超戦隊
魔女っ子ふぁいぶ
<第四話>
『魔女っ子ふぁいぶの危機!


「さて‥‥これでお前は二度、大失敗をした訳だな」
 壱哉が、上質な革張りの椅子に背を預け、樋口を見上げた。
「それは‥‥って、なんかこれ、悪の秘密基地での会話みたいなんだけど?!」
「誰が陳腐な正義の味方だと言っている。俺の信じる道が正義なんだ」
「‥‥今時、悪役だってもうちょっともっともらしい事言うぞ」
「何か言ったか?」
「い、いや別に」
 実際、腹の前で手を組んで、高々と脚を組んでいる壱哉の姿は、確かに悪の組織の幹部のようだ。
 大胆なスリットからのぞく白い太腿がとても眩しい。
 思わず眩暈を起こしそうになった樋口だが、椅子の後ろでは吉岡が鼻にハンカチを当てて後ろを向いていた。
「お前には、もう一度だけチャンスをやろう。もし今度失敗したら、即、奴隷確定だ」
 だからそのセリフ自体、悪役そのものな気がする。
「‥‥‥わかったよ。その代わり‥‥‥」
 と、樋口は意味ありげに壱哉を見た。
「なんだ?」
「お前はリーダーなんだからな。協力しろよ!」
 何故か自身満々で、樋口は高々と宣言した。


「本当に来るのか?」
 うさんくさそうな声が物陰に停めた車の中から掛けられる。
「大丈夫だって。悪の首領って言うのは、一度顔を出すと次はまた出て来るもんなんだから」
 そこまでお約束通りに行くのだろうか、と壱哉は思ったのだが、取り敢えず黙っている。
 向こうの路地では、今日も懲りずに松竹梅が罪もない債権者を脅しつけている。
「今日はお前は切り札なんだからな。まず、俺が行ってくる」
「あぁ。せいぜい、れっどらしい所を見せてもらおう」
「まかせとけ!」
 樋口は、胸を張って頷いた。
 いくら赤だからと言って、チャイナドレスを全く気にしていないらしい所は凄いと思う。
 今度何かアヤシいものを着せる時は、赤にしてやろうと壱哉は思った。
「借金が返せねえんなら、身体で返してもらおうか!」
 相変わらず馬鹿のひとつ覚えなセリフを口にしている松竹梅である。
「まてっ!」
 こちらもまた、馬鹿のひとつ覚えのシチュエーションで叫ぶ樋口である。
 札束は壱哉の専用武器だから、樋口が投げたのは黄色い薔薇の花束(棘つき)である。
 ちなみに、黄色い薔薇には『誠意がない』と言う花言葉もあったりする。
 ご丁寧にも葉は取ってある為、命中すると立派な凶器である。
「いっ、いてえぇぇっ!」
 運悪く命中してしまったらしい梅本が悲鳴を上げる。
「なにしやがるっ!」
 竹川が血相を変えて振り返る。
「いいかげん、そんな事はやめるんだ!恥ずかしいとは思わないのか?」
 ヒーローのシチュエーションに酔っているらしい樋口が仁王立ちになって叫んだ。
「てめーにだけは言われたくねーぜ」
 もっともである。
 一瞬怯んだ樋口だが、すぐに立ち直る。
「と、とにかく!今日こそ、覚悟しろ!」
 樋口は、何の根拠もない強気で格好をつけた。
「あ、ありがとうございます!」
 うら若い女性が、松竹梅から逃れて樋口の方に走り寄って来る。
 もしここに壱哉がいたら、即、やる気をなくしている所だ。
 しかし、かなり美人なその女性にチャイナドレス姿をまともに見られても動じない辺り、やはり樋口は只者ではない。
「逃げてください。早く!」
 格好つける仕草が、既にヒーローに酔っている。
「‥‥‥馬鹿と言うか何と言うか‥‥‥」
 壱哉は、車の中でため息をついた。
 あそこまで行くと感心すらしてしまう。
「まぁ、馬鹿な子ほど可愛い、と言うがな」
 苦笑混じりに呟く壱哉を、バックミラー越しに見た吉岡が深いため息をついた。
 一方、樋口は何故か広いスクラップ置き場で松竹梅と対峙していた。
「ふん、今日はあの金持ちな黒い若造はいないようだな?」
 完全にナメきった表情で、竹川が肩をそびやかした。
「貧乏人だって、苦労してるんだぞ!」
 と、ちょっとむっとした顔で樋口は魔法のステッキを構えた。
「野菜はやっぱり商店街の八百屋が安いんだ!」
 樋口がステッキを振ると、大量のキャベツやだいこんなど、重量野菜が松竹梅の上に落下する。
 これぞ樋口の必殺技、『カシコい買い物』である!

《『カシコい買い物』とは、れっど・樋口の最も基本的でありながら強力な威力を持つ必殺技である!生まれついての環境に加え、日々『安売りチラシのチェック』でスキルを研き続けなければ威力を維持する事が出来ない、非常にデリケートな技である!更に『バーゲン』と呼ばれる修行場で体力、判断力、敏捷性を鍛える事によって更なるパワーアップも可能なのだ!》

「旬に買えば果物だってうまいし安い!」
 どかどかっ、とスイカや夏みかん、桃などがどこからともなく降って来る。
 はっきり言ってこれは凶器である。
「見切り品もその日に使えば大丈夫!」
 と、今度は少々痛みの見える野菜類が降って来た。
「野菜しか食っていないのか、あいつは‥‥‥」
 車の中で密かに呆れる壱哉である。
 確か報告では、好きな食べ物は『とんかつ』なのだが、壱哉が調査を始めさせて以降、樋口がとんかつにありついた事はなかったはずだ。
 結構筋肉質なあの体格と、毎日の薔薇の世話をする体力は一体どうやって維持しているのだろう?
 一方松竹梅は、野菜の山に埋もれて身動きが取れなくなってしまった。
 と、樋口はやおら、真面目な顔になって三人の前に立つ。
「なぁ、チューリップの花言葉って知ってるか?」
「な、なんだと‥‥?」
 竹川が困惑した表情で樋口を見上げる。
 そう、これこそ樋口の第二の必殺技、『花言葉』である!

《『花言葉』とは、れっど・樋口の第二の基本的必殺技である!これは幼い頃からの血の滲むような修行と並外れた記憶力がなければ不可能な技で、無防備にこれを食らった相手が戦意をなくすばかりでなく、ものを遠まわしに表現したい時や意中の人に愛を語る時にも使えるなど、平和的な応用範囲も広い技である!ただし、この技の使用は時と場所、相手を選ばなければ最大の効果が発揮出来ず、場合によっては逆効果となる時もあるので要注意である!》

「『思いやり』って言うんだ。やっぱり、人間、思いやりって大切だよな」
 唐突な樋口の言葉に、松竹梅は目が点になる。
「橙色のマリーゴールドの花言葉って知ってるか?」
 更に、樋口は続ける。
「『真心』って言うんだ。真心‥‥いい言葉だよなぁ」
「‥‥‥‥‥」
 どこか遠い目で宙を見詰める樋口に、松竹梅は唖然とするしかない。
「じゃあ、オリーブの花言葉って知ってるか?」
 更に樋口が続けた時。
「フ‥‥『平和』ですね。美しい響きですが、陳腐な言葉です」
 笑いを含んだ声が響いた。
「なんだって?!」
 樋口が、憤然として振り返る。
 何故かそこに出現した階段の最上階から、青年医師が楽しげに見下ろしている。
「花言葉、とは、中々少女趣味ですね。私も一般常識程度には嗜んでいますが」
 今までとは比べ物にならない強敵の予感に、樋口は身構えた。
「だったら、ゼフィランサスの花言葉は?」
「RX-78GP01ガ○ダム‥‥ではなくて」
 思わず出てしまった言葉を咳払いで誤魔化して、青年医師は格好をつけて腕を組んだ。
「『純白の愛』。美しい言葉です」
「くっ、できる‥‥!」
 樋口が、悔しげに唇を噛んだ。
「では、私から一問‥‥黄色いガーベラの花言葉は?」
「RX-78GP04ガ○ダム‥‥じゃなくて!えぇと‥‥『究極の美』だ!」
「そう‥‥私にふさわしい言葉です」
 ふっ、と青年医師は笑って見せる。
 マッドサイエンティストすれすれの頭脳を誇る彼は、壱哉の眼鏡に叶うだけあって俳優並みの美貌を誇っている。
 ただし性格はと言えば、壱哉に勝るとも劣らないひねくれ加減であった。
「中々やるな!」
 サワヤカな笑顔で相手を見上げる樋口は、それはそれで凄いかも知れない。
「だけど残念だったな、今日は強力な切り札があるんだ!」
 ‥‥そのセリフは、どちらかと言えば悪役のものではないだろうか? 
「黒崎、出番だぞ!」
 樋口の言葉に、壱哉はため息をついて車のドアを開けた。
 すらり、と立ち上がった壱哉は、チャイナドレス姿ではなかった。
 黒に近い紺のスーツ。
 しかしその下は、スラックスではなくて膝上のタイトスカートであった。
 所々にレースが配されたそのスーツは実に清楚で、短めのスカートから覗く黒系のストッキングに包まれた脚のラインも美しさを引き立てている。
 短い髪には小さな付け毛を足して、まるで後ろで結い上げているように見せていた。
 嫌味にならない程度の薄化粧も施され、落ち着いた雰囲気の美しい『女性』に仕上がっている。
「ほぅ‥‥あなたにそんなご趣味があったんですか?」
 青年医師が目を見張る。
「なんの事だ?」
 しかし、壱哉は自分の格好に全く自覚がないようだった。
「‥‥ご自分の姿、鏡で見てみましたか?」
「いや‥‥?」
 何故かあたふたしている樋口に、青年医師は事態の見当が付いたようだ。
「なるほど‥‥あなたが『女装』などというのはおかしいと思いました」
「なにっ?!」
 壱哉の血相が変わる。
「樋口‥‥俺は、『変装』だと聞いたから言う事を聞いてやったんだぞ!」
「え?えっと、ほら、女装も立派な『変装』だし‥‥‥」
「吉岡、知っていたのか?」
 きつい瞳で睨み付けられ、吉岡は微妙に視線を逸らした。
「はあ‥‥薄々は」
 大体、タイトスカートのスーツやストッキングを着せられた時点で普通は気付きそうなものだ。
 化粧までされても気付かなかった壱哉も壱哉であった。
「なんでよりによって『女装』なんだ、この馬鹿!」
「だ‥‥だって、あの医者は男好きだ、って話だし。黒崎も男が好きで女嫌いだろ?だから、黒崎が女装したら嫌がるだろうなと思って」
「そんなガセネタをどこで手に入れた!あいつは、好みに合えば性別になどこだわらん節操なしなんだぞ!」
 眉を吊り上げて怒り狂う壱哉だが、女装が板につきすぎてしまっているから実に色っぽい。
「節操なしとはまた、酷いですねぇ‥‥‥」
 青年医師は、ねぶるような視線で壱哉の全身を眺める。
「だって、ほら、これに」
 と、樋口が出して見せたのは、手のひら大でありながら辞書並みに分厚い『超戦隊魔女っ子ふぁいぶひみつ大百科』であった!
「あ」
「いやー、俺達も有名になったなー、と思って」
 樋口の言葉にかき消された、吉岡のらしくない声は確かに壱哉には聞こえた。
「知っているのか、吉岡?」
 視線だけで相手を射殺せそうなきつい瞳に、吉岡は観念したように口を開いた。
「元々、工作員達の中に壱哉様やターゲット達の写真集やデータブックなどが密かに出回っておりまして。今回はこの手の話が好きな者がおりまして、こんな仕立て方になったものと‥‥」
「なんだと‥‥!」
 壱哉の怒りが沸点を超えそうになった時。
「あ、綾子!」
 感極まったような声を発したのは、いつの間にか現れていた西條だった。
 樋口は、ひみつ大百科をパラパラとめくった。
「そう、ボスの西條の亡くなった愛人が黒崎の女装にそっくりだから。これで良心が痛んで改心すれば一石二鳥‥‥」
「あの西條がそんなしおらしい反応などするか!」
 その言葉通り、西條はいかにも好色な視線で壱哉の全身を見回した。
 そして、やっと野菜の山から抜け出した松竹梅をぎろりと睨み付けた。
「おい!貴様ら、いつまで遊んでいるのだ。さっさと壱哉を連れて来い!あぁ、そこの赤いのもついでにさらって来い」
 低いが、権力に裏付けられた威圧感を伴った声に、松竹梅は飛び上がった。
 下手な脅しなど口にされずとも、西條の恐ろしさは身にしみている。
 逃げ場のない松竹梅は、必死の形相で壱哉達の方に向かって来る。
 反射的に、壱哉と樋口は肩を並べて逃げ出した。
 うろたえるあまり、壱哉は車の事も忘れてしまっていた。
 逃げながらも、樋口はしきりに首を捻っていた。
「おかしいなぁ、普通はもうちょっとドラマチックな反応があってちょっぴり改心とかするもんなんだけど‥‥」
「俺は、金輪際、お前の作戦は聞かないからな!!」
 必死になって逃げる二人だが、裾の狭いタイトスカートと、それに合わせたハイヒールは実に走りにくいものだった。
 このままでは追いつかれてしまう、そう思った時、壱哉の心は決まった。
 壱哉は、後ろを振り返ると思いっきり大きな声で叫んだ。
「あっ!限定版クリアパーツのウ○ングガ○ダムゼロ○スタムだ!!」
「えぇっ!」
 樋口は、足を止めて振り返った。
「あの時、商店街のイベントで俺、買いに行けなかったんだよ!」
 きょろきょろと辺りを見回す樋口は、捕まえてくださいと言っているようなものであった。
「あ゛‥‥」
「しかたねえ、こいつで我慢しようぜ!」
 全く無防備だった樋口は、あっと言う間に松竹梅に捕まってしまった。
 樋口を犠牲にして、まんまと松竹梅の手から逃れた壱哉を、車を回して来た吉岡が待っていた。
「すまんな」
「壱哉様‥‥どうしてあのような事をご存知なんですか」
 憮然とした吉岡の言葉は、樋口を引っ掛ける為に言った時を指しているのだろう。
「うん?まぁ、成り行きというやつだ」
 きっと樋口崇文の悪影響なのだ、吉岡は深いため息をついた。
 壱哉がどこか遠いところに行ってしまいそうな気がして、とても悲しい気持ちになる。
「とにかく、体勢を立て直さなければならんからな」
「はい」
 黒塗りの高級車で、とても窮地に陥ったヒーローとは思えない悠然とした態度で、壱哉と吉岡はその場を後にするのだった‥‥‥。

次回は、深夜スペシャルだ!
大きいおねえさん向けのお話だから、放送時間も違うよ!
よい子のキミは、来週のこの時間にまた会おう!

〜深夜スペシャル予告〜
マッドドクター・青年医師の魔の手が囚われた三人に迫る。
しかも彼は、三人の仲間を盾に卑劣な罠を仕掛けて来た。
魔女っ子ぶらっくに、今、最大の危機が迫る!
次回・深夜スペシャル『魔女っ子ぶらっくの最後?!』
見ないと、『大人のオモチャ♪』が突然送られて来るぞ!

〜第五話予告〜
松竹梅の卑劣な悪事に苦しめられながらも戦ってきた魔女っ子ふぁいぶ!
さあ、今こそ五人そろって反撃だ!
金持ちでワガママな西條とマッドドクター青年医師に新たな力を見せてやれ!
次回『新生!魔女っ子ふぁいぶ!!』
見ないと突然山火事に巻き込まれるぞ!

第三話に戻る!

深夜スペシャルへ!
第五話へ続く!

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えーと、なんか色々誤解されそうなので、一通りの言い訳を(笑)。別にガンダムフリークではないんです。大体、本編まともに見てるのなんか一本もないですし。
花言葉をネットで調べて、話に組み込めそうだったものを選んで書き上げた後、「そー言えばゼフィランサスって通称のガンダムあったよな?」と思い出しまして。ネットで調べた所、ガーベラも同シリーズであったんですね。実際出て来たのは『ガーベラ テトラ』だったらしいですが。蘭好きなのでゼフィランサスとサイサリスは覚えてたんですが、まさかガーベラもとは‥‥いや、本当に偶然でした。おかげで、青年医師と樋口の二重の意味での一騎打ち(笑)になりました。
ちなみに、ウ○ングガ○ダムゼロ○スタム(長い‥)の翼がクリアパーツで出来た限定版って確かあった気がしたんですよ(プラモじゃなくてガレキだったかもしれないんですが)。雑誌の広告で見て「ほ、ほしい!」とか思った覚えがあります。なので、作者が欲しかったフィギュアって事で。なんつっても社長の声はヒ○ロですしね(苦笑)。