超戦隊
魔女っ子ふぁいぶ
<特別編>
『魔女っ子ふぁいぶのひみつ!』


「ふむ。中々悪くない」
 まるでダンス教室にあるような巨大な鏡に自分の全身を映し、壱哉は一人ごちた。
 金を積んで、現在最も注目されているデザイナーに作らせたオーダーメイドの衣装の出来は中々のものだった。
 上質なシルクの光沢を持つ布地は、薄手ながら45口径のマグナム弾すら跳ね返す特殊繊維である。
 それでいて洗練されたデザインは、決して機能性だけではない着心地の良さだった。
 更に、適度に身体にフィットし、バランスの取れた美しいシルエットは壱哉を満足させるに足るものだった。
 勿論、ぬばたまのような漆黒も実に壱哉の好みに合っていた。
「おいっ!こんなモン着られっかよ!!」
 けたたましい声を上げたのは新だった。
 とか言いながら、しっかりと与えられた衣装を着込んでいるのは、いつものツナギを取り上げてしまったせいだ。
「似合うじゃないか」
 壱哉は、満足げに目を細めた。
「黒崎さんの目、おかしいんじゃねえか?!」
 新は、耳まで見事に真っ赤になっている。ピンクの衣装と相俟って実に可愛らしい。
 生真面目にもお揃いのリボンを頭につけているのも、実に可憐であった。 
「何を言う。誰が見ても可愛いと思うぞ。なぁ吉岡?」
「は‥‥‥」
 いきなり振られて、返答に困る吉岡である。
「とにかく、なんでチャイナドレスなんだよ!しかもピンクの!!こんな恥ずかしいモン、冗談じゃねえっっ!」
 さっさと脱ごうとする新に、壱哉は薄く笑った。
「脱ぐのは構わんが、お前が着ていた服は全部処分したぞ。裸のままで帰れるんならそうすればいい」
「‥‥‥っ」
 唇を噛んで黙り込む新に、壱哉は更に追い打ちをかけた。
「どうしても嫌だ、と言うなら許してやらんでもないが、その時は車の修理代一千万円、耳を揃えて返してもらおうか」
「増えてんじゃねえかよ!」
「利子だ」
「‥‥‥‥‥」
 この法外な利子は言い掛かりだと思うのだが、少なくとも今新が持っている法律知識で反論する事は難しかった。
「‥‥‥わかったよ‥‥‥」
 地を這うような声で、新は頷いた。
 真っ赤になったまま、鏡を見ないようにしている新の様子は実に初々しくて、壱哉は目を細めた。
 新をノースリーブでミニにしたのは正解だったと思う。
 まだ成長しきっていないほっそりとした手足がすらりと伸びている様は、実にいい眺めだ。
「あの‥‥黒崎くん」
 おずおずと声を掛けて来たのは山口だった。
「あぁ、山口さんもよく似合うな」
 スーツではない山口の格好は中々のものだった。
 特に、いつも隠している為に色の白い脚が深いスリットから見え隠れする様は実に艶っぽい。
 光沢のある濃い緑の布地がまた、色白の肌に良く映えている。
「あの‥‥僕の歳でこの格好、と言うのはどうかと思うんだけど‥‥‥」
 相変わらず、三十路以降の人間に喧嘩を売っているような発言である。
「そんな事はないさ。なぁ、一也?」
「うん!お父さん、とってもかっこいいよ!!なんか、テレビの正義の味方みたい」
「そ、そうかな‥‥‥」
 一也に誉められ、山口は途端に相好を崩した。
「そうかなぁ、かっこいいかなぁ‥‥‥」
 しきりに照れている山口の後ろで、こっそり共犯者の視線を交わす壱哉と一也であった。
 そして、借金のカタに、この壱哉の気紛れに巻き込まれてしまったターゲットの残る一人はどうしていたかと言うと。
「あぁ‥‥レッドだぁ‥‥‥」
 鏡に映る、赤一色の衣装に感動しているのは樋口だった。
「ちゃいなって言うのは何だけど、でも、レッドだからな‥‥‥」
 特撮ファンが憧れるヒーローの中のヒーローの色、それが『赤』である。
 特に壱哉が始めた事だけに、レッド=リーダーではないのだが、そんな事も気にならない程感動している樋口はやはりちょっとヘンだった。
 壱哉は、無邪気というか子どもっぽい樋口の様子にも満足な表情を浮かべた。
「‥‥‥‥‥」
 吉岡は、そんな壱哉を複雑な表情で見詰めていた。
 彼も、体型に合うよう仕立てられたブルーのチャイナドレスに身を包んでいた。
 パジャマかトレーニングウェア以外はスーツしか着た事がない吉岡のこの格好はとても新鮮に見えた。
 抜けるような青のチャイナドレスは実に清楚で、とても良く似合っていたのだが、それは吉岡には何の救いにもならない。
 そもそも、腰の辺りまで深く入ったスリットがかなり恥ずかしい。
 大体、山口より年上の自分はどうしろと言うのだ。
―――これも、壱哉様のため‥‥‥。
 これで何度目かのため息をつく吉岡であった。
 ―――――――――
「なーなー黒崎、俺、登場セリフ考えて来たんだけど」
 樋口が嬉々として、分厚い紙の束を引っ張り出した。
「登場セリフ?」
 胡散臭そうな表情で分厚い束を受け取った壱哉は固まった。
 安い落書き帳か何かを綴じて、手書きで書かれたその束には、『魔女っ子ふぁいぶ 第一話 シナリオ』とある。
「シナリオってお前な‥‥‥」
 何の気なしにページをめくった壱哉の動きが止まった。
 そこには、登場シーンの立ち位置から決めポーズ、とどめにいかにも特撮風なセリフまでが事細かに書かれていた。
 セリフに目を走らせた壱哉の頬が真っ赤になる。
「こんな恥ずかしいセリフが言えるか!」
「えー、俺、徹夜で考えたのに?!」
 こいつには羞恥心と言うやつがないのだろうか。
 不服そうに頬を膨らませた樋口をまじまじと見てしまった壱哉である。
「とにかく、せっかく五人揃ってる訳だからさ、やろうよー」
 子犬のような縋る目で見られて、壱哉は危うく頷いてしまいそうになる。
「だっ、だめだ!俺はクールで鬼畜な青年実業家で通ってるんだ!こんな恥ずかしいセリフなぞ言えん!」
「世間知らずで」
「ぽんぽこぴーな」
「天然ボケ、の間違いじゃないのか?」
 山口、新、樋口と続く自分の評価に、壱哉は真っ白にフリーズしてしまった。
「壱哉様、おいたわしい‥‥‥」
 そっと、部屋の隅で目頭を押さえる吉岡である。
「よーっし、それじゃこのシナリオでいくぞっっ!」
 壱哉が固まっているのをいい事に、樋口は実に嬉しそうに、勝手に宣言するのだった。


〜次回予告〜
今日も悪の西條グループの下っ端、松竹梅が悪の限りを尽くしている!
今こそ出番だ、魔女っ子ふぁいぶ!悪い奴らをやっつけろ!
可愛い男の子がキミの助けを待っている!
次回『魔女っ子ふぁいぶ登場!』
見ないと、突然植木鉢が落ちて来るぞ!


第一話に続く!

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