1.創作のための道具
<目次> | |
検証・SONAR/CALの動作 2003.10.2 |
ここでは普段私が使用している作曲のための道具を紹介してみたいと思う。とりたてて目を見張るほどのものではないのであるが、私にとっては有益なもの、欠くべからざるものばかりである。
1, 紙と鉛筆、そして万年筆の事
私の作曲小屋にはA3サイズまでの用紙に対応した半回転式譜面台と、各用途に合わせた五線紙、電子音用の方眼紙、及び数本の筆記具が備えてある。基本的に私は器楽音を扱う場合、それを書き留めておく手段として、ごく当たり前の事かもしれないが、五線紙に鉛筆でもって書き記す方法をとっている。電子音の場合も同様である。その理由は簡単な事である。すなわち、この方法を用いるという事は、他のやり方、例えばコンピュータに入力していくとか、音として録音するとかの方法に比べて、私にとっては圧倒的に効率的であるからだ。しかも音符だけではなく、さまざまな要件をそこに書き留めておく事が連続的に出来る。これは大きい。私の経験上、コンピュータで同じ事をしようとすると、なんとも煩雑であり、うんざりするほど煩わしく思えるのである。とにかく私にとってこの単純明快な”紙と鉛筆”に勝る記録法は無いのである。
紙に鉛筆でもって書き記していくこの方法には、私にとって決定的とも言える利点がある。それはなんといっても感覚上、”見通し”が良いという事である。上下方向と前後方向の関係は一目瞭然としたものである。特にこれは編成が大きく、また複雑であればあるほど、コンピュータのモニターでの表示と比べた場合、歴然としている。モニターでの表示はたいていの場合、かなり限定的である。そして見えない部分は”スクロール”しなければならない。私にとってこのリモコン操作するような動作は余計なものだ。紙の楽譜であれば必要に応じてめくるだけでいい。
そして、もうひとつの理由としては、音符なり、電子音のデータなりを自分自身で書込んでゆくという事に面白みを感じるからである。炭素やインクの線は無味乾燥したドットの集合ではない。指を伝わる筆記の感触、私の意志がそのまま流れ出るかのような感覚。そこに間に挟まるようなものは何もない。また、そういった面白味を味わう事が出来ればこそ、記譜という作業も自ずと継続出来るというものである。
現在私は、どこでも手に入るような普通の鉛筆を使っている。鉛筆とは使っていくにつれ短くなってゆくものだが、そういった場合のために私は、丁度良い内径のステンレスパイプを加工してエクステンダーを作った。そうでない場合でも、芯を保護するキャップにもなるので重宝している。これはfaber
Castell社のアイデアに触発されての事ではあるのだが、残念ながら消しゴムとシャープナーは付いていない。私は是非とも同社の鉛筆を使いたいと思っているのだが、恐ろしく高価であるため、なかなか手が出ないでいる。しばらくはこのままで、といったところか。
さて次に、鉛筆以外の筆記具における私の関心事は万年筆である。何故いまさらのように万年筆なのかと思われるかもしれないが、それは鉛筆と同様に、書くという事の楽しみを味わえるからである。このふたつは全くと言っていいほど異なる性格と結果をもたらす。しかしながら、どちらにおいても捨てがたい味わいがある。だから私がどちらをどのように使うかは、その目的にもよるのだが、同時に私の嗜好の気まぐれによるところも大きいのである。ただし、浄書する場合においては、その保存性からいって万年筆に限られる。ちなみに私は、ボールペンやシャープ・ペンシルの類は、少なくとも音楽創作に関わる筆記には使う事はない。理由は簡単である。端的に言って面白味がないからである。
今、私は出来るだけ長く(出来れば生涯にわたって)付き合えるような万年筆を手にしたいと思い、あれこれ物色中ではあるが、それを見つけるのは簡単にはいきそうもない。基本的に私は、軸の太いものはあまり好きではない。比較的細身で直線的なものを好む。もちろん書き味、仕上がり具合は言うに及ばぬ事であるが、さらにはそのたたずまいの内にも、伝統の重みと職人の誇りを感じられる”本物”と呼ぶにふさわしいもの・・・これは拝物主義的な意味で言っているのではない。ましてやブランド指向などとは無縁である。私はその製品において、それを作った職人の技、そのメーカーの製品における理念や伝統、頑固なまでの哲学などといったものを尊重したいのである。またそういったものを善きものとして宿しているものを”本物”と呼びたい。
Photo by H.Isihara 2003 |
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現在愛用の万年筆、Rotring Newton 製図系で有名なRotring社の万年筆。”ドイツの堅物”筆記具である。妥協を許さぬ頑固な造形。気に入っている。 インクはRotring純正品。あるいはパイロット社の古いものを使用中。これは少しくすんだブルーで粘性がやや低く、書き上がりに枯れた濃淡が出る感じが良い。 |
2, コンピュータの事
まず私が最初に導入したコンピュータについて記さねばならないだろう。
私が最初に使い始めたのはSONYのVAIOノート・PCG733であり、CPUはMMX200MHz、128MBのメモリーを搭載し(現在192MB)、ドッキング・ステーションに外付けハードディスク(SCSI/6.4GB)を取りつけて使用していた(OSはWindows98)。1998年にこれを導入する以前は、ヤマハやローランドの単体シーケンサーを長らく使っていたのだが、MIDIと波形データとを統合的に扱いたいと思い、導入したものである。しかしながら、導入当初はかなりの高性能ではあったものの、コンピュータとその周辺の技術的進歩の恐るべき速さにおいてはまたたく間に陳腐化し、特に私が要求する処理をさせるにはおよそ力不足であると言わざるをえない状況が続いた。
そこで、時期的にコンピュータ全般の能力が、ある程度私が要求する水準に達したと思われる、2001年の夏にIBMのAptiva
A /6832‐43Rを導入した次第である。これは、CPU/Pentiam4=1.4GHz、メモリ/DRD-RIMM=386MB、ハードディスクはIBM製60GBを内蔵したものである(OSはWindows Me)。この程度の能力であればひととおりの作業に支障をきたす事はまず無いであろうと思われる。さらに付け加えるならば、この機種に付属する縦横両用モニターの存在が私には非常に大きいのである。大編成の総譜(ここで問題とするのは譜面上の”段数”である)を出来るだけ広い範囲で表示させるためには、このモニターを縦位置にしておけば不完全ではあるにせよ、かなりの範囲を見渡す事が出来るのである。通常の横型固定モニターでは到底成し得ぬ業であろう(ただし、ソフトウェア=Portrait
Pivot Softwareによって縦表示に変換するため、表示速度は犠牲になるとの事・・・。確かに体感され得るほどの犠牲である)。
今現在は、”速い”40GBのハードディスク(MAXTOR 6L040J2)を作品の波形データと私のギター演奏を記録するために増設してある。これは着脱可能なカートリッジ式のユニットに収めてあり、速度的に有効な容量を超えつつある場合は、新しいハードディスクをカートリッジごと差し替えれば良いようにしてある。また、この新規増設に伴い、内蔵CDRドライブを取り外さなければならなくなった関係上、音楽CD作成用に外部CDRドライブ(IEEE1394接続)を導入した。ひとまずはこれで必要十分な機能は揃ったと思える。そして、これまでにハードウェア的に故障したとか異常があったりした事は一度たりとも無かった。危うい経験をしたのはむしろOS=Windows
Meにおいてである(当たり前か?)。
しかしながら同時に、音楽に携わる上で大変に困った問題を抱え込む事にもなってしまった。それは如何ともしがたい”騒音問題”である。やはり”速い”ハードディスクの増設による代償は大きかったという訳だ。さらにはこれに、本体の排気ファンや、電源装置の冷却ファン等の回転音などが上乗せされるのである。音楽に関わる者である私にとって、これは大きな_と言うより”致命的”な_問題である。一般的な用途で使うのであればさほど気にならないのかもしれないが(?)、私の場合は”音”を扱うのであり、これと同種の現象が妨げとなる場合、例えば小音量の樂句が聴き取れないとか、ある周波数の音域に干渉してしまうなどといった事態が、私の一連の作業の大きな障害となってしまうのだ。したがって私は今、さまざまな角度からの騒音対策を検討しているのであるが、しかし、少なくとも現在の冷却性能を下回ってはならぬのであり、また、発せられる騒音の音質も重要な要件である。この事から言って、私の希望にそうようなものはなかなか見つからないというのが現状ではある(私の知識と情報との不足もある)。とにかくこの問題は早急に解決したいものである。私にとってこの問題がいかに大きいものであるか、あなたには想像出来るであろうか?そして、なんとも苛立たしい事に今も私のすぐそばでは耳につく持続音がうなっている。
騒音発生装置と化したIBM6832-43R。早急なる改善策を施さねばならないであろう。PC自体は気に入っているのだが・・・。 ミキサーはBERINGER・MX802A、オーディオインターフェイスはM-AUDIO・DELTA44。 |
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日本アイ・ビー・エム株式会社(ibm.com) |
追記 2002.12.31
困った事にディスプレイ・ドライバー(nVidia)を更新したとたんに縦表示するためのソフト(Portrait
Pivot® Software)が使用不可能になってしまった。こちらの方もアップグレードしなければならないのであろう(無償アップデートの期限は切れている)。ただパフォーマンスの方は僅かながら改善されたようではある。
追記 2003.1.7
上記の理由により、今も横位置モニター限定の環境に終始しているという訳であるが、nVidiaの新しいドライバーソフト(Ver40.09)にはNVRotateという描画回転機能が備わっている事が(今さらながら)判明。私は一瞬、狂喜したが、しかしながらこの機能はWindows2000/XPのみの対応らしく落胆・・・。98/Meにも対応する事を願うしかないのだが・・・ちなみにディスプレイ・アダプターは今となっては古色蒼然たるnVidia
TNT2 Model64である。
ついでながら、このところはマシンのチューンアップに精を出している。レジストリや.iniファイルを中心にかなり手の込んだ子細工を施してある(クロックアップ系はしていない)。恐らくこのマシンは状況として、決して通常の意味での安全圏内に在るとは私自身、何ら保証する事はできないであろう。さらにはこのような子細工を講じても、それによって弾き出される成果は実に僅かなものである。では何故に危険を孕んでまでこのような事をするのかといえば、このマシンの全能力的余白、その未だ未知なる可能性をギリギリ一杯のところまで引き出す事への挑戦にかられて・・・としか私には言いようが無い(注・決してPCオタクの類ではない)。
追記 2003.10.4
すでに記したように私のPCは音楽のための道具とするには少々騒がしい。私もいろいろとプランを練ってはきたものの、未だに手を付けていない。まあ、財布の中身と相談しなければならない現状があるのであるが、いずれにせよ音楽環境の整備の一環として着手しなければならないと考えている。しかし、それを進めるにしても物事には順序というものがある。私のPC環境の整備計画も全く同様である。順を追って、より音楽環境にふさわしい状態に近づけて行くのが肝要である。私なりにその道のりの順序というものは考えてあるつもりである。また、その過程というものを紹介するのも一興であろう。その場合にあっては、それ専用のページを用意しなければならないが、おそらく私はそれをやってしまうにちがいない。
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3, 音楽のための統合環境 Cakewalk / SONARの事
コンピュータやOSが有っただけでは音楽において何ら益する事の無い事は論を待たない。私が単体シーケンサーに見切りをつけたのは先に記したとおり、MIDIと波形データとをまとめて扱いたかったからであり、それを実現させるためにはソフトウェアシーケンサーに移行する必要があった。この時期ようやくおもだったシーケンスソフトが機能的には一応完成の域に達しつつあり、またMachntoshからWindowsへの移植もバージョンは遅れをとってはいたものの、ほぼ完了していた状況にあり、私としてはどれを導入すべきかずいぶんと迷ったものであったが、結局Macからの移植組ではなく、Windowsにおいて歴史と実績のあったCakewalkに落ち着いた。2002年12月より、Cakewalk/SONARを使用している。
いまやこの手のシーケンスソフトは、どの製品を取ってみても同じような機能を提供するのだが、しかしながらそれぞれに独自の性格を有するのであり、そこには一長一短がある。Cakewalkについてみても私なりに大いに評価できる部分もあれば、また、そう在らぬ部分も少なからず有るのである。
私にとってCakewalk/SONARとは、すでに手になじんだ手放せぬ良き道具なのではあるが、そう在ればこそその欠点も実際以上に大きく感じられてしまうものである。実際、私は一時期LogicAudioに乗り換えようかとの誘惑にかられたりもしたのだが、結局eMagicがAppleに吸収されてしまい、今後はWindows版Logicの開発を打ち切るとの事でこれを断念した。そしてCakewalkには私を引き留めるだけの魅力があった。その事についてひとつ紹介するならば、まずは私の音楽創作における、このCakewalkなるシーケンスソフトの位置付けというものは、私が書いた楽譜を実際に聴かれるものとして演奏させるためのものであって、まちがってもこれによって音楽それ自体を創造させるような高い身分を与えている訳ではない。あくまでも道具であって、手段のひとつに過ぎない。また演奏者であるとか管弦楽団の”代替要員”なのだ。その意味からいうと、そのような位置付けにおける使命を全うさせるには、いくつかの欠くべからざる要素があるのだが、私にとってその最たる条件は”入力操作”にある。これこそが私が最重要視する要件である。すなわち、楽譜に書き記した”音”を如何に能率的に私の意に添うような形で入力し得るかが最優先課題なのである。さて、Cakewalkの場合、この点に関してはどうだろうか?残念ながら大いに不満を感じざるを得ない。
楽譜に在る何らかの音を入力するとは、音の諸要素をMIDIデータとしてしかるべき数値に変換する事である。考えてみればそれだけの事である。したがって、私としてはこの変換・入力操作に、いわゆる”数値入力”とよばれるところの方法で事を成したいと思うのであるが、Cakewalkにおいてはまともに機能しないのである(数値による編集は出来る)。私にとってこれは大きな欠点であった。
しかしながら私はCakewalkにおいて、現状では不可能であるが、しかし、それにもかかわらずCakewalk自身を別の角度から見たときに、私が望むところの”数値入力”が実は実現可能である事に気づいたのである。それはCALというCakewalk及びSONARが共通して実装する独自のスクリプト言語の存在である。これは非常に強力な機能であって、さまざまな独自の命令を実行出来るのであるが、その内のひとつの関数に私の目が止まったのである。それは式の引数に、入力位置や音の諸要素を数値として与え、それを実行すればCakewalkの任意のトラックに音を”生成”出来るというものである(Insart関数)。もちろん、入力するたびにCALを書いていたのでは煩雑すぎるであろう。そうではなく、何らかのソフトに数値を入力し、それをCALに変換して実行するようなものがあれば数値入力も可能であると思ったのである。しかしながら、このようなソフトウェアなど存在するはずも無いのであるが、無いならば無いなりに自分自身で開発出来ないだろうかと思い立ち、希望的観測にまかせて、比較的修得のしやすい言語であるといわれていたVisualBasic6.0に取り組み始めたのである(1999年。この入力装置に関してはこちら)。
結果としては大正解であった。もちろん満足のいく成果を得るまでは大変であったが、CALを利用してCakewalkにおける純粋な数値入力が実現出来たのである(多少、荒技的ではあるが)。しかも私の好みや都合に合わせたインターフェイスを組む事が出来るのだ。この価値は大きい。継続的な開発においては、ひとつの楽しみというものさえ見出し得るであろう。まさにこの事によって、Cakwalkは私には無くてはならない愛すべきシーケンスソフトになったのである。これもひとえにCALという言語を備えていたからである。またこれとは別に、独自の編集機能を持たせた”パネル”をビジュアル的に作る事が出来るのも大きな魅力である。
このように、ユーザー独自の編集機能を持たせ得る余地が広く取られている事は、他の同種のソフトには見られない大きな特徴である。この設計思想は堅持していってもらいたいものである。したがって、他の機能を見れば依然として不満の残る部分もあるものの、現状においては良しとしなければならないであろう。(しかしながら、SONARに移行した後に”重大な局面”を迎える事となるのだが・・・)
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4, CSoundの事
あなたはCSoundという音楽ソフトウェアを御存知だろうか?これは米国マサチューセッツ工科大学の研究機関より、無償で配布されている音響生成のためのソフトウェアである。大きな特徴といえばオーケストラ・ファイル(*.orc)に楽器を定義し、スコア・ファイル(*.sco)には演奏データ等を記述し、この二つのファイルを実行する事で波形データ(Windowsにおいては*.wav)を生成するというものである。
私は当初、すでに半世紀も前にK.シュトックハウゼンが手がけていた、電子音により合成された音響というものに関心を持っていたのであるが、しかしながら、その原理を理解してはいたものの、実際に手がけるとなれば、その作業は大変なものになるのは明らかであった。何か良い手立てはないものかとWebを検索していたところ、この”CSound”に行き当たったという訳である。これは私にとって、計り知れないくらい大きな出来事であった。
これはもともと英語版なのであるが、国内のいくつかのサイトでこのCSoundについての初歩的な解説をしているところがあり、それを参考にしつつ、早速ダウンロードし、前出のサイトにあった簡易マニュアルを辿りながら操作方法を学んでいった。一応、私が必要としている結果を得る程度になるまでには、2ヶ月ほどの時間が必要であったが、もともと私はBisual
Basicなどのプログラム経験があったので、この一風変わったソフトウェアの概念的、手法的な部分には違和感のようなものは無かった(もちろん、操作出来るようになるまでの間、それなりのつまずきはあったが)。そして、お得意(?)のVisual
Basicにより、下にある画像のようなCSound専用のエディターを作った。簡単なものではあるけれども、あれば便利な機能を持たせてあり、スコア・ファイルとオーケストラ・ファイルを同時に見比べながら編集できるので作業は快適になった。
ともあれ、私は自分の目的のひとつを実現する事において、非常に有益なソフトウェアを手に入れたという訳である。実際、私が今までとは全く違う、自分の音楽の新しい可能性の領域に、一挙に踏み込んだのは、このCSoundによるところが非常に大きかったのである。
Tonreiheverwaltar® Ver1.0 主な機能 管理の対象 ・基本形音列 (ドイツ表記音名による) ・音列を含む作品名 ・登録番号 ・備考 表示機能 ・基本形を元にした反行形・逆行形・反行逆行形 ・4つの形態の移置形 (+−12半音) ・基礎音列を組成する隣り合った音との比率表示 編集機能・その他 ・音列の生成・編集・削除 ・登録音列数は無制限 ・譜表は臨時記号の無い半音等間隔の独自形式 |
これは私が音列技法を学んでしばらくしてからBisualBasic 6.0によって、音列(音程の配列)を管理するために開発したソフトウェアである。主な特徴は上に記してあるが、音列を扱うという事は非常に煩わしい事である。あなたがもし音列の技法をあらかた御存知であれば、その事は容易に想像出来るのではないだろうか。音列とは基本的に4種類の形態と、そのそれぞれが半音単位で+−12の移高形をとる事が出来るのであるが、それをその都度照らし合わせながら書き進めていくというのはなんとも難儀な事である。途中で訳が分からなくなってしまう事もよくあった。特に作業に間を空けてしまった場合などはその確率が高まる。それは私には大きなストレスであった。
そのような理由から約半年程をかけて、未だ途上にありながらも一応、完成をみたのがこの”音列管理装置・Tonreiheverwaltar”(トーンライエフェアヴァルター:ドイツ語による造語)である。これはかなり有用なソフトウェアである(私にとっては)。しかしながら、現在のバージョンは音程の配列のみ扱うだけなので、今後は他の音の要素も管理できる機能を追加していきたいと思っている。もっとも、開発を進めること自体、煩わしいという話もあるが・・・
追記 2003,1,5
原音列における隣り合った音程要素を、比率の数列として表示する機能を追加した。
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6, 音源の事
さて、私の作品を具体的な音響現象として実現させるためには、MIDI音源が絶対的に必要である。ギターに関しては私自身が演奏して、ハードディスクに録音してしまえば良いのであるが、それ以外はMIDI音源を鳴らすしかないのである。私は現在(すでに旧機種になって久しい)RolandのJV1080と、SC‐88Proの2台の音源を使用している。私が音源を選ぶ基準とするものは、生楽器の音の忠実度である。私にはこれがまず第一の条件であるが、その意味で言うと大いに不満は残る。どうあがいたとて所詮は機械の音に過ぎないのであり、いつも同じ音なのであって、人間的な変化のある音などには及びもつかない。例えば、優れた管弦楽団によるあの魔術的な変化に富んだ音響の再現は不可能である。理想を言えば実際の管弦楽団に演奏してもらえるのが最善であろうが、しかしそれは無理な話である。だから私としては現実ならぬ人間の演奏の代用品として、現在の2台の音源に頼らざるを得ないのである。
ちなみに私の主要音源であるSC‐88Proについて言えば、ピアノや木管楽器、特にフルートのバリエーション音色は使い方次第ではそこそこ使える音だと思う。ただし、クラリネットの他に類を見ないあの独自な低音域は弱い。また弦楽関連の音色もそれなりに使えるとは思う。ただし、ピッツィカートとチェロの音は好みに合わない。そして、とりわけ問題なのは金管楽器群である。中でもホルンの音はあまりにも融通が利かない。弱音は良いのだが、強奏したときの割れた音がそれらしく鳴らないのだ。これでは困る。幅広く、美しいだけがホルンではないのだ(あなたはホルンという楽器が如何に多様な音を出し得るかを知っているだろうか?)。また、トランペットの音色にも困っている。そして全般的な印象としては如何にもMIDI音源特有の音である。もっとも、これらの音源とて今や旧機種となってしまったので無理からぬ事ではある。ともあれ不満を言えばきりがないのであるが、やはり現代曲に対応し得るだけの能力の無さは否めない・・・。さりとて最新の音源を導入しようにも、貧乏音楽家にはそれを実行するだけの資金も無い。当面は現在の音源をうまく使いこなして行かなければならないという事である。
私の次なる目論見としては、ソフトウェア・サンプラー(Native Instruments社のKontaktあたりを)の導入をと考えてはいるのだが、当分は先の事となりそうである。
作曲小屋常設の旧態依然たる音源装置と専用機材 音源 : ローランドJV-1080及びSC88Pro 外部エフェクター : ヤマハ SPX900(ミキサー用) MIDIインターフェイス : EMagic mt4 必要最低限、というより今もってこれしか無い。 |
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7, モニター/試聴環境とは如何に?
モニター環境とは絶対的に重要である。この部分が粗悪だと、自分が今手がけている作品が疑わしいものに聴こえてきてしまう。だからモニターに関する設備は極力優れたものであることが望ましい。
ある音響をモニターする場合、ふたつの場面が考えられるであろう。先ずはスピーカーによる方法。そしてヘッドフォンによる方法である。後者の場合については、一応はその目的に叶う水準には達していると思われるが、問題なのは前者のスピーカーによるモニター環境である。
私の場合、取りあえずはBOSEのそれなりの評価を得ているスピーカーを持っているのであるが、いかんせんこの作曲小屋に設置する事を考えた場合、もはやそのようなスペースが見当たらないという現実があるのだ。したがって現状では、コンピュータ付属の怪しいスピーカーに頼らざるを得ないであろう。しかしながら、やはり最終的には、それなりに信頼できる環境においてモニターしたいものである。・・・(コンピュータによる深刻な騒音問題も見逃せない)・・・ということで現在、母屋の方に”試聴室”を構える予定ではいる。全ての作業をこの小屋で完遂したいとの思いもあるのであるが、現状においてはそうせざるを得ないであろう。そして決定的な根本問題として、私はモニターするに耐え得る良質のアンプを持っていなかった、という事実が浮き彫りになった!。
さて、ちなみに今私が気に入って使っているヘッドフォンはKOSSのものである。それ以前に使っていた安価な製品と比べると、明らかに音の明瞭度や立体感に優れている。しかしそうとは言いながらも、今のヘッドフォンに一応は満足してはいるものの、別してAKGの製品に触手を伸ばしつつあるという事を白状しなければならないであろう。
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Cakewalkにおける音の生成を補完する私的な入力装置、Eingang,Calmatrix/Steuergerät®.作品1 第4改訂版 |
概要
上記のものが私が独自に開発したCakewalk専用の数値入力装置、Eingang,Calmatrix/Steuergerät(Ver2.3.95)である。これは音の位置と要素とを絶対値で入力した後、CALの構文に変換してWindowsのDDE機能を使い、Cakewalkに転送することによって、任意のトラックに音を生成させるというソフトウェアである。その他、あれば効率的であると思われる、いくつかの機能も実装されている。素晴らしい!(我ながら・・・)
・音高パラメーターは純粋なMIDI値、あるいは音名(ドイツ表記+オクターブ値)での入力が可能
・独自にCALスクリプトを編集・保存できる簡易エディター
・作成済みのCALスクリプトを選択し、実行する機能(CAL定量編集)
・音価(基準分解能に対応)と音名に該当するMIDI値の一覧を表示する機能
・表示部の視認性を高める輝度調整機能、その他
この入力装置は、私においては”リアルタイム入力”や”ステップ入力”の代用品ではなく、すでにある楽譜を”決め打ち”するためのものである。
重大な局面!
さて、この入力装置たるCalmatrixもCakewalk ProAudio8.0においては正常に機能していたのだが、2001年、SONAR1.0に乗り換えたとたんに機能しなくなってしまった!(空のトラックに入力できない!エラーメッセージは出ないが・・・)。SonarはCakewalkを大幅に機能強化した最新版であり、それまでの機能は継承されているはずである。もちろんCALも健在である。しかしながら、私はあらゆる手を講じたのだが、どうにも機能しない。これは私にとって一大事である。しかも未だに解決の糸口を見出せないでいる。恐らく大幅なバージョンアップに伴う、何らかのバグによる不具合なのであろうが、そうであるならば開発元に、一刻も早く修正してもらいたいものである。もしも、あなたにこの事に関しての何かしらの情報が御有りであるならば、御教示願えれば不幸中の幸いである(解決するとは限らないが)・・・。そのような訳で、現在は使う事はおろか、継続的な開発すらストップしてしまっている(内部構造さえ忘れかけている・・・これはまずい事だ!)。
2003,4,18
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9, 製図用ペンシル Rotring 600
私は今まで楽譜を書き進めるにあたっては、普通の鉛筆や万年筆をおもに使ってきた。それで十分であったし、多少の扱いにくさもひとつの楽しみとする事ができた。ところがそれは古典的な形式にのっとった記譜法にしたがう限りにおいての話であった。私はすでにそのような音楽形式を離れていたし、昨年来、いわゆる現代音楽的な作曲法による作品を実現すべく、小さな断片やスケッチを採ったりしていた(そのための時間は思うようにならなかったが。・・・難しいものである)。その過程にあって、私の記譜は次第に複雑怪奇な様相を呈するようになってきた。つまり、通常の音符記号などに加えて、その音楽形式が必然として要請する種々の音のパラメーターの値や、抽象的な群、あるいは領域に関わる規定、はては一定の比率にしたがった独自な倍音スペクトルの構成等々、おびただしいと思えるほどの書き込みが必要となったという事である。それは以前よりも、かなり多くの情報を記譜する事を強いられるという事である。実際、通常の鉛筆を用いた場合、芯の減りに伴って線の太さが変わってしまい、細かい書き込みの輪郭はどうしてもぼやけがちになりやすい。このような事情から、使い慣れた鉛筆ではあっても、現在の細かな記譜には不適当である事を実感せざるを得なかった(私は柔らかい芯を使うのでなおさらである)。以前なら鉛筆を回転させながら線の太さを調整しつつ書き込んだであろうが、今やそのような技は書く事の楽しみの部類ではなく、端的にいって、むしろ煩わしいものとして感じられるようになってきた。私にとって鉛筆という古典的な筆記具は、なかなか愛着のある存在ではあるが、今は楽しみよりも、より明確な記譜の確実性、効率性などを優先せざるを得ない事を認めなければなるまい。また、万年筆の出番も今後は減るであろうと思われる。
という事で、鉛筆に替わって記譜の主役に踊り出たのがシャープペンシルである(最初はあまり乗り気ではなかったが)。まあ、これも鉛筆の一種であり、進化形ではある。これなら普通の鉛筆よりも細かい記譜には適していよう。しかし、私の手元にあるシャープペンシルは使いにくいものばかりであった。みなプラスチック製のスカスカしたもので、使用感が軽すぎるのである。また芯先の微妙なグラつきも使っていて気持ちの悪いものである。この事は今回、記譜用として試しに使ってみて実感した(今までテキトウな選び方しかしていなかった)。
さて、ならば新調するか、という事でいろいろと探していくつかの候補を選び出した。どうせ使うのなら満足度の高いものをと思い、最終的に私の手元にあるのがRotring
600(0.5mm)という製図用のシャープペンシルである(”ロットリング”と紹介されているが、ドイツのメーカーなら”ロートリンク”が正解なのでは?<よけいなお世話か)。これは総金属製(おそらく真鍮)で重みがあるが、私には丁度良い重さである。芯先のぐらつきは一切なく、非常にきっちりとしており、胴の先端付近は細かいローレットが刻まれているため、ホールド感がすこぶる良い。まるで細い芯を直接手でつかんでいるかのような感覚である。ペンの造り自体もしっかりとしていて使っていて気持ちが良い(さすがにそのスジで評価が高いのもうなずけるなと勝手に感心する)。また、胴軸は鉛筆と同じく6角形をしているのも気に入っている。総じて精密なメカニカル感を漂わせている。今度は0.3mm芯のものが欲しくなってしまった・・・(0.7mmもある)。
今まではどちらかといえば敬遠しがちだったシャープペンシルの世界だが、まあ、たかが筆記具、されど筆記具、である。今までとは別の種類の楽しみが発見できるかもしれない。
記譜用に使用中のシャープペンシル Rotring 600 0.5mm 製図用シャープペンシルで、細かな書き込みに適している。非常にきっちりとした造りであり、使っていて信頼感がある。現在はもっぱら記譜用に使っている。 現行品には本体横の”Rotring 600”の文字はないようだ。芯の太さのみの表示。ドイツ製。 |
2005.1.28
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