2005年2月28日付けで、神坂峠遺跡から1967,68年に出土した24点の石製模造品について、化学成分の分析結果が報告されています。内容を抜粋して紹介します。
報告者は、筑波短期大学非常勤講師の松本建速先生で、原本は、表紙や写真、表も含めてA4で6ページです。 (文責 さんま)
1.目的
石材の分析により、産地を同定するための基礎データを蓄積すること
2.方法
エネルギー分散型蛍光X線分析装置による
(独立行政法人産業技術総合研究所地質調査総合センター)
3.分析
(1) 超音波洗浄、自然乾燥
(2) ファンダメンタルパラメーター法による、半定量分析(真空下、200秒)
〜出土物を破壊分析できないため、詳しい定量分析はできない。
地殻主要10元素:Si、Al、Fe、Ti、Mn、Mg、Ca、Na、K、P
(地殻をつくる岩石は、これらの酸化物で99%以上を占める)
微 量 4 元 素:V、Cr、Ni、Zr
(片岩類に多く含まれる成分)
4.結果
(1) 各元素(酸化物)の含有量(最小値〜最大値)
主要元素(酸化物) | 最小値 | 最大値 | |
SiO2 | 29.0 | 〜 | 48.2% |
Al2O3 | 16.0 | 〜 | 31.8% |
Fe2O3 | 6.1 | 〜 | 28.4% |
MgO | 3.1 | 〜 | 34.9% |
K2O | 検出不能 | 〜 | 8.8% |
CaO | 0.1 | 〜 | 6.2% |
Na2O | 0.03 | 〜 | 0.9% |
TiO2 | 0.04 | 〜 | 1.0% |
MnO | 0.2 | 〜 | 0.7% |
P2O5 | 0.02 | 〜 | 0.9% |
微量元素(酸化物) | 最小値 | 最大値 | |
V2O5 | 40 | 〜 | 1377ppm |
Cr | 検出不能 | 〜 | 4273ppm |
Ni | 18 | 〜 | 1269ppm |
Zr | 検出不能 | 〜 | 466ppm |
(2) 主要元素から見た岩石種類
試料のほとんどは、SiO2、Al2O3、Fe2O3、MgO からなる。
主要な構成鉱物は緑泥石【(Mg,Fe,Al)12(Si,Al)8O20(OH)16】と判断できる。
上記4元素の酸化物で97〜98%を占める試料は、緑色片岩とみなせる。
他の試料でも緑泥石を主な構成物とするが、K2OやCaOを数%以上含む資料は黒雲母など他の鉱物を一定量含む。これらは結晶片岩とみなせる。
(3) 岩石の産地推定
緑色片岩や結晶片岩は広域変成岩であり、緑色片岩を含む結晶片岩は三波川帯黒川層群に見られる。最も近い地域で言うと、長谷村〜大鹿村〜南信濃村(現飯田市)に分布する。
黒川層群の露頭や、転石を含む礫層など、採集の方法は不明である。
5.今後の課題
推定される産地で原石を採集し、化学成分を分析し比較する必要がある。
【補足 byさんま】
緑色片岩は中央構造線沿いに分布しており、これらの転石は三峰川、小渋川、遠山川を通じて、天竜川でも採集できる。
私も、遠山川で緑色片岩を採集し、その場で平べったい砂岩を用いて研磨してみた。比較的容易に削ることができ、剣形のような物を作ることができた。風化が進んでいるのか片岩の剥がれやすい性質のせいか欠けやすかった。