【題意】

　春の気配を探す。

　春を待ち望む作者が、春の息吹を見つけようと終日探しまわった末、

　思いもかけず自宅の梅の梢に発見する。

　【詩意】

　一日、春を探し廻ったが、春の確かな徴を見ることはかなわなかった

　あかざの杖をつき、幾重もの雲を越えるくらい遠方まで歩き尽くした

　帰って来てから、試しに庭の梅の枝を手にとって見ると

　いつの間にか春は枝先にやって来ており、蕾はすっかり春の装いであった

　【語釈】

　藜＝あかざ。人丈程の一年草。秋に枯れ堅く乾く、軽くて杖に向いている。

　杖藜＝あかざの杖をつくこと。身の回りが質素であることが分かる。

　【鑑賞】

　この詩は、仏教、特に禅の悟りの境地を示すものとして、古来より有名。

　「道は近きにあり、しかるにこれを遠きに求む」という孟子の語に通じるといわれる。

　【参考】

　詩本によって以下のようになっている場合もある。

　承句（２句目）

　「芒�^（ぼうあい）踏み遍し隴頭の雲」（わらじがけで、梅花を探し回った）

　転句（３句目）

　「帰来適々過ぐ梅花の下」（帰って来て、ふと梅の木の下を通り過ぎると）

　【題意】

　静寂の中、更け行く春の夜を賦した。

　【詩意】

　春の宵はその一時、一時が何物にも変え難い趣を備えている

　花は清らかに香り、月はおぼろに美しい

　歌声や笛の音で賑やかだった高殿も今はすっかり静か

　ぶらんこがひっそりと下がる中庭、夜はますます更け行く

　【語釈】

　鞦韆＝ぶらんこ　　　院落＝垣根で囲んだ屋敷。中庭。

　声細細＝本によっては声寂寂とするものもある。

　※作者については解説の栞・心癒される詩で紹介しています。

　【題意】

　連作二首の其の二。

　【参考】

　作者は南宋の盧梅坡（ろばいは）との説もある。

　【詩意】

　梅があっても、雪がなければ面白みに欠ける

　雪があっても、そこに詩がなければ、せっかくの風景も心を俗なものにしてしまう

　夕暮れ時、詩が仕上がり、また雪が降りだした

　梅と雪と詩、三つ揃ってこそ春の情緒は十分楽しめるいうものである

　【語釈】

　俗了＝高尚なものが俗化してしまう

　【鑑賞】

　絶句では普通同じ文字を重ねて用いない。

　ここでは意識的に多用して面白味を醸し出している。

　１１９９〜１２６２年。南宋の人。字は巨山。号は秋崖。生まれは現在の安徽省。

　１２３２年進士に合格。後に南康、袁州（共に現在の江西省）の知事となった。

　才気鋭く、詩文に優れ、名言佳句が多くある。

　元々農民出身らしく、農村の景物を詠う詩が多い。

　【題意】

　「涼州詞」は西涼都督郭知運が涼州で集め、玄宗に献上した楽曲。

　西域音楽の影響で涼州特有の楽曲だった。

　歌詞は元来、涼州の風物、兵士の気持ちを歌ったものだったが、後には涼州に限らず

　兵士の心境を詠ったものを「涼州詞」というようになった。

　涼州は中国の前漢時代、現在の甘粛省中部の武威に置かれた州。

　西域への要衝に位置しており、異民族に備え守備隊が置かれていた。

　【詩意】

　遠く黄河を遡り、白雲のたなびく辺りまでやってくれば

　遥か連なる山並の中、ぽつんと砦が佇む

　羌人の笛で、わざわざ悲しげに折楊柳など吹く必要があろうか

　春の光は玉門関を越えて、この辺境までやってこないというのに

　【語釈】

　羌笛＝羌族（チベット系遊牧民）の吹く竹笛。

　楊柳＝折楊柳と呼ばれる別離の悲しさを表した笛の曲。漢代、長安から旅立つ人を送り、

　覇橋で、柳の枝を折って別れた故事から、旅立つ人を見送る意がある。

　春光度らず＝街は春になれば柳も芽吹こうが、この辺境には春の陽さへやって来ない。

　玉門関＝甘粛省敦煌の北西８０ｋｍに設けられた関所。西域に通じる要路にあり、

　南西の陽関と共に名高い。当時、ここを越えると異民族の住む未開の地であった。

　【参考】

　唐詩七絶中最高傑作との評もある。

　６８８〜７４２年。盛唐の官僚、詩人。

　若い頃は遊侠の徒と交わり、気ままな生活を送っていたが、後に行いを改め文学を志した。

　辺塞（中国西北部の国境地帯守備を題材とする）詩の佳作が多く、辺塞詩人といわれる。

　王昌齢、��適などと共に詩名が高く、その詩はたいへんもてはやされた。

　その多くは失われて、現在は六首のみが伝わる。「鸛鵲楼に登る」の詩も有名。

　王之渙、王昌齢、��適が料亭で酒を飲んだ際、妓女が誰の詩を歌うか競った。

　王昌齢、��適の詩ばかりが続けて歌われた後、王之渙が最も美しい妓女を指し示すと、

　はたしてその妓女は王之渙の涼州詞を歌いだし、大いに面目を保ったという伝説がある。

　【題意】

　黄金の糸で飾った衣服。

　尚、「金縷の衣」に関しては作者を李�ﾘ、あるいは作者不詳と採る説もある。

　【詩意】

　貴方にお勧めしましょう。金の糸で織った着物などを惜しまないように

　貴方にお勧めしましょう。私の若く美しい時を惜しんで下さいませ

　人生の花が開き、手折り頃になったら、すぐに折り取って下さい

　花時を逸してから、無駄に枝を折ろうなどとなさいますな

　【語釈】

　少年時＝年若い時。「少年」は男にも女にも用い、年齢の範囲も現在より幅広い。

　【鑑賞】

　若い盛りの時に愛して下さいという、なまめかしい愛の歌である。民歌風の艶冶な味わい

　がある。若いうちは短いから、年老いて悲しまぬ様に努力せよ、という朱熹の「偶成」のよう

　な勧学の詩と採る向きもあるが誤解である。極端に言えば勉強しろとは反対に、若い時こそ

　悔いなく遊べ、楽しめというのである。

　【題意】

　美しい春に詠んだ詩。揚州（江蘇省）での作。

　【詩意】

　春風にのって花の季節がこの町にもやってきた

　もう街では飴を売る声が聞かれるようになった

　この先もずっと忘れないと思うのは

　この町の平山堂で五たびも清明を迎えたことだ

　【語釈】

　江城＝川のほとりの町。ここでは揚州。

　平山堂＝揚州の名所。

　清明＝二十四節季の一つ。太陽暦では４月５日頃。

　　　　　万物が清々しく明るい気に満ちる時期という意。

　【参考】

　清明の頃、笛を吹きながら飴屋が売り歩く習慣があり、一つの風物詩となっていた。

　【題意】

　春雪の積む辺境の要塞で、羌笛の音を聞いた

　【詩意】

　一面白雪の降り積もった辺境の地、放牧した馬を追って帰ると

　煌々と照らす月明かりのもと、物見やぐらの辺りから羌の笛の音が響いてくる

　（その曲は落梅花である）

　厳寒のこの地に梅花など無いはずだが、花びらはどこから落ちてきたというのか

　風が一晩吹いて、花（雪）は周囲の山々に満ちわたる

　【語釈】

　羌笛＝胡人（西域民族）の吹く笛。

　※作者については解説の栞・春　一で紹介しています。