超戦隊
魔女っ子ふぁいぶ
<第一話>
『魔女っ子ふぁいぶ登場!


 薄暗い裏通り。
「こっちも商売なんだ。いい加減、金を返してもらいたいもんだな」
 小柄な人影を取り囲むようにして松竹梅の三人が凄んでいた。
 まだ相当若いのか、華奢で小柄な体つきをした少年のようだった。
「借金が返せねえんなら、身体で返してもらうしかねえなぁ?」
 梅本が言った時。
「まてっ!」
 凛とした声が辺りに響いた。
 同時に、梅本の顔面に何かが叩き付けられる。
「うわっ、な、なんだこりゃあ‥‥!」
 封帯が切れ、指が切れそうな程新しい一万円札が辺りに舞う。
「何者だっ!」
 松竹梅が、大仰な身振りで振り返る。
 何故か出現した小高い崖の上に、光を背負って五つのシルエットが立っていた。
「てんよぶ、ちよぶ、ひとがよぶ。あくをたおせとおれをよぶ」
「うーわー、黒崎さん思いっきり棒読み」
「仕方がないよ。僕だって言えと言われたら恥ずかしいもの」
 耳まで真っ赤になっている壱哉の後ろで、新と山口がこそこそと同情の視線を送る。
「壱哉様‥‥‥(涙)」
 更にその後ろで、吉岡は真っ白いハンカチで目頭を押さえている。
「黒崎、心がこもってない!ヒーローの決めゼリフはもっと大声で!表情は真面目に、毅然とした態度で!」
 シナリオ片手に演技指導をしているのは当然、樋口である。
「たとえてんがゆるしても、このくろさきいちやのめのくろいうちは‥‥」
 それでも必死にシナリオを棒読みしていた壱哉は、いい加減我慢の限界に達したらしい。
「‥‥‥あー、もう、やっていられるか!!」
 叫んで台本を投げ捨てた壱哉は、斜に構えて目を細め、いつもの表情で笑った。
「とにかく、この黒崎壱哉に楯突く連中は、容赦せんからそう思え!」
 どおぉぉんっ!
 派手な爆発と共に、五色の煙が立ち昇る。
「それじゃ悪役のセリフじゃないかっっ!」
「ふん、勝ってしまえば全て正義だ」
 それも一面では真実である。
「何をゴチャゴチャ言ってやがるっ!てめぇら全員、泣かせてやるからそう思えっ!」
 梅本の啖呵に、壱哉の表情が冷酷なものになる。
 大体、松竹梅の三人は壱哉の嫌いなタイプであった。
「そうだな。今日はゆで卵でもつくってみるか」
 壱哉が魔法のステッキを一振りする、と、どこからともなく降って来た卵が次々と爆発した。
 これぞ壱哉の必殺技、『はじめての料理』である!

《『はじめての料理』とは、ぶらっく・壱哉の持つ特殊な必殺技である! 一説には『新妻』と呼ばれる人種の一部が持っていた伝説の技と言われ、生まれついての素質と純粋培養された環境に加え、『世間知らず』と言うスキルがなければ不可能な荒業である! しかし、これを連発すると壱哉自身も精神的ダメージを負ってしまう非常に危険な技でもあるのだ!》

「ご飯はスイッチを入れれば作れるはずだし‥‥‥」
 松竹梅の周りに出現した炊飯ジャーから、大量の粘つく泡のようなものが噴き出し、三人を包み込む。
 洗剤風味のご飯に、三人は呼吸も出来ない。
「火を点けて焼く、くらいの事は俺だって‥‥‥」
 次に出現したのはフライパンで、上に乗っていた、正体不明の黒焦げになった物体が松竹梅に命中した。
「うげ、炭の味がする‥‥」
「俺だってもっとマシな料理が‥‥‥」
「どうすればこんな事ができるんだ?」
 口々に悲鳴を上げる松竹梅に、壱哉はいじけてしまう。
「説明書のどこにも書いてなかったのに‥‥‥」
「い、壱哉様!どうかお気になさらず!」
「そうだよ、黒崎くんは教わればちゃんとできる人なんだから!」
 慌てて、吉岡と山口がフォローに入る。
「ピンチだ、黒崎!ここは一発、巨大ロボットで‥‥」
 ただ一人、未だに浸りきっている樋口がシナリオを握り締めて言った。
「巨大ロボット?そんなものあるか」
「ないのか?!だって、巨大ロボットがないと戦隊って名乗れないんだぞ」
「戦隊なんぞと名乗った覚えはない!魔女っ子だと言ってるだろう」
「‥‥それはそれで恥ずかしいと思うんだけど」
 実に理性的な新の突っ込みは無視された。
「どうするんだよ?通常技で一通り戦ったら、巨大ロボットで止めを刺すのがセオリーなのに!」
「向こうも巨大化してないだろうが!」
「‥‥‥どうしてそんな事をご存知なのですか、壱哉様」
 樋口の悪影響なのだろうか、と暗澹としたものを覚えながら、吉岡が呟く。
「くそっ、ナメやがって!」
 血相を変えた竹川が呻く。
 この手の人種は、穏やかそうな口を利いている方が怒らせると怖いのだ。
「思い知らせてやる!」
 襲い掛かって来た松竹梅に、何とか立ち直った壱哉は鼻で笑った。
 ぴっ。
 小さな電子音がすると、突然巨大な六重の塔がせりあがって来た。
 これぞ、壱哉の最強必殺技、『国宝破壊』である!

《『国宝破壊』とは、ぶらっく・壱哉の持つ技の中でも最強クラスの破壊力を持つ必殺技である!幼い頃から血の滲むような修行を重ね、知力、財力、権力を身につけた者だけに許される、非常に高度な技なのだ!秘密裏に工作を行う実働部隊の忠誠心と高いスキルが求められる、言わば裏工作の王者とも言うべき技であり、壱哉の年齢で身につけている者は非常に稀であった!》

 ぐらぐら‥‥どおぉん!
「きゅう‥‥‥」
 松竹梅の三人は、仲良く文化遺産の下敷きになった。
「昔から悪の栄えたためしはないんだ!わかったか!」
 どさくさ紛れに、樋口が胸を張って最後の決め台詞を高々と宣言した。最早壱哉を当てにしてはいられない、と思ったのだろう。
 まだ昼間だと言うのに何故か出現した夕日を背にしてサワヤカな高笑いをする。
 オタクの一念は時間経過すら捻じ曲げるのである。
「あ、ありがとうございました!」
 松竹梅に脅しをかけられていた少年が、走り寄って来た。
「いや、なに。美しいものは、言わば華。それを守るのがヒーローと言うものだ」
 ふっ、と口元に微笑を浮かべ、壱哉が格好をつける。
 が、少年の身体をじっくりと眺めた壱哉の表情が強張る。
 やけに細い首筋、ジーンズでラインがしっかり見える下半身は、華奢で細身ながら柔らかな線を描いている。何より、Tシャツでくっきりと見える胸は、僅かとは言え、膨らみが見て取れた。
「女か‥‥‥」
「え?そうですけど?」
 途端に不機嫌になった壱哉は、吉岡に視線を移した。
「吉岡、後は任せる。俺は帰るぞ」
「は‥‥‥」
「あっ、あの、何かお礼を‥‥!」
「いらん」
 すげなく背を向ける壱哉に、吉岡は深いため息をついた。
 それらの事に全く気付かないかのように、満足げに仁王立ちをしている樋口の後ろで、うっかり出てきてしまった夕日が沈むタイミングを失っていた。


〜次回予告〜
松竹梅が、今日も罪もない人間をいじめているぞ!
ゆけ、がんばれ、魔女っ子ぴんく!今こそキミの力を見せるんだ!
次回『魔女っ子びんく、大活躍!』
見ないと、大津波が襲って来るぞ!

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第二話へ続く!

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