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SECOND MISSION〜Final Fantasy VIII・IF〜

〜エスタ(2)・4〜




「さきほど、OCRパネル上空を飛空艇が通過した。現在国外に出ている飛空艇はあれ一機しかない。無線に応答しないので乗員の確認はできていないが、彼らで間違いないだろう。向かっている先も、魔女記念館のようだ」
「なんで・・・・・・・・・なんでよりによって、今戻って来るんだよ!リノアを封印して、エルを助け出して、ルナティックパンドラをぶっこわして、そこまでやったあとならちっとは冷静に話もできるだろうから、それから呼ぼうと思ってたのに・・・・・・・・・・・まだなんにもやってないんだぞ!!」
「今だから、だと思う。スコールくんに、リノア封印の予定日時は教えてあったそうだから」
「それで・・・・・・・・・・・・か」
今をのがしたらこれからしばらくは彼女と話すらできなくなる。何ヶ月か、何年か、あるいは・・・・・・・・・・・。
「ラグナくん・・・・・・・・・・」
「ちと黙っててくれ。今どうすっか考えてんだから」
 ラグナはそう言うと、ほとんど間をおかずに机の上の電話に手をのばした。
「ウォード・ザバックがそっちに行ってるはずだ。呼び出してくれ」
魔女記念館のオペレーターが出ると、彼は言った。
 しばらくして、ウォードがモニターに現れた。
「予定通りか?」
ウォードはうなづいた。
「ちょっとな・・・・・・ほかで予定外のことが入った。スコールがどうもそっちに向かっているらしい。そんでな。あいつが行ったら、封印前にリノアと少し話をさせてやってくれ。それから−−−−−−−」
ラグナは一瞬言いよどんだのちに、続けた。
「それから、もし、リノアを取り返しに来たってんなら−−−−−−黙って返してやってくれないか」
「・・・・・・・・・・・・?!」
「ラグナ?!」
キロスとウォードは顔色を変えた。
「返してやれだ?!ちょっと待てよ、私は、もう一度会わせてやるくらいはかまわないだろうとは思うが、しかし−−−−−」
「そんなに大騒ぎするこたあねえよ。ホントにただ会いに来ただけかも知んねえ−−−−いや、飛空艇が向かってるのが魔女記念館じゃないかも知んねえし、スコールが乗ってると決まったわけでもねえだろ」
 そうは言ったものの。
 予感はあった。
 そうではないという、妙な確信が。
「しかし−−−−本当に彼女を取り返しに来たのなら、どうするんだ?君の立場が・・・・・・・・・」
「ん〜〜〜、ちょ〜〜っとマズいことになるだろうなあ」
「わかっているのなら、なぜ?!」
「・・・・・・・・やっぱ、やりたくねえんだよ」彼は視線を落とすと、言った。「おまえらも、さんざん見ただろ?エスタ内戦が終わったあと、封印実験から解放してやった魔女たちをさ。封印されてたのは2年から長くても5年くらいだったけど、それでも、止まっていた自分の時間と、動き続けていた自分以外の時間のずれに苦しんでさ。せめて回りの人間たちがそれをいっしょに埋めようとしてくれればちょっとは違ったかも知れないけど、あの頃は今以上に魔女への差別が激しかったから、彼女たちには帰るところもなくて。そんなこんなで、おかしくなっちゃったのもいたもんな。こんなことなら封印したままにしておいた方がよかったのかも、とも思ったよなあ」
「しかし、リノアにはちゃんと待っててくれる仲間がいて−−−−−」
「数ヶ月からせいぜい1年でなんとかなるって保証があれば、オレだってこんなに悩まねえよ。だけど、いったいいつになったらあの子を解放できるってんだ?これから何年もってことになるかも知れねえ。その間、他の人間はどんどん年を取っていくってのに、リノアだけはいつまでも17才のままなんだ。いくら待ってる方の気持ちが変わらなくても、それでも同い年だったはずの人間がずっと年上になってたりしたら−−−−キツいよな」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・でも、な。スコールやあいつの仲間たちのためにも、封印した方がいいんじゃないかとも思うんだ。あいつらはイデアと戦った。自分たちを育ててくれた母親代わりの女性と。今度は仲間と、恋人と戦うハメになるかも知れない。それはリノアもわかってて、そんなのはいやだと言ってスコールを説得したらしいんだな。それだけじゃねえ。世間の魔女に対する偏見ってのは根強いもんがある。前の魔女戦争からだいぶ時間がたって少しはマシになってきていたが、たぶんまたぶりかえすだろうな。たとえ今度のことではなんもなかったとしても、これからずっと、せんでもいい苦労をすることになる。スコールがそのことをじっくりと考えて、それもこれも全部彼女といっしょにかかえこむ覚悟ができたというんならさあ・・・・・・・・・」
「しかし、今、リノアを解放するのは危険だ!たとえ今後彼女が未来の魔女にあやつられることこそなくとも、アデルの封印を解くのに使われたのは事実だ。一般市民から見れば、彼女こそが月の涙を起こした犯人そのものなんだ。こんな状況の時に彼女を自由にしたりしたら・・・・・・・。そこに考えが至らない君じゃないだろう?!」
「そりゃまあ、100パーセント危険だってんなら、力づくでもスコールを止めるさ。だけど、あるのは可能性だけだ。ただそれだけで、あいつらから人生で一番いい時期を取り上げたくは・・・・・・」ラグナはふいに天井を見上げると、小さく息を吐いた。「−−−−−な〜んていろいろ言ってみはしたけど、つまるところ、まだ迷ってんだよ。封印した方がいい。しなきゃならない。したくない。迷ったあげく、最終決断をスコールにさせるようなマネをすんのは、やっぱ−−−−−責任逃れってやつかな?」
「・・・・・・・・・・・」
ウォードが首を横に振った。
「そうじゃなくて、リノアを解放する理由を探していただけ−−−−そうなの、かな?」
 ラグナはもう一度考えてみた。
 考えてみようとした。
 しかし、どうしてもだめだった。
 彼の頭の中にあるのは、どんなに考えても変えることのできない結論だけ。
「−−−−−まあ、いいや。なんにしてもあとで文句を言われるのはオレなんだからな。ホントはオレが自分で命令しに行くべきなんだろうけど、今からじゃ間に合いそうにねえし、だから・・・・・・・ウォード、頼むよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「−−−−ラグナくん。君の気持ちはわからないでもない。しかし、この決断には決して賛成できない。この結果何かあった時はもちろん、何もなかったとしても、政府の決定を勝手にくつがえし、市民の不安をあおる行動を取った責任は問われることになるだろう。その時私たちは君を糾弾はしないが、弁護もしない。それでもいいな?」
「もちろん。ごちゃごちゃ言われるのはオレひとりで十分だ。おまえらまでまきこむつもりはねえよ」
「私はな、自分の身がかわいいだけでそう言っているのならば、今ここで殴り倒してでも君を止めている!」キロスはそう言うと、ふいに背を向けた。「−−−−まあ、そうしたところで無駄だとは思っているが。ここでいったんは止められたところで、あとでこれ以上の無茶をやるに決まっている。スコールくんがリノアを取り返しに来たのでなければなんの問題もないわけだからそうであることを祈っているが、それも無駄な気がするな。彼は、聞くところによると性格が君とは全然違うらしいが、一番根本的なところで君と同じものを持っているようでもあるから」
「・・・・・・・ごめんな、また心配かけちまって。でも、自分の気持ちの問題だってのに、オレにもどうしようもねえんだよ」
「わかっている」
 記念館との回線は切れた。そしてキロスもドアに向かった。
 そして彼は、出がけに言った。
「突入作戦は延期だな。スコールくんの出方を見ないことにはへたに動くわけにはいかないだろう。しかし、なるべく早めになんとかしたまえ。実の息子の心配もけっこうだが、エルオーネも君の大事な娘なんだから」

×

 そして数時間後。
 リノアを解放したという知らせがウォードから入った。
 その時の様子を聞くうちに、ラグナはなんだかうれしくなってきた。
 やっぱり、こうしてよかったんだ。
 どうしようもなく重かった気分が、何日ぶりかで不思議なほどにすっきりした。



×××



 オダインが魔女記念館からエスタシティに戻ったと連絡があった。
 それなら研究所に行くとするか−−−−とラグナが立ち上がりかけた時、研究所職員は、博士は官邸に行くと言ってたった今飛び出して行きましたけど、と重ねて言った。
 −−−−やっぱしお気に召さなかったみたいだな。
 彼が、オダインが来たらすぐに知らせろと警備兵に伝えようとしたとたん、ものすごい剣幕で執務室に飛び込んで来た者がいた。オダインにしては早いなと思ったら、リントナーだった。
「ラグナさん!魔女・リノアを解放させたのはあなただっていうのは本当ですか?!」
「ホントだよ〜」
そーいや、オダインよりも先に文句を言いに来そうなのがいたんだよな、とラグナは頭をかいた。
「ホントだよって、どうしてそんな・・・・・・!」
「ん〜〜〜、息子のワガママってヤツをきいてみたかった、ってとこかな。いや〜〜、なかなかかんどーてきなシーンだったってよ。どーせなら自分の目で見たかったけど、時間的にどうしても先回りできそうになくってさあ。う〜〜〜ん、すっげー残念」
「そんな理由で政府の決定を独断でくつがえしたんですか?!あの少女があなたの息子さんにとって大事な人だということは私も理解しています。あなたとのかかわりもシーゲルさんたちに聞きました。だけどこれは、あなたひとりの問題ではないんですよ!」
「それどころか、エスタだけでもなくて、世界全体の問題だってか?ところがオレにとっちゃ、ひっじょーに個人的な問題なんだな、これが」
「そんな・・・・・・・!」
「ラグナ!魔女・リノアを逃がすとはどういうことでおじゃるか!?」
そして、ふたり目がどなりこんできた。
「お、来たか、オダイン」
「来たか、じゃないでおじゃる!なんてことをしてくれたでおじゃるか?せっかくの実験がだいなしでおじゃる!!」
「まーまー、ちっとは落ち着け。もっとおもしろい実験をやらせてやるからよ」
「何がおもしろいかはオダインが決めることでおじゃる!オダインは魔女の封印実験をやりたいのでおじゃる!」
「んなもんは昔あきるほどやっただろが。もっとぴかぴかでほやほやにシンセンなことをやろーぜ。な?」
ラグナはファイルでオダインの頭をぽすっと叩いた。
「なにするでおじゃるかー!」
「だからよー、落ち着けって。あんましコーフンすると血管切れるぞ」ラグナは思わず苦笑いを漏らした。「これ、あんたが書いたもんだろ」
そのファイルは、オダインの時間移動魔法に関する論文の概略だった。
「これはずーっと昔に書いたもんでおじゃる。これのどこが新鮮でおじゃるか?!」
「魔力封印法はとっくに実用になっててあとは細かいとこをごそごそいじるくらいしかやることねえけど、時間移動は今も実現できてねえんだろ?まだ誰もやってないことをやる方のが新鮮じゃねえか」
「だけどオダインはー・・・・・・・」
オダインの口調が少しおとなしくなった。
「あんたもイデアから聞いてるだろ?この大騒動を起こしてるのはずーっと未来にいる魔女・アルティミシアだってさ。そいつをどうにかしないことにはこのゴタゴタはおさまんないってのに、別の時間にいるヤツが相手じゃ手も足も出ねえ。そんでもさ。そのテの研究をしてた世界一の学者のあんたなら、なんとか時代を超えて敵さんを攻撃する方法を考えてくれるんじゃないかなー、なんてさ」
なんだか歯が浮きそうだった。しかしなんとしても、オダインをその気にさせなければならない。
「アルティミシアの時代に、でおじゃるか。−−−−−−できるでおじゃるよ」
「へ?・・・・・・・できる??」
オダインがあまりにもあっさりとそう言ったので、彼は耳を疑った。
「理論上は、でおじゃるが。それも、できても一度だけでおじゃる」
「一度だけでいいよ!できるんだな!?」
「オダインができると言ったらできるでおじゃる!−−−−−と言いたいところでおじゃるが、こればっかりはオダインにも保証できないでおじゃる。これはたぶん、ほんとに一度きりの一発勝負になるでおじゃる。やってみるまではなんとも言えないでおじゃるよ」
「それでも、方法がないわけじゃないだな?どうするんだ?」
「そんなのはわからないでおじゃる。可能性として思いついただけで、具体的なことはなんにも考えてないでおじゃる」
「だったら今からでも考えてくれよ!なんとかできるかも知れないんだろ?!」
「でもこれは、うまくいってもそれで終わりなんでおじゃる。そんなことにオダインは頭を使いたくないでおじゃるし・・・・・・・・・・」
「そいつは、今の時点での話だろ?もしかしたらそれを下敷きにしてまた新しい理論を考えついて、すっごい発明なんかもしちゃうかも知れねえじゃんか」
「それもそうでおじゃるな・・・・・・・・・・・・」オダインはちょっと考え込むと、言った。「やってみるでおじゃる。そのためにまずは、イデアの話をじっくりと聞き直さないといけないでおじゃる。イデアをオダインに返すでおじゃる」
「わーった。すぐに彼女を研究所に行かせるよ」
 オダインは不機嫌そうになにやらぶつぶつつぶやきながらドアに向かった。そして突然振り向くと、言った。
「ラグナ!今度こそ何があってもオダインの研究の邪魔をしないでおじゃるな?!」
「絶対にしねえよ。予算でも人材でも好きなだけ使わせてやる。だから、早いトコ頼むぜ」
 −−−−こいつは、本当になんとかなるのかもな。
 オダインはやっぱり不満そうだったが、研究テーマを人に与えられたのが気に入らないだけで、やる気になっているのは十分感じ取れた。
 時間の枠を、それも未来に向かって越えることなど、できるとはとうてい信じられなかった。しかし、本当に何か方法があるのかも知れない。イデアが言った通り。
 そこでふと、ラグナは何かひっかかるものを感じた。
 なんか、忘れてるぞ。イデアが言っていたことで。
 なんだっけ・・・・・・・・・・・?
 そして彼は、そこにリントナーもいたのを思い出した。
「ラグナさん、今度は何を・・・・・・・・」
「魔女・アルティミシアをやっつけるんだよ。臭いモノには元からフタ、ってな。−−−−−あれ?話してなかったっけか?」
「聞いてません!!」
「あ〜〜〜・・・・・・・、そうだったっけ」
リノアを逃がしたことで文句を言われるの少しでも遅らせようとするあまり、かんじんなことまで彼に話してなかったのにラグナは気づいた。
「いえ、それは別にいいでしょう。しかし、解決方法が見つかりそうならばなおのこと、どうして今、魔女・リノアを逃がさなければならないんですか?危険がなくなったあと彼女を解放することにまで反対しているわけじゃないんですよ!?」
「オレもそのつもりだったけどさー、スコールがやっぱり返せって言うんだもん」
「だから、どうしてそれが理由に−−−−−」
「なるんだよ、オレの場合」ラグナは椅子に深々と座り直すと、言った。「なあ、リントナー。オレが今ここにいるのは元はといえば、アデル支配下のエスタにさらわれたエルオーネを取り返すためだった。あの子を助け出したあとエスタの改革にまでかかわったのは、協力してくれたあんたたちに恩義を感じたのもあったけど、それ以上に、エルを守りたかったからだよ。アデルをあのままほっとけば、いつまた狙われるかわかったもんじゃなかったからな。それがちょいと裏目に出て、エルオーネに、それと思いがけずスコールにも、淋しい子供時代を送らせちまったけど。今度のこともさ、この騒動のど真ん中にオレの子供たちがいることはあんたも否定しないだろ?」
「ええ、まあ。でも・・・・・・・・・・・」
「オレは、自分が大統領としてやっちゃいけないことをやったってのをちゃんと知ってる。どうせ大統領の椅子なんかに未練はないどころか辞めたくってしょうがねえんだ、辞めろってんなら辞めるし、それじゃ足りないってんなら煮るなり焼くなり好きにしてくれりゃいい。でも、な。なんと言われようと、今すぐには絶対に辞めねーからな。オレは今度こそ、子供たちを守ってやりたい。しかし敵は、一民間人が相手にするにはデカすぎる。今のオレには、大統領の地位と権力が必要なんだよ」
「でしたらどうして、もしかしたら辞めざるを得なくなるような命令を下したんですか?!」
「言ったろ。これはオレにとっては、子供たちを守るための戦いだってさ。絶対だってんならともかく、どれだけあるもんだかわからない危険性なんかを理由に、スコールを悲しませたくなかったんだよ。−−−−リントナー。心配しなくても、オレはやるべきことはちゃんとやるよ。世の中が平和になることこそが、一番子供たちのためになるんだからな。リノアのことでは、大統領としての判断と父親としての判断がずれてオレは父親の自分を優先しちまったんだけど、根本的に目指すところは同じなんだからさ」
リントナーは黙ってラグナを見つめ返した。
「これがオレにとっちゃあくまでも個人的な問題である限りオレは、またあんたたちの気に入らないことをやるかも知れねえ。でもオレは、このゴタゴタを自分の手でおさめてえんだ。結果だけは必ず出す。だから、細かいコトには目をつぶってくれねえか。全部終わったあとでなら、つるし上げでもなんでもされてやるからさ。な?」
「なんと言われても、納得できません!!」
「やっぱし・・・・・・・ダメ?」
ラグナはしゅんとなった。
 やっぱりやるべきじゃなかったんだろうか?大統領としてだけでなく、父親としても。
 自分の行動が理解されないことはわかっていた。
 そして、今ここから追い出されたら、自分に子供たちを守る力がなくなってしまうことも。
 そういうことになる可能性に気づいていなかったわけでもない。
 オレだって、魔女は怖いんだから。
「・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、そうだろうなあ、うん。それならそれであとのことは、オレの処分も含めてあんたたちにまかせるよ。でも、ウォードは許してやってくれないか。実際にリノアを逃がしたのはあいつだけど、オレが自分で記念館に行くには時間がなかったんで、たまたまそこにいたあいつに頼んだだけだから。それから、オダインの−−−−−−」
「納得はできませんが、思い出したことはあります」
「ナニ?」
「17年前私たちがなぜ、たまたまエスタに迷い込んできた、どこの誰ともわからなかったあなたについていこうと決めたのか」リントナーは言った。「あなたは、アデル打倒の計画を何年も机上で練るばかりで一歩も行動に移せずにいた私たちの背中を押してくれた。そして、どんな苦境に立っても変わることのなかったあなたの前向きな姿勢は、私たちの支えになった」
「お〜〜〜い、なんでそんな話を突然始めるんだよ。何度もやめろって言ってるだろうが。こっぱずかしいんだからよ〜〜〜〜」
「いつもそうやって逃げてますけどね、今度だけはちゃんと聞いてください。−−−−あなたが持っている決断力も行動力も、私たちには欠けていた。それも私たちがあなたについていった理由のひとつですが、私たちが一番必要としたのは、どんな時にも失われることのなかったあなたの明るさだったんです。しかし−−−−この数日は、それがみじんも感じられなくなっていた。ただつらそうで、苦しそうで・・・・・・。だけど今は、本来のあなたに戻っているようだ。それが、魔女・リノアを解放したゆえというならば、それも決して悪いことばかりだというわけではないかも知れません」
ラグナはリントナーの意図をはかりかねて、ただ黙って彼の話を聞いていた。
「ですが、納得できないことであるのにはなんの変わりもない。ましてや、一般市民に理解を求めるのは不可能でしょう。このことがそのまま市民に伝われば、暴動すら起きかねません。そんな事態は避けなければなりませんが、情報操作で当面は対処できると思います。これまでも表面的なことしか公表していませんし。これは私がなんとかしますから、あなたは誰かれかまわずよけいなことを言わないようにしてください。ただでさえ寝る暇もないくらい忙しいのに、これ以上仕事を増やされたのではかなわない」
「はい・・・・・・・・・・・・」ラグナはしょぼんとしたまま言った。「・・・・・・・・で、オレはこれからどうすればいい・・・・・・・?」
「とりあえず、ここでじっくりと反省してください。それから先は、あなたが決めることです」
「そんならオレ・・・・・・・・ここにいても、いいのか?」
「こんな時にあなたが突然辞職したりしたら、それこそ市民を不安にさせますから」
リントナーは変にとってつけたようにそう言った。

×

 ひとりになるとラグナはすっかり気が抜けて、椅子からずり落ちかけた。急に足が痛み出した。緊張のあまり、足がつっていたことに気づいてすらいなかった。
 −−−−まったく、敵に回したくはないヤツだよ。
 実務能力はリントナーの方がずっと上だ。これまでも、彼の助けがあったからこそなんとかやってこれた。そして今度は、確信犯的な失策までもフォローしてくれようとしている。
 どうしてそこまでしてくれるのかは、やはりわからなかった。
 わからないが、とりあえず今すぐは大統領を辞めずに済んだらしい。
 内戦が終わってから十数年。エスタ大統領の椅子の座り心地がいいなどと感じたことは一度もない。
 しかし今、それが自分のものであることが、ラグナにはたまらなくありがたかった。




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