クリーム CREAM

2015/05/16改訂

本体名:ヴァニラ・アイス

DIOを信奉する最側近

能力:あらゆる物体を粉々に破砕する暗黒空間の入口を作り出す

スタンド形成法射程距離パワー
身体・能力加形体 2m

当ページの要点

  • ジョジョ3部に登場するスタンドは全て、「生命の樹」と呼ばれる図形に関係している。
  • クリームは「生命の樹」が右側に限界まで曲がった姿である、「コイン」の暗示を持つ。
  • 「コイン」は成長するものが硬直化して変化・成長できなくなった状態を表す。
  • クリームの暗黒空間は硬直化した精神の表れであり、自分以外の全ての物体を拒絶し、破砕する。

「コイン」のスート

ジョジョ第3部に登場する22枚の「タロットカード」は、占いの道具としてよく知られ、それぞれのカードにはさまざまな解釈が与えられている。そしてその解釈法の1つに、『生命の樹』と呼ばれる図像を絡めたものがある。生命の樹とは、宇宙・生命・人類・個人など、この世界の中で進化・成長する全てのものが、成長する際に辿る変化の共通性を図像化したものである。「セフィロトの樹」とも呼ばれるその図は、「状態」を表す10個の円形「セフィラ」と、円形同士を結び「変化」を表す22本の小径「パス」から成り、タロットはパスの方に対応している。(なお、第3部後半に登場する「エジプト9栄神のカード」の方は、セフィラに対応している) 

生命の樹の図は左右対称になっているが、これには意味がある。右側のパスは成長体に「新たな状況への直面」という不安定化を起こし、左側のパスは「その状況への対応」という安定化を起こすのである。前者を「不安定化パス」または「軟化パス」、後者を「安定化パス」または「硬化パス」と呼ぶことにする。この2種類の変化がバランスよく起こることで成長体は、大きすぎる不安定化で自身を崩壊させることも、少なすぎる不安定化で自身を硬直化させることもなく、順調に成長していけるわけである。

ここでこの2種類のパスに一つのルールを与えてみる。それは、「生命の樹で左右対称に位置するパスは、順調に成長できるバランスである時には双方同じ長さで描かれ、そうでない時には過少な方が短く描かれる」というルールである。すると生命の樹はこのルールによって生じる4つの姿の1つとして、軟化パス側の長さがゼロに等しい姿、生命の樹が右側に限界まで曲がって円を描いた姿を持つことになる。この状態は、硬化パス側しかない円形の形が「金属の円板」を思わせることから、「コイン(硬貨)」と呼ばれる。(ここでは詳しく解説しないがこのコインは、「小アルカナ」と呼ばれる56枚のカード、それを4つに分ける「スート」の1つである) 

成長体がコインの状態になる理由はおおまかに2つである。1つは成長体がその分野内のあらゆる状況に適応しきってしまったがため。もう1つは成長体が何らかの原因でそれ以上変化できなくなってしまったがためである。どちらの理由でも、それ以上成長できないという点ではコインは非常に悪い状態である。しかし一方でコインの成長体の「不変さ」は、他の成長体からすれば非常に利用価値が高いという利点もある。例えば「大地」が頻繁に動いてしまっては、人類はその上で安定した生活を営めない。また「食物」の組成が頻繁に変化してしまっては、人類は安定した食生活を送れない。これらはめったに変化しない不変さゆえに土台として役立ち、人類はその土台があればこそ科学の発展や民度の向上といった成長にじっくりと取り組めるのである。

ただしコインの成長体が持つ土台としての有用さも、必ずしも長く続くとは限らない。なぜなら世界は刻々と変化し続けるものであり、そしてコインの成長体はその不変さが仇となって変化についていくことができないからである。変化できないコインの成長体は変化を続ける分野の中で、どんどん適応できる対象が減っていく。それはつまり、その分野の中での成長段階イコール到達セフィラが、どんどん後退していくということである。そうして生命の樹の図上で後ろ向きにパスを逆行し、より少ない数のセフィラへと後退していく成長体はその果てに、「進入した状態」すら維持できなくなり、その分野から追い出されてしまう。成長もできず、そして誰からも必要とされなくなった成長体は、その時に真に終わる。そしてこうなってしまったコインの状態の成長体が落ちる場所は、「アビス(深淵)」と呼ばれる。

スタンド解説

■DIOへの狂信と盲信のみで生きるDIOの最側近、ヴァニラ・アイスを本体とする人型スタンド。その全身は死刑執行人を思わせる姿であり、頭部には目の下までを覆う黒い頭巾を被り、その下の鼻と口はまるでミイラのように肉が削げ落ちて鼻腔と歯を晒し、頭巾の穴から覗く両眼もミイラのように周りの肉が削げ落ちて丸い眼球を晒している。またその身体各部には、ハート形を囲んだ特殊な紋様が描かれている。

■いわゆる精神エネルギー体であるスタンド体は、その本体の精神世界から物質世界へと出てきたものである。そしてそれゆえにスタンド体は物質世界に在る間も、その深奥の部分で本体の精神世界とつながり続けている。人型スタンドの場合、その「頭部」が最も精神世界とのつながりを強く保っている。また、体全体の体表部分と体内部分とでは、隠されている体内のほうが精神世界に近い。ただしこの性質は通常、スタンド体が物質世界に強力に出現しているほどに弱まる。

■人間個人個人がその内に持っている「精神世界」では、その個人の精神構造や思想こそが、その世界内の摂理となる。しかし、人が生きる中で外の世界から精神世界へと取り入れる事柄、即ち物質世界の法則・学術的な論理・他者の思想等は、精神世界の摂理と相容れないことが頻繁に起こる。その時に人が取るべき選択は2つある。1つはそれを受け入れずに拒絶すること。この場合それは精神世界の中で形を成すことなく消え去ってしまう。もう1つはそれを何とか受け入れようとすること。これはつまりは学習という行為であり、これにより人は自分を外の世界に適応させ、成長していくわけである。

■クリームの本体ヴァニラ・アイスはDIOに仕えることのみを生きがいとし、それ以外の全てには微塵の関心も持たず、DIOの指示であれば自分の命すら全く執着無く切り捨てる。彼のこのような性格が、DIOへの狂信が強すぎるゆえのものか、それともDIOに仕える以前から世界の全てと自分自身に関心が無かったかは不明である。いずれにせよ、DIOの存在のみによってこの世界とのつながりを保ち続けているヴァニラ・アイス、そのスタンドであるクリームは、物質世界に出現していながらにして、非常に本体の精神世界に近い状態にある。そしてこのことによりクリームは、他の人型スタンドには無い性質を2つ持つ。1つはその口内に、自らの精神世界へとつながる「入口」を持っていること。もう1つはその体表のすぐ下の体内部分が、現実世界の空間に囚われない動きをある程度可能としていることである。

■剥き出しの歯が門構えのように立ち並ぶクリームの口の中には、ヴァニラ・アイスの精神の顕現である、どこまで続くとも知れない暗闇の空間が広がり、アイス自身はこれを「暗黒空間」と呼んでいる。そこはヴァニラ・アイスの精神の摂理に支配された領域であり、外界の摂理が無力になる領域である。そしてこの暗黒空間内に、物質世界の物質・生物・スタンドが入り込むと、それらは全てを拒絶するアイスの精神の摂理によって、フードミキサーに入れられた食材のように砕かれ、さらに不可視の塵になるまで粉々にされる。暗黒空間内で破砕されずにいられるのはヴァニラ・アイスとクリームのスタンド体のみである。

■クリームの人型のスタンド体は、物質世界に出現していると同時に、その体内の空間はアイスの精神世界と隣り合っている。このことによりクリームは、物質世界側の空間配置を半ば無視できる状態にあり、その体はまるで蛇かゴムの人形のような、非常に柔軟な動作を可能とする。そしてこの性質はクリームに、「自分自身の体を飲み込む」という芸当を可能にする。

■クリームは本体のアイスと自分自身のスタンド体とを口内に飲み込むことで、この世界の空間から完全に姿を消してしまうことができる。クリームはまずは口を最大限に開いて本体のアイスを丸呑みにし、次いで自分の足・胴体・腕を飲み込む。この時点ではクリームの歯の下側部分に、ねじ曲がった胴体が背中を前方に向けて被さっている。そしてさらにクリームは胴体をさらに口内に押し込み、後頭部から顔面までも仰け反らせて口内に送り込み、最後に残った口自体をも口内にねじ込んでいき、最終的には目に見えない、無に近いほど小さな点となる。

■さらにクリームは自身を飲み込み終わる時に、無に近いほど小さくなった自分を中心とした、周囲の空間をも少しばかり自身の精神世界へと引き込む。これは惑星などの天体が重力場で空間をひずませるのに似た現象である。このひずみは物質世界内において、コインまたはレンズのような非常に薄い円盤型の形状を取り、その直径は60〜70cmくらいと見られる。そしてヴァニラ・アイスの精神世界に引き込まれたこの円形の領域は、クリームの口内の暗黒空間と同じ性質を持ち、暗黒空間と同じくそこに入り込んだ物体を粉々に破砕する。

■なお、この円形の領域は一見すると、円形自体が(地面に開いた穴のように)空間に開いた穴に見えがちだが、実際にはそうではない。この円形の領域は、3次元空間内で4次元方向へとつながっている空間の裂け目である。この構造を1つ次元を落として表すと、それは2次元平面の世界で、3次元方向へと開いた「クレバス」のような裂け目となる。このクレバスの幅は非常に狭く、その中は外の2次元平面の世界とは異なる別の平面世界となっている。そして通常の平面世界側の物体がこのクレバスの上を通過すると、その物体は異なる平面世界側の法則に晒されることになる。以上のことを3次元の物質世界で行っているのがクリームの作り出す空間の裂け目である、そこでは裂け目は非常に薄い円形の領域となり、領域内は異なる別の3次元空間である暗黒空間へとつながり、領域上を通過する物質世界の物体は暗黒空間の法則に晒され破砕されるのである。

■またこの円形の領域は、非常に小さい物体に対しては、これを破砕できずにそのまま通過させる。そのような物体としては「光」と「空気」が挙げられる。ただこのことは、戦闘時のヴァニラ・アイスにとってはむしろ有利に働く。光を通過させるがゆえにクリームの円盤は外からは完全な透明となり敵からは見ることができず、空気を通過させるがゆえにクリームの円盤の存在が空気の流れを乱すことはないからである。

■クリームは自身を暗黒空間に完全に引っ込めている時にも、その状態のまま物質世界内で移動することが可能である。本体アイスが暗黒空間に飲み込まれている間はその体重がキャンセルされるため、クリームは空中を自在に飛行して移動できる。(そのスピードは作中での描写からすると、大体人間が走る程度のようである) この移動はおそらく、クリームの円盤を弓なりにたわませ、そこから元に戻る力で前方への推進力を得ていると考えられる。また、円盤のたわませ方を工夫すれば、カーブしながらの前進もできる。

■ヴァニラ・アイスは自身とスタンド体とを暗黒空間に隠した状態では、当然ながら外界の出来事を見たり聞いたりできなくなるが、それでも全く何も知覚できないわけではない。まず分かるのは外界の「重力の方向」である。クリームが作り出している円形のひずみは非常にわずかではあるが重力の影響を受け、アイスが何もしなければ地面と平行になろうとする。アイスはこの感覚によって、クリームのコインを地面に垂直に立たせることと、地面と平行に寝させる程度の姿勢制御が可能となる。またクリームの円盤が外界の物質を食らって破砕する時には、コインのどの部分が障害物を食らったかも中のアイスには知覚できる。(ただ宙に舞う砂塵や雨粒程度のものは感知できないようである) この知覚によってアイスはクリームの円盤を、障害物に接触するたびにそこから離れることで、敵に居場所を悟られにくいよう空中だけを移動したり、コインの下部が床を削る感覚を頼りに床面から付かず離れず移動したりできる。

内部リンク

『DIOの呪縛』(スタンド名なし)
「ソード」のスートの暗示を持つ空条ホリィのスタンド。トゲの生えたツタ状のビジョンを持ち、本体に巻き付いてその精神と肉体を蝕む。
『ザ・ハンド』
4部に登場するスタンド。右手で掴んだものを削り取って消滅させる。クリームと違い「空間」をも削るため、削られた場所は周りの空間を引っ張って塞がる。