超戦隊
魔女っ子ふぁいぶ
<第二話>
『魔女っ子ぴんく、大活躍!


「借金が返せねえんなら、身体で返してもらおうか!」
 今日もまた、松竹梅の三人が、少し気弱なそうなサラリーマン風の青年に脅しをかけていた、その時。
「まてっっ!」
 札束が松竹梅の脳天にジャストミートする。
 花びらのように万札が舞い散る中、廃工場の扉を蹴破って現れた人影が五つ。
「く‥‥いいところにっ!」
 憎々しげに竹川が言う。
「あ、ありがとうございます!」
 逃れて来た青年が、壱哉にぺこりと頭を下げた。
「いや、当然の事をしたまでだ」
 さりげなく肩に回された腕がやけに馴れ馴れしい。
「あそこで少し休むといい。きっと落ち着く」
 壱哉は、青年の肩を抱くようにして廃工場の事務室へと促した。
「もしもーし。リーダーが何やってんだよ」
「あぁ、勝手にやっていろ。樋口、任せた」
 正義の戦いより目先のご馳走を優先する、実に正直なリーダーである。
「それじゃあ今日はぴんく!作戦は言ったとおりだからな、がんばれっ!」
 樋口が、浸りきった表情で叫んだ。
「わかったよ」
 いい加減諦めの境地に達しているのか、新が頷いた。
 廃工場を出ると、何故かそこは何もない荒野にワープしている。
「ふん、おぢょーちゃんは引っ込んでな!」
 梅本の軽口に、新の肩がぴくり、と動いた。
「ガキだと思って馬鹿にすんなよっ!」
 叫んだ新の顔つきが変わっている。『意地っ張り』モードが発動したのだ!

《『意地っ張り』モードとは、怒られたりきつく当たられるとより以上に反発する、ぴんく・新の隠れた能力である!普段より攻撃力、スピード共に1.5倍に上昇するが、引き換えに防御力は半分に下がってしまうのだ!このモードは一定以上の優しい言葉をかけられるまで持続するが、あまり長く続くと、最後には失踪してしまうので要注意である!》

「そんなところに車なんか置くのが悪いんだよっ!」
 新が魔法のステッキを振ると、突然、固い工具箱が落下して来た。
 慌てて梅本は避けたのだが、落下した工具箱を中心に小さなクレーターが出来ている。
 これこそ、新の必殺技『工具箱落下』である!

《『工具箱落下』とは、ぴんく・新の最も初歩的かつ凄まじい威力を持った必殺技である!大きさこそどこにでもある工具箱だが、中には金槌や鋸、ペンチなど、重量があり、すぐ凶器にもなるアイテムが一分の隙間もなく詰まっているのだ!その威力は、高級車を一撃でスクラップにする事が出来る程強力である!》

「俺だって気をつけてたんだ!」
 どかぁんっ!
「それでも事故ってのはあるだろう?」
 どかぁんっ!
「どうせ、あんな車いくつでも持ってるんだろ!」
 どかぁんっ!
 ‥‥‥しばし後、辺りには無数の小さなクレーターが出来ていた。
 竹川、梅本、松岡は、ほんの僅かに残されたまともな地面で、仲良く抱き合って震えていた。
「よし、もう一押しだ!」
 樋口の声を受け、新は三人の前に進み出た。
「よいしょっ‥‥と」
 新は、どこからともなくちゃぶ台を引っ張り出した。
 それも、良く使い込まれ、あちこちに傷や焼け焦げのある懐かしい逸品である。
 更に新が引っ張り出したのは、湯気の立ったご飯と肉じゃが、そしておしんこに味噌汁だった。
 そう、これぞ新の第二の必殺技、『手料理』である!

《『手料理』とは、ぴんく・新が小さい頃から血の滲むような修行の末に身に付けた必殺技である!特にその中でも肉じゃがや煮付けなどに含まれる特殊成分『オフクロ・ノ・アジ』はどんな人間の心をも溶かし、戦意を奪うのだ!》

「こっ、これは‥‥」
「うぅ、おかーちゃーん!」
「おふくろ、ごめんよう‥‥‥」
 松竹梅の三人は涙を流しながら山盛りご飯をお代わりしている。
「よし、これであいつらはもう戦えないな」
 樋口が、作戦の成功を確信した時。
「俺はもう、あんなマズいメシはまっぴらだ!」
「こいつを連れて行けば‥‥‥」
「いつでも、ウマいメシが食える!」
 瞬時に一致団結した松竹梅は、ちゃぶ台と新をひっ抱えた。
「え?」
 新と樋口の目が点になる。
「なんで?これで良心に目覚めて更生するはず‥‥」
「失敗、だな」
 いつの間にか戻って来ていた壱哉が他人事のように言った。
 さっきより肌の色艶が良くなっていて、ほんのり石鹸の香りがしていたりする。
「新!」
 壱哉は、呆然と連れて行かれる新にガラスの小瓶を投げた。
「料理か水に混ぜて向こうの連中に食わせてやれ。ただしお前は食うなよ」
「う、うん‥‥‥」
 新は、何やらゼリー状のものが入っている瓶を握り締めて頷いた。
「‥‥なんだよ、あれ?」
「サルモネラ菌だ」
「それじゃ悪役じゃないかっっ!」
「正義は何をしても許されるんだ」
 壱哉の悪役ちっくな含み笑いが夕日を背に流れるのだった。


〜次回予告〜
とうとう敵のボス・西條と青年医師が姿をあらわした!
今こそ出番だ、魔女っ子ぐりーん!かわいい一也が見ているぞ!
次回『西條グループの反撃!』
見ないと、アヤシい虚無僧が壷を売りつけに来るぞ!

第一話に戻る!

第三話へ続く!

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