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NO.099 ラッカー3

手のひらには赤い跡が付いたままだった。
学校の授業中や休み時間の間、楓は手を下に向けたり、こぶしを握り込んだりしてなるべくそれを人に見られない様にした。
その跡に関心を向けられることが、何故か無償に腹立たしかった。
学校から帰って公園に行こうとすると、母親に呼びとめられた。
また手のことを咎められるかと思ったが、どうやら別の用事が入って、 母はすっかり朝のやりとりなど忘れている様だった。
「楓、今晩お父さんとお母さんね、町内会の話し合いで出かけなくちゃならないの。帰りが 遅くなるかもしれないわ。お夕飯6時からにするから、早く帰ってきなさいね」
「…分かった」
それから、と母は続けて
「この前言ってたいたずら書きね。2丁目の内田さんの所まで被害に遭われたらしいのよ。 落書きする場所を、広げてきたらしいわ」
「……」
「2丁目まで来たとなると、家にも来るんじゃないかしら。冗談じゃないわ。 何とかしないと」
楓は思わず母親を見た。
「……捕まえるの?」
母親は首を振った。
「そう出来たらいいんだけどね、みんな困ってるんだし。警察には会長の山崎さんが連絡して下さったらしいわ。とりあえず、お父さんやお母さん達でも交代で見回りをしようってことになったのよ」
手の平の赤い跡が、ズキズキと痛んでいる様な気がする。
家を出て、公園に行くと、バスケリングは中学生らしい3人組に、既に使われていた。
こういう時はときたまあって、その間、楓はいつもドリブルの練習をしたりしている。
ドリブルをしながら、楓は訳の分からない不安にかられていた。
自分の手の平の赤い跡と、リング下に捨てられていたラッカー、無造作な赤い落書き。
それらがぐるぐると頭の中をめぐって、止まらなかった。
気が付いたら、リングを使っていた中学生らしい一人に大声で呼ばれていた。
どうやら、自分達は上がるので後を使って良い、と声をかけてくれた様だった。
楓は小さく頷き、リング下に移動しようとする。
中学生達と擦れ違う時、自然と彼らの会話が耳に入ってきた。
-----なぁ今日見たか ?3年のあいつ。
-----見た見た。噂通り、すげー髪の色だよな。
-----年少帰りだろ?あそこって、髪染めていーんだ?
-----バッカ、ダメに決まってんだろ。出てきて染めたんだよ。
-----ダッセー。染めるにしてもよ、もう少し別の色にすりゃいーのに。何で赤にこだわんのかねぇ。しかも真っ赤っか。1年の時から赤ばっかってよ。ちょっと疑うよな。
その内容に楓はビクリと反応した。
-----でもさぁ、あいつの兄貴って、親ぶっ殺してるんだろ?なんかコエーよあいつ。
-----だよなぁ。オレの先輩なんか、同じクラスで席が隣なんだってよ。昼前に登校してきてさ、授業中はずっと寝てやがるし、起きたかと思ったら目なんかすげーギラギラしてて、超こえーって言ってた。
-----まーどうせ、そのうちガッコ来なくなるって。
何気ない噂話。
頭がガンガンする。
楓は咄嗟に、中学生の一人の腕を掴んでいた。
「…そいつ」
「えっ」
掴まれた中学生がぎょっとして振り向く。
何かに憑かれた様に、楓は聞いていた。
「そいつの、名前」
「え、何?」
「…名前、は?」


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ラッカー3/2003.5.25