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NO.099 ラッカー

「……ち」
バスケリングの真下に落ちている赤色のラッカーを見て、楓はうんざりしていた。
ため息と共に、その使いきったラッカーを拾い上げ、近くのゴミ箱に捨てる。
今日で一週間目だ。
この公園はリングがある為、楓がバスケをやり始めた小学校3年の頃から毎朝夕通って、せっせと練習に励んでいるのだが、一週間前から、朝来ると、ご丁寧にもバスケリングの真下に このラッカーが落ちている様になった。
色は決まって赤色。
楓は最初、単純に邪魔なものが自分の使うゴールにあるので、それを捨て様としただけだった。
が、それを拾おうとして、ふとあることに気づいた。
そのラッカーはどうやら、一旦リングをくぐった後に、下に落ちていたのだ。
バスケボードを見ると、赤い飛沫が飛び散っている。
誰かがこれをリングに放り込んだのである。
しかし、その飛沫はボードの一箇所に留まっていて、何度も当てた形跡はなく、 地面へも、ラッカーが一度落ちて、少し転がり止まっただけの様な感じだった。
楓はいま小学6年生である。
ボールがリングに入る確率は大分高くなったが、勿論まだまだ外れることが多い。
楓は、この一発で入れただろう、ラッカーをじっと見つめ、くるっと後ろを向いて歩きだした。
「……オレだって、これぐらい入れられる」
リングから少し離れて向き直り、ラッカーをにぎりしめ、リングに向かって走り出す。
「……っ」
ジャンプ。
楓のジャンプ力は非常に高く、小学生で既にダンクが出来る様になっていた。
だが、まだ不安定。
ガツッ
ジャンプがわずかにたわず、手の甲がリングに当たってラッカーが手から零れ落ちる。
「ちぃ……っ」
地面に落ちて転がったラッカーは、残った赤いしぶきを少し吐き出した。

それが今から一週間前のことだった。
「……」
赤いラッカーは、次の日もリングの下に、落ちていた。
今回も、投げ直した形跡はなく、一発でリングに入れているらしいことに、楓は 無性に腹が立った。
3日目、楓は練習量を増やした。
いつもは朝6時30分に公園に来ていたが、6時に来ることにした。
6時には、もう既にラッカーはリング下に落ちていた。
ふと、楓は思った。
このラッカーを投げたヤツは、夜中にここに来て投げているのだろうか。
楓は学校のバスケクラブが終ったら、すぐ家に帰り、それからここにきて、夕飯まで練習を している。
放課後にここに来ても、こんなラッカーは転がっていない。
とすると、自分が帰ってから、朝来るまでの間にここにきて、投げ入れているのだ。
この小さな公園には街灯はない。
夜は文字通り、ここは真っ暗になるだろう。
真っ暗な中、空の赤いラッカーをリングに投げ入れる。
最初は酔っ払いの仕業かも、と楓は思っていた。
だが、今日で3日。
3日続けて酔っ払った挙句、リングにラッカーを投げ入れるなんて、いくらなんでも酔狂過ぎる。
「何で、赤なんだろー…」
ぼんやりと、既に赤い飛沫がかなり飛び散っているボードを見上げ、楓はつぶやいた。

その日の夕食、楓の母が、回覧版に、最近公園のある付近の家の壁が軒並み、赤いスプレーによるいたずら描き被害に遭っている、という注意書きのチラシが挟まっていたと家族に話した。


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ラッカー1/2003.4.28