ハイエロファントグリーン HIEROPHANT GREEN:法皇の緑
Tarot-No.5

2006/12/31改訂

本体名:花京院典明<カキョウイン・ノリアキ>

プロフィール15巻P7

能力:触手状にほつれることができる人型スタンド

スタンド形成法射程距離パワー射程・パワー増加法
身体・能力顕現体 最大数100m
(下記参照)
導体パワー伝達

告知

タロット解説

ジョジョ第3部に登場する22枚の「タロットカード」は、占いの道具としてよく知られ、それぞれのカードにはさまざまな解釈が与えられている。そしてその解釈には時に、『生命の樹』と呼ばれる図像が絡められる。生命の樹とは、宇宙・生命・人類・個人など、この世界の中で進化・成長する全てのものが、成長する際に辿る変化の共通性を図像化したものである。「セフィロトの樹」とも呼ばれるその図は、「状態」を表す10個の円形「セフィラ」と、円形同士を結び「変化」を表す22本の小径「パス」から成り、タロットはこのパスに対応している。そして22枚のタロットのうち、「進入せしもの」を暗示する「ホルス」のセフィラと、「生成せしもの」を暗示する「クヌム」のセフィラを結ぶ「法皇」は、「材料要素との流動」を暗示するカードである。

成長体が進入した分野内で、成長のため新たな要素を生成するには、成長体自身を構成する要素と、進入した分野内で獲得された要素とを、巡り合わせ、干渉させ、反応させる必要がある。そしてそれを促進するには、化学実験で材料を攪拌(かくはん)・加熱・加圧するように、要素群全体に外部から力を加えたり、ビリヤードのようにある要素に力を与えてそれを次々と他の要素へ伝播させるなどするのが効果的である。このような、要素の活性とそれに伴い起こる「流動」全般を暗示するタロットが「法皇」である。なお、「法皇」は要素の「流動」までだけを行うパスでしかなく、それによって誘発される要素同士の「反応」は、「生命の樹」の中心線を挟んで反対側に位置する「恋人」のパスにおいて行われることになる。

また「法皇」のパスはそれ単独では、成長体自身と、進入のみによって得られる最低限の材料要素を使った流動しか行えず、新要素の生成にも自ずと限界が生じる。そして「生命の樹」のパスは、それの暗示する変化が大きく深く行われるほどに、長く下へと伸びる性質の概念として扱われる。「法皇」のパスがその価値を十分に発揮するには、進入した分野内でのさらなる材料要素の「収集」が不可欠であり、また生成を十二分に行うには、収集した要素を使った組み合わせの「模索」も必要となる。そしてこれらは、「ホルス」のセフィラから「収集せしもの」を暗示する「バステト」のセフィラを経由して「クヌム」のセフィラへと至る、「皇帝」「隠者」のパスによって行われ、この2本のパスが伸びるほどに、3角形の残り1辺である「法皇」のパスも伸ばせることになる。

「法皇」によって流動化させられた場において重要なことは、生成の目的に応じて流動の「乱雑さ」と「激しさ」をコントロールすることにある。生成の場の流動に高い乱雑さを与えればそれは、地球の各緯度での日射量の差や地形による風と水の流れの乱れが、地球上にさまざまな環境を作り出し、そこで進化する生物に普通な種から奇妙な種までを数多生み出したように、成長体に多種多様な新要素をもたらす。(逆に合成樹脂の大量生産のように単一の要素の生成が目的であれば、場の流動はできる限り均一であることが求められる) そしてこれと併せて生成の場には、流動の激しさも深く関係する。場の全体的な流動が穏やかすぎれば、そこで起こる反応の激しさの最大値と平均値は下がり、生成される新要素のバリエーションと生産量も落ち込み、成長体の成長速度を遅らせてしまう。逆に流動が激しすぎれば、そこで生成される新要素のプラスよりも破壊される要素のマイナスのほうが上回り、成長体を成長どころか却って後退させてしまうことになる。

我々が生きるこの世界では、自然・人々・社会・国家といった大小さまざまな要素が、複雑に出会い反応し合い、日々さまざまな物事を生み出している。そしてそれらを体験し、学んでいくことで、世界は少しずつ進歩していく。しかしそれは同時に、世界の所々に日々さまざまな、いわれ無き不平等・理不尽な過酷さ・偶発的な事故を生み出し、たまたまそれに巻き込まれた者たちを不幸に遭わせているということでもある。このような不幸な出来事の中に、あまりに目に余るようなことがあれば、周囲の者や社会は、その個別の事例に対して適度な援助・救済を行うであろう。しかしその不幸を生み出す土壌となっている、世界の偏りや厳しさ自体に対しては、軽々しく手を加えるべきではない。(疫病のように完全に害しかもたらさないものでもない限り) 世界の流動の中で起こる全ての物事は等しく成長の糧であり、それを幸福と感じるか不幸と感じるかは受け手である人々の側の問題でしかない。そして世界の流動に対して人が、不幸の起こる可能性だけを取り除くことは不可能であり、無理にそれを行えば、不幸の芽と共に幸福の芽と成長の芽まで刈り取ってしまうことになるからである。そしてこの理由がゆえに、世の中で「法皇」(または「法王」「教皇」)と呼ばれる宗教的立場の者は、世界のあるがままの偏りと厳しさを、世界の順調な成長のため必要にして侵すべからずものとして静観し、その「神の視点」とも言うべき大局的な考えを代弁しているのであろう。

人はこの世に生まれ落ちた時から、自分の意思で選ぶことのできない、偶然与えられた境遇と共にある。そしてそれは当然、自身の人格形成や、形成された人格によって選択し進んでいく人生も大きく左右する。また、偶然与えられる事柄は人生の「これまで」だけでなく当然「これから」にも待ちうけ、世界の流動は嵐の海に投げ込まれた人形のように、無慈悲かつ無意味に自分を弄ぶだろう。人がこの先天的・後天的な「宿命」から逃れてて、真に自由に生きることは不可能である。仮にどこかに閉じこもるなどして世界の流動から身を隠せば、自分の思い通りにならない宿命というノイズを最小限に抑えることは可能である。しかし大きな苦しみや悲しみから逃れるその道は、同時に自分から大きな成長と喜びの可能性を奪ってしまう道でもある。人生に大きな成長と喜びを求めて生きることを望むなら、無慈悲な世界を受け入れ立ち向かうしかないのである。どれほどの苦しみや悲しみが、これまでに与えられ、これからに待ち受けようとも、屈することなく生きていく「覚悟」。それが人に対して「法皇」のタロットが示す重要な意味である。

スタンド解説

■全身がエメラルド色に淡く光る人型スタンド。その体表面にはメロンのようにスジが走り、口はマスク状のパーツで塞がれ、掌には円形の紋様が(ホースの注ぎ口のように)描かれている。そのスタンド体は通常の人型スタンドに比べて非常に高い「流動性」を宿し、この性質によりハイエロファントは、ほつれる毛糸玉か溶けるアイスクリームのように自らの体を「触手」状に変えていくことを可能とする。(逆にこの触手が丸まっていけば元の人型へと戻れる) この触手は機械と生命の中間のような、筋や節が不規則に繋がり伸びていく外観を持ち、それらは大地を流れていく川のように分岐し交わり、太さも一定ではない。なお、ハイエロファントと本体身体間のダメージの転換は、人型時には他の人型スタンド同様100%行われるが、触手時にはそれが細く周囲の空間にたゆたうようになるほどに弱まっていき、その状態のときに一部が切断されたとしても本体へのダメージ転換はほとんど無い。

■静かに滑らかに動くハイエロファントの触手は、物体表面に這わせて狭いところに潜り込ませたり、空中に張り巡らせたりでき、その触覚によって周囲の状況を感知する「センサー」として役立つ。また、スタンドの足元からほつれさせていく触手は、本体からのスタンドエネルギーを伝達する「ケーブル」として働き、これによりハイエロファントは高いパワーを維持したまま本体から遠く離れられる。その正確な射程距離は不明だが、本編中での最長は「サン」戦で人型を保って100m、「ラバーズ」戦で完全に紐状になって数100mである。

■通常のスタンドの動作や物質への働きかけが比較的規則的なのに対して、流動的なハイエロファントの動作は非常に混然・混沌としていて、一見掴みどころがない。このようなハイエロファントの性質は、「スタンドエネルギー」というものの基本的性質に密接に関係しており、それを理解することで初めて把握が可能となる。

■いわゆる「精神エネルギー体」であるスタンドは、物理法則によって確固たる存在を与えられている「物質」と違い、そのままでは存在の力が弱すぎるため、物質を攻撃して破壊したり、銃弾などを弾いて防御したりといったことができない。スタンドが物質に「作用」するためには、破壊しようとする物質の硬度や防御しようとする物質の運動エネルギーを上回るエネルギーを、スタンドに持たせる必要がある。そしてその力は、物質の運動エネルギーがその質量と速度に比例するように、スタンドエネルギーの「密度」と「勢い」に比例する。そしてスタンドの力が物質の硬度や運動エネルギーを上回った時のみ、スタンドは物質に作用し破壊・防御することが可能となり、逆に下回った場合にはスタンドは物質をすり抜け「透過」してしまうことになる。

■また、スタンドは物質を透過する際、物質に深く潜るほどに、重なった物質の存在に自らの存在をかき乱されてしまうという性質を持っている。さらにスタンドには、自らの存在を安定した状態に保とうとする性質もある。この結果スタンドは、物質を透過しようとすると侵入を「阻害」する反発力を発生させることになる。(ただしこの反発力はスタンド側が勝手に受けるものであり、物質側には力はかからない) この阻害の力は物質に浅く重なる程度ならそれほど強くはないため、スタンド使いが少し集中すれば薄い壁程度は問題無く透過できるが、厚い壁や地中に完全に潜ったりすることは基本的に不可能である。(ちなみにこの阻害の力を利用すれば、スタンドはその足で地面に立ったり歩いたりできる) つまり物質に対してスタンドは、「阻害」の力で接触しているのがいちばん「楽な」状態であり、「作用」や「透過」を行うにはそれに応じた本体の精神力が必要となるわけである。

■高い流動性を宿すハイエロファントのスタンド体は、体内でのエネルギー流動のコントロールにより、物質に対する「作用」「透過」「阻害」の力を非常に自在に操ることを可能とする。ただし反面、その流動性によりハイエロファントは、他の人型スタンドに比べて生肉に対するひき肉のように、型崩れしやすい状態になってもいる。その触手は自然体の状態では、安定した楽な状態を求めて床や壁面などに貼りつき、その表面をずるずると這い回り移動する。またハイエロファントは人型の時も、液体が容器の中でまとまった状態でいられるように、狭いところに閉じこもりたがる傾向を持つ。しかしいったん本体花京院が意識を集中すれば、その触手は物質へと透過・潜行し、自身の存在がかき乱されるのを許容しながらその内部を深く長く進むことが可能である。そしてさらにこの状態から、触手へと一気にスタンドエネルギーを流し込み密度と勢いを高めれば、触手はまっすぐ尖った槍となって物質を内部から突き破り破壊する。

■また、花京院が心を押し殺しハイエロファントの流動の偏りと激しさを限界まで抑制すれば、エメラルド色の半透明の触手は、スタンド使いの感覚の目に感じ取れなくなるくらいその存在を消し去り、その動きは物体の起伏に滑らかに沿い空気をすら静かにかき分け、物音ひとつ立てずに敵を取り囲むことさえ可能である。その逆に花京院の心が乱れたり昂ぶったりすると、ハイエロファントの動きも激しく乱れ、触手は悶えるかのように物体に絡み巻き付いて締め上げ、その表面はバラの棘のように触れるものを傷つけてしまう。

■ハイエロファントはそのスタンド体の構造上、パワーや強度・スピードにおいて通常の人型スタンドに劣り、直接殴り合うような格闘には向いていないが、その代わりに「エメラルドスプラッシュ」という技を用いて攻撃を行う。また、ハイエロファントがスタンド能力に対する抵抗力が低い一般人の体内に潜り込み、内部でスタンドエネルギーの流動を荒げれば、その影響でその人間をいわゆる「狐憑き」のように狂暴化させることができ、さらにその状態でエネルギーの流動をコントロールすれば、その人間に花京院の思うがままの動作を取らせて操ることもできる。

■使用技■

◆エメラルドスプラッシュ◆
10〜20cmほど離して向かい合わせた両掌からそれぞれ、緑色の体液を強力な勢いで噴出させてぶつけ、前方へと弾き出す技。噴出された体液はぶつかり合うことで瞬間的に高圧縮され、また噴出される体液がわずかに内包している密度や勢いの乱雑さも、圧縮によって瞬間的に増幅される。その結果、高圧縮された体液はその内部に結晶化したエメラルドのような塊を幾つも生成し、それらは体液と共に前方へ弾き出される。この結晶群は散弾のように撃ち抜く「破壊力」を、体液は力強く荒々しく押す「圧力」を、それぞれ対象に与える。なおこの技は、前方への撃ち出す範囲のコントロールにより、射出範囲を狭くすれば、何10mも先まで破壊力を維持する射撃が可能となり、逆に射出範囲を広くすれば、10m足らずの近距離のみで破壊力が維持され、それを越えると結晶化の解体・体液の密度低下で破壊力を失うような攻撃が可能となる。
 →13巻「スタープラチナ」戦、以降基本攻撃方法として使用
◆ハイエロファントの結界◆
完全に触手状にしたハイエロファントを、敵を取り囲むように半径20mほどの空間内に(気配を消して)張り巡らせ作り出される結界。敵が触手に触れるとその周囲の触手から破裂した水道管のように「エメラルドスプラッシュ」が自動的に発射され敵を攻撃する。また、本体から敵の位置が視認できれば、その敵に向かって全方位からの一斉射撃も可能である。
 →27巻「ザ・ワールド」戦