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SECOND MISSION〜Final Fantasy VIII・IF〜

〜エスタ(2)・3〜




 ラグナの自宅周辺には数名の兵士が配置されていた。しかしそれは、彼の身辺警護のためではなかった。彼らの任務は、イデアの監視。彼女はオダイン研究所からここに移されていた。
 世話役を兼ねる女性兵士に席をはずしてもらうと、ラグナは言った。
「すまんな、結局窮屈な思いをさせちまって。オレ個人としてはこんなにがっちり監視する必要はないと思ってるんだけど、立場上、市民感情ってヤツも考慮しなきゃなんないんでな。ま、どうせ外はモンスターだらけですっかりぶっそうになっちまったんで、監視されてるんじゃなくて守ってもらってると思って我慢してくれな」
「いえ・・・・・・。十分良くしていただいています。でも、本当によろしいのですか?ご自宅を使わせていただいたりして」
「気にすんなって。魔女でもないあんたをいつまでもあんな殺風景なとこにとじこめとくわけにはいかないよ。そんでちゃんとホテルかマンションを用意しようとしたんだけど、避難民の一時受け入れでどこもかしこもいっぱいでさ。でも、よく考えたらココなら空いてるんだよな。どうせ忙しくって帰ってるヒマねえからさ。で、なんか不自由してることはないか?留守がちの男所帯なんで、女性が暮らすにはちょっと不便じゃないかな、と思ったりもしてるんだ。エルを迎え入れた時もいろいろ困ってさあ」
「本当にお気遣いなく。ですが、あの・・・・・・・・ひとつだけうかがってもいいですか?」
「なんだ?」
「あの写真−−−−−奥様ですか?」
イデアの視線の先−−−−小さな飾り棚の上に、一枚の写真が置かれていた。結婚した頃、レインとエルオーネと3人で、ウィンヒルの家の前で撮った写真。
「そ。今じゃオレの手元にある女房の写真はこれ1枚きりになっちまったけど」
「おきれいな方だったんですね」
「うん・・・・・・・。イナカ美人ってヤツで、派手とかあでやかとかってとこはまるっきりなかったけど、笑顔はほんとにきれいな、優しい女だったよ。ちょっとばかし気の強いトコもあってさ、ケンカもよくしたよな。そんでたいていオレの方が負けるんだよな」
ラグナは苦笑いしながら写真を手に取った。
 レインはそこそこの美人ではあったが、誰もが振り向くほどというわけではなかった。
 『美人』という言葉はジュリアにこそ似合った。凛とした顔立ちで、つきあっていた頃はパブのピアノ弾きにすぎなかったがそれでも仕事柄か、華やかな雰囲気を持っていた。それゆえどこか近寄りがたいところもあって、遠くから見ているだけだった憧れの人。
 だから、彼女の方から声をかけてきた時には信じられなかった。彼女の方も自分を見ていたことに舞い上がった。彼女と過ごす時間は楽しかったし、あの頃はあの頃で幸せだった。
「この時エルは4才だったかな?エルの本当の両親はあの子が2才の時、エスタ兵にさらわれそうになったあの子をかばって殺されちまったそうだ。そのあと、隣に住んでた女房にひきとられていっしょに暮らしてて、そこにオレがころがりこんで−−−−。エルはオレにもよくなついてくれてさ。で、結婚した時、正式にオレたち夫婦の養女にしたんだ。それからは、本当の親子じゃないなんてことは考えたことがなかったな。たぶん、女房もさ」
 ジュリアに抱いた焦がれるような想いをレインに感じたことは、どんなに考えてみても、覚えがない。
 しかし、妻にと望んだのはジュリアではなく、レインの方だった。
 気がついたら、彼女はそこにいた。心躍らせるようなことは何ひとつなかった。毎日顔を見て、話をして、食事を作ってもらって、たまにはケンカをして、ただそれだけの日々。
 そして、ベッドから降りることもできなかった半年の間に、彼女はそばにいるのがあたりまえの人になった。あたりまえ、ただそれだけだったからこそ離れることなど、失うことなど考えられなくなっていた人。
 ラグナは長い間黙って写真を見つめていた。1枚きりになってしまった家族の写真。本当ならば、4人で撮ることのできたはずの。
 彼はふと視線に気づき、顔を上げた。イデアが優しげな笑みを浮かべて彼の横顔を見つめていた。彼は思わず真っ赤になった。
「あ、いや、えっと、オレはこんな話をしに来たわけじゃないんだよな。んと、なんだっけ−−−−−−−そうそう、アルティミシアのことだ」
ラグナは顔を何度もこすり、気分をきりかえた。今は思い出にひたってる暇はない。先のことを考えないと。
 彼はイデアにソファをすすめ、自分は出窓に腰をかけた。そこから見えるエスタシティはほんの数日の間にすっかりすさんでいた。砂嵐に煙る街には人影はまったくない。ほんのたまに見える動くものは街中にまで入り込んできたモンスターと軍の車両ばかりだった。
「リノアだけどさ・・・・・・・・。事情聴取と予備検査は終わった。明日の朝には、封印機械のある魔女記念館に移送するよ」
「結局、あの少女が私の身代わりになってしまったのですね・・・・・・・・・・・」
「しかたないさ。あんただって、目が覚めたら魔女じゃなくなっていてびっくりしたんだろ?オダインの言うことじゃこういうこともあるそうで、それがたまたまあんたとリノアの間で起こっただけだ。誰のせいでもない」
あるいはこれも、アルティミシアがやったことかも知れないが。
 リノアの異常はアルティミシアに引き起こされたことが彼女自身と、スコールが過去に行って見たものをエルオーネから聞いたピエットの証言でわかった。彼女が昏睡状態になった時点でやろうと思えば魔力を継承させるのも可能だったかも知れない。しかしたとえそうだったとしても、すぐにリノアを魔女にしてしまえば警戒されるのは目に見えていた。
「スコールは、どうしてます?」
「さあ・・・・・・・・・な」
「お会いにならなかったんですか?」
「オレはあいつが惚れてる女をあいつからとりあげたんだ。返してやるアテもないのに、会えるわけねえよ。−−−−リノアをこっちに引き渡したあと仲間のSeeDたちと合流して、飛空艇でエスタの外に出たらしいってことまではわかってる。アデル・セメタリーが原因の電波障害は解消されたけどまだOCRパネルによる障害が残ってるんで、国外までは追跡できないから今どこにいるかはわかんねえ。OCRシステムをダウンさせればたぶんいつでも連絡は取れるだろうけど、今は外部からの侵入を容易にして話をややこしくするわけにはいかない。それに、こんな状況じゃたぶんあいつは何を言っても聞く耳持たないだろうし、オレも何を言ったらいいかわかんないしな。しばらくはこのまま様子を見るさ」
イデアは視線を膝の上に落とした。
「でも、エルオーネの方はなんとかなりそうだ。救出作戦の計画はほぼできた。あの子がルナティックパンドラに連れ込まれたのは考えようによっては幸いだったよ。あれはエスタが作ったもんだ。現在のガルバディア軍の配置こそ正確につかめなくても、内部構造は全部わかってる。あの中にはぱっと見ではわかんないようなヘンな通路や空間が山ほどあってな。うまいこと突入さえできれば、敵が把握しきっていないルートで奇襲をかけてエルを助け出し、アデルは再封印または殺害することは可能だ。それだけやればとりあえずはこの事態を収拾できる。勝算はある。だから、今すぐ軍を動かしてもいいし、急がなければとも思う。だけど、な」
「まだ何か問題が?」
「アルティミシアだよ。元凶をどうにかしないかぎり、ここはひとまずおさまっても第2、第3の攻撃は必ず来る。そんな危険をかかえたままでは、リノアの封印を解いてスコールに返してやることはできない。エルオーネもずっと、未来の魔女の影におびえて暮らさなければならない。これじゃ、問題を先送りにするだけで、なんの解決にもならないんだ。オレが元気で生きている間はまたその時になんらかの対処もできるけど、順番から言ってオレの方がスコールやエルオーネより先に死ぬんだ。まあ、そん時には子供たちももっと大人になって、自分でなんとかしてくれるとは思うけど、そんでもこれじゃ、おちおち死んでもいられんよな」
「そんなこと・・・・・・・・そんなに長引くはずは−−−−−」
「だってさ、根っこを絶つ手段がないんだぜ?はるか未来にいる相手になんて、こっちから攻撃をしかけることはできねえんだ。アルティミシアが身体ごと時間の枠を越えられるくらいの力を持ってりゃ逆に話は簡単になるんだけど、彼女でもそこまではできないから過去の魔女の身体を乗っ取るなんて回りくどいことをしてるんだろ?となるとやっぱり、守りに徹してその場その場をしのいでいくしかないんかな・・・・・・・・・・・」
「アルティミシアでも、身体までは・・・・・・・・・・・・」
イデアはつぶやいた。彼女の顔色がかすかに変わった。
「そう・・・・・・その通りですよね。どうして気づかなかったのかしら。でも、彼女は−−−−−−−−−」
「なんだ?何か心当たりがあるのか?」
「先日私は、『私はアルティミシアの後継者でもある』とあなたに申し上げましたよね」イデアの声にはこれまで以上にせっぱつまった響きがあった。「アルティミシアが死んだのは13年前、私の目の前でです。私は彼女の死体を埋葬もしました。彼女の身体は13年前に来ていたのです。それは間違いありません。彼女はなんらかの方法で身体ごと時間の枠を越えたのです。その方法がわかればあるいは−−−−−−−」
「そんなら、いったいどうやったんだ?どうすればアルティミシアの時代へ−−−−−いや、彼女を現在に呼ぶんでもいい、とにかく、どうやりゃ彼女とこっちを同じ時間の中におさめられるんだ?あんたならなんか知ってるんじゃないのか?」
「そこまでは私にも・・・・・・・・・・。魔女は、先代から魔力と共に多少の記憶も受け継ぎますがそれは、残留思念とでもいうのでしょうか、本当に漠然としたものにすぎないのです。それで私はSeeDのことを知ったのですが、しかしその記憶の意味を十分理解するのにも何年もかかって−−−−−−」
 イデアは自分の中に残るアルティミシアの記憶をさぐった。13年前のあの時のことを何度も何度も思い起こした。
 そして、首を横に振った。
「だめです。やはり、そのことはなにも・・・・・・・・・・。でも、これだけは言えます。彼女はSeeDたちと戦いました。そして戦いに敗れ、最後の力をふりしぼって13年前に逃げたのです。彼女と直接対峙する方法は必ずあります。どうかそれを探してください」
 それは、雲をつかむような話だった。
 それでも、希望のかけらがそこにあるように感じた。
 絶望的なあの状況下でもわずかな迷いもなくスコールの生存を断言した、イデアの言葉を信じてみようとラグナは思った。



×××



 オダイン研究所から官邸のラグナのところへ電話がかかってきたのは、翌日の昼前のことだった。
「ありましたよー、ラグナさん。参考になりそうな時空魔法に関する論文」
ちょっと間延びしたしゃべり方をするその男は、オダインの一番弟子と言える研究員だった。彼はアデル封印後しばらくはオダインといっしょにいろいろと勝手なこともしていた。しかし目端もきく方で、現政権におもねる方が得だとわかると、オダインの暴走を止めるのに重要な役割を果たすようになった。使いようによっては信頼できる男だった。
「あったか。どんなんだ?」
「空間のみの物質瞬間移動ならば自由にこなせる魔女はけっこう多くても、時間移動までできる魔女の存在は確認されてないんですけど。でも、意図的に発生させたわけではない、自然現象としての物体の時間移動と思われる事例はけっこうあるんですよね。それでこの論文は、空間移動魔法と時間転移現象の双方を分析して、時間移動魔法の実現を模索したものなんですが−−−−−」
彼はさらに論文の解説を続けたが、だんだん内容が専門的になってきたので、ラグナは話を途中でやめさせた。
「もういいよ。それ以上話を聞いてもオレにはなんのことやらさっぱりわかんねえ。とにかくだ。時間を超える可能性を示唆するのはそれくらいなんだな?」
「もっと探せばまだ出てくるかも知れませんけどね。ま、あとはいくら見つかっても、ここまで詳細に分析したもんはないでしょ」
「それで、どうだ?なんとか時間を超えられないか。1度でいいんだ、1度で」
「そんなにせかさないでくださいよ。これを書いたのは私じゃないんですからね。私だって全部を理解するには時間がかかります。まあ、書いた本人ならば、とりあえずでよけりゃすぐになんか進言できるかも知れませんが」
「そんなら、誰が書いたんだ?すぐに連絡が取れるヤツか?まさか、もう死んでるってことはねえだろな」
「取れますよ。なにしろ、これを書いたのはオダイン博士なんですから」
「オダインが?」言われてみればそれは、こういう場ではまっさきに出てくる名前だった。「・・・・・・・まったく、なんでもやってるじじいだな」
「これは博士が若い頃に書いたものでしてね。あの人の興味はあちこち飛び散ってますけど、魔女研究に一番熱心なのはこの頃の方向性が原点みたいですよ」
「オダインが若い頃・・・・・・・・」ラグナは思わず首をかしげた。「それ、何百年前の話だ?」
「あのですねー、あの人は変人ですがバケモンじゃないんですから。せいぜい4、50年前のことですってば」
「あ〜〜〜〜・・・・・・・・、そりゃそうだよ、な」
ラグナが初めて会った17年前、オダインはすでにとんきょうなじじいだったし、そして今も変わらずとんきょうなじじいだ。そんな彼にも若い頃があったというのがにわかには信じられなかった。
「えーと、そんなんはどうでもいいことで・・・・・・・・・・・・・・オダインはいるか?」
「魔女・リノアの封印のために魔女記念館の方に行ってますよ」
「あっと、・・・・・・・・・・・そういうとこにヤツが立ち会わないわけがねえか」
リノアの封印は遅くとも日没までに行われる予定だった。
 そして、彼女の時間は止まる。
「・・・・・・・・リノアの様子はどんなんだ?」
「私は今朝あっちに移送されるまでしか知りませんけどね。落ち着いてましたよ。彼女がかかえこんだ問題についてはきっちり説明しましたからね。またとんでもないことをさせられるよりこの方がましだと本人も思ったんじゃないですかあ?」
「そんならいいんだけどさ。安全性には十分配慮してるだろうな?問題がかたづいたらすぐに封印を解くんだからな」
「予備検査はたっぷりできたことですし、身体的負担は考え得るかぎり減らせますよ。そんなに心配なら記念館の方にじかに問い合わせてくださいな」
「−−−−−−いいよ。信用するよ。どうせオレは科学には門外漢なんだ。くわしいことを聞いたってわかりゃしねえからな。それよりな。封印が済んだらすぐにオダインをこっちに呼び戻してくれ。たぶんリノアをかまいたくてしょうがなくって戻りたがらないだろうが、なんとか丸め込んでな」
「りょーかいですー」
なんとものんきな響きの返事だった。しかし彼はオダインをおだてるのが誰よりもうまいし、やることはやってくれるだろう。
 さて・・・・・・・と、ラグナは再び考え込んだ。
 可能性らしきものは見つかった。
 しかし、それでも時間はまだ相当必要かも知れない。
 ならば、とりあえずは目先のごたごただけでも片づけて、時間をかせぐべきだろう。エルも−−−−どんなに助けが来るのを待っていることか。
「−−−−−−ラグナくん」
キロスがそっと執務室に入ってきた。
「お、いいとこに来たな。−−−−−決めたぜ。明日の早朝、ルナティックパンドラに突入する。これで全部片づくわけじゃねえが、これ以上エルを待たせらんないもんな。リノアの封印が完了次第正式に発令するから、作戦の最終確認、至急頼むわ」
「その前に、君に伝えておくことがある」キロスは小声で言った。「飛空艇がエスタに戻ってきた」
「スコールがか・・・・・・・?」




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