SECOND MISSION〜Final
Fantasy VIII・IF〜
〜エスタ(2)・6〜
日付が変わる頃、外はひどい嵐になった。横殴りの激しい雨が絶え間なく窓を叩き、稲妻が真っ暗な空を切り裂く。荒れた天気が続き、何日も晴れた空を見ていない。月が涙を流して以来、空も狂ってしまったようだった。 「オレの頭ん中も大荒れだあ・・・・・・・・・・・・」 薄暗い大統領執務室で、ラグナは窓の外を眺めながらひとりごちた。 なんでこうなっちまうんだろうなあ・・・・・・・・・・・・。 17年前もそうだった。エルオーネを『魔女・アデル』にされるのだけは止められたけど、それ以外は何もできなかった。スコールは親の顔も知らない子にしてしまった。そしてレインも・・・・・・・・・・・。それが、自分の命を張ってまでしてやったことの結果。 そして、今度も。 今度こそ子供たちを守りきりたいからと、初めてこの巨大国家の最高権力者の地位を望み、その椅子にしがみついた。そのあげくがこのザマだ。結局オレにできるのは、自分の息子を自分の手で危険きわまりない場所にほおりこむことだけ。 すぐ近くで、また強烈な光が走った。 レイン・・・・・・今度こそ怒るだろうなあ。いつかオレがあの世に行っても、こんな情けないヤツには会ってもくれないかもな。 でも、これ以外のことは、オレにはもう−−−−−−。 机上のインターフォンが鳴った。 ラグナは最初、それを無視した。しかし何度もしつこく鳴り続けるので、彼は不機嫌そうに頭をかきむしりながら、しかたなしに応答した。 「なんだ?」 『申し訳ありません、大統領。なるべくお邪魔しないようにと副大統領に言われてはいたのですが、魔女−−−いえ、イデア・クレイマーがどうしても今お会いしたいと言っておりまして』 「イデアが?」 『はい。今、応接室の方におりますが。いかがしましょう?』 「いいぜ。通してくれ」 ぼさぼさになっていた髪をそれなりに整え終わった頃、イデアが警備兵に伴われてやってきた。ラグナは人払いをして、彼女とふたりきりになった。 そして彼女に椅子をすすめた時、彼は思い出したことがあった。 デリングシティで、『魔女・イデア』の写真を見た時に感じたこと。彼は確かに、以前イデアに会っていた。 もう18年も前になる。 エスタにさらわれたエルオーネを探して旅をしていた頃。エスタ兵が、いったんさらっていったもののやはり役にたたないと判断した子供を街角に適当に捨てていくことがあると聞いて、その中にエルオーネがいないかと、行く先々で孤児院や身よりのない子供をあずかっているという家庭を訪ね歩いた。 その中の、どこだったかまでは思い出せないが、孤児院の院長をしていたのがイデアだった。 あの日も今日と同じような、春先の、激しい雨の降る日だった。町での情報収集はキロスたちにまかせ、ラグナは郊外の孤児院をひとりで訪ねていった。そしてそこにもエルオーネはいないとわかり町に戻ろうとしたが、すでに日は落ち、雨は激しくなるばかりだったため、イデアの好意でそこに一晩泊めてもらった。 その頃は魔女戦争のただ中だったから、親を亡くした子供、親と暮らせなくなった子供が本当にたくさんいた。そこで育てられていた子供の多くも戦争孤児だった。なつっこい子供ばかりで、ラグナはその日、夜遅くまで子供たちの遊び相手や話し相手をして過ごした。 そして、子供たちの口からイデアが魔女だと聞いた。 その当時、魔女への風あたりは強いなんてものではなかった。それにもかかわらず彼女は自分が魔女であることを隠そうとはせず、子供たちも、そんなことを気にする様子はみじんもなかった。ほんの少し人とは違う力を持っているだけの、芯が強く、慈愛に満ちた、普通の美しい女性−−−−それがイデアだった。 こういう魔女もいるんだな−−−−。世間一般の人同様、魔女に少なからぬ恐怖心や敵意といったものを持っていたラグナの意識が変わったのはそれからだった。 まさか、あの時の女性にオレの子供たちも育ててもらうことになるとはな・・・・・・・・・・・・・・・。 「どうした、イデア?あんたの仕事は済んだんだから、あとはオレたちにまかせてゆっくり休んでくれればよかったのに」 「なんだか落ち着けなかったものですから。私はこんな日が来ると知っていて、いえ、知ったからこそ、この日に備えて十分な力をつけるように子供たちを育ててきました。だから、SeeDたちが未来という未知の場所での戦いにおもむくことになったからと言って、いまさらうろたえるつもりはありません。ですが、スコールの実のお父様までがこんな形でかかわることになるとは思いもしなくて・・・・・・・・・・・」 「なんだ、オレなんかの心配をしてくれてたのか?−−−−−オレは大丈夫だよ。ありがとな。これは誰かがやらなきゃならないことなんだ。それがたまたまオレの息子だったというだけのことだ。そして、危険にさらされるのはスコールだけじゃない。リノアや彼女を追って未来まで行く他のSeeDたち、それから、ルナティックパンドラで戦うエスタ兵も、全部が全部生きて帰ってくることはないだろう。もっと気の毒なのはガルバディアの兵隊たちだよ。連中は、自分たちの存在をかけらも残さずに消そうとしている魔女のために戦わされてるんだ。そうとはつゆ知らずな。その点オレは、ずっとマシだよ。すべてを知った上で、自分の手で息子を戦地に送り出すんだ。オレのあずかり知らぬところで誰ともわからん他人に勝手に手ゴマにされるんじゃなしにさ」 「−−−−そうお考えでしたら、いいのですが」 イデアは少しほっとした様子で言った。 激しい雨の音が室内にもしみこんできていた。ラグナは雨が流れ落ちていく窓の方に目をやりながら、言った。 「な、イデア。せっかく来てくれたんだ。スコールの小さい頃の話、聞かせてくれないか?」 「スコールの?」 「うん。−−−−ホントは、全部終わって落ち着いてから聞こうと思ってたんで今まで言わなかったんだけど。なんかさ・・・・・・・・今聞いておかないと、もう聞けなくなっちまいそうな気がしてさ」 「そんなに心配なさることはありませんよ。SeeDたちは必ずアルティミシアに勝ちます。お話しする機会はこれからいくらでも」 「それも、あんたが知ってるこれから起こる事実、ってヤツか?」 「ええ」 それを聞いたラグナの表情は、イデアの予想に反していちだんと暗くなった。 「それじゃまるで、これから起こることもこれまでに起こったことも、全部前もって決められてるみたいじゃねえか。こうやってウダウダ悩んでるのがバカみてえだな・・・・・・・・・・・・」 「そうかも知れません。ですけど−−−−−」 「ま、なんつーかさ。スコールが生きて帰ってこないんじゃないかって心配は、実はあんまししてないんだ。どういうわけか、絶対大丈夫だって気がしてな。それより・・・・・・・・・・・どんな顔してあいつの前に立てばいいのか、全然わかんなくってさ」 ラグナの声は、雨の音にかき消されそうなほどに細かった。 「−−−−オレはあいつが生まれてから、いや、あいつが母親の腹ん中にいた時からずっとほったらかしにしてきてさ。それが、今ごろしゃしゃりでてきていきなり言うことが、わけのわからん戦場に戦いに行け、だもんな。今度だけでもあいつを守りたいからと、その方法を探していたはずだったのに。そんなら、守ることはできなくても、せめてオレも最前線で戦えたらいいんだけど、それも無理だろうな。オレも、あいつらといっしょにアルティミシアの時代にまで行けるんじゃないかなとは思う。だけどそれでどうなる?オレももう、50に手が届こうという年だ。そのわりには体力のある方だとは思うけど、それだって若い頃に比べりゃ衰えてきてる。いや、軍隊にいた二十代の頃だって、軍のカネであちこち行けるのを楽しんでいた、逃げ足が早いだけの不良兵士だったしなあ。そんなヤツが行ったところで足手まといになるだけだ。こんな、息子のために何ひとつできない情けない野郎なんか、無事に帰ってきてくれたところであいつに父親と認めてもらえないんじゃないかと考えると、いっそ他人のふりをしちまった方がいいのかな、とかさ・・・・・・・・・・・・・・」 「−−−−そういうことでしたら、やはり今はお話ししない方がいいかも知れませんね」 「イデア?」 「今のあなたにそんな話をしても無駄でしょうから。そんなに自信のないことではあの子の話など、なんの足しにもなぐさめにもならないでしょう?」 おだやかな口調の中に、きっぱりと拒絶する響きがあった。 ラグナはとまどうばかりだった。オレはなんか変なことを言ったか?確かに、人に聞かせるようなもんじゃない、くだらないぐちを言ってしまったが。 気まずい空気がふたりの間に流れた。 「−−−−レウァールさん、私自身には子がありません。しかし、多くの子供たちを育てた者の言葉として、私の話を聞いてくださいませんか?」イデアは言った。「スコールが幼い頃、そう望んだわけではないのにあの子のそばにいられなかったあなたには冷たく聞こえるかも知れませんが、あの子にはもう親の庇護の手など必要ありません。そんな時期は、もう過ぎました。ただ守られることなど、今のあの子には邪魔なだけです」 その言葉に、ラグナの表情がこわばった。 「しかし、あの子はもう自分では何もできない小さな子供ではありませんが、かといって、自分で何でもこなせるほど大人でも、強くもありません。そして、親が子に与えるべきは、ただ庇護だけではありません。あなたは、あの子が今一番必要としているものを用意なさいました。ようやくこれから盛りを迎えようとしている自分の時間を自分の手で守るための手段を。それは、あなたにしかできないことでした。そしてあなたがあの子のためにすべきことはまだあります」 ラグナは、イデアの話が理解できずにいた。言葉の意味そのものはわかる。しかし、彼女が言わんとしていることがわからなかった。ましてや、自分がスコールのためにまだすべきことがなんなのか、想像もつかなかった。 だが、それを問うこともできず、彼は彼女に背を向けたまま黙っていた。 「私はさきほど、スコールの小さい時の話は今はしない方がいいと申し上げましたが、ひとつだけお話ししましょうか」 イデアは自分の手元を見つめ、ひと息ついた。そして、記憶をさぐりながら、再びゆっくりと語り始めた。 「スコールはものごころもつかないうちから、本当に人見知りの激しい子でした。大人たちにはもちろん、同じくらいの年の子供たちとすらうちとけることがほとんどなく、ただひとり、エルオーネだけにべったりで。エルオーネは優しくめんどう見のいい子で、特に年下の子供たちには『おねえちゃん』と呼ばれて大変慕われていましたが、エルオーネが他の子供となかよくすることすらスコールには気に入らなかったようです。−−−−スコールが4才、エルオーネが10才の時でしたか。エルオーネが何度も誰かに−−−あとで、オダイン博士の命を受けたエスタ兵だとわかりましたが−−−さらわれそうになったことがあって、居場所をわかりにくくするためにエルオーネを船に移すことにしました。その頃はちょうど孤児院が手狭になっていましたしエルオーネにも遊び相手が必要でしたから、3分の1ほどの子供たちもいっしょに船に移住させましたが、その中にスコールは入れませんでした。あえてふたりを引き離すことでスコールに他の人とも関わりを持つことを教えようとしてのことでしたが、その結果はうまくいったとは言い難いものでした。あの子はますますかたくなになって、必要なことすらほとんどしゃべらなくなりました。そのあと何もなければ結局こちらが根負けしたかも知れませんが、それからまもなくアルティミシアがやってきて、ガーデンを設立することになり、頭も運動神経もよかったスコールはSeeD候補生としてガーデンで養育することになったので、結局あの子が再びエルオーネと暮らすことはありませんでした。やがてスコールの記憶も薄れ、エルオーネを恋しがって泣き出すことはなくなりましたが、その時の喪失感はあの子の心にしっかりときざみこまれてしまったようです。失うことを、裏切られることを恐れるあまりに、人に頼ることも頼られることも許さない、悪い意味での独立心を身につけた少年にと育ってしまいました」 イデアは、自分を取り戻したあとに見たスコールの様子を思い出し、かすかにほほえみを浮かべた。だが再びきびしい表情に戻ると、彼女は続けた。 「最近になって、あの子は少し変わりました。SeeDになり、ガーデンの学生たちのリーダーという役目を負わざるを得なくなったことで、友情の素晴らしさを、人を信頼することの大切さを、人に信頼されることの喜びを覚えました。新たな出会いの中で、人を愛することも知りました。ですが・・・・・・・・・・他人を拒絶して過ごした時間が長すぎたせいか、あの子はまだ人との関わりをうまく持つことができません。私は、それが不安なのです。あの子が帰り道を見失わないだろうかと。−−−−私は、あの子が無事に本来在るべきところに戻ってくるかどうかを知りません。私がこれから起こることで知っているのは、SeeDたちがアルティミシアとの戦いに勝つこと、そして、17才のスコールも、アルティミシアと共に13年前に行ってしまうこと」 「スコールが・・・・・・・・・・・13年前に?」 「あの時、孤児院の庭に現れたそこにいるはずのない人間は、アルティミシアだけではありませんでした。もうひとり、17、8の少年もいました。今となっては、その少年の顔をはっきりとは覚えていません。しかしその少年は、ガンブレードを持っていました。ご存じかと思いますが、ガンブレードは非常に威力があるものの、扱いも大変難しい、使用者を選ぶ武器です。ガーデンでは多くのSeeDたちを輩出してきましたが、ガンブレード・スペシャリストのSeeDになったのはスコールただひとりです。ですから、あの少年はやはりスコールだったのでしょう。戦いのあとあの子が仲間たちといっしょにここに帰ることなくひとりで13年前に現れたのは、未だ息の残っていたアルティミシアを追っていったのか、あるいはあの時に戻ってエルオーネを取り返したいと思う気持ちがどこかに残っていたからか・・・・・・・・・。その理由はわかりませんが、しかしあの子は、自分の居場所がここにあることを理解しきれないまま別の時間にひきずられて行ってしまった、そんな気がします」 それまで静かに、伏し目がちに語っていたイデアは、ふと顔を上げた。そして、自分にも言い聞かせるような力強い口調で続けた。 「しかし、スコールが帰るべき場所はここなのです。ここ以外のどこにもありません。ここには、あの子がこれから共に生きていくべき仲間とそして−−−−−。あなたはスコールといっしょに戦えないことを嘆いておられましたが、そんな必要はありません。あなたはここにとどまらなければならないのです。ここに残って、あの子を待っている人がもうひとりいることを教えてあげてください。あなたは多くの親がそうするようにスコールを養い育てることこそしませんでしたが、あの子を想う気持ちは並の親などより強いものをお持ちです。そのお心で、あの子の帰り道の道しるべになってあげてください。−−−−もしかしたら、その結果もすでに決められているのかも知れません。しかし私たちは、これから起こることを知りません。知らないということは、決められていないのと何も変わりません。未来に抱く希望も不安もすべて、間違いなく私たち自身のものです。そしてこの先には、努力したならば努力したなりの、投げやりになったのならば投げやりになったなりの結果が用意されていると私は思います。ですから、自分がやるべきことはすべてやったと自信を持ってスコールの前に立ってください。そしてあとは、スコールが無事に帰ってくることを信じて待っててあげてください」 「信じて待つ、か・・・・・・・・・・・・・・」 ふと思い出されたのは、レインとエルオーネのこと。 待っていてくれる人がいるというのがどんなに心強いか、オレは知っている。 信じてくれる人がいるというのがどんなにはげみになるか、オレは知っている。 今度はオレが支える側になるというのも−−−−悪くないかもな。 ラグナはイデアのそばに歩み寄ると、彼女の手を握った。 「−−−−ありがとな、イデア。あんたにはまたオレの考え違いを直してもらっちまった」 「また?」 「そ。『また』」ラグナはにこっとして言った。「オレにだって17才の頃はあった。その時のことを思い出してみれば、あんたの言う通りだよ。まだちょっと頼りないけど、十分自分の足で歩いていける−−−−。そこんとこをかんちがいしたままヘンに子供扱いなんかしたら、かえってあいつに嫌われちまうよな。スコールももうそういう年だってことは理屈ではわかってるつもりだけど、やっぱしそこまで育つのをそばで見てなかったせいか、実感がわかなくてさ。そうとう意識してないとダメみたいだ。−−−−あんたはそのことに気づかせてくれた。感謝するよ、イデア」 「そんな・・・・・・。私は、その、やはりいらついていたんでしょうか、ついあなたにきついことを申し上げ−−−−−」 「ナニ言ってんだ。それでよかったんだよ。おかげでやっと、あいつに会う勇気が出てきた。オレは、自分がするべきことも人に言ってもらわなきゃわかんないようなできそこないの親父だから、そのあとのことを考えるとやっぱしいろいろ心配になってくるけど、がんばれそうな気にはなってきたし。−−−−そんでさ。もし、またどうしたらいいか困ったら、あんたに泣きついてもいいかな?大の男が何を情けないことをなんて思わないで、親としての経験が17年分すっぽり抜けてるんだからしかたないなーとあきらめてさ」 「ええ−−−−もちろん」 イデアはラグナの手を握り返した。 「おっし!そんなら、スコールとやりなおすための時間をアルティミシアなんかに取り上げられないように、いつまでも落ち込んでないで元気出さなきゃな!−−−−そんで、無事に全部かたづいたら、今度こそスコールと、それからエルオーネの小さかった時の話、聞かせてくれよな。オレがあの子たちを育てたんじゃないというのを忘れちまうくらい、いっぱいさ」 「そうですね。きっと、そんな時が来るでしょう。私も、お話しできるのを楽しみにしています」 張りつめていたイデアの表情がほころんだ。 それを見て、ラグナも気持ちが和らぐのを感じた。 |
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昼をかなり過ぎた時間になっても、ラグナは大統領執務室から出てこようとしなかった。 さすがに心配になって、キロスとウォードは部屋の様子を確かめてみた。 そこには、誰もいなかった。 どこに行った−−−−?!驚いてふたりが中に飛び込もうとした時、どこからか高いびきが聞こえてきた。 それは、部屋の隅のソファーの方からだった。 彼らが背もたれの陰からそっとのぞいてみると、最初はソファーの上にあったのがころがり落ちてそのまま、という風情の毛布の固まりが床の上に落ちていた。いびきの元は、それだった。 ウォードはそれをゆさぶってみた。 「ぐ・・・・・・・・・・・・・?」 騒音が止まった。 「・・・・・・・・・・・・・・・んあ?」 毛布の中から、ラグナがのそーっと顔だけ出した。 「なんだ、おまえらか・・・・・・・・・・・。ガーデン、見つかったのか?」 「いや、まだだが・・・・・・・・・・・・・」 「だったらもうちょい寝かしてくれよ・・・・・・・・・。ゆーべ寝ついたの、夜明け頃なんだからさ・・・・・・・・・」 そう言うと彼は、またもそもそとみのむし状態に戻った。 「それはかまわないが−−−−−。でも、それだけ寝たのなら、一度起きたらどうだ?もう昼の2時過ぎだぞ」 「へ・・・・・・?2時?!」 ラグナはあわてて飛び起きた。その勢いで、頭をソファーの脚にしたたかに打ちつけた。 彼は涙目になりながら頭を押さえて起きあがった。そして時計を見るなり叫んだ。 「うっわ〜〜〜、ホントにもうこんな時間じゃねえか!こんなにぐっすり寝ちまったの、何日ぶりだあ??なんで起こしてくれなかったんだよ!!」 「ガーデンが見つかったのならばともかく、そうでなければ邪魔しない方がいいと思ったのでな・・・・・・・・。しかし、まさか熟睡しているとは思わなかったぞ」 「ず〜〜っとマトモに寝てなかったんだから少しくらいいーだろが。−−−−で?ガーデン、まだ見つかってないって?」 「ああ。目撃情報から、どうも内海にいるらしいということまではわかった。しかし、陸上ならともかく、海の上ではどうにも捜索範囲がしぼりきれなくてな。海軍が総出で探しているが、まだなんとも」 「んも〜〜〜、まどろっこしいな。電波障害はなくなったんだ、無線で呼び出しゃいいだろが」 「通信というのはだな、送り手と受け手双方がいてこそ成立するんだ。ガーデンには無線を受信できる設備がないとイデアが言っていた。だから、苦労しているんじゃないか」 「あ〜〜〜、そっかあ・・・・・・・・・・」 ラグナはしばらく頭をばりばりかいていたが、その手を止めると言った。 「でも、飛空艇の方なら呼び出せるだろ?向こうが通信機能をオフにしてても、こっちの操作でオープンにできるはずだし。派遣されてくるメンバーの大半はガーデンじゃなくってそっちの方にいるはずだ。そっちと直接交渉しちまえ」 「だが、飛空艇の行方は現在かいもくわかっていない。どこにいるかもわからない相手に無線を送ろうというのならば、全世界的に発信する必要がある。エアステーションならばそれだけの出力と受信側の回線を操作する機能があるがしかし、OCRシステムが障害になって、国外にいるのではとても無理だ。OCRパネルを消せばできないことはないが、一度ダウンさせたらシステム復帰まで1週間はかかる。その間にガルバディアが援軍を送ってきたりしたら戦況が不利に」 「どーせ2、3日で全部ケリをつけるんだ、それっぽっちの時間じゃきっとなんもできねえよ。かまうこたあねえ、システムをダウンさせちまえ。そんならやれるだろ?」 「技術的には大丈夫だと思うが・・・・・・・。まだ問題がある。SeeDたちは、エスタからリノアを奪取して逃げたんだ。そのエスタから派遣要請が来たからって、彼らが簡単にのこのこやってくると思うか?」 「あ・・・・・っと。それもそうか・・・・・・・・・・・・」 ラグナは腕を組み、考え込んだ。そして唐突に、いかにも何かいいことを思いついたとばかりにぽんっ、と手を叩いた。 「そーだっ。キロス、おまえ、エアステーションに行けよ」 「私が?何のために?」 「おまえの名前を出してあいつらに呼びかけてみるんだよ。おまえらもエルオーネに聞いてるだろ?あのSeeDたちこそが『妖精さん』の正体だってさ。つまりあいつらは、オレたちの若い頃のことを知ってる。だけど、今どこでナニをやってるのかまでは知らねえんだ。それが突然こんなところからわいて出てきたら、びっくりして飛んでくるかも知れねえぞ〜〜〜〜〜〜」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「これまたずいぶんつまらないことを考えついたものだな・・・・・・。それで、どうして私がなんだ?そんなにいたずらをしたいのならば、自分でやればいいだろう。第一、君がやった方が効果的じゃないか?君のところに来ていたのはスコールくんなんだろう?」 「真犯人は最後に登場するモンだと相場は決まってるだろ?だからオレが出ていくのは最後の最後なのっ」 「それを言うなら、『真打ち』だと思うな・・・・・・・・・普通は」 「あれっ?オレ・・・・・・・またなんか間違えたか?」 ラグナは真っ赤になってあとずさった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「確かにこの場合、『真犯人』でもあながち間違いではないかもな」キロスは苦笑した。「まあ、よかろう。君のいたずらにつきあってやる。うまくひっかかってくれなかったところで、ガーデンを発見次第あらためて幹部職員に要請すれば済むことだし」 そしてキロスは立ち上がりながら、ラグナの肩を叩いた。 「ラグナくん・・・・・・もう、大丈夫だな」 「おうっ!オレはいつだって絶好調だぜ!!」 「・・・・・・・・・・・・・・」 昨日は今にもぶっ倒れそうな青白い顔をしていたくせに−−−−とウォードの表情は言っていた。しかし、たまたま彼に背中を向けていたラグナはそれに気づかなかった。 「それでは、これからすぐにエアステーションに行ってくる。しかし、彼らの好奇心が警戒心に勝ったところでわずか2、3時間で来ることはないだろうから、君は一度家に帰って少し身ぎれいにしてこい。そんな浮浪者のようななりでは、君がエスタの大統領だなんて言っても、スコールくんに信じてもらえんぞ」 「ん?オレ、そんなヒドいかっこして」 その時、ラグナの腹の虫が鳴いた。 「・・・・・・・・・ついでに飯食ってきていいか?そーいやオレ、昨日の昼からなんにも食ってねえんだよな」 「いいから行ってこい!」キロスは力が抜けそうになった。「ウォード、こいつのお守りを頼む。元気になったらなったで、何かしでかしそうで心配だ」 |
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ウォードやSPたちと共に官邸の外に出てみると、エスタシティは濃い霧に覆われていた。 ラグナは妙な気分になった。昨夜の嵐といい、まるで自分の胸の内を見ているようだった。 イデアと話をしたことで、気持ちはずいぶん落ち着いていた。しかし、不安や恐れがすっきりすべてなくなったわけではない。 それは今に限ったことじゃない。一歩先が見えないのは、いつだって同じ。 しかし、どんなに不安があっても、何度失敗をしても、それでもまだ見ぬ未知の場所へ、未知の時間へ行くのは楽しくてしかたがなかった。 それは、支えてくれる人たちがいたから。 キロスにウォード、エスタの市民たち、そして、世界中を駆け回るうちに知り合った多くの人々。 オレはひとりじゃない。 それはおまえもだ、スコール。 それさえ忘れなければ、おまえはなんだってできる。 |