば、情報として関係者が知りたい重要な部分を大きくまとめ、些細なことは簡略化して直接法を表現提示する方法があるはずである。(注 併用法によれば、解析上の多くの難点が解決されそうである。)

(12)貸倒引当金の設定や、評価損益会計、税効果会計等は、本来SNA解析には関係ないように見える(実際は、調整勘定でなされる)。しかしながら、筆者は、金融解析においては、それらは大変重要な要素であると考えている。何故なら、金融解析とは、金融ストック(現金、証券、貸付金等)のフロー化を解析することである。実物資産は信用を介して取引されるから、結局、経済の全要素は信用を媒介物として動いている。金融ストックのフロー化の現象は、経済解析の目的とする要素項目に記号さえ与えれば、筆者が紹介するPLδBS表でシステマテックに表現でき、視覚的に理解できる。PLδBS表は容易にキャッシュフロー表に変換できる。PLδBS表によって、全ての会計内容を表現できるから、結局、会計で表現できる全ての経済現象がキャッシュフロー表で表現できるはずである。企業経営においては、貸倒れや資産評価損益は大変重要な項目である。従って、それらは、経済学においても、大変重要な項目であるはずである。

(13)キャッシュフロー内の勘定科目の置き場所が3種類のキャッシュフロー活動位置に、公的な方法とマッチしていないものがあるかもしれないが、各自修正されたい。税効果会計を含めて、課税所得に関連する項目に関しては、現在の日本の法律にマッチしていない内容があるかもしれないので、その時々の現行の法律の方を正とされたい。

3. CFSの基本的な作成方法。

  表1に本文で使用する記号を示す。なお、期末と期首の差額としてのBS項目に記号δを用いたのは、通常、差額を意味する記号Δを別の目的としての増分記号で使うためである。

表1 記号

 

 売上製品原価勘定は、図1のように構成されている。

 

図1 売上製品原価の勘定構成 

図1において、売上原価Zを次式で定義する。ここに、Z(±)=Z(-)-Z(+) 

              Z=P+W+De+Z(±)             (1)

 一般管理費勘定は、図2のように構成されている。

 

図2 一般管理費の勘定構成

 従って、売上高と売上原価における勘定関係は、図3のように表される。

 

図3 売上高と売上原価の勘定関係

 表2に損益計算書(PL)を示す。

表2 損益計算書

 

 表3に貸借対照表(BS)を示す。表3では、貸倒引当金をあえて導入していない。この理由は、貸倒引当金の存在は、繰延税金資産処理と並んで、CFS作成の過程の理解の上で、大きな難点であると思われるからである。これらについては、基本的な説明を終えてから、別に説明する。

表3 貸借対照表

 表3で示される第X1期と第XC2期のBSがあるものとし、X2期とX1期の差額表をδ・の記号を付加して表4に示す。表2~4中の各勘定項目は代表的な項目を選んだものであり、勘定項目はいくらあってもよい。表4を差額貸借対照表、又はδBSと名付けるPLとδBSとの組み合わせの表をPLδBS表と名付ける。

表4 差額貸借対照表

 これより、筆者が新しく考えたCFS作成の方法を説明する。最初に、図4(a)に示すように、中央部上段にPLを中央部下段にδBSを置く。この上下段のブロックを中央ブロックと呼ぶことにする。中央ブロックの左隣に、中央ブロック借方との勘定関係を表す貸方ブロックを置く。このブロックを左ブロックと呼ぶ。同じように、中央ブロックの右隣に、中央ブロック貸方との勘定関係を表す借方ブロックを置き、右ブロックと呼ぶ。左ブロックと右ブロックは、PLとBSとの間の、及びBS内部間での現金取引だけを扱うものとする。

 表2と表4に示す、即ちPL・δBSに表示す各項目数値は、各種勘定関係の同種の勘定科目の集計値(合計値)を表している。従って、いわゆる現金項目はただ1項目CFしかない。残りは全てCF値とは関係しない勘定科目で構成されている。

 A,B,C,Dブロック勘定科目の中で、現金勘定取引がある項目に着目して、現金の入力、出力値を相手勘定としてのE、F、G、HブロックにCIF(現金入力),COF(現金出力)の記号を用いて書き出していく。そして書き出されたΣ(CIFCOF)の値が元々あった中央ブロックの合計値としてのCFに一致したところで、CFを取り外す。このとき、PLも、δBSも、PL+δBSも均衡している。図4(a)をCFS基本作成表と、図4(b)をCASH・PLδBS表と名付ける。この方法によれば、現金の入出力は、左ブロックと右ブロックに集中して現れ、CFを除き、現金項が中央ブロックに現れることはない。

 このようにして得られた図4(b)、CASH・PL・δBS表において、下のδBS部分は、そのまま、間接法CFSであり、図4(c)で示される。さらに、図4(b)において、PLとδBSを区別する横線を取り去り、各数値を借方、貸方ごとに合体させ、借方と貸方において、同値の数値(例えば、借方・純利益と貸方・純利益,借方・損失と貸方・損失など)を消去して得られる表が直接法CFSであり、図4(d)に示される。

 

図4 CFS基本作成表の概念図

  表5(a)、(b)に代表的な勘定科目に関するCFS基本作成表を示す。  

表5 CFS基本作成表

  CFS基本作成表の作り方を以下に示す。表6 に、土地の売却の例を示す。(a)X0期・期末(=X1期・期首)の着目する資産Αの状態に関するPLとBS勘定を作成する。表6では、X0期・期首において、BS借方に資産Α(OC:原価又は簿価100)が置かれている。(b)X1期・期末において、資産価値Α(OC)が取引の結果、どのように変化して、その結果どうなったのかという勘定を作成する。表6では、資産Α(OC)の売却過程を表している。元のΑ(OC)100が借方にあり、その価値が流出して(貸方のδΑ(OC)100)、その結果δCIF(CP:時価70)の現金が交換されて流入し、差額のπ(-)が消滅(損失)したことを示している。(c) (b)-(a)の勘定を作れば、それがCFS基本作成表である。その結果、元々あった資産価値Α(OC)は0として表され、資産価値Α(OC)は除却されていることを示している。通常では、この3操作で、必要なCFS基本作成表が作成される。

 (d)土地売却の場合は、特別であって、(c)の結果は、さらに次のように変換される。実は、土地資産勘定においては、δCIFが資産勘定に直接的に入力するために、棚卸資産原価の売却、即ち売上高(時価)という名称が露に与えられていないのである。そこで、売上勘定にならい、δCIFにδCIF(例えば、土地の売却時価)のような名称を与えて、Α(OC)を「δCIF・Α(CP)+π(-)(又は-π(+))」に分解する。

表6  土地売却のCFS基本作成表

  表6(d)の変換は奇妙に見えるが、実は棚卸資産の売却(売上)においても、同じ関係が成立していることを表7に示す。表7(d)は、(d)=(c)-(b)により得られる。表6(d)中のδCIF・Α(CP)70は、表7(e)中のδCIF・X600+δΦAR・X400と同じ意味である。表6(d)において、売上(売却)の意味であるδCIF・Α(CP)70は、BS資産勘定の中にあるが、表7(e)における売上X1000は、δCIF・X600+δΦAR・X400と対応する集計表の位置に置くために、PLの貸方に置かれている。表7(e)の関係は、表6(d)のようにCFSシステムの中で利用されているわけではないが、棚卸資産原価売却の勘定関係が資産売却の売却と同じ関係を保っていることを示している。

 この部分、即ち各種資産(土地、株式、各種証券)の売却時における記号変換(資産原価(簿価)と売却時価との関係に伴う)と勘定処理、そこに現れる資産購入時からのキャッシュの増減、それが人間の行動心理に与える 影響、その結果としてのキャッシュの使途の考察がキャッシュの出入を伴う経済学におけるCF解析上の理解のキーポイントであるように思われる。

表7 製品売上のCFS基本作成表

 貸倒引当金制度が無いものとした場合において、貸倒損失を処理する(損金認定)場合のCFS基本作成表を表8-1に示す。資産売却の場合も、売掛金の貸倒損失の場合も、CFS基本作成表後においては、期首にあった資産価値は除去されている。表8-1に輸出時のCFS基本作成表を示す。

表8-1 貸倒損失のCFS基本作成表

表8-2 輸出のCFS基本作成表

 未払法人税のCFS基本作成表を表9に示す。(a)における貸方ΦTAX0とは、X0年度期末決算書(1年度期首)における未払法人税(負債)である。(b)その未払法人税ΦTAX0はX1年度中に現金流出δCOF・ΦTAX0して負債は解消され、X1年度期末に、法人税TAX1がPLに費用として新しく設定され、BSに未払法人税ΦTAX1(負債)が設定された。(c)その結果、CFS基本作成表は、現金流出δCOF・ΦTAX0と費用TAX1と差額未払法人税δΦTAXで構成されることになる。例えば、貸倒損失や資産評価損失において、他の資産、他の負債、現金の出入りが無くても中央ブロック部分の中身は変化する。この変化は、δΦTAXの変化と純利益の変化とで調整されている。

表9 未払法人税のCFS基本作成表

4. 基本的なキャッシュフローモデル

 表10に、PLδBS表で表された基本的なCFモデルを示す。表10において、減価償却資産が現れていないのは、期首減価償却資産=AR0としたとき、期中・新規減価償却資産購入額ΔAR=Deであるとしたので、期末減価償却資産=AR0+ΔAR-De=AR0。従って、δAR=0としたためである。

表10 基本CFモデルのPLδBS表

 

 表11に表10に対するCFS基本作成表を示す。表10の上に表11で新しく現れる記号は、左ブロックと右ブロクにおける各δCOF項、各δCIF項と、土地売却原価δAR(OC)(既出)と等価になるように土地売却損失π(-)(既出)に加えられた土地売却(売上)δAR項のみである。δCIF項と-δCOF項の加算値は、元からあったδCFに一致すれば、δCFは各δCOF項と各δCIF項に取り代えられてその役割は終わる。従って、表11の理解のキーポイントは、資産売却時に生じるキャッシュフロー処理の理解だけであることが分かる。

表11 基本モデルに対するCFS基本作成表

 

 表12に、表11を基に作られた直接法のCASH・PLδBSを示す。

表12 直接法CASH・PLδBS

 

 表13に、直接法のCASH・PLδBSを示す。

表13 直接法のCASH・PLδBS

 表14に、筆者が定義する直接法CFSを示す。

表14 直接法CFS

 表15に間接法CFSを示す。経済解析に当たっては、目的に応じて、δCIFは借方に、δCOFは貸方に置き、それらに対応する非現金項はそれらに相対するように置く。

 表15 間接法CFS

 表14と表15により、直接法CFSと間接法CFSにおける営業活動キャッシュフローの関係を調べることができて、それらの関係は、表16に示される。

表16 直接法CFSと間接法CFSにおける営業活動キャッシュフローの関係

 表16は、図形関係として、図5のように表される。例えば、間接法の営業活動キャッシュフローに、資産売却損益が何故入っているのかという質問がある。その回答は、図5を見れば直接法との関係から分かる。それで、最初に簡単にでも(複雑にする必要は、直接法の意義としても無い。下の表で十分である。)直接法でCFSを作成する方が、CFSの理解が速い。直接法を外部取引の表現であると捕らえれば、仕入れ先の分類とか、売上先の分類とかで表現することに適しているので、その方向に活用すべきである。なお、直接法と間接法を組み合わせれば、売上先別のキャッシュフロー、純利益その他が表現でき、内部資料として最適である。税金等は各部門別に振り分ければよい。

図5 直接法営業CFと間接法営業CFの関係

 図5の関係を使って表14と表15を合体させると表17を得る。表17を本文では併用法と名付けることにする。表17は、PLとδBSに含まれる全ての項目に関する現金の流れとその要因を示すCF表である。併用法の表は、一度、直接法と間接法の両表を作った後からでないと、作成が難しいようである。なお、理論的には、表17の方を正式の間接法と呼ぶべきなのかもしれないが、現在の間接法CFSの作成方法と表示方法が間接法として世の中に定着しているので、それと区別するために、しばらくの間、本文の中では併用法という用語を使う。

併用法を使えば、企業経営のみならず、経済全般においても、資産と信用変動に伴うキャッシュフローと生産に伴うキャッシュフローを外部との取引と内部の変動要因を保存しつつ表現できる。経済の営みをキャッシュの流れ(財貨の交換と信用の授受)という観点から捉えるとき、生産に伴う純利益も、土地価格の下落に伴う損失も信用の毀損に伴う貸倒損失も、互いにそれらの経済に対する影響度は対等であることが分かり、かつ分析調査集計することができる。

表17 併用法CFS

 このように、CFSは、資産の売却処理や各種損益部分だけを注意すれば、純利益に非資金項目を加減していくとか、キャッシュの移動があるとかないとか、振替をするとかしないとか、そういうことは意識せずに、単純な表計算でCFSを作成できる。またそういうふうにできないと、キャッシュフローの経済学への適用は不可能なのである。従来の方法は、キャッシュの入出力の要因を片側項目(+-表示)だけを使って、文章で説明しているので、併用法を作成できない。もちろんキャッシュフローの理解を深めればできるが、要らない手間が掛かるし、同じ勘定に対して、直接法による表現、間接法による表現などの違いを理解して、理論を組み立てることはそう簡単なことではない。

  経済学には、各種の経済項目、例えば、生産稼動要素の働きと、中間消費を含む売買に伴う現金の入出力と、棚卸資産を含む資産の増減、資産評価、消滅と、債務の増減、消滅と、移転と、信用の増減、信用毀損による消滅と、純利益などが存在する。それらの経済項目は、互いにその性状の定義が違っている。併用法は、キャッシュフローを経済学理論解析に適用する場合において、大きな威力を発揮することになるだろう。何故なら、併用法によれば、それらの項目は、会計学におけるキャッシュフロー解析によってそれらの会計的性状が厳密に定義されている中で、それらの項目間における関数関係を構築できるからである。

 なお、例えば、売掛金は、最初に売上高によって増加し、さらに前期繰越の売掛金と今期発生の売掛金の一部分が現金化され、さらに次期繰越棚卸資産分の売掛金によって増減され、その合計結果値が財務諸表に記載される。それらの内訳詳細は詳しい参考表が無ければ分からない。しかしながら、そのような操作を行う必要もない。何故なら、結局は、売上高と現金(財務と投資活動の現金は比較的簡単に得られるので、営業活動の現金は合計現金と前者現金との差額から簡単に与えられる。)と貸倒れが定まれば、結果としてのCFSにおける信用は自ずから一意に定まるからである。そのときのδ現金値は、最終的な信用値(売掛金や買掛金など)に適合するような値となっている。

平成26年5月17日、概要の部分を加筆、修正。なお、棚卸資産処理の部分は、近日中に修正します。