【題意】
成都へ向かう道中、難所剣門越えをそぼ降る微雨の中でむかえた。
陸游48歳の作。
【剣門関】
三国時代に蜀の孔明が築かせたといわれる。「一夫関に当たれば、万夫開くなし」
(一人が関を守れば、万人が攻め寄せても開かない)と謳われた。剣門関に至る道中は
両側に垂直に切り立った山々が迫る渓谷で、たいへんな難所であった。
【詩意】
着物の汚れには旅の埃に加えて酒の染みも混じっている
都を遠く離れた身は感傷的になっているせいか、何を見ても心が揺れ動く
自分は政治家ではなく、詩人であることが相応しいのだろうか
今、細雨の中驢馬に乗って剣門を越えようとしている
【語釈】
征塵=旅のほこり。 消魂=深く感動して心を奪われる。
【鑑賞】
当時、南宋は北方の金の攻勢により領土の多くを失っていた。重臣達は屈辱的な条件を
受け入れ金との講和を計った。
陸游は金と対決する徹底抗戦論を提唱し続けた為、政治家としては不遇であった。
陸游は剣門へ至る途中、前線に近い街に立寄っている。主戦論者として心は昂ぶったに
違いない。そぼ降る雨の中、政治家として、詩人として陸游の心は揺れ動く。
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