エピローグ 〜後の世の語りでは〜
 ああ、初めましてこんにちは。あなたも旅を? ほう……どちらから来たんですか?
 北……? そうですか、北は今寒い時期でしょう。私はですね、あなたとはちょうど逆ですね。そう、南から来たんですよ。
 ――私が何者かって?
 それはあなた、見たらわかりませんか。この服装見て、私を武闘家とでも言いなさる? この細腕で戦えると思いますか。そうだとしたら、あなたよほど世間を知らぬようだ。
 え? いいから私が何者か言えと……。しょうがありませんねえ。短気は損気、ですよ。
 まあ、見ての通り、しがない吟遊詩人ですよ。街から街に渡り、伝承を語る。それを人々が語り継ぐ……そう、あえて言うなら、私は『記憶』です。人と共にある、歴史という名の、記憶の入れ物です。
 移ろいやすく、消えやすい。そんなものを、我々は護りたいと……かつてあったことを忘れないように、人々の心の片隅にでも置いておきたいと、そう思うからこそ、やってるわけです。
 そうだ。お望みならば、あなたにもなにか語りましょうか。ここで出会ったのもなにかの縁ですから。何がお望みですか?あなたの希望をきいて、それを語りましょう。
 ……あはは、詳しく知らないから、何がいいかわからない? それじゃあ、どんな物がいいかおっしゃってくださいな。武勇伝がいいとか、恋物語がいいとか……なにか話の好みがおありでしょう。
 ……おもしろい物、ですか? ふむ。そうきましたか。ならば……あの方達の話がいいでしょう。ちょうど、それに関するものを見てきたところですし、いつになくのって語れそうです。
 ……ちなみにあなた、『姫勇者』をご存じで? ああ、ご存じでない。ならば、彼等の人となりから言った方がいいですかねえ。
 彼等は五人でパーティを組んでたんです。その中の一人が『姫勇者』。要するに、女の方の勇者だったわけです。
 ……おや、そんなに驚いて。勇者が女の方なのが、そんなに驚くことですか? 結構いたんですけどねえ……まあ確かに、あんまりメジャーではないですけど。『鬼拳秘姫』とかの伝説もあるんですけど……。
 まあ、それはおいといて、話を戻しましょう。今現在、私達吟遊詩人の『記憶』の中で、一番の容量を占めているのが……実は彼等の話なんですよ。
 彼等は別に魔王を倒したとか、封じたとか、そんなことをしたわけじゃありません――倒せるわけがなかったんですからね。まあ、その事情はおいおいにして……。
 なら、なぜそんな方々が有名なのか、とてもききたそうな顔をしてますね。まあまあ、ちゃんと順番に話しますから。

 『姫勇者』と後に呼ばれた彼女は、慈悲にあふれた、それは素晴らしい女性だったそうです。彼女のおかげで改心した悪人も少なくないとか。
 しかし、普段は限りない慈悲を人々に惜しみなく与えた彼女は、戦闘となると人が変わったようです。
 誰よりも強く、厳しく、勇者の証である蒼い刀をその腕で振るう姿はまさに戦いの女神。『二心一身の女神』とも呼ばれてます。

 次に、今では『闘神』とまで呼ばれる青年。
 彼は勇者の片腕のような……いや、むしろ兄のような存在だったらしいです。パーティの中でも一目置かれる……ある意味、一番の実力者だったとか。
 彼は武闘家で、一人で何百人をもさばく実力を持ってたといいますが、それが真実なのか、それともただのねじくれた噂なのかは、私にはわかりません。

 三人目は『神の踊り子』。
 そこまで呼ばれるほどの技量を持った女性がいらっしゃったのも事実なようです。ちなみに、この二つ名は、踊ってるかのようにナイフを投げたとか、そう言う比喩のようなものではなく、本当に踊り子だったようです。
 なぜ勇者のパーティに踊り子がいたのかは……まあ、彼等だから。としか言いようがないですね。踊り一つで魔物の心すら魅了したと言われてます。

 私と同じ、吟遊詩人の方もいらっしゃったんですよ。伝承という伝承をいくつも記憶していて……『心の預言者』って言われてましてね。
国王にまで歌って欲しいと言われたという彼の実力は……そりゃあもう、私達吟遊詩人の憧れの的です。しかも彼は、その王からの願いを断ったんです!いやあ、かっこいいですよねえ。

 そして……最後の一人が問題です。なぜ、このとことんバランスが悪いパーティが伝説になったのか、なぜ魔王を倒すことが出来なかったのか……それは『姫勇者』や『闘神』らの存在もさることながら、彼の存在一つで片づけることが出来ます。

 最後の一人……それは、魔王の青年だったんです!! 『赤き血の魔王』と呼ばれる例の、です。嘘じゃないです。本当なんですよ、この話。とんだホラだと思うでしょう? でも……事実なんです。
 勇者が初めて聖剣と出会ったとき、彼もまた勇者に出会ったらしいです。しかも、すぐに熱烈なプロポーズまでしたとか。赤い髪と赤い瞳をもつ闇の王は、蒼の守護を受ける少女に心を奪われたんですよ。

 勇者のパーティに魔王がいる……前代未聞でしょう? だから彼等の知名度はとても高い。けど……私はそれだけではないと思っています。むしろ、彼等の記憶を私達が受け継ぐのはそれ以外の理由があります……。
 それが何かって? そうせかさないってくださいってば。お茶の一口ぐらいいいじゃないですか。吟遊詩人にとって、喉は命なんですからね!……ふう。
 ――彼等の記憶を受け継ぐ理由……それは、彼等が自由だったからです。どんな型にも当てはまらない。認めた者以外、どんな者にもかしずかない。運命を受け入れたようにしながらも、誰よりも運命にあらがっている。
 あらがって、あらがって、時には流されて。それでも彼等は自分を忘れない。強い意志と瞳をもって、誰よりも雄々しく生きていった。
 一般から見て正しいことばかりをしたわけではないし、人々のためと言って戦ったわけでもありません。それどころか彼等は、自分のために戦ったと言うでしょう。
 でも、だからこそ、彼等の生き様は、冒険は、何よりも私達の心をおどらせます。
 勇者という言葉に惑わされず、確実に自分のしたいことをした。自分が正しいと信じる道を突き進んだ。そんな破天荒な彼等が……私達はとても眩しい。
 だから、受け継ぐんですよ。彼等の記憶を……意志を。次代に伝えるためにね。
 まあ、単なる個人的感情でもありますけど。なかなか、面白い話でしょう?
 ええ、そこまで喜ばれると、私も話したかいがあるというものですよ。
 気に入っていただけたなら幸い、一つ歌いましょうか。

蒼い剣に守護されし少女
護るために拳をふるう武闘家
慰めるために踊る娘
繋ぐために語る詩人
魅入られた闇の王
集いて運命に導かれる
人のためではない 己のために戦う
そう言いながらも 終わりは人を護るのだ
強い意志瞳に宿し 優しさ心にうつす
生きることに忠実で 生きることだけ知っていて
真にそれを理解する者達
型どおりではけしてなく 思うように型を破る
人々に希望渡す者達
誰に見せるともなく 彼等はただ戦う
己の信ずるもののために 己の譲れぬもののために
その生き様 しかと心にうつされた
伝説は語る
彼等の戦い 彼等の想い
続く意志 続く願い
伝説は続く 我等が忘れない限り
伝説は続く 彼等の意志残る限り


――終幕――


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