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SECOND MISSION〜Final Fantasy VIII・IF〜

〜エスタ(2)・1〜




 救助後傷の手当もそこそこに、ラグナは大統領官邸に戻った。
 会議室には政府や軍の主だった者がすでに集まり、彼の到着を待っていた。ドアが開くと同時に彼らは全員一斉に立ち上がり、ラグナに敬礼した。彼はその前をきびしい表情のまま通り過ぎた。
「現状報告!」
彼はそれだけ言うと、席にどさりと座った。
「今回の月の涙は、ルナティックパンドラを使用することにより人為的に発生させられたものです」将校のひとりが話し始めた。「現在のところ確実な裏付けは取れていませんが、状況から考えて、ガルバディア軍によるものと考えて間違いないと思われます。次回の月の涙発生予想地点であるティアーズポイントでルナティックパンドラを使用されたため、過去の同兵器のシミュレート実験による予測をはるかに越えた被害が発生しています」
 ルナティックパンドラ。17年前のエスタ内戦の時、海に投棄した月の涙兵器。
 内戦当時アデル派が狙っていたものが4つあった。アデルの解放、ラグナの命、エルオーネの身柄、そして、ルナティックパンドラ。彼らはこの巨大兵器を手中にすることで不利になっていく戦況を逆転しようと、執拗にルナティックパンドラ研究所を攻撃してきた。そこで、予定では破壊してしまうつもりだったのを、十分な時間も手段も確保できなかったため、急遽海に捨てることにしたのだった。そして、今ではその投棄地点の記録も残っていない。その時の作戦にかかわった者がだいたいの位置を記憶しているだけだ。
 今ではエスタですら記憶する者の少ないルナティックパンドラをどこからどう探し出してきて、しかも起動までしたものか−−−−−。
 しかし、実際に使用されてしまったあとではその経過の追求は後回しだ。当面必要なのは降ってきてしまったモンスター対策、そしてルナティックパンドラの機能停止だった。
 すでに壊滅的な被害を受けた町がいくつかあると報告された。現在住人たちをエスタシティを初めとするいくつかの主要都市に避難させ、そこを軍が警備するという態勢をとっていた。
 ルナティックパンドラへの直接攻撃の計画は、内部構造の資料は用意されていたが、現状の情報不足のため、今のところまだ具体的には立てられていなかった。
 ただ、ひとつだけわかっていることがあった。月の涙とともに地上に落下したアデル・セメタリーが現在ルナティックパンドラの中にあることだ。
「電波障害は消滅しました。アデルの封印が解除されたことは間違いありません。そして、セメタリーの現在位置を示す信号がルナティックパンドラ内部から発せられているのが確認されました」
「アデルは、生きてんのか?」
「そこまでは確認できません。ただ、アデルの能力から言って、地上に到達するまでの短時間ならば生命維持は十分可能かと思われます」
「生きてると考えて話を進めた方が無難だな」
 アデル、そしてルナティックパンドラ−−−−−解決を先延ばしにしてきたツケが回ってきた、ってことか。
「続いて、ルナサイドベースの被害状況ですが」
ルナティックパンドラについて一通りの報告が終わると、テーマは次に移った。
「月の涙の余波を受けて、ほぼ全壊した模様です。緊急避難ポッドからの救助信号を受信したものにつきましては、乗員の救出が完了しました。最新の情報では、死者6名、行方不明者15名」
ラグナの表情がいちだんと固くなった。
「ポッドが多数到着した地域で現在も一個中隊を配置して行方不明者の捜索を続けております。事故宙域にも小型飛空艇1機を派遣しましたが、二次災害のおそれがあるため、ルナサイドベースに接近しての捜索は今のところできない状態です」
「・・・・・・・・・この状況じゃ、そのあたりが限界だな。まずは、市民の安全確保に全力を注いでくれ。それから−−−−−−−−」
 一通りの報告と今後の方針のおおまかな取り決めが終わると、ラグナはさらに必要と思われる情報をそれぞれの担当者から聞き出し、不明な点は調査を指示した。そしてそれも済むと、彼は激励の言葉をその場にいた者たちにかけ、会議の終了を告げた。
 会議参加者はそれぞれの持ち場に散っていった。そして会議室にはラグナと副大統領のリントナーにSPがふたり、それとキロスとウォードだけが残った。
「リントナー・・・・・・・エルオーネ、は?」
身内と呼べる者だけになると、ラグナは初めてその問いを口にした。
「その・・・・・お嬢さんは・・・・・・・・・・・・・・・」
「今度ばかりはヘタな隠しごとは許さんぞ。基地スタッフの7割方はもう無事がわかってるってのに、あの子のことはオレに誰もなんも言わんじゃあねえか。あの子は、なんかあった21人の方に入ってんだろ?正直に言えよ。それなりに覚悟はしてんだ」
「−−−−−そうですね。これは、私人ではなく公人としてのあなたにもお話ししなければならないことかも知れませんし」リントナーは言った。「エルオーネさんは、避難ポッドで地上に到着はされました。ただ−−−−エスタの救助隊よりも先にガルバディア軍に発見されて、誘拐されてしまったそうです。同じポッドに搭乗していた医療主任のピエットからその旨報告がありました」
「・・・・・・・・・・・・・それなら、いい」
ラグナはささやくようにそう言った。
 やっぱり、連中が狙ってたのはあの子か・・・・・・・・・。
 彼女を自分の手元に保護したこと、それでなんとなく安心して油断してしまったのを彼は悔やんだ。
 しかし、いったい何のために?あれは誰もが持っている力じゃないとは言っても、ただそれだけの・・・・・・・・。
「それから、息子さんの行方なんですが−−−−−−」
ラグナはけげんそうに顔を上げた。スコールの『行方』?どうしてそこでスコールの話になる?あいつはエスタシティのどこかにいるんじゃないのか?
「−−−−−ラグナくん、済まない!!」石のようにぴくりとも動かず座り込んでいたキロスが突然、声をふりしぼるようにして言った。「私・・・・・・・私が、ルナサイドベースにエルオーネも連れて行けなどと言わなければ、こんなことには−−−−−−−!」
「実は・・・・・息子さんも・・・・・・・・」
「スコールくんも、事故の時、ルナサイドベースにいたんだ」キロスの声は震えていた。「彼は、一刻も早くエルオーネに会いたいと・・・・・それで、エルオーネがあと1週間はルナサイドベースから帰らないと伝えると、それなら自分の方から行くと言うので、私が頼んで、許可を出してもらった」
「だけど、オレ、予定をきりあげて帰ると連絡はしたはず・・・・・・・・・」
「入れ違いになってしまったんです。私どもが連絡を受けたのは、すでに出発してしまったあとでした」
「あいつ、エルオーネに、そんなにあせって会わなきゃならない何の用があったんだ?」
「エルオーネさんのあの力を借りたいと言っていました」リントナーは言った。「息子さんは、昏睡状態の少女をひとり連れてきていました。彼女はSeeDでもガーデンの学生でもありませんが彼らとずっと行動を共にしていて、ガルバディアガーデンとの戦闘にも参加したそうです。そしてその時、イデアに変化が起こったと同時に原因不明の昏睡に陥ったんです。こちらでも診察しましたが、外傷も脳波以外の異常もなく、原因がつかめませんでした。それで息子さんは、エルオーネさんの力でその少女が倒れた時間に行って、何があったかを知ろうとしていました。しかしエルオーネさんはその少女とは面識がないため彼女には力が及ばないので、息子さんはとにかく急いでふたりを会わせたいからと、その少女といっしょに−−−−−」
「それ・・・・・・リノアなんとかいうヤツか?」
ラグナは、エルオーネが入国希望者の中にひとりだけ知らない名前があると言っていたのを思い出した。
「そうです。リノア・ハーティリー。アデルの封印を解いたのも彼女です。今、彼女の身元を調べさせています」
「・・・・・・・・つまり、スコールもこの災害に一枚かんでたってことになる、な」
「結果としてはそうでしょう。しかし、純粋にその少女の身を案じてのことだったのは疑う余地はありません」リントナーはきっぱりと言った。「息子さんは、いったんは脱出ポッドで避難しました。しかし、封印解除のために基地の外に出てそのまま宇宙に取り残される形になったその少女を追って・・・・・・・つまり・・・・・・・・・・・・・・」
「もういい。わかった」
ラグナはそう言い、椅子の背もたれに寄りかかった。
 彼は腕を組んで目を閉じると、顔を胸にうずめるように背を丸めた。その姿はまるで眠っているようだったが、指先は落ち着きなく爪をはじき続けていた。空気の張りつめた会議室の中で、そのかすかな音だけが妙に大きく響いた。
 長い空白ののち、その音が唐突に止まった。ラグナは目を開けた。
「イデアは?どこにいる?」
彼は言った。
「オダイン研究所です」
リントナーが答えた。
「封印処置は?もう済ませたのか?」
「いいえ。暫定的に封印アクセサリを装着させて、魔力遮断処置をした部屋で軟禁しています」
「話ができる状態なんだな?」
「はい」
「そんなら、今から会ってくる」
ラグナは立ち上がると、ドアに向かった。
「ラグナくん・・・・・・・私は・・・・・・・・・・・・・・」
キロスの声にラグナは足を止め、彼の方に振り返った。
 そして、言った。
「エルオーネは、大丈夫だ。なんのためかは知らねえが、連中が必要としているのは、あの子の力。それならば、殺されることだけはない。生きてるんなら、取り返しゃ済むことだ。スコールも−−−−宇宙でも行方不明者の捜索はしてるんだろ?可能性は限りなくゼロに近いだろうが、証拠をつきつけられるまでは・・・・・・・・・ゼロじゃ、ない」
 彼はそれだけ言うと、SPとともに会議室から出て行った。
 キロスはウォードの胸に寄りかかった。
「ウォード・・・・・・・・私は、どうしたら・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
ウォードは力づけるように彼の肩を叩いた。
「そうだ・・・・・・・そうだろうとも。あいつは決して、私を責めたりはしない。そして、何もかも自分ひとりでかかえこんでしまうんだ。だからこそ、どうしたらいいのか、私にはわからない−−−−−−−!!」



×××



 オダイン研究所。
 そこの実験室の中でイデアはひとり静かに座っていた。その姿をラグナは隣のモニタールームの窓から見下ろした。
 シンプルな黒いワンピース姿の彼女は、あの『ガルバディアの魔女』と同一人物とはとても思えなかった。顔立ちは間違いなく同じなのだが、そこにいるのはどこにでもいそうな普通の女性だった。圧倒的な存在感と異様な魅力を持ち、ラグナの心にも忘れがたいほどの恐怖を与えた妖艶な魔女とはまったく違った。
「んで、イデアをどうするつもりだ、オダイン?もう結論は出てんだろ?」
「それがでおじゃるな・・・・・・・・」オダインはため息混じりに言った。「ひじょーに残念でおじゃる」
「あんたの感想なんかいらん。事実だけをわかるように言え」
オダインのばくぜんとした言葉から要点や意図を類推するのは不可能に近い。
「イデアはもう魔女じゃないでおじゃる。魔女じゃなければ、実験の役にはたたないでおじゃる」
「は?魔女じゃない?」ラグナは訊き返した。「どういうこったよ、そりゃ??あそこにいるのはどっから見ても死体じゃねーぞ」
「魔女じゃないもんは魔女じゃないでおじゃる!ラグナはオダインの研究を信用しないでおじゃるか?!」
「わかったわかった。他はともかく、学者としてのあんたは信用してるよ。−−−−で、ホントにあのイデアは魔女じゃないんだな?」
「何度同じことを言わせるでおじゃるか?イデアはもう魔女じゃないでおじゃる。オダインが初めてイデアに会った時には確かに魔女だったんでおじゃるが、今朝調べたら魔力のかけらもなくなっていたでおじゃる。魔力の継承は普通魔女が死ぬ時に起こるんでおじゃるが、ほんのたまに生きてるうちに継承することもあるらしいんでおじゃるな。そんな貴重な例をオダインが自分で見られたのはそれはそれなんでおじゃるが、データがとれなかったんではうれしさ半分以下でおじゃる。新しい魔力封印機械の実験ができるのも楽しみにしてたんでおじゃるが、魔女じゃない人間に使ってもなんの足しにもならないでおじゃるし・・・・・・・・・」
「封印なんてせんで済むならそれにこしたことはねえんだよ、ボケじじい」
「ラグナ・・・・・・・冷たいでおじゃる。年寄りは大事にするもんでおじゃるよ」
「都合のいい時だけ年寄りづらするんじゃねえよ。−−−−イデアと話はできるな?」
オダインはつまらなそうにうなづいた。

×

 ラグナが部屋に入っていくと、イデアは彼の方に振り向いた。
 物静かで優しい瞳−−−−−これが、本当のイデア、か?
「イデア・クレイマー?」
「はい。−−−−−あなた、は?」
「エスタ大統領、ラグナ・レウァール。・・・・・・・・・・・いや、あんたには、スコールとエルオーネの父親、と言った方がいいかな、ママ先生」
「あなたが・・・・・・・・・?」
「もっとも、エルオーネとは義理の関係で、血のつながりはねえけどさ」
「エルオーネから話は聞いていました。スコールのお父さんの名前はラグナ。姓までは幼かったあの子ははっきりと覚えていませんでしたが。そして、エスタに行ったきり帰ってこなかったと。でも、どうして・・・・・・・・」
「いろいろあってさ。−−−−−その話はまたいずれしよう。今はエスタ大統領として、ガルバディアの魔女だったあんたと話がしたい」ラグナは隅の椅子を引き寄せると、イデアの前に座った。「いったいあんたに何があった?何があって、ガルバディアを乗っ取らされるハメになったんだ?」
「『乗っ取らされた』?『乗っ取った?』とは訊かないのですか」
「あんたがあの行動をあんた自身の意志で起こしたんじゃないと考えるに足る状況証拠がいくつかある。それにオレは、自分の目で見たものを信じることにしてるんだ。商売柄、人を見る目はあるつもりだしね。−−−−いや、これだけ違えば、相当鈍感な人間でもわかるだろうよ。あの『ガルバディアの魔女』とここにいるあんたは全然別物だってさ。オレは前にもあんたに会ってんだ。デリングシティで」
「デリングシティで?」
「そ。パレードの一見物人としてだから、会ったってのとはちと違うかも知れないけど。オレは怖いもの知らずにはちょいと自信があるんだけどさ、あの時のあんたは遠目でもすっげー怖かったぜ」
イデアは目をふせた。
「でも、今のあんたならば話を聞く価値はあると思う。とりあえず話してみてくれないか。聞いてみないことには、判断のしようがない」
「そうですね・・・・・・・・・」
イデアは顔を上げると、まっすぐラグナの目を見つめた。
 そして彼女は話し始めた。
「『ガルバディアの魔女』は私ではありません。身体は確かに私のものでしたが、心は別人でした。それは、未来から来た魔女、アルティミシア」
「未来・・・・・・・・・?」
「そうです。遠い未来に住む魔女。彼女は身体は未来に置いたまま、ある機械を使って心と魔力だけを過去に送ってきました。彼女の最終目的は時間圧縮。時間の流れをゆがめ押しつぶして世界を消滅させ、自分が唯一無二の存在になること。彼女はそれだけのことができる強大な力を持つ魔女です。しかし、理由はわかりませんが、彼女が本来属する時間ではその魔法がうまく発動できないらしく、条件のよい時間を探してさまざまな時間に飛んだのですが、やはりだめだったようです。その原因を彼女は、機械とでは波長がうまくあわせられないからだろうと考え、時間の枠を越えて人の心を飛ばせる唯一の生身の人間−−−−エルオーネを探すために、この時代にやってきたのです」
「その魔女は、エルオーネのことを知っていた、と?」
「はい。あの子の名前と生きていたおおよその時代とだけですが。彼女が使った機械自体が、エルオーネの力を研究して得たデータを元にして作られたものを改良発展させたものだったようです。それは不特定・任意の人を対象にできるとはいえやはり過去を見ることしかできないもののはずですが、それにもかかわらず自分の意志や魔力までも過去に送りこめたのはやはりアルティミシアだからでしょう」
 その機械に、ラグナも心当たりがあった。
 『ジャンクション・マシーン・エルオーネ』。オダインがエルオーネ研究の集大成として作った機械。それのいちおうの完成を見てオダインは、エルオーネにも彼女の力にも興味をなくしたのだった。
 それは使用者と相当波長のあう人間のほんの数年程度の過去ならばわずかにかいま見られるという程度のもので、使えるとはとうてい言い難いシロモノだった。そして機械や研究データの破棄の必要は感じないまま、ラグナはそれのことは今の今まで忘れていた。
「アルティミシアはもっぱらその時々の魔女のところに自分の心を送りました。たぶん、魔力の増幅器としても使えるからでしょう。そしてこの時代に来るにあたって、彼女は私を選んだのです。彼女が私の心に入り込んできた時私は、彼女の意図を瞬間的に感じ取りました。私はエルオーネをかくまった本人です。私の心をさぐられたらあの子の居場所はすぐに知られてしまいます。それで私は、自分の意識を自ら封じ、身体を彼女に明け渡しました。そのあとの記憶は、ガルバディアガーデンでSeeDたちと戦ったおりに彼女が私を解放した時までありません。しかしその間に私が何をしたかは、ガーデンの学園長をしている夫やSeeDたちから聞きました。それで・・・・・・私は、デリングシティで・・・・・・・スコールを・・・・・・・・・・・」
「それも、すぐ近くで見ていた。−−−−スコールのことはエルオーネに聞いて初めて知ったんで、あれが自分の息子だとは、あの時は夢にも思わなかったけれど」
「ご存じだったんですか。・・・・・・それでもあなたは、私の話を信じてくださるのですか?」
「信じる信じないは、これから他の視点からも検討した上で決める。簡単に話を鵜呑みにしないのは長年のうちに身についた習性みたいなもんなんで、悪く思わないでくれよ。それで−−−もうひとつ、訊いていいか?」
「なんでしょう」
「13・・・・・12年前か?ガーデン設立はあんたの発案だってな。何があって、そんな前に今のようなことが起こると知った?知っていたからこそ、ガーデンを作ったんだろう?」
「−−−−私は、アルティミシアの後継者でもあるのです」
「は?未来の魔女の・・・・・・後継者?」
「はい。−−−−彼女は死の時、今から13年前の私の孤児院の庭に迷い込みました。私はその時すでに魔女でしたから、彼女も魔女であり、死を前に自分の力を受け継がせる者を探していることはすぐにわかりました。私は、彼女をほおっておけば孤児院の子供たちの誰かが魔女になりかねないと思い、自分がその力を引き受けたのです。その時、彼女が将来世界の脅威となる魔女であること、そして彼女に対抗するためにSeeDと呼ばれる兵士が必要なことを知りました。それはあまりにも漠然としたイメージにすぎませんでしたから私も最初は半信半疑でしたが、その時私が感じ取ったものがひとつずつ実現されていくにつれてそれは確信に変わりました。そしてアルティミシアが行動を起こす時となった今、SeeDたちは立派に育ってくれました。特にスコールは−−−あなたの息子さんは、彼らのリーダーにふさわしい実力を身につけた、と私は思っています」
「・・・・・・・・だけど、スコールは・・・・・・・・・・・・・・」今まで冷静そのものだったラグナの声が震えた。「・・・・・・・あのバカ、なんだってこんな・・・・・・・・・!」
「スコールが、どうかしたんですか?エルオーネに会いに宇宙まで行くと言っていましたが」
「月の涙が原因で起こった事故に、あいつも巻き込まれちまったんだ。それでも逃げようと思えば逃げられたってのに、あいつ、アデルの封印を解きに宇宙に出ていった女を追いかけて行って、そのまま・・・・・・・・・・。やっと会えると思ってた矢先に・・・・・・・・・・」
 胸が張り裂けそうだった。
 他にやらなければならないことは山ほどあるからと、ここであれこれ考えたところでどうしようもないからと、自分の息子ひとりのために軍の人員を割いたり彼らの命をむやみに危険にさらすわけにはいかないからと、スコールのことはあえて考えまいとしていた。
 考えまいとしていたぶん、一度口に出したら歯止めがきかなくなっていた。
「レウァールさん・・・・・・・・。スコールなら、大丈夫です」
「オレだってそう思いてえよ!17年間探し続けてきた、たったひとりの息子だぞ!誰がこんな形で失いたいもんか!だけど、宇宙服の生命維持装置はいいとこ10時間しかもたねえってのに、事故からもう丸1日以上たっちまったんだよ!」
「それでも、です。あの子には、まだやるべきことが残っています」
「あったりまえだろが!あいつはまだ17なんだぞ!これからやりたいことも、やるべきことも、いくらでもあるはずなんだ!!」
「そんな一般的な意味で言ったのではありません。あの子が今死ぬことは決してないのです。それは願望でも気休めでもありません。事実です。私は、それを知っています」
「スコール・・・・・・・・・・・・!」
 どうして、どうしてこれからって時に・・・・・・・・・・・・。
 オレはまた何か間違えてしまったってのか?
 オレはまた何か取り返しのつかないことをしでかしちまったってのか?
 オレはこれからどうすりゃいいんだ?
 レイン・・・・・・レイン。なんとか言ってくれよ・・・・・・・・・・・。
『ラグナくん−−−−−ラグナくん!急いでこっちに戻ってくれ!!』
突然、実験室にスピーカーから声が響いた。
 ラグナはびくりとして顔を上げた。モニタールームの窓で、キロスがわたわたと彼を手招きしているのが見えた。
「なんかあったみてえだな・・・・・・・・。行かないと」ラグナはふらりと立ち上がった。「イデア・・・・・ごめんな。ついとりみだしちまって。訊きたいことはまだあるから、あとでまた来る」
「−−−−私、少し安心しました。あなたのようなお父様がいらっしゃることを、スコールも心強く感じることと思いますよ」

×

 モニタールームに戻ったラグナを、キロスはすっかり興奮して出迎えた。
「ラグナくん、喜べ!スコールくんが・・・・・・・・・見つかった!」
「・・・・・・・・・・・・・・・そっか」
ラグナは力なく返事をした。
「なんて顔をしているんだよ!私は、遺体だけでも回収できてよかったななんて言うほど無神経でもなければ、そんな知らせを君に面と向かって言えるような度胸もないぞ!−−−−−生きてたんだよ。生きて、見つかったんだよ!!」
「生きて・・・・・・・・?」ラグナはぽかんとして言った。「でも、生命維持装置はとっくに・・・・・・・・・・・・・」
「それでも、だよ!エアステーションの連中のお手柄だ!あの宙域にアデル・セメタリー打ち上げに使用したまま放棄した飛空艇があるのを思い出したスタッフが交信を試みたら、返事が返ってきたんだ。スコールくんは、飛空艇に待避していたんだよ!飛空艇にはまだ空気も、燃料も残っている。今、オートパイロットで地上に戻れるように航路計算をしているところだ。君の息子は−−−−−生きて帰ってくるよ!!」
「スコールが・・・・・生きて、帰って・・・・・・・・・・・・」
ラグナはへなへなと床に座り込んだ。
「ど、どうした、ラグナくん??」
「・・・・・・・・・・腰、抜けた・・・・・・・・・・」
「ははは、バカだな!」キロスはラグナに抱きつくと、彼の背中をばんばん叩いた。「さすがは君の息子だ、どんな無茶をしても最後にはなんとかなってしまう、そんな悪運の強さは父親ゆずりだよ!!」
「なんだよそりゃ〜??そんなとこが似てたってオレはうれしくもなんともねーぞ!!」
そう言うラグナの心に、やっとうれしさがわきあがってきた。
 信じられなかった。
 ついさっきまで、絶望しか感じられなかったことがだ。
 まだやり直せるんだ。
 やり直すチャンスを与えられたんだ−−−−!
 ラグナはやっとの思いで立ち上がり、実験室の窓に駆け寄った。そして満面の笑みでイデアに思いっきり手を振った。彼女はそれの意味するところを悟ると、ほほえみを返した。
「おっし!そんなら次だ、次!待ってろよエルオーネ、すぐに助け出してやっからな!!」
 ラグナはまず、エアステーションに電話をかけた。彼は飛空艇のスコールと最初に話したというスタッフを呼び出してもらうと、感謝と感激の言葉を自分でも何を言ってるのかわからないくらいむちゃくちゃにまくしたてた。
「は・・・・・・・はあ。ありがとうございます」
モニターに映る電話の相手は、すっかり困っていた。
 そしてラグナの言葉がようやくとぎれると、スタッフは少々遠慮がちに言った。
「それで・・・・・・・ちょっと気になることがあるんです。オダイン博士といっしょにこちらに来てくださいませんか?」




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