Nightmare
《2》
物資の調達にやっていた吉岡が消息を絶ち、壱哉は後悔していた。 補給線と、こまごまとした実務を全て請け負ってくれていた吉岡が狙われるのは考えられない事ではなかった。 しかし、彼の実力なら大丈夫と、過信していたのは確かだった。 勿論、優秀なスタッフはいるから補給線が途切れる事はなかったが、そんな問題ではない。 吉岡を失う事など、壱哉には考えられなかった。 捜索の指示を工作員達に出した矢先、壱哉を一方的に呼び出す連絡が入った。 「奴‥‥か」 壱哉は舌打ちした。 西條晴彦――一族の中でも最も優秀な部類に属するが、それは『研究者』としての頭脳であって、実業家としての才能ははっきり言ってない。 しかし権力慾の強い母の影響もあって、そちらの道に進ませてもらえない事を不満に思っていると言う。 だから逆に、実業家の道を歩んでいる壱哉を酷く憎んでいるらしい。 不本意ながら顔を合わせた時は、最初から強い敵意を向けられた事を覚えている。 だがその頭脳は確かにマッドサイエンティスト並みの優秀さで、西條の送り込んで来るモンスターの半数以上は晴彦の手になると言う話だ。 そんな相手の手に吉岡が落ちたとなると、何をされるか判ったものではない。 「‥‥いいだろう、乗ってやる」 場所を記した紙をグシャリと握り潰し、壱哉は宙を睨み付けた。 「‥ふっ‥‥ん、はっ‥‥‥」 何かを捏ね回すような湿った音に、押し殺した喘ぎ声が混じっている。 こうして陵辱を受けてから、もうどれだけの時間が経ったのだろう。 何度射精させられたのか、そんな事はとうの昔に判らなくなっていた。 晴彦が言うように、強力な催淫効果を含む体液の影響なのだろう、何度達してもまた刺激を受ければ昂ぶり、大量に放ってしまうのだ。 もう吉岡の身体からは力が抜けてしまっていて、触手達の成すがまま、あられもない姿勢を取らされたり、全身に触手の体液を浴びせられながら自分も達したり、そんな姿の全てを晴彦の前にさらしていた。 晴彦は、最初に吉岡を犯し、後は一度だけ、限界まで張り詰めたものを強引に咥えさせ、喉奥に注ぎ込んで全て飲み下させた。 吉岡を自分で犯すよりは嬲る行為自体を楽しんでいるのか、今は薄笑いを浮かべながら触手達に犯させ続けている。 際限ない陵辱に絶頂を繰り返させられている吉岡の瞳は、半ば虚ろに宙を迷っている。 晴彦がわざと手を付けないのだろう、陵辱には邪魔なはずの眼鏡をかけたままの顔が、かえって痛々しく、そして淫らに見える。 余程気に入ったのだろうか、触手達は飽きる事もなく吉岡の身体を貪り続けていた。 と‥‥晴彦の白衣から、小さな電子音が鳴った。 携帯端末を取り出して開いた晴彦は、薄く笑った。 端末で何か指示を出した晴彦は、楽しげな笑みを浮かべながら吉岡に視線を移した。 「お前の大切なご主人様が、わざわざ飛び込んで来たぜ。嬉しいだろ?」 「‥‥‥‥」 その言葉に、吉岡の瞳に僅かに光が戻る。 「まぁこの部屋に来るまで、色々仕掛けがしてあるからな。まずはお手並み拝見、と行こうか」 晴彦は、携帯端末の画面に目を落としながら笑った。 ――――――――― スタンダードな落とし穴や釣り天井からガス、果てはオートで侵入者を狙う短機関銃まで、本当にここは民間の研究所なのかと疑いたくなるような罠をかいくぐり、壱哉は奥に進んでいた。 吉岡が捕らえられている部屋の場所まで指定して来た晴彦は、この罠を通らせる事によって壱哉が一人で来た事を確かめようと言うのだろう。 「ふん‥‥相変わらず姑息な奴だ」 忌々しげに吐き捨て、壱哉は先を急いだ。 やがて壱哉は、晴彦が指定して来た部屋の前に出る。 軽く息をついて肩を落とした壱哉は、分厚い扉に手をかけた。 扉を大きく開け放した、と、壱哉の動きが止まった。 真正面の壁は、濃い緑色の蔦のような触手に埋め尽くされていた。 そしてその中央に、まるで蔦の中に埋もれたオブジェのような姿がひとつ。 黒っぽい触手の中に一糸纏わぬ姿をさらけ出している吉岡の裸体は、まるでほの白く光っているようにすら見えた。 大きく脚を開かされ、粘液に汚された身体中を触手が這い回っているのが判る。 「‥‥‥‥」 ギリリ、と壱哉は奥歯を噛み締めた。 「ひさしぶりだなぁ、壱哉?ずいぶん遅かったじゃねえか」 晴彦が、楽しげに笑う。 「ぁ‥‥ちや、さ‥‥あっ、う、はっ‥‥!」 壱哉の姿を認め、掠れた声を上げた吉岡の言葉尻が熱い喘ぎに変わる。 触手の動きが激しさを増し、吉岡の身体が痙攣するように震えた。 赤く上気した顔、口元を唾液と触手の体液で汚し、目尻にはうっすらと涙が浮かんでいる。 全身は汗とも、触手の粘液ともつかないもので濡れ光り、荒い息に胸を上下させている吉岡は、むしろ切なげに眉を寄せた。 「壱哉、おまえまだ啓一郎を抱いてなかったみたいだなぁ?いきなりこいつらじゃかわいそうだから、最初が俺が犯してやったよ。こいつ、中々いい身体だったぜ?」 嘲るような晴彦の言葉に、壱哉の拳が震えた。 「まぁ、啓一郎も良かったんじゃねえか。何しろ、こいつらの相手をしてずっとイきっぱなしだったからな」 晴彦は、楽しげな視線を壱哉に向けたまま、吉岡の白い太腿の内側に指を滑らせた。 「っ、は、あぁ‥‥っ」 吉岡が、切なげな、しかし熱い吐息を洩らした。 「く‥‥貴様っ!」 壱哉が床を蹴った、が、その動きを阻むように太い触手が襲い掛かる。 「クク‥‥こいつらは、啓一郎がかなり気に入ったみたいでなぁ?啓一郎をお前に取られたくない、って頑張ってるぜ」 晴彦が操っているのか、或いは彼が言う通りなのか、触手達は次々と腕を伸ばし、壱哉に襲い掛かる。 壱哉はそれをかわして行くが、何しろ数が多い。 壁際に追い詰められた壱哉に、八方から触手が襲い掛かった。 「ふん‥‥‥」 一瞬、壱哉の手元に白い光が煌めいた。 壱哉が、抜き放っていた特殊金属のカードを手に収めると、襲い掛かろうとしていた触手は全てバラバラになって床に落ちた。 しかし。 「うぅっ、あぁ‥‥!!」 「吉岡?!」 激しく抉り立てられ、貪られて仰け反る吉岡に壱哉の顔色が変わる。 「あぁ、言い忘れてたけどな。こいつらをむやみに傷つけると、再生する栄養が欲しくて、余計啓一郎をよがらせるぜ?」 晴彦の言葉通り、吉岡の中を抉る何本もの触手は今までより激しく突き上げ、喘ぐ口には太い触手が入り込む。 言語を絶する刺激を与えられ、吉岡は痙攣するように身体を震わせながら達した。 飛び散る精を、先端に喰らい付くようにして触手が舐め取る。 「っ、ひ‥‥」 敏感な先端を直接刺激され、吉岡はすぐにまた昂ぶって行く。 もうとっくに、限界を超える程何度も放っているのに、触手の体液が終わる事を許さない。 痙攣しながら昇り詰めて行く吉岡は、このままでは狂ってしまうのではないかとさえ思える。 「ち‥‥」 壱哉は唇を噛んだ。 容赦なく襲い掛かる触手を、壱哉は紙一重で避けて行く。 少しでも体力を温存する為だが、三本、四本と同時に襲い掛かって来る触手を完全にはかわしきれない。 「――っ!」 死角からの攻撃に気付くのが遅れ、壱哉の背中を触手がまともに捉えた。 とっさに受身を取ったものの、激しい衝撃に壱哉は大きく飛ばされる。 床に叩き付けられた壱哉に、止めを刺そうと触手が集中する。 「くっ!」 壱哉は転がるようにして攻撃をかわし、何とか体勢を整える。 「なんだ、もう終わりじゃねえだろうな?もっともっと楽しませてくれよなぁ!」 晴彦が、どこかヒステリックな高笑いを上げた。 その意思を受け、触手達は勢い付いて壱哉を襲う。 触手に捕らえられたら最後だ。 壱哉は次々に襲い掛かって来る触手をかわすが、多勢に無勢である、どうしても切り落とさなければ逃れられない時がある。 しかし触手を傷付ければ、それだけ吉岡を苦しめてしまう。 その迷いが壱哉の動きを悪くしていた。 「‥‥ぃ‥や‥‥さま‥‥」 身を震わせながら触手に貪られている吉岡の熱い喘ぎの中に、掠れた吐息のような声が混じった。 「‥‥しに‥‥‥かま‥‥ず、たお‥て‥‥‥い‥っ!」 『自分に構わず倒せ』、そう言いたいのだろうか。 同じくその意味を理解した晴彦の表情に怒りの色が浮かぶ。 「『エサ』が余計な事言うんじゃねえ!お前はおとなしくヨガってりゃいいんだよ!」 晴彦は、吉岡のものを強く握った。 「ひあぁぁっ!」 何度も刺激され、イかされ、それでも萎える事を許されずに昂ぶらされているものを、晴彦は握り潰さんばかりの強さで扱き上げる。 激痛に近い刺激に、頭の中が真っ白になる。 「あぁぁっ!」 掠れた悲鳴を上げ、大きく体を震わせて、吉岡はまた達した。 一瞬意識を失ったのか、吉岡の全身から力が抜ける。 しかし、体内を突き上げる触手が激しく動き始め、その刺激に吉岡は低く呻いて身じろぎした。 「‥‥‥‥‥」 壱哉は、千切れそうな程きつく唇を噛み締めた。 このままでは共倒れだ。 持久戦になれば、吉岡の苦痛を長引かせるばかりになる。 ならば、壱哉が選ぶべき方法は決まっていた。 「吉岡。少しの間だけ、我慢していろ」 そう言って、壱哉は走った。 「なにをする気だ‥‥?」 薄ら笑おうとした晴彦の表情が強張る。 壱哉は躊躇いを捨て去り、容赦のない攻撃を触手に向け始めたのだ。 向かって来る触手をかいくぐり、纏めて切り裂いて行く。 「い、壱哉、わかってんのか?こいつらを倒すと‥‥‥」 しかし、晴彦は最後まで言う事は出来なかった。 壱哉が大きく腕を振ると、エッジを鋭く磨き上げられた金属のカードが矢のように飛ぶ。 晴彦を掠めたカードは、吉岡に新たに取り付こうとしていた触手を次々と切り落とす。 「!!」 反射的に身を硬くした晴彦が我に帰った時には、壱哉が至近距離に間合いを詰めていた。 とっさに盾にした触手は片っ端から切り落とされる。 その勢いのまま、壱哉は晴彦に襲い掛かった。 鳩尾を殴りつけ、脇腹に鋭い蹴りを送り込み、飛ばされる所を更に壁に叩きつける。 実に見事な三連コンボだった。 「いっ、壱哉てめェ‥‥」 咳込みながら顔を上げた晴彦の喉元に、冷たいカードのエッジが当てられた。 「これをこのまま横に引けば‥‥どうなるかわかるだろう」 壱哉は、薄い笑みすら浮かべながら言った。 「お、俺に何かあったら、西條グループが‥‥」 使い古された脅しに、壱哉は喉の奥で笑った。 「こんな研究所じゃ、事故なんか付き物だろう?不運にも巻き込まれる奴はどこにでもいる」 壱哉が目を細めた時。 背後で太い触手の一本がずるりと動いた。 「?!」 とっさに、壱哉は身構えた。 壱哉の注意が一瞬逸れた隙に、晴彦が素早く逃れる。 脱出用に作って置いたのだろうか、何もなかった壁の一部が扉のように開いた。 「貴様ごときがこの俺を脅しやがった事は忘れねえ。今日の借りは、倍にして返してやるからな!」 逃げ道を確保して自信を取り戻したのか、晴彦は憎々しげに言い捨てた。 「貴様っ!」 追いすがろうとする壱哉の目の前で扉が閉まる。 「くそっ!逃がしたか‥‥」 舌打ちした壱哉は、すぐに思い直して踵を返し、吉岡に駆け寄った。 触手達は、命令者である晴彦を失ったせいか、本能のままに吉岡に取り付いて、統制の取れない動きで身体を擦り上げている。 そして吉岡は、既に意識を失っているらしく、ぐったりと首を垂れて動かない。 「吉岡!」 壱哉は、吉岡の身体中に巻きついていた触手を切り落とし、解いて行った。 後ろの孔に入り込んでいた何本もの触手を引きずり出す。 意識を失っていてもそれは刺激になるのか、吉岡の身体かピクリと動く。 こんな場所に異物を受け入れる事など初めてだったろうに、晴彦に犯され、しかも限界まで何本もの触手を突き入れられたのだ。 その痛ましさと、自分の不注意で吉岡をこんな目に遭わせてしまった事が悔やまれる。 「すまん‥‥吉岡‥‥‥」 詫びても起こってしまった事が消える訳ではない。 壱哉は、息苦しい程の後悔と自己嫌悪に駆られていた。 |
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あぁ、はるちゃんがただのチンピラになってしまった‥‥(涙)。書いていて、このまんま秘書を自分のものにしてずっといぢめたおしてもらうのもいいかも、なんぞと思ってしまいました。はるちゃんのちょっとガキ大将っぽい子どもっぽさが気に入ってたりして(それはこのサイトのはるちゃんだけだ)。
オリジナルのはるちゃんが出て来る山岸様の漫画にケンカを売っている訳ではないんです!でも、壱哉様が助けに来た時「見ないで下さい」は他の方がやっておられるので、根性曲がりのMAYはちょっぴり捻ってみました。なくしたセリフは後で出てきます(苦笑)。イかされっぱなしの吉岡には異様に萌えました(爆)。