第五章 〜6〜
 那智と潮来様の汐澄浄化は、もちろん成功を収めた。
 だが、どうやら浄化最中の記憶が那智にはないらしい。祈りの言葉も無意識だったみたいで覚えてないみたいだ。
 しかも那智は、浄化の後ぱったり気を失って倒れて、場は一時騒然となった。潮来様の《慣れない力を使って疲れただけだから大丈夫だ》との言葉で、どうにか収まったが。
 どうも光ったときから那智の勇者としての力が目覚めてきているらしく、かなりのスピードで成長している。……あの性格は一生変わらないだろうが。
 潮来様はそのまま、セリルの街をずっと見守り続けるらしい。
 街に戻るとすでに出発から一日が経っていた。洞窟で一晩明かしたってことになる。街に戻った俺達を待っていたのは、怖いほどの大歓迎だった。
 まあ、生け贄が出されていたということは表に出せるような話じゃないので内密にだったが……街の人々は、その日のうちにそのニュースを知ったらしい。
 街を歩く度に知らない人から祝福や感謝を受ける……ある意味有名人だ。
 街の人々は、あの日とうってかわって明るくなった。霞さんも肩の荷が下りたような表情をしてたし……そうそう、あの平波氏など、カツラを作る!! って息巻いてた。どんな心境の変化かはわからないけど。
 祭りの間、俺達はほぼフリーパスで飲み食い出来たし、高嶺は(本来の意味を取り戻した)祭りの巫女とともに、踊り狂っていた。孤玖は街の文化系の施設をいくらでも回れることに大喜びし、連日回っていたようだ。
 紫明はというと、事件の前に買った服を那智に着せては大喜びで、また何か捜そうかとたくらんでる。那智はそれに付き合って、始終にこにこしている。
 俺は蒼月を使った反動で、体中全身筋肉痛に襲われて、二日ほど寝込んでいた。蒼月に言わせれば、《それだけで終わったのは奇蹟だ》とのこと。
 祭りが終わってからも街の人々にせがまれて、今日までだらだらと滞在しちまったんだが……今日こそ、旅の続きに出発する。

「おいみんな、忘れ物はないか!?」
 ずっと泊まらせてもらってた霞さんの家からの出発。朝からどたばたと、俺は大忙しだった。忘れ物があったら大変だ!
「ええ、ないわよ、アタシは!」
「僕も……はい、ないですね」
「那智はないかあ?」
「うん! ないよぉ!」
「紫明どこだ!」
「ここにいるっつーの」
 全員が平気なことを確かめて、俺はみんなをぞろぞろ連れて外へ出た。
「駿河、お手紙出すからまってて!」
 那智がそう言って、ポストに手紙の束を入れている。どうやら滞在中に書きためたものらしい。宛先は全て、兄だという。
「おーい、行くぞー!」
「待って〜! 今行くよ〜。あ、駿河、見て見て!」
 街の出入り口。那智の声で人々が沢山集まっていることに気がついた。俺が礼をすると、紫明以外は全員礼をした。霞さんが寂しげに笑う。
「行ってしまわれるんですね……。あなた達のおかげで、我が街は助かりました」
「俺達こそ……! 長い間世話になって」
「また近くまで来たら、よって下さいませね?」
「もちろん!」
 那智が、孤玖が、高嶺が、紫明が。街の人々と別れの挨拶をしている。それぞれ個性が出てて、楽しいといえばそうだな。
 名残を惜しみつつも、俺は叫んだ。
「そいじゃあ、行くぞー!」
『オー!』
 俺のかけ声に、全員が腕を振り上げる。

 いい日旅立ちってか? ぽかぽか陽気で暖かいし、見送りはいっぱいだし、言うことないね。こんな日には、気分もかなりいい。
 今度、那智のまねして俺も師匠に手紙でも出してみるか。ずっと連絡してないしな。
 ……まあとりあえず今は、次の街を目指そう。目的なんかないけど、仲間がいるからなんとかなるさ。
 空を仰げば白い雲に青い空。お天道さんが景気よく俺達を照らしている。

 ああ、本当に……本当に、今日もいい天気!!!


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