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SECOND MISSION〜Final Fantasy VIII・IF〜

〜エスタ(2)・2〜




 エアステーションはこれまでになかったほどの活気にあふれていた。
 電波障害発生後も航空技術の保持や研究をし、月に数度程度は実際に航空機を飛ばしもしてきたが、研究員以外の人間がここを訪れることはこの17年間ほとんどなかった。
 それが今は、多数の軍人たちが行き交い、ひっきりなしに小型機が離発着を繰り返していた。そして航空基地としてだけでなく、エスタでも唯一即座に電波通信を再開できる施設として電波障害の解消された今、通信センターとしての役割も担っていた。
 そこに到着したラグナとオダインは、オペレーションルームのひとつに案内された。そこではさきほど電話で話をしたスタッフが彼らを待っていた。ラグナは彼にもう一度、しかし今度は簡潔に礼を言うと、本題をきりだした。
「−−−−で、気になることってなんだ?」
「これなんですが」
スタッフはモニター画面を切り替え、飛空艇の現在位置・内部環境などを示す数値やグラフを表示した。
「ほほう、これはおもしろいでおじゃるな」それを見るなりオダインは言った。「飛空艇に魔女が乗っているでおじゃる」
「やはりそう思われますか、オダイン博士」
「おい、マジかよ??」
「ラグナはこれを見てわからんでおじゃるか?」
オダインはグラフのひとつをさして自信たっぷりにそう言ったが、ラグナにはわからないものはわからなかった。しかしオダインは魔女研究の第一人者であり、そして、隠しごとはしても嘘は言わない。
「しかし、妙ではありませんか?ルナサイドベースに魔女がいたはずはないのですが」
「ちゃんと調べてみないと断言はできないでおじゃるが、タイミングからしてイデアの後継者かも知れないでおじゃるな。グラフの波形もイデアのものによく似ているでおじゃる」
「・・・・・・・って、乗ってるのはオレの息子だぞ!男が魔女になるってのか?!」
「ラグナはホントーになんにも知らないでおじゃるな。魔女になるのは普通は女でおじゃるが、過去、男の魔女がいなかったわけではないでおじゃるよ。男でも学術的には魔女と呼んでるくらい少ないでおじゃるけど。でも、イデアが魔力を生前継承してしまったくらいでおじゃるから、男が魔女になっててもおかしくないでおじゃる」
オダインはわくわく顔で言った。
「じじい、てめえ、いいかげんなことヌカすんじゃねーよ!!」
「誰がいいかげんなことを言ったでおじゃるか?!オダインは真実を追求する学者でおじゃる」
「どこがだよ?見てくれからいいかげんなクセしてよ!」
「あの・・・・・・・・・すみません」スタッフがおそるおそる口をはさんだ。「私、まだ申し上げてなかったでしょうか?飛空艇の乗員は2名。うちひとりは女性です。魔女はそちらの方ではないかと」
「あ?まだ誰か乗ってるのか?」
「女もいるでおじゃるか。それならたぶんその女の方でおじゃるな。・・・・・つまんないでおじゃる」
「はい。こちらで受け取ったルナサイドベースの遭難者名簿にない名前なので現在調査中なんですが・・・・・・・リノア・ハーティリーという女性だそうです」
「リノア?!」
「ご存じなんですか?」
「ん、まあ・・・・・・・・・・・」
「あのおかしな女でおじゃるな。これはこれで興味深いでおじゃる」
「あんたも診たのか、オダイン?」
「もちろんでおじゃる。意識レベルはすっかり低下して体温もそうとう下がってたでおじゃるが、それ以外はぴんぴんしてたでおじゃる。あんなのは見たことないでおじゃる。だからもっとじっくりと調べてみたかったでおじゃるが、ラグナの息子がさっさと連れていってしまったでおじゃる・・・・・・・・・」
「でも、いちおうは診たんだな?その時もう魔女だったってことはないか?」
「それはないでおじゃる」
オダインはきっぱりと言った。
「その女が本当に魔女になったかどうかは別にしても、こいつはやっかいだな・・・・・・・・」
ラグナはちょっと考えると、スタッフに言った。
「飛空艇を街から離れたところに降ろせるか?」
「はい。実は・・・・・・・すでに南部砂漠地帯に誘導するルートの計算もしてあるんです。本来なら直接ここに誘導するべきなんでしょうか・・・・・・・」
「そんなら話が早いや。−−−−−−おい、オダイン」
「なんでおじゃるか?」
「あとで兵隊を研究所の方によこすから、そいつらといっしょに飛空艇の着陸地点に行って、魔女の−−−−そのリノアって女の方は魔女であるなしにかかわらず身柄を確保してくれ。それから念のため・・・・・・・・・封印の準備もな」
「まかせるでおじゃる!」
オダインはがぜんはりきると、年に似合わぬ身軽さで出口へと走り出した。
「おい!まずはとっつかまえるだけだぞ!くれぐれも勝手なマネはするんじゃねえぞ!!」
「わかってるでおじゃるよ〜〜〜〜!」
オダインのはりきりように、ラグナはちょっと心配になった。しかし、常識がないのはオダインひとりだ。彼が暴走しようとしても、まわりの連中が止めるだろう。
 しかし、アデルの封印を解いた娘も無事だったとはな・・・・・・・・・・・。
 17才の少年が自分の命の危険もかえりみずに助けようとしたんだ、スコールがその娘に対してどんな感情を持っているかは容易に想像がついた。しかし、だからと言って、このまま見過ごすわけにはいかない。本当に魔女になっていたりしたらなおさらだ。
 だけど−−−−−−−リノア?
「−−−−−大統領?」
「ん?」
「私の言葉が足りなくて、余計なご心配をおかけしてしまったようで申し訳ありません。私もまさか、男性にも魔女になる可能性があるとは思わなくて・・・・・・・・・」
「なんだ、そんなことか。んなことは気にしてねえよ。あのオダインがあっさりと発言を撤回したんだ、可能性はよっぽど低いんだろ」
それは強がりでも気配りでもなかった。本当にそうだと思っていたし、それ以上に、気がかりなことがある。
「そう・・・・・ですね。それで−−−−これからオートパイロット用コードを飛空艇に連絡しますが、息子さんと話をされますか?まだ電波通信の環境が万全ではないため回線の余裕がありませんので長時間はご遠慮願いたいですが、少しくらいでしたら」
「・・・・・・・・・今はいいや。帰ってきてからゆっくり話すから。それよりまずは−−−−−無事に地上に戻してやってくれな」
「わかりました」
 飛空艇に向けてコールサインが送られるのを背中で聞きながら、ラグナはオペレーションルームを後にした。
 そして、官邸に戻る車の中で、ずっと考え込んでいた。
 リノア・ハーティリー・・・・・・・・リノア、ねえ。
 どこで聞いた?
 その名が急にひっかかり、気になりだしたら止まらなくなった。
 魔女とガーデンの間になんかあるんじゃないかと考えてからガーデンのことはさんざん調べてきた。だから、ずっとSeeDたちといっしょに行動していたのなら、いくらそこの学生ではないといっても噂のかけらくらいは耳にしたかも知れないが・・・・・・・・・・・・。
 それだけか?



×××



 その疑問は、官邸に着いてすぐに解けた。
「例の少女の身元がわかりました。母方の姓を名乗っていたので、少々調査に手間取りましたが」ラグナが執務室の椅子に腰を落ち着けると、リントナーは最初にそう言った。「リノア・ハーティリー、本名、リノア・カーウェイ。ガルバディア軍大佐、フューリー・カーウェイの一人娘です」
「な・・・・・・・!」ラグナは絶句した。「カーウェイの娘だぁ?!」
「そうですが−−−−−何か?」
「インタビューする機会があって、カーウェイには何度か会ってる。娘の方は名前くらいしか知らねえが・・・・・・・・・」
 どおりで思い出せないはずだ・・・・・・・・・・。インタビューの下準備の時にカーウェイ自身のことも一通り調査し、リノアというほとんど家に寄りつかない娘がいることも知っていた。だから、彼女が本名を名乗っていたのならばすぐにぴんときただろうが、その名を母親の姓とくっつけてみることにまでは考えがいたらなかった。
「−−−−−−話を続けてくれ」
「はい。・・・・・・・・・・え、と、彼女は父親と折り合いが悪いらしく、2年前に家出同然の形でティンバーに移住、そこで知り合った友人たちと共にガルバディア政府に対してレジスタンス活動を行っていました。SeeDたちとは、クライアントと傭兵という立場で出会っています。そして、デリング大統領拉致未遂事件後、戒厳令下のティンバーからSeeDたちと脱出、そのまま彼らと行動を共にし、エスタにまで来ることになったのですが・・・・・・・・本当にこの通りなんでしょうか?ガルバディア軍将校の娘となりますと、このような状況を設定し、スパイとして送り込まれたということも考えられますが」
「いや・・・・・・・カーウェイは反魔女派の急先鋒だ。そんなことはねえだろ」
確信はあった。しかしそれ以上に、そんなふうには考えたくないという気持ちの方が強かった。
「それで、彼女は現在、飛空艇内での生存が確認されておりますが、どうも魔女になっている可能性が高い−−−−」
「それはもうよそで聞いた。飛空艇が帰還次第、オダイン研究所の連中に確認に行かせることになってる。兵隊も10人ばかし同行させるから、急いで人選してくれ。どっちにしてもリノアって娘はとっつかまえることになるから、抵抗されることも考えられるけど−−−−−なるべく穏便にコトを済ませてくれそうなヤツを選んでくれな」
「了解しました」
リントナーはラグナの懸念を察するとあえて事務的にそう答え、部屋から出ていった。
 執務室でひとりになると、ラグナはぺたんと机の上にあごをもたせかけた。
 そして、ため息をついた。
 カーウェイの娘−−−−−−つまりは、ジュリアの娘、か。
 スコールが命がけで救おうとした娘がアデルの封印を解いた犯人だと知った時から楽しくはないものを感じてはいたが−−−−−これは、あいつにうらまれれば済むってものじゃないのかな・・・・・・・・・・・・。
 数時間後、飛空艇は無事地上に帰還。まったく抵抗されることなくリノアの身柄を拘束した。
 そして、スコールは傷ひとつ負っておらず元気だという報告を聞いても、ラグナの気分はまるで晴れなかった。



×××



 しかし、せっぱつまった現状は、結論の出ていることにまでごちゃごちゃ思い悩む暇をラグナに与えなかった。急いで指示を出さなければならない問題はとぎれることはなかったし、そして何よりも、エルオーネを助け出さなければならない。
「−−−−そんじゃ、エルオーネが連れてかれたのはルナティックパンドラの中でほぼ間違いないんだな?」
緊急召集した会議の席上で、ラグナは言った。
「はい。現在エスタ国内でガルバディア軍が作戦行動を起こしている様子はなく、ルナティックパンドラ以外の経路で進入および脱出した形跡もありません」
将校のひとりが説明した。
 エスタが長期間ほぼ完璧に鎖国状態でいられたのはただOCRパネルの効果だけではなかった。地形もまた、ひとつの国を隠す役割を果たしていた。急峻な山脈、広大な砂漠、流れの激しい海−−−−そういった厳しい自然環境がOCRパネルが発生させる視覚効果及び地軸異常と共にエスタを取り囲んでいた。エスタに出入りできるのは、正確なルートを知る者か、たまたま迷い込んだ者だけ。空からならばまだしも、航空技術を持たない他国の軍隊が組織的・計画的に地上から侵入および脱出をするのはまず不可能だった。
「ガルバディア軍が箱の中でおとなしくしてるのはたぶん、必要なものはすでにそろったからだろうな」
現代の魔女とエルオーネ。未来の魔女・アルティミシアが必要としたのはたぶんこのふたつ。
「だけどそんなら、なんで最終行動に移らないんだろうな−−−−−?」
ラグナはひとりごとをつぶやくように言った。
「アデルの覚醒がまだ完全ではないからではないかと思われます」オダイン研究所の古参研究員が答えた。「封印解除後、正常な状態に戻るまでには少々時間が必要です。17年に及ぶ長期の封印は過去に例がありませんので正確なところはわかりませんが、最低でも10日から2週間程度はかかるのではないかと。それからもう一点。エルオーネさんの能力は強制されてですと格段に落ちます。これも幼少時のデータしかありませんので現在のことはわかりかね−−−−−−」
「理由はなんだっていいや。いくら推論をふりまわしてもなんの役にもたちゃしねえ」ラグナは彼の言葉を止めた。「まだ爆弾は落ちてきていない。そして、アデルを封印し直してエルオーネをとりかえしゃそいつを止められる。それだけは事実だ。−−−−−ふたりがルナティックパンドラの中のどのへんにいるかはわかったか?」
「それはほぼ特定できている」今度はキロスが、テーブル上のモニターを指しながら答えた。そこにはルナティックパンドラの内部構造が映し出されていた。「ルナティックパンドラの制御機構はこの近辺に集中していて、ある程度生活に必要な設備も整っている。他は通路と機械室だけで、長時間滞在できる場所はここだけだ。突入ルートもいくつか想定した。しかし、エルオーネの救出及びアデルの再封印もしくは殺害まで視野に入れるとなるとさらに計画を練る必要があるが」
「・・・・・・なるべく早く、考えねえとな」
今すぐにでも助けに行きたかった。しかし、無事に助け出したいからこそ、不用意なまねは決してできない。
「こっちのほうはもう少し情報を集めてみよう。それから。アデルは性格の激しい魔女だ。未来の魔女は彼女の強大な魔力に目をつけて封印を解いたんだろうが、結局扱いかねて、魔力は弱くとも他の魔女が使われる可能性がある。しかし、エルオーネが力を使うには相手と面識があることが絶対条件だ。エスタ国内にも何人か魔女がいるが、彼女たちがさらわれていかないように十分注意してくれ。ま、これは、ガルバディア軍の行動を監視していればそんなに難しいことじゃないだろ」
エルオーネが知っている魔女はアデルとイデア。対象になる人がそばにいなくとも力を使うことが可能とはいっても、イデアはすでに魔女ではないので問題はない。しかし、イデアが魔女ではなくなったことで他に−−−−−−−。
 インターホンが鳴った。
 来たか、とラグナは嫌な気分で応答した。
「オダイン博士からです。おつなぎしますか?」
オペレーターの問いに、彼はうなづいた。
 モニター画面はオダインのぱきぱきにうれしそうな顔に切り替わった。それだけで、知るべきことは全部わかった。
「ラグナ〜〜〜〜〜〜、やったでおじゃる!リノアは間違いなくイデアの後継者でおじゃる!!」
「・・・・・・・・で、魔力の程度は?」
「すごいでおじゃるよ!継承したばかりでまだうまくコントロールができないようでおじゃるが、時間がたてばアデルほどではないにしてもすごい魔女になるでおじゃる!それで、どうするでおじゃるか?封印するでおじゃろ?おじゃろ?」
「ああ・・・・・やってくれ」
「やるでおじゃる!」
オダインはあっという間にどこかにすっとんで行き、画面から消えた。入れ替わりに研究助手が現れ、ラグナの命令をあらためて確認すると、通信は切れた。
「ラグナくん、今のは・・・・・・・」
キロスが心配げに訊いた。
「ああ。確定だ。となると、封印するしかねえだろ」
「しかし、彼女はジュリアの−−−−−−」
「だから、オレにどうしろってんだ?!」ラグナは声を荒げ、立ち上がった。「オレだってな、いやになって別れたわけじゃない昔の恋人が遺した娘にこんなことしたかねえよ!だけどな、本人の資質がどうあれ、今は魔女だっていうだけで危険なんだ!エルオーネはもうあの娘を知ってる!魔女になる前にすでにアルティミシアに利用されてもいる!なんらかの理由でアデルが使えなかった場合、次に狙われるのは間違いなくリノアなんだ!だから−−−−こうするしかねえだろが!!」
「・・・・・・すまない。私はそんなつもりでは・・・・・・・・・・」
 ラグナははたと我に返った。彼はどさりと椅子に腰を降ろすと、頭をがりがりかいた。
「・・・・・・・・・・・悪ぃ。やっぱオレ、そーとー気がたってるな。あの事故からこっちほとんど寝てねえもんな。−−−−−2時間ばかし寝てくるわ。突入計画、もうちょいつめといてくれ」
 そう言ってラグナが部屋から出ていくと、リントナーは訊いた。
「あの・・・・・・昔の恋人って・・・・・・・?」
「ラグナくんは一時期、リノアの母親にあたる人とつきあっていたことがあるんだ」キロスは答えた。「レインと−−−奥さんと出会うより前に。彼女とは少々事情があって別れることになってしまったけれど。つまり−−−−−−−」

×

 よく仮眠に使っている応接室のソファの上で、ラグナはどうにも眠れず何度も寝返りをうっていた。
 ジュリアの娘−−−−つまり、オレが得ていたかも知れない娘。
 セントラに派兵されていなければ、もしかしたら。
 彼はまた寝返りをうった。
 違う。そうじゃない。キツい思いをしているのはオレじゃない。オレじゃなくて、スコールの方。
 リノアが危険な存在になってしまったことは、あいつも理解している。だからこそ抵抗ひとつせずに彼女を引き渡してくれたんだろう。喜んでそうしたわけじゃないだろうに。
 だけど、本当にこうするしかないのか?
 封印するだけ。外部との接触すべてを絶つだけ。彼女の時間を止めるだけ。
 殺すわけじゃない。しかし、封印が長びけば−−−−−−−。




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