§8 筆者の提供する経済変動の図示方法 | |
工博 林有一郎 | |
平成18年10月17日 | |
均衡理論手法を検討する前に、金融信用を含む経済変動の動きに対する筆者の考える図示方法を示そう。現在、GVAの変動に関して論じているので、土地と株式の取引に関するキャッシュの変動は、考えないものとする。 | |
第3章、§1で説明する通り、国民経済計算に対するキャッシュフロー解析による「勘定行列」によれば、そのキャッシュフロー[発生主義勘定項目±金融信用勘定項目]は、キャッシュフローの出金を示す借方と入金を示す貸方の1対の勘定からなる。その勘定の数は、生産、移転・所得、支出、商取引の4個である。4勘定における各貸方の合計額と各借方の合計額は全て等しい。何故なら、生産勘定において、借方(出金)=貸方(入金)であり、生産勘定以外の他の3勘定は、生産勘定に繋がる経路に存在するからである。その借方と貸方からなる1勘定を一つのベクトルのようにみなし、これを国民経済計算における「キャッシュフローベクトル」と名づけ、その代表ベクトルをYΓと表す。YΓは、4ベクトルの内のどれかである。 | |
Fig.8-1に示すように、平面上に直交座標を設ける。平面座標上に、始点を座標原点に合わせ、YΓベクトルを45度線上に置く。各キャッシュフローベクトルを、図のように正方形の4辺に置き、YΓ1,YΓ2,YΓ3,YΓ4と表す。各ベクトルの番号の順序は、1を生産に、3を所得に割り当てると便利である。Fig.8-1において、最初の均衡ベクトルをYΓ*、増分ベクトルをΔYΓ、変位後の均衡ベクトルをYΓ**と表している。 | |
Fig.8-1 | |
注意しなければならないことは、45度線上のYΓベクトルは、正方形の対角線の長さとは何の関係もない、さらには、45度線上になければならないということもないということである。即ち、YΓベクトルは始点を原点に固定すれば、図上の任意の角度の斜線上にあってよい。YΓ1〜YΓ4が互いに平行であるか、直交しているかは、単にグラフ作成の便のためである。 | |
Fig.8-1は、Fig.8-2のようにも表せる。この図の方が或る経済変動面のキャッシュ入金が他の経済変動面のキャッシュ出金に対応することを明示的に示している。 | |
Fig.8-2 |
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筆者の見解によれば、マクロ経済の動きは、YΓベクトルの伸長で表される。そうであれば、経済の動きは、Fig8-1中の正方形の、又はFig.8-2の円の拡大、縮小の動きと同じである。なお、実際の経済全体のベクトルは、YΓの他に、過去の蓄積資産ベクトルが加わる。 | |
YΓ(i=1〜4) からなる定常経済(MPCが変化しない状態)システムは、1自由度系である。経済が非定常状態(MPCが変化する状態)では、自由度はそれ以上になり得る。経済が1自由度系であることは、ΔCとΔYとの関係を統計的に調べてみると、線形関係が観察され、ΔCとΔYと[ΔY-ΔC]の変数関係に1個の拘束条件式が加わったことによる。MPCが存在する状態とは、ΔCと[ΔY-ΔC]とが常に一定比率で同時に発生しているということである。 | |
生産キャッシュフローベクトルYΓ1の借方をYΓ1[debit]、貸方をYΓ1[credit]と表す。生産には損益分岐点図が存在することから、それらの集合であるYΓ1 [Debit , Credit ] には、変動ベクトルと固定ベクトルが存在することが推定される。変動ベクトルでは中間消費Pが大きな役割を果たすことだろう。そこで、YΓの変動部分をYΓV、固定部分をYΓFと表す。価値流れ行列方程式から、変動部分と固定部分は、YΓ1〜YΓ4の全てに存在することが推定される。そして、それらの各変動部分と各固定部分の成分合計は、各4経済面において全て同値である。 | |
それらの関係をFig.8-3に示す。或るYΓにおいて、変動部分の値と全体値の比率を「キャッシュフロー変動比率」と名づけ、νで表す。νは次式で与えられる。 | |
ν= tanθ | |
= │YΓV│/│YΓ│ | (8-1) |
Fig.8-3 YΓ1ベクトル |
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なお、Yiで使われる下添え字iとYΓiで使われる下添え字iは経済変動面で整合していないので、注意されたい。それは、Yiは借方か貸方の1ベクルであるのに対し、YΓiは借方、貸方の一対のベクトルからなりたっているためである。 | |
2006/10/17 発表 | |
2007年4月11日7.3修正加筆 2007年12月18日修正 | |
(c) Dec. 2003, Yuichiro Hayashi