SECOND MISSION〜Final
Fantasy VIII・IF〜
〜エスタ(2)・5〜
官邸のバルコニーに出ると、またたく間に息が白く凍りついた。防御バリア越しに外では雹まじりの雨がぱらついているのが見える。いくらまだ春浅いとはいえ、一年を通じて雨が少なく温暖なエスタでは珍しいことだった。 −−−−まったく、変な天気が続くよな。 ラグナは手すりによりかかり、エスタの街を見渡した。まだ昼前だというのに、夕暮れのような暗さだった。それにもかかわらず、街に明かりはほとんど見えない。 −−−−いいかげんに、なんとかしないとな。エルオーネもすっかり待たせちまったし。 彼女の身も心配だったが、それだけではなかった。アデルが封印の後遺症から回復すれば、必ず何か起こる。それが何かはわからないが。残された時間は、確実に残り少なくなっていた。 リノアを自由にしたことで、ルナティックパンドラ突入作戦は変更を余儀なくされた。そして、計画はまだ固まりきっていなかった。 リノアをスコールに返したこと、そうしたことに、それなりの根拠もなかったわけではない。アルティミシアはSeeDたちにマークされたことを不利と判断し、イデアを解放した。その連中がそばにいるのだからそう簡単にはリノアにも手を出してこないだろうと踏んでのことだったが、アデルがいなくなればそれもどうなるかわからない。 それにラグナには、もうひとつ不安があった。今度こそエルオーネを魔女にしてしまうんじゃないかということだ。十分な環境が整えられない状況下でアデルを再封印するのは難しいことだし、たとえ可能だとしてもやはりいつまでも危険を温存しているわけにはいかないだろうと、アデル殺害の方向で話は進んでいた。彼もそうすべきだと思っていた。 しかし、アデルのエルオーネに対する執着が今も残っていたら。 だが、魔女が死ねばその後継者が生まれる、それは止められない。そして誰が後継者になるかは、死の時を迎えた魔女が決めること。誰かが必ずアデルの後継者になる。エルオーネが選ばれなければそれでいいというものでもないだろう。 不安はあっても、覚悟はできていた。たとえエルオーネが魔女になったとしても、オレはあの子を愛してやれる。魔女への偏見と恐怖心が少しでもなくなるよう、人々に働きかけることもできるだろう。それは、すでに魔女になってしまったリノアのためにもやらなければならないことだ。 リノア−−−−今、どこでどうしてるのかな。SeeDたちは彼女を連れてまたエスタの外に出てしまったらしいから、居場所すらわからない。しかし外で何か起こった様子もないから、今のところは無事なんだろう。 彼女がまたなんらかの形で利用される可能性は100パーセントではないとはいえ、ゼロでもない。そして、アデルがいなくなればその確率がはね上がるのは想像に難くない。軟禁とか監視とかまではしないにしても彼女の状態を十分に把握し、万が一の場合の対策もたてておかないことには、ヘタに動くことはできない。となるとやはり、ガーデン側と連絡をとって協力をあおぐべきか・・・・・・・・・・・。 ラグナの眉間にしわがよった。 ・・・・・・・そーなると、スコールにも会わなきゃならないんだろうなあ。 だけど今会うとなると公的な立場を第一にしなきゃなんないんだよな生まれてこのかた生き別れになってた息子に初めて会うって時に父親の顔ができないなんてヒドいよなせめて少しでも時間稼ぎができたあとならともかく状況は完全にせっぱつまって追いつめられちまってるもんなやっと会えたことを喜ぶヒマなんてかけらもないんだろうな−−−−ったく。 ラグナは深々とため息をついた。 まあ、それもしゃーねーか。もっと落ち着いて会えるチャンスはいくらでもあったはずなのに、オレが変に会うのをしぶったり妙ないたずらっ気を出したりしたせいでこうなったようなもんだし。だいたい、こんなことでもない限りなかなか勢いがつきそうにねえや。今だって、あいつに会うことを考えただけで足がつりそうだ。情けないったらありゃしねえ。なんだって実の息子に会うのにこんなに緊張しなきゃなんないんだか。 とにかく、そうとなりゃ一刻も早くどうにかしないと。ガーデンも飛空艇もそうとう目立つモンだ。探すのはそんなに難しくは−−−−−。 「大統領、こんなところにいらしたんですかっ」 振り向けば、秘書官のひとりが戸口のところに立っていた。 「呼び出し放送をかけてもいっこうに返事がないと思ったら・・・・・・・。ひとりで外に出ないでくださいとあれほど言ったでしょう?心配しましたよ!!」 「外っつったってここくらいいいだろが。街中にまで出てったわけじゃないんだぜ。ここならバリアは張ってあるんだから、雨も降り込んでこなけりゃモンスターは寄ってもこないんだしよ。いちんちじゅう監視つきで部屋ん中にこもってたりしたら息がつまっちまう」 「バリアはあっても室内より危険なことに変わりはないんですよっ。それに、外気温の影響は受けるんです。すぐ暑いだの寒いだの文句を言うくせに、好きこのんでこういうところに来るんですから。さっさと執務室にお戻りください。オダイン博士がお待ちです」 「オダインが?」 |
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執務室でオダインは大統領の椅子にいらいらとふんぞりかえっていた。そしてラグナが部屋に入ると同時に椅子の上に立ち上がってどなった。 「ラグナ!オダインにはあちこちちょろちょろするなと言っておいて、自分はどこをふらふらしていたでおじゃるか?!」 「わりぃわりぃ。ちょっと気分転換してただけだよ。で、今日は何の用だ?なんか要るもんがあるんなら別にオレを通さなくても担当者に直接言えば済むようにしてあるって言っただろ?」 「時間移動実験の手順が固まったでおじゃる。これは最初にラグナに言わないといけないんでおじゃろ?」 「へ?もう?!」 あれからまだ2日とたっていない。 「オダインは天才でおじゃる。一度ひらめいてしまえばあとは簡単でおじゃる」 「そんなら、ナニをどんなふうにどうすりゃいいんだよ?!」 「そんなにあせらないでおじゃる。まずは理論から話すでおじゃる。ラグナでもわかるように簡単に説明するから、よく聞くでおじゃるよ」 そう言ってオダインは机の上にあった書類を1枚適当にひっぱりだすと、それを使って説明を始めた。 「空間というのは一枚の紙のようなものでおじゃる。普通物を動かすには、紙の表面をすべらすしかないんでおじゃるな。だけどたいていの魔女はこんなふうに空間を曲げて全然離れた場所を接触させて、その地点で物を移動させることができるんでおじゃる。これが瞬間物質移動魔法、テレポでおじゃる。ここまではわかるでおじゃるな?」 「ああ。そんで?」 「時間移動も同じなのでおじゃる。ただ、空間という紙を曲げられる魔女はたくさんいても、時間という紙を曲げられる魔女はいないのでおじゃる。しかしアルティミシアは、時間を曲げる力を持っているらしいでおじゃるな。ジャンクション・マシーン・エルオーネ改良型を使ってではおじゃるが過去をただ見るだけでなく魔力をオダインたちの時代に送り込み、イデアやリノアを完璧にあやつったことからして、少なくともとんでもない力を持った魔女であることは間違いないでおじゃる。それがどうして時間を曲げるのにエルオーネの力を必要とするのか、どうしてエルオーネの力を使えばできるとアルティミシアが考えたのかはなんとも言えないでおじゃるが、とにかく、オダインたちの時代にやってきたアルティミシアの心と魔力をエルオーネの力でさらに過去に飛ばすことによって、時間移動は可能になると考えられるのでおじゃる」 「ホントかねえ・・・・・・・・・・」 「アルティミシアがそう考えているのは確かでおじゃる。アルティミシアがいるのは何十年か何百年か、とにかくずーっと未来でおじゃるから、それまでにいろいろと研究が進んで何か根拠となる発見があったのかも知れないでおじゃるな。それがなんなのか、オダインには心当たりすらないでおじゃるが。くやしいでおじゃる。これも研究してみないといけないでおじゃる」 「ま、それは世の中が落ち着いたらやることにして、今は時間移動の実現に専念してくれや。それで、え〜〜〜と、・・・・・・・・・・ちょっと待てよ。つまり、アルティミシアにヤツがたくらんでることを実行させてやれ、ってことか?!」 「ラグナにしてはなかなか飲み込みが早いでおじゃるな。そのとおりでおじゃる」 「冗談じゃねえよ!!それを阻止するために時間移動を可能にしろって言ってるんだぞ!?あんたの興味や好奇心を満足させるためじゃねえんだ!」 「時間を曲げられるのはアルティミシアだけでおじゃる。そうするしかないでおじゃるよ」 「だけどなあ、それじゃアルティミシアに好き勝手させることになるだけじゃねえか!それとも、ヤツが都合よくこの時代に退治されに来てくれるとでも言うのか?!」 「ま〜だラグナは何かかんちがいしているでおじゃるな。アルティミシアがやろうとしているのは時間『移動』ではないでおじゃる。時間『圧縮』でおじゃる」 「どう違うってんだ?」 「全然違うでおじゃるよ」オダインはまた紙をつまみ上げた。「時間『移動』は特定の2ヶ所の時間を接触させてその接点を移動することでおじゃる。移動が済んだあとは、時空は元通りに戻るでおじゃる。しかし時間『圧縮』はこういうことなのでおじゃる」 オダインはそう言うと、紙をくしゃくしゃに丸めて思いっきり固めた。 「こんなふうに、時間・空間・物質のすべてをめちゃくちゃにして押しつぶすことなのでおじゃる。移動のための2ヶ所が接しているだけでなく、どことどこがつながっているのかわからない状態になるのでおじゃる。そして最終的には、前も後ろも過去も未来もない、単なる点になって消えてしまうのでおじゃる」 そして丸めた紙をぽいっと投げ捨てた。 「だったら、それこそ危険な−−−−−−−!」 「危険かも知れないでおじゃる。でもそれが、唯一時間移動が可能になる時なのでおじゃる。うまくいくとは限らないし、たとえうまくいっても1度きりになるとは言ったでおじゃろ?」 「それは聞いた。だけど・・・・・・・・・・・」 「テレポですら、どんなに能力のある魔女でも魔力を集中するのに時間が必要で、一瞬ではできないでおじゃる。時間圧縮なんてことには、それこそかなりの時間がかかることでおじゃろうな。時間がつぶれる前に、あちこちの時間がめちゃくちゃに接触する時間、っていうとなんかヘンでおじゃるが、とにかく、そういう時間がある程度存在するはずでおじゃる。時空間がつぶれきらないうちにアルティミシアの時代をめざして移動し、アルティミシアをやっつけるのでおじゃる。そしてアルティミシアがいなくなれば時空はまた正常な形に戻ろうとするでおじゃるから、まだゆがんでいるうちに帰ってくるのでおじゃる」 とっぴょうしもない話だった。しかしオダインの学者としてのプライドはとんでもなく高い。確信を持っていなければ、ここまで力説はしない。 「・・・・・・・・・・・理屈はわかったよ。だけど、もし失敗したら取り返しがつかないことになるじゃんか。絶対に成功するんだろうな?」 「実は、ひとつ問題があるのでおじゃる」オダインは、彼に似合わぬまじめな様子で続けた。「テレポでも、どこでもところかまわず物や人を移動させられるわけではないのでおじゃる。魔女によって違うでおじゃるが、実際に行ったことがある、行ったことはなくても写真が目の前にある、知っている人間がいる−−−−そういった、目標をきっちりと定められる場所にしかテレポできないのでおじゃる。それはエルオーネにも言えるでおじゃる。エルオーネの場合は、直接会ったことがあり、個人を特定できる人間を目標としているのでおじゃるな。それと同じで、時間移動するのにも目標物が要るのでおじゃる。だから、過去への移動はできても、未来への移動は基本的にできないのでおじゃる。過去は、数十年くらい前までなら直接経験している人間が生存しているでおじゃるしそれ以前も記録がいろいろと残っているでおじゃるけど、未来を経験している人間はひとりとしていないでおじゃるからな」 「だけど、アルティミシアという名前の魔女が未来にいることだけはわかってんだ。それで十分じゃねえのか?」 「もしかしたらそうかも知れないでおじゃる。でも、これまでにやった地名や人物名だけを目標とするテレポ実験の結果から、成功率はほとんどゼロに近いと推定されるのでおじゃる」 「だったら、どうしようもないってことじゃねえかよ!」 「ところがでおじゃるな。圧縮されかかって乱れきった時間の中、アルティミシアの存在を確実に追って未来に行くことができる人間がたったひとりだけいるのでおじゃる」 「−−−−−たったひとり?誰だよ、そりゃ?」 オダインは不意ににまーっと笑った。 「今はナイショでおじゃる」 「おいっ!ここまで話しといてそりゃねーだろが!!もったいぶらずにさっさと言えよ!!」 「オダインは2度も3度も同じことをしゃべりたくはないのでおじゃる。−−−−ルナティックパンドラ突入作戦はまだ実行してなかったでおじゃるな?ちょうどエルオーネもアデルもそこにいることでおじゃるし、作戦と同時にこの実験をやりたいでおじゃる。指揮官たちを集めるでおじゃる。続きはそれから話すでおじゃる。今ラグナに話したことは文書にしてあるでおじゃるから、その前にこれを読ませておくでおじゃるよ」 オダインはたもとからしわのよった数枚の紙を取り出すと、ラグナに渡した。そして椅子から降り、すたすたと出口に向かった。 「わかったよ、すぐに召集するよ。だけど、その、アルティミシアを追えるって人間が誰かくらい話してくれてもいいだろが!さっきアデルがどーのって言ってたけど、まさか、アデルだってことはねえだろな??」 「ハズレでおじゃる」 「そんなら誰なんだよ!」 「だから、それはあとのお楽しみでおじゃる。ラグナはいつもいつもオダインにいぢわるばかりするでおじゃるからな。たまにはオダインがラグナにいぢわるしたいのでおじゃる」 「オレがいつあんたにいぢわるしたってんだよ?!」 「してないとでも言うでおじゃるか?この間も、魔女・リノアを勝手に逃がしてオダインの邪魔をしたばかりでおじゃろうが」 「んなこといちいちネに持つなよ・・・・・・・・・」ラグナは頭をかかえた。「・・・・・・・・・・・しゃーねーな。待っててやるよ。だけど、かんじんな時にまで大事なことを話さないなんてことはしねえでくれよな」 「オダインだって、つぶされて消されるなんてことはごめんでおじゃる」 「そうだよな」 |
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官邸の一室に集まったのはラグナにリントナー、キロスとウォード、ルナティックパンドラ突入作戦を直接指揮するエスタ軍将校3人。そしてもうひとり、イデアもそこにいた。 「−−−−時間移動の理論は以上でおじゃる。時系列をひずませる方法が魔法学的にも物理学的にも発見されていないでおじゃるから実証は不可能でおじゃるが、これでほぼ完璧とオダインは断言するのでおじゃる」 同じことを何度も話したくないと言いながら、オダインは彼らを前に理論的な部分から熱弁をふるっていた。結局、しゃべるのが大好きなじいさんなのだった。 「そして、テレポ魔法同様、時間移動にも目標となるものが必要なのでおじゃる。移動先が過去ならば目標物はいくらでもあるでおじゃるが、記録もなければ記憶を持つ人間もいない未来となるとはっきり言って何ひとつないのでおじゃる。しかし、移動先をアルティミシアが存在する時空間に限定すれば、現在にもたったひとり、アルティミシアを指標として確実に意図した未来の時空間に移動できる人間がいるのでおじゃる。−−−−−それは、魔女・リノアなのでおじゃる」 「な・・・・・・・・・。リノアが?!」 「そうでおじゃる。−−−−−イデアはふたりの魔女の後継者であり、そのうちのひとりはアルティミシアだと言っていたでおじゃるな?」 「そうです」 「そしてリノアはイデアの後継者なのでおじゃる。つまり、リノアはアルティミシアの2代あとの後継者なのでおじゃる。アルティミシアより過去に生きているのにもかかわらず、アルティミシアの存在を内包しているのでおじゃる」 「そんなら、イデアにもアルティミシアを追うことは可能なはずじゃ−−−−−」 「イデアはもう魔女ではないのでおじゃるから、まず無理でおじゃる。魔女同士のむすびつきというものは、生命の遺伝的な関係とは別質の、ひじょーに強いものがあるのでおじゃる。アルティミシアがもっぱら過去の魔女のところに自分の心と魔力を送っていたのは魔力の増幅器として使うためではないかとイデアは言っていたでおじゃるしオダインもそう思うでおじゃるが、それだけではないでおじゃる。魔女であるアルティミシアには、ふつうの人間よりも魔女の方が存在を認識しやすいというのもあったからでおじゃる。イデアが魔女ではなくなった今、リノアは直接のではないでおじゃるがアルティミシアの後継者と言っても間違いではない存在でおじゃるし、それに、じかにアルティミシアの力を受けてあやつられてもいるでおじゃる。だから、アルティミシアのところに行こうというのならば、リノアを使うのが最適・唯一の方法でおじゃる。ラグナが封印前にリノアを逃がしてくれて本当によかったでおじゃる。いったん封印してしまうとそれがどんなに短時間のことでも、その影響が抜けきるのには時間がかかるでおじゃるからな。リノアを封印しなかったおかげで、実験の成功率がぐんと上がるでおじゃる」 「ばかやろう、オレはそんなつも−−−−−!」 リントナーが無言でラグナを制した。ラグナの命令でリノアを解放した事実はともかく、その理由が感情的なものだったということはリントナーが外部に伝わらないようにしていた。その場にいる将校たちにも知られていない。 ラグナはやっとのことで本当に言いたい言葉を飲み込むと、続けた。 「−−−−−リノアならアルティミシアのところに行けるのはわかったよ。だけど、それになんの意味がある?新米魔女ひとりが行ったところで返り討ちにあうのがオチだろが」 「リノアを案内人にすればいいのでおじゃる。アルティミシアは無理でも、リノアをなら他の人間でも追えるでおじゃる」 「ですが、オダイン博士」将校のひとりが言った。「我々は、魔女・リノアに会ったことすらありません。それでも可能なのでしょうか?」 「訓練すればともかく、すぐには無理でおじゃろうな。だけど、今すぐでもリノアといっしょにアルティミシアのところに行けて、しかも戦って勝てる優秀な兵隊がいるんでおじゃろ、イデア?」 「はい。−−−−−SeeDたちならば、大丈夫です」 「SeeD−−−−−−!」 そうだ、それだったんだ・・・・・・・・・。ラグナは思い出した。イデアに聞いた話の中で忘れていた、何か大事なこと。避けていたと言うべきだろうか? 「彼らはリノアを仲間として、友人として認め、それは彼女が魔女となってしまった今でも変わりません。いえ、魔女になったことでさらに強まったようでもあります。彼らならば、どんなに混乱した時空間の中でも、リノアの存在を見失うことはないでしょう」 アルティミシアと戦うことになるのはSeeD。イデアはそう言っていた。 「そして彼らが優秀な戦士であることは多くの実績が証明することであり、それはあなたがたもご存じのことと思います。そのほとんどは普通の人間を相手とする戦闘やミッションですが、ガーデンでは、魔女であった私の知識や経験を元に対魔女訓練もほどこしてきました。その教育が有効であったことは、はからずも私自身が彼らの『敵』となったことで確認されました」 そしてその中には当然スコールも含まれる。あいつはSeeDたちのリーダーであり、そしてある意味、リノアに一番近しい存在なんだから。 「それから、作戦ではアデルを殺すことになってたでおじゃるな?アデルが死んだら魔力をリノアに継承させたいでおじゃる」 「魔女・リノアに?こちらの意図通りにいくのですか?継承者は瀕死の魔女の意志で決まると聞いていますが」 「普通の人間にはできない芸当でおじゃるが、魔女ならば、死にかけた他の魔女の力を吸収できるのでおじゃる。イデアはそうやってアルティミシアの後継者になったのでおじゃる。アデルとリノア以外の現在いる魔女の魔力はたかが知れたもんでおじゃるから、アデルの力をリノアに継承させて、強力な魔女をリノアひとりにしてしまえばアルティミシアは確実にリノアを使おうとするでおじゃる。そして、リノアを経由することで時間圧縮魔法を発動させれば、時間移動の精度はさらに上がるでおじゃる。カンペキと言っていいほどでおじゃる」 アデルの死後エルオーネが魔女になってしまうのを恐れてはいたさ。しかし、こんなことも望んでいたわけじゃない・・・・・・・・・・・! 「ラグナ!オダインの話を聞いてるでおじゃるか?!」 「聞いてるよ」ラグナはむすっとして答えた。「『実験』は一度きりしかできない。考え得る限りの条件を整えて、成功率を上げなければならない。そのためには、リノアとSeeDたちにまかせるのが最適だ。−−−−つまりは、そういうことだろ」 「その通りでおじゃる。それだけわかっていればいいでおじゃる。−−−−さて、ここまでがオダインの仕事でおじゃる。あとはラグナたちの仕事でおじゃるよ。オダインはぎりぎりまで手順の見直しをするでおじゃる。SeeDが来たらまた呼ぶでおじゃる」 オダインはいったん研究所に戻っていった。 将校たちは小声で打ち合わせを始めた。 ラグナは腕を組み、黙りこくって考え事をしていた。 「−−−−−ラグナさん?」 リントナーが彼に声をかけた。 「ん・・・・・・・・・」ラグナは座り直すと、将校たちに言った。「今の話の通りだ。ここで一気にカタをつける。もう時間がないから、SeeDたちが到着次第、作戦を決行する。SeeDが参加することを考慮して至急、作戦の最終調整をしてくれ。アルティミシア討伐の件については、一般兵士たちには伝えなくていい。教えたところで未来にまでついて行けそうにないんなら、余計な恐怖心をあおるようなことはしなくてもいいだろ。それよりも、SeeDたちが現代での戦闘で無駄な体力を使うことのないよう、彼らを全面的にサポートして欲しい。−−−−以上だ」 ここでの話はすべて済んだと判断すると、将校たちは急いでそこを立ち去っていた。 彼らがいなくなると、ラグナは疲れ切った表情で椅子に沈み込んだ。 背中を丸め、頭をばりばりかきむしった。 そして腕を組み直すと、目を閉じた。 「−−−−それでは、全世界の駐在員に連絡して、大至急バラムガーデンの所在を確認し、SeeDの派遣を要請します」 ラグナの指示を待てなくなり、リントナーは言った。 「頼むな。・・・・・・・でも、ガーデンが見つかっても、派遣要請はしばらく待ってくれ」 「しかし、もう一刻の猶予も−−−−−」 「わかってる。選択の余地はない。決断は、する。−−−−だけど、頼むから、一晩だけでいいから、時間をくれないか」 ラグナはそう言うとふらりと立ち上がり、部屋から出ていった。 リントナーはラグナを追おうとした。キロスはそれを止め、言った。 「SeeDの派遣を要請すれば、間違いなくスコールくんが彼らのリーダーとしてやってくる。そして、ずっと生き別れになっていた息子に会ってラグナくんが最初に言わなければならない言葉が、いったいどんなところかもわからない戦場に戦いに行け、なんだ。その気持ち、察してやってくれ」 「ええ、たぶんそうなるでしょう。気持ちもわかります。だからこそ、心配なんです。本当に大丈夫なんでしょうか。息子さんかわいさに、また判断を誤るなんてことは」 「大丈夫だよ。リノアの場合は、少々根拠が薄弱だったとはいえ、そうしても問題ないと判断できる材料があったからこそ逃がしたんだ。そうでなければ、スコールくんを傷つけたとしても、そんなことはしなかった。しかし今度は、あいつ自身が言っていた通り、選択の余地はない。心の整理をつけるのに多少時間が必要だろうが、あいつは、やるべき時にやるべきことはちゃんとやるよ」 「あの人が最高責任者ではありますが、だからってそんなに無理をすることはないんです。あとは私に任せると一言言ってくれればそれで済むんです。私の名で派遣要請をしてもいっこうに不都合は」 「それは、だめだ。つらい決断だからこそ、あいつが自分でやらないとだめなんだ。これでもしスコールくんの身に何かあった時、他人を責めることで自分の心と折り合いをつけるなんてことのできない、むしろ、そんな重大な決断を人に任せてしまったことで自分を追い込んでしまうようなやつだから」 「・・・・・・・・・・・・・・」 「そうだな。ガーデンの所在確認はそれ以上に時間がかかるかも知れない。すぐに始めるとしよう。立ち直った時、即座に連絡の取れる態勢を整えておかないとせっかちなあいつのことだ、きっとうるさいだろうからな。−−−−しかし私たちがやるのはあくまでもそれだけだ」 その様子を、イデアは黙って見つめていた。 |