超戦隊
魔女っ子ふぁいぶ
<第三話>
『西條グループの反撃!


「借金が返せねえんなら、身体で返してもらおうか!」
 今日もまた懲りもせず、松竹梅の三人が凄んでいるのは、いたいけな少年だった。
「まてっっ!」
 こちらもいつものように、万札が吹雪のように舞う。
 逆光を背負って、チャイナドレス姿のシルエットが現れる。
「また貴様らかっ!」
 竹川が呻いた。
「俺たちは、悪のあるところに必ず現れるんだ!」
 浸りきった様子で赤いチャイナドレスを翻し、樋口が高々と宣言した。
 その隙に逃げ出した少年を、壱哉は優しく抱き留めた。
 見れば、少年は中々整った目鼻立ちをしている。余程怖かったのだろう、大きな目には一杯に涙が浮かんでいた。
「怖かったろう。もう大丈夫だ」
 その肩をさりげなく抱き寄せて、壱哉は穏やかな微笑を見せた。
 と、その時。
 小さな炸裂音がしたかと思うと、壱哉達を囲むように小爆発が起こる。
「く‥‥!」
 威嚇の為であろうその爆発は、彼らに傷を負わせる程のものではなかった。
 辺りは、いつの間にか広い荒野に変わっている。
「ふん、現れると思っていたぞ」
「随分と趣味のいい玩具を侍らせているようですね」
 歌のステージのような大量のスモークの中から、二つの人影が現れた。
「貴様‥‥西條!それに、男好きのヤブ医者か」
 壱哉は、二人を睨み付けた。
 いきなりラスボス&黒幕の登場である。
「男好きは認めますが、主治医に対してヤブと言うのは言い過ぎでは?」
「治療とナンパを同類視している貴様には似合いだろう」
「‥‥相変わらず、素直じゃない人だ」
 青年医師の凄絶な色目を綺麗に無視し、壱哉は西條を睨み付けた。
「ワシの楽しみをこせこせと邪魔しているばかりか、社にもちょっかいを出してくれているようだな?」
「フ‥‥先に手を出して来たのはそっちだろう」
 壱哉が薄く笑う。
 そこに、どこからともなく現れた、漆黒のチャイナドレスに身を包んだサングラスの男が片膝をついた。
「社長、申し訳ありません。今回の工作は失敗しました。総帥の部下がかなりの使い手で‥‥」
 見れば、彼は軽くない傷を負っている様子だった。
 艶消しのチャイナドレスのあちこちが破れ、血が滲んでいる。
「そう簡単に混乱してくれるとは思っていなかったからな。仕方なかろう。下がって休め」
「はい」
 工作担当の男は、まるで忍者のように空間に溶け込んで姿を消した。
「我が西條グループは、貴様の小細工になどビクともせんわ!」
 西條が、いかにも悪役な高笑いを上げた。
「黒幕と資金提供者が直々に出て来るとは、自分達も目立ちたくなったのか?」
 からかうような壱哉の言葉に、西條は鼻を鳴らした。
「若造が、ほざくな」
「皆さんに敬意を表して、顔見世と言うやつですよ」
「フン、品定め、の間違いじゃないか?」
 棘の生えまくった会話に、傍で聞いている吉岡ははらはらしている。こんな時、どちらにも義理があったりするのは辛いものだ。
「えーと、もしもし?」
 すっかり置いてきぼりになっている樋口が壱哉をつついた。
「なんか、ノリが違うんだけど?」
「あぁ、悪かった。お前達が派手に注意を引いてくれている間に、西條の一族に裏工作を仕掛けていたんだ」
「それって悪役のする事じゃあ‥‥」
「気にするな、正義は何をしても許されるんだ」
 ここまで臆面もなく言われると、樋口としてはそれ以上責めようがない。
「後は任せる。また徹夜で『作戦』とやらを考えて来たんだろう?」
 今日も樋口の手には分厚いシナリオが握られている。‥‥‥既にシナリオとは大幅に話がずれてしまっているはずなのだが。
「いいのか?じゃあ、ぐりーん、さっき言った通りにすれば必ず勝てるから、頑張ってください!」
「あ、うん‥‥‥」
 言われ、山口がおずおずと前に出る。
「えーっと‥‥‥じゃあまず‥‥‥」
 山口は、くるりと西條達の方に背を向けた。
「昨日床屋さんに行ってきたんですけど。すっきりしたでしょ?」
 ほらほら、と山口は綺麗に剃り上げた首筋の生え際を撫でて見せた。
 これこそ、山口の特殊な必殺技、『うなじ』であった!

《『うなじ』とは、ぐりーん・山口以外の人間には絶対に不可能な必殺技である!これは持って生まれた性格に加え、美容室などではなく、最低十年以上前から営業している昔ながらの『床屋』で、しかも『常連』でなければ成立しないと言う、実にデリケートかつ難易度の高い技なのである!良からぬ下心を抱いている相手に程大きなダメージを与える事の出来る強力な技だが、その特殊性の為、敵味方無差別に影響を及ぼす諸刃の剣なのだ!》

「うっ‥‥‥」
「て、天然とは恐ろしい‥‥‥」
 良からぬ下心においては引けを取らない西條と青年医師が、あまりのダメージに撃沈する。
 しかし。
「くっ、不覚‥‥!」
 思わぬ不意打ちに、壱哉がよろめく。良からぬ下心に関しては、父親と同レベルなよき息子である。
「壱哉様!」
 慌てて吉岡が壱哉の身体を支える。
「あ、あんな連中に見せるなど勿体無い‥‥!」
 吉岡の手を借りながらも口惜しがる壱哉は、別の意味で大ダメージを受けていたようだ。
「山口さん、一気に行くんだ!」
 すっかり司令官のノリになっている樋口が叫ぶ。
「うん‥‥あ、どーも。はじめまして」
 呆然としている松竹梅に、山口はにこりと邪気のない笑顔を向けた。
「美味しいラーメンの屋台があるんですが。一緒に食べませんか?」
 荒野だったはずの辺りは、突然暮れなずむ夕方の川原に変わっている。
 そして、そこには昔懐かしい屋台のラーメン屋が。
 これこそ、山口の第二の必殺技『屋台でラーメン』である!

《『屋台でラーメン』とは、ぐりーん・山口の最も基本的な必殺技である!川原に夕方店を開く屋台、と言う限られたシチュエーションに加え、ラーメンと言う庶民的かつ人気のあるメニューで、どんな相手であろうとも自分のペースに乗せてしまうのだ!この技は単独では大した威力を持たないが、他の必殺技へ派生する事によって絶大な効果を発揮するのである!》

「まあまあ。僕がおごりますよ。あ、ラーメン四つね!」
 山口は、手馴れた仕草でラーメン丼と割り箸を松竹梅に手渡して行く。
 着ているのがチャイナドレスだけに、まるで中華料理店のバイトのように見えなくもない。
 梅本などは、スリットからのぞく生脚の方に気を取られて、丼を受け取る時にスープに指を突っ込んでしまった。
 箸を割って大の大人四人が仲良くラーメンを啜りこんでいる光景は、実に微笑ましく異様なものであった。
「そう言えば、子どもさんとかはいらっしゃるんですか?」
 ラーメンを大体食べ終えて、何気なく、山口が口を切った。
「い、いや、俺は‥‥」
 大体、こんな下っ端を臆面もなくやっているこの連中にそんな甲斐性などあろうはずはない。
「あぁ、すいません、立ち入った事を訊いてしまって。いや、僕には息子がいるんですけどね。僕一人で育てているんで、目が届かない事がいっぱいあるんです。この前も一也が‥‥あぁ、息子の名前なんですけど、にんじんを残したんですよ‥‥‥」
 と、山口はいきなり饒舌になって話を始める。
 これぞ山口の必殺技、『親馬鹿マシンガントーク』である!

《『親馬鹿マシンガントーク』とは、ぐりーん・山口の強力な必殺技である!豊富な話題を息もつかせずまくし立て、相手の戦意を削ぎ、場合によっては精神的大ダメージを与える事の出来る特殊な技なのだ!類似した技に『おばちゃん』の『玄関前ご近所話』や『お年寄り』の『エンドレス昔話』などがあるが、いずれも持って生まれた素質に加えて豊富な人生経験が必要な難易度の高い技であり、山口の若さで身に付けている例は実に稀有なものなのだ!》

 話題がいたいけな子どもの話であるだけに、無下に打ち切る訳にも行かない。殆ど切れ目なく続く話は、席を立つタイミングもつかめない、実に恐ろしい技である。
「‥‥それで、この前の休日もうっかりうたたねしてしまったんですが、気がついたらブランケットがかけてあるんですよ。本当に、僕には勿体無いくらい気の利く子で‥‥‥」
 次々と出て来る子育ての話題に、松竹梅は完全に戦意を喪失していた。
「よしっ、今度こそ作戦成功だ!」
 樋口がシナリオを握り締めた時。
 いち早くダメージから立ち直ったらしい青年医師が何とか立ち上がる。
 さすが、いつもアヤシげな薬の開発に余念がなく、体力を使う事にかけては壱哉といい勝負な日常を送っているだけの事はある。
 青年医師は、ふと、山口の後ろの屋台に目を留める。
「その暖簾は‥‥もしや、あの究極の屋台ラーメン?!」
 青年医師が大きく目を見開いた。
「あぁ、間違いありません。有名になる事を好まず、地方の小都市ばかりを回っていると聞きました‥‥一度、食べてみたいと思っていたんです!」
 うっとりと言った青年医師は、ぼんやりとしている松竹梅を睨み付けた。
「そこの三人!構いません、屋台とその男を連れて来なさい。命令が聞けないようなら、今度の新薬の実験台になってもらいますからね」
「わっ、わかりましたっ!」
 飛び上がった松竹梅は、まだ喋り続けている山口を抱え、屋台を引っ張って逃げて行く。
「え?えー?」
 唐突な逆転に、樋口は呆然とする。
「‥‥失敗、か」
 壱哉がため息をついた。
 樋口のヌルい『作戦』が有効だとは思わなかったが、こんなにもあっさり失敗してしまうとは。
「山口さん、これを持っていくといい。頭のキャップを取って、連中の寝ている部屋に放り込んでやれ。ただし、山口さんは同じ部屋にいないようにな」
 と、壱哉はスプレー缶にも似たものを山口に放った。
「う、うん‥‥‥」
 意味が判らないながらも頷いて、山口は缶を握り締めた。
「なんだよ、あれ?」
「神経ガスだ」
「それじゃ悪役だってば!!」
 樋口の空しい叫びが青い空に吸い込まれて行った。


〜次回予告〜
ぴんく、ぐりーんが敵の手に落ち、追い詰められた魔女っ子ふぁいぶ!
この危機に魔女っ子れっどが下した決断とは?!
次回『魔女っ子ふぁいぶの危機!』
見ないと、巨大な鉄筋が上から落ちてぞ!

第二話に戻る!

第四話へ続く!

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