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REBIRTH・7章(1)




「やかましい!オレは絶対に髪は切りませんよ!」
がまんしきれなくなり、クリュセはどなった。そして相手に気を使うのはやめて、さっさと自分のペースで歩きだした。
「私は、身なりぐらいはきちんとしてこい、と言っただけだ、キリエ」
クリュセより20センチは背が低く、そのうえかなり年かさのパテラス・アンダリウムはどうしても遅れがちになった。クリュセに追いつこうとすれば、威厳もへったくれもなく急がなければならなかった。
「だからって、オレがまるで風呂にも入っていないような言い方はやめてください!髪だけならともかく、皮膚の移植手術を受けて、焦げて傷だらけの肌をツルツルにしてこいなんて、あなたにそこまで命令する権限があるんですか?」
「仕事を円滑に進めるために必要だと思うからだ。君の外見は、君の経歴を嫌でも思い出させる」
「その経歴とやらは、オレが自分で書き加えたものじゃない!・・・・・・・・・いや、ある意味ではオレの自業自得と言えますか。オレは変わり者のバカ正直なんです。わたしが悪うございました、と裁判で言っておけば、追放処分なんて判決を受けたりはしなかったでしょう。だがオレは、身に覚えのないことを認めて命乞いをするなんてできなかった」
 クリュセは突然くるりと振り返り、人差し指を上司の胸につきつけた。
「低次元な話はやめましょう、パテラス。時間の無駄だ。オレの身柄を警備庁からもらいうけてくださったことには感謝しています。オレはプロジェクトの内容を頭に十分たたき込んできました。この仕事がオレにとってどんな意味をもっているのかも重々承知しています。正直ついでに告白すると、オレは二度と外に『追い出される』のはまっぴらなんです。要領の悪い数学者がひとり抜けたせいで計画がぼろぼろになった、なんて言い訳がまかりとおるようではプロジェクトそのものもスタッフの能力も疑わしいものですが、どうにも気に入らない仕事って訳でなし、オレはできるだけのことはしますよ。見てくれでする仕事ではないのだから、それでいいじゃないですか、パテラス・アンダリウム?」
「私は納得してやってもいいのだがね。これはひとりでする仕事じゃない」
「そのとおり。これ以上みなさんを待たせてはいけませんね。さあ、早く行きましょう」
 会議室にはプログラム開発部門の責任者5人がすでに集まっていた。ふたりが入っていくと、視線が一斉にクリュセに注がれた。不満と嫌悪と嫉妬が入り混じった空気が意図的に消される一瞬を、クリュセは見逃さなかった。
「クリュセです。本日より当部門に配属されることになりました。よろしく」
アンダリウムが紹介するのに先じて、クリュセは言った。にっこり笑って見せさえした。



×××



  レストランで受付に名前を告げると、係員はアリシアを個室のひとつに案内した。
「来たな、アリシア」
エドムは満面の笑みを浮かべて彼女を出迎えた。約束の時刻に相当遅れていたにもかかわらず、待ちくたびれた様子はなかった。彼女が遅れて来たことをむしろおもしろがっていた。
「かけろよ。すぐに料理が来る。君がここに来たことがなかったなんて意外だったな。エリート専用レストランといえど、合成食品を全然使っていないところはそんなにはないってのに」
「私はあなたみたいに享楽的にはできていないのよ」アリシアは気にいらなそうに目をそらした。「おまけに利用記録の残るところで会おうなんて、ますますあなたという人間がわからなくなったわ」
「同期生がたまには一緒に食事をする、それだけのことだよ。こそこそしているところを見つかるほうが、よっぽどこわいさ」
 料理が並び、係の者は出て行った。
「これで呼ぶまで邪魔は入らない」ふたりきりになると、エドムは言った。「話の前に食事にしよう。ここは材料がいいだけじゃないんだよ」
 出された料理すべてが一級品であることを、アリシアの理性は判断していた。しかし、とてもではないが食事を楽しむ気分ではなかった。エドムは彼女がうわの空であいづちをうっているだけなのを一切気にせず、ひとりであれやこれや、脈絡なく話題をばらまいていた。
 食後の飲み物が運ばれると、エドムはようやく黙った。彼は甘く口当たりのよい酒を味わいながら半分ほど飲み、一息つくと、言った。
「もう十分な時間はとれたはずだ。で?」
「クリュセは彼にしては、協力的に仕事をしているわ。まだこれといった実績はあげていないけれど、彼の参加で他のスタッフの活動も活発になって・・・・・・・・・・」
「アリシア」エドムは彼女の言葉をさえぎった。「僕は事実を聞きたいんじゃない。君の考えが欲しいんだ。あの時、君に相談したことは予想以上の結果を生んだ。僕にはあれほどコトをうまく運ぶことはできなかっただろう。僕は君の立案力を買っている。いや、それでは失礼だな。尊敬している、と言いなおそう。だから待っていた。時間が要る、と君が言うからだ。もう4ヵ月近くたった。君はプロジェクトのスケジュール管理をする部門の一員として、直接ではないにしても近い位置でクリュセの行動を逐一見てきた。そろそろ結論が出てもいい頃だろう」
「わかっているわよ。言われなくても」
「で、どうするんだ。奴をこのままほおっておくことは感心しないな。クリュセは動き始めている。権利のない者が検察局のデータに入り込もうとした形跡があるんだ。民間人が簡単に閲覧できる記録はとっくに見てしまったんだろうな。まあ、市民に復帰したのなら当然考えられる行動だし、そんなものはいくら叩いてもほこりは出ないからかまわん。しかし、アリシア、奴がおとなしく仕事をしているってのは考えものだぞ。奴がたずさわっているのは、全市のあらゆる部門に係わるコンピューターの開発だ。テストプログラムだけでも完成すれば・・・・・・・・・・。君がその危険性に気づいていないってことはあるまい?」
「だから、どうしろっていうの?!」
「どうしろ、なんて言わない。おじけづいていなければ、それでいいんだ」
エドムは酒を飲み干した。
「前は君が立案者であり、僕が実行者だった。今度は僕が立案も実行もする。未だに具体的な案が浮かんでいないのなら、僕に従って欲しいんだが」
アリシアはしきりに指を組み直していた。エドムの言ったことに、彼女は間違いを見いだせなかった。保身のために使える時間は減っていく。クリュセが問題行動を起こさない保証はどこにも、ない。
クリュセの態度が豹変したあの時のように、その時は何の前触れもなくやってくる。アリシアはそんな気がした。
「いいわ、話して」
 アリシアは熟考の末、言った。



×××



 シティの外では雪が降っていた。展望室のガラス天井にも雪が厚くつもっていた。窓はくもり、外の風景はほとんど見えなかった。
 クリュセは時間を作っては、展望室にやって来た。
 ローワー地区には、とうとう足を向けられなかった。ローワー殺しのレッテルを貼られたエリート階級の人間が、いったいどんな顔をしてあそこに行けばいいというんだ?エリート連中にはどう思われようとかまわない。しかし、ローワーの人々にきっぱりと拒絶されてしまったら・・・・・・・・・・。
 もしかしたら自分を信じ、変わらず迎えてくれるのかも知れない。行かなければ、そんな甘ったれた考えを捨てずにいられるだけましだった。
 今では展望室だけが、ほっとできる場所になってしまった。それに何よりも、ここは地上に一番近い。
 やみそうにない雪を見つめ、クリュセは地上で暮らした5年間を思い返した。サーク、リン、1才になったばかりの息子。地上はどんなにか寒いだろう。指や耳がちぎれてしまいそうに冷えきった日もあった。何日も吹雪が続き、食べ物がなくなったこともあった。しかしそんなつらい思い出すら、なつかしかった。
 シティでは暑さも寒さも、飢えも渇きも無縁のものだ。だからこそ、ここでは得られない人と人とのつながり。
 帰ろうと思えば、方法はあるだろう。しかし、すぐに帰るわけにはいかなかった。一時的にせよあの5年間を忘れさせた、心の底にくすぶりつづけていたもの。満たされなければならない飢餓感。
 真実を知る。
 父は本当に人を殺したのか。それが事実ならば、なぜなのか。
 幼い頃、自分をかわいがってくれた父。その記憶を信じるのならば、知らなければならなかった。何があったのかを。
 クリュセは当時の記録で閲覧自由なものから手をつけ、事件が表面上どう処理されたかはすでに調べ終えていた。
 殺されたのは工業部の下級役人だった。当時、現場で働くローワーたちの2級生産物着服取締りを急に強化し始め、被害者はその指揮をしていた。加害者は現場をとり押さえられたために逆上して被害者を殺した、と捜査報告には記されていた。
 検査で合格しなかった製品のうちマシなものを現場の人間が持ち帰ることは、日常茶飯事だった。それはローワーたちが保証されている生活水準が低すぎるため、必要でやっていることだ。クリュセ自身、工場で働いていた時期には何度も製品をくすねてきては暮らしの足しにしていた。彼らを管理する立場にあるトップ・ノーマルやエリートは、その事実をどう考えているのか?
 そして、ローワーが下級とはいえエリートを殺したがゆえに、ろくな裁判も行われずに下された、追放という厳罰。
 この記録が一言一句事実だったとしても、納得しかねることには変わりはなかった。
 ダッドが真実犯人だったとしても、こういう事件が起こったという事実を、無駄にしてはならないのではないか?
 ローワーの生まれでありながらエリートになった者として、すべきことがあるのではないか?
 どこから手をつければいいのか−−−−考え込んでいると、背後からシュン、という軽い音がした。それは展望室の唯一作動しているドアが開く音だった。
 入ってきたのは、どこかたよりない印象のある青年だった。こんなところに来る物好きが自分以外にもいたのか、とクリュセは木陰に身を隠した。気づかれないようにして出て行くつもりだった。相手もひとりになりたいからここに来たはずだ。他人がいることをこころよくは思わないだろう。
 しかし青年はクリュセを目ざとく見つけた。そして、名を呼んだ。
「キリエ、・・・・・・・・・キリエ・クリュセですね?!」
クリュセは立ち止まるべきか逃げるべきか、判断に迷った。長い脚がからみ、ずっこけた。その場をとりつくろう間もなく、青年は顔を上気させてクリュセの目の前に立っていた。かなりの距離を走った後のように息をはずませて。
「キリエ、僕を覚えてらっしゃいますか?エドベリです。護送機のパイロットの」
クリュセは青年の顔にも名前にも心当たりがなかった。ただ、追放刑執行の時、泣きだしそうになっていた若い護送官がいたことを思い出した。
「あのあと、あなたが展望室をお好きだったことを知って、時々来ていたんです」クリュセと並んで歩きながら、エドベリは話した。「あなたが市民権を再取得されたと聞いてからは余裕のあるかぎり、毎日。ミドル・ノーマルはエリートの居住区には入れません。でもここでなら、直接お会いできるかもと思って。そしてやっと、あなたに会えた。お元気そうな姿を自分の目で確かめられた。僕はこれで、自分を許すことができます」
「許すも許さないも、君は与えられた任務を果たしただけだろう」
「そうです。それに、刑の執行のために飛んだのはあなたの時が最初でも最後でもありません。受刑者を外に置いて自分だけ帰るのは、誰が相手でもつらいです。あなたはおっしゃってましたね、死刑は死刑だ、と。そのとおりです。だけど受刑者は皆、それに値するだけの罪を犯したのです。自分でもそう納得して仕事をしてきました。そうするより、しょうがないでしょう?でも、あなたの時は・・・・・・・・・・・・。シティに帰りやすいよう手助けできないだろうか、いっそのこと連れて帰ってしまおうか、帰り道、そればかり考えていました。状況が許せば、本当にそうしていたかもしれません。・・・・・・・・・だけど翌日急に、研修の名目でラサに2週間の出張を命じられました。すみません、キリエ、僕には結局、何もできなかったんです」
「エドベリ、おまえ、どうしてパイロットになった?」
「は?」
エドベリは目を丸くした。話の飛躍についていけなかった。
「パイロットはなり手が少ないとはいえ、高度な部類の仕事だ。ミドル・ノーマル程度でよくなれたものだ。だが、資格は取れても仕事を選べないだろう。それで嫌々ながら護送パイロットとして飛んでいる。違うか?どうしてそんなに飛ぶことにこだわる?」
「飛ぶこと、というより、地上にこだわっているんです。パイロットという地上に一番近い仕事を選んだのは、あなたのお書きになった本にすごく魅かれたからです」
「あの時も、そんなことを口走っていたな。不可解だ。書いた本人が言うのもなんだが」
「僕があなたの本から一番強く感じたのは、広い大地というものです。世界が大きかったからこそつちかわれた人間の力です」
「人間を狭い土の中に閉じ込めたのも、その人間の力とやらだ」
クリュセは静かに言った。
 エドベリは唇を動かしかけて、止めた。そして考え込んだ。それを何度か繰り返し、彼はようやく言った。
「・・・・・・・・・キリエ、僕にはうまく言えません。理屈じゃないんです。僕はただ、地上に近いところにいたいと思っただけなんです」
   −−−−むかしむかし、ひとびとは土の上にすんでいたんだよ・・・・・・・・・・・。
 クリュセの胸に、父が何度も繰り返した語り口がふと蘇った。
 彼は苦笑いを漏らした。
「キリエ・・・・・・・・?」
エドベリはけげんそうに彼の顔を覗き込んだ。
「エドベリ、もうここには来るな」
クリュセはそっぽを向いた。
「なぜですか?」
「なぜでもいい。それとも、ここが気に入っている、と言うのなら、オレが来るのをやめてやってもいい」
「キリエ、僕は何かお気にさわることでも・・・・・・・・・・」
 クリュセのセルに、突然、妙なパルスが短く走った。
 彼はエドベリの肩をつかんだ。口をつぐめと、無言のまま威圧する。
 クリュセの耳は、かすかな、ほんのかすかな音を捕らえていた。彼は神経をとぎすまし、その音の元をさぐった。バルコニーを支える、つたのからまる柱の方からだった。ひびの入る音がいくつも続けて聞こえた。
「エドベリ、どけ!」
クリュセはエドベリを突き飛ばした。青年の体は軽々とふっとび、雑草だらけの花壇につっこんだ。
 柱が砕け始めた。2本、3本。コンクリートがはがれ落ち、芯がむきだしになる。腐食を始めていた鉄骨は重量を支えきれず、バルコニー部分がたたみかけるようにクリュセの上に崩れ落ちた。
「キリエ−−−−−−−−−!!」
エドベリの悲鳴は、コンクリート片のたてる轟音にかき消された。
 おさまりかけたほこりの中にエドベリが見たのは、がれきに半分埋まったクリュセだった。額と左腕から血を流し、ぴくりとも動かない。エドベリは足が萎えてしまい、どうしても立ち上がれなかった。
 彼はほんの少しだけクリュセの方にはいよった。そして呆然とへたりこんだ。
「・・・・・・・・・・・・ちくしょう」
 最初は空耳かと思った。クリュセがせきこみながら上半身を起こそうとしているのを見て、エドベリは彼が生きているのをようやく理解した。クリュセは額から流れる血が目に入りそうなのを拭い、のどをつまらせながら弱々しく悪態をつき、無事だった右手で体にのしかかるコンクリート片を少しでもどかそうとした。
「・・・・・・・・・・・・ばかやろう、脚が、抜けん」
エドベリは呪縛から解かれ、とびあがった。
「すみません・・・・・・・・!今すぐ、誰か・・・・・・・・・・・・・」
青年はあたふたと駆けだしていった。



×××



 何日かぶりに、クリュセはソフト開発部に現れた。波が引くように室内から人の声が絶え、機械の音だけになった。クリュセの日焼けのさめない肌や長ったらしい髪に慣れた部員たちの目にも、包帯だらけの姿は異様に映った。
「パテラ・メロエは?」
クリュセは手近な部員に訊いた。彼女は黙って奥の個室を指した。
「わかった」クリュセはぶ厚い書類の束をデスクにほおり投げた。「居住区セキュリティ関係の仕様書だ。担当に回しといてくれ」
 ソフト開発部責任者パテラ・メロエの部屋をノックし、クリュセは中に入った。メロエはぎょっとしてディスプレイから目を上げた。
「キリエ・クリュセ・・・・・・・・。大丈夫なのか?退院はまだ半月は先だと聞いていたが」
「オレは元気です。額と左腕と右足の皮膚が派手に破れて腰に金属片がつきささっただけです。それだけなのに1ヵ月も寝てろなんて、医者は今も昔もおおげさなのが好きなんですね。ところで、至急チェックしたいプログラムがあるので、第3コンピュータールームを丸1日使わせて欲しいのですが」
「キリエ、仕事熱心も結構だが、病院に戻ったほうがいいように私には思えるのだがね」
「オレは元気だ、と言ったでしょう。5年も外で暮らせばおのずと頑丈になるんです。あなたもどうですか?」
メロエはかすかに肩を震わせた。
「脳みそがくさらないうちに仕事に戻りたいんですが、ね」
強硬にせまられて、メロエはコンピュータールームのキー・カードをしぶしぶクリュセに手渡した。
「少しでも具合が悪くなったらすぐに病院に戻りなさい。たとえ君がいなくても、順調にいっている」
「お気遣い、感謝しますよ」
クリュセはいやみたっぷりに最敬礼した。
 コンピュータールームに入ると、クリュセは外部との連絡をいっさいシャットアウトした。キーを挿入し、コンピューターを作動させる。その時、不意に脚に痛みが走った。彼は歯をくいしばり、痛みがおさまるのを待った。やっとふさがった傷口が開きかけたようだった。たいしたことはない、と彼は血がにじむ感触を無視した。不用意に医者に見せて、またベッドにしばりつけられるのはごめんだった。
 事故の後、展望室は閉鎖された。完成した当初から利用者のほとんどいなかった施設を、いまさら整備しようと言う者はいなかった。閉鎖が決まってスプリンクラーも止まり、植物は枯れ始めている頃だった。
 老朽化が原因、ということで事故調査は終わった。詳細な報告書がクリュセにも届けられたが、彼はろくに読みもしなかった。
 柱が崩れる直前に聞いた音−−−−自然に割れるのではなく、外部から与えられた力で砕ける音。クリュセはそれを調査員に証言しなかったし、エドベリには聞こえなかったようだった。だいたい、崩壊の直前にセルが捕らえたパルスはなんだったというのか。自然現象とはどうしても思えないこの崩落事故のことを、ベッドの上で動けずにいた間に彼はさんざん考えた。そして、ひとつの結論を得た。
 故意に引き起こされた『事故』ではあるが、シティはかかわっていない、と。今クリュセを消しても、シティには何のメリットもない。
 彼はプロジェクトのコンピューターを不正使用して、父の事件に関係ありそうなデータをすでに相当量手に入れていた。オフライン保存されているデータにはなかなか手をつけられなかったが、プロジェクトが順調に進行して記録の大規模な整理が始まれば、いくらでもすきは見つかるだろう。そのために表ではくそまじめに仕事をし、裏ではプロジェクト・スタッフの特権を最大限に利用した。
 そんな彼の行動に気づき、阻止しようとする者が存在するらしい。悠長にかまえている時間はないのかも知れない。
 クリュセは考え込んだ末、少々不本意な方法を使うことにした。




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