SECOND MISSION〜Final
Fantasy VIII・IF〜
〜ルナサイドベース・3〜
ルナサイドベースの通路を、ラグナはエルオーネを抱いて歩いていた。 彼女はまだ眠っていた。その顔を、ラグナはにこにこしながら眺めていた。彼女の寝顔を見るのは、再会してから初めてのことだった。夜遅く、彼女が眠ってしまったあとに帰った時などちょっと顔くらい見たいと思ったりもしたが、二十歳過ぎの妙齢の女性が寝ているそばに近寄るのははばかられる気がしたのだ。 しかし、こうして眠っているエルオーネの顔は、子供の頃そのままだった。あの頃はよく寝る前に絵本を読んでやったり即興で作ったお話を聞かせたりしたもんだよなあ−−−−そのことを思い出して、彼はなんだかうれしくなっていた。 エルオーネがかすかにみじろぎした。そして、うっすらと目を開けた。 「お、目が覚めたかい、お姫さま?」 「・・・・・・・・・?」 「宇宙にようこそ」 「・・・・・・え?もう・・・・・着いたの?」 彼女はまだぼーっとしたまま目をこすった。そして、ラグナに抱き上げられているのに気づくと、完璧に目が覚めて、とびあがりそうになった。 「おいおい、急にあばれるなよ。おっことしちまうじゃねーか」 「わ、私、自分で歩けるから・・・・・・・・・」 彼女は真っ赤になって言った。 「まあまあ、無理すんなって。コールドスリープなんて初めてのことだったから、体がびっくりしちまってんだよ」 「覚醒のプロセスに少々問題がありましたが、それは初めての人には時々見られることですからそんなに心配しなくてもいいですよ」隣にいた白衣の男が言った。「その様子なら、もう降ろしても大丈夫そうですね」 「ん〜〜〜、そんでもさあ」 「これから規定の検査をしますが、しばらく普通に行動したあとの方が正確な診断ができますので、歩けるようなら早めに自分で歩いていただきたいんですけど」 「ちぇっ、気のきかねえヤツ」ラグナは小声でつぶやくと、エルオーネを降ろした。「あ、こいつはピエット。ルナサイドベースの医療チームの責任者だ。宇宙滞在が初めての人間は精密検査を受ける義務があるんだ。ここの居住環境は地上とほとんど変わんねえけど、それでも時々体質的に合わないヤツがいるんでな。そーゆーことで、まずはこいつの指示に従ってくれな」 「はじめまして。おうわさは大統領から耳にたこができるほどうかがってましたよ」 ピエットはにこやかにエルオーネと握手した。 「お〜い、耳タコはよけいだろうが」 「違いますか?こちらにおいでになるたびに、すっごくかわいいとか利発で物覚えがいいとかいたずらっ子でひどい目にあわされたのは1度や2度じゃすまないとか奥さんに似て怒らせるとちょっと怖いとかさんざん−−−−−」 「お、おい、ピエット」 「ねえ・・・・・・・・いったい、どういう話を聞かせてたわけ?」 エルオーネは問いつめた。 「あ、オレ、そろそろ仕事しなきゃ」ラグナはそそくさときびすを返した。「んじゃ、ピエット、あとはよろしくな」 「もう!逃げる気?!」 「そうじゃなくって、ホントに仕事だってば!晩メシはいっしょに食えるからそれまでいい子にしてろよ、エル」 やれやれ、ヤブヘビだ−−−彼らの姿が見えなくなるところまで逃げ出すと、ラグナは頭をかいた。 −−−−だけど、あのくらいの方がエルらしくていいよな。 どこか悲しげなエルオーネの笑顔−−−それがラグナはずっと気にかかっていた。無理して笑っているのとは違う、だけど、心から笑っているというわけでもない。やっぱいろいろと苦労してきたせいだろうなあ、と思うと、彼もちょっとつらかった。 でも、あの中にはちゃんと昔のままのエルがいる。おてんばでおませでちょっぴり気が強くて、そして、本当にかわいい子供だったエルオーネが。 それなら大丈夫だ。いつか、本当の笑顔を見せてくれる。 オレにしても、突然年頃になって現れた子供を、しかも女の子を、どう扱ったらいいもんかいまだによくわかってないけど、それにもそのうち慣れるだろうし。 だが、しかしなあ・・・・・・・・と、もうひとつ、考えてしまうことがあった。 息子には−−−−スコールには、どうやって接すればいいんだ? これまではただ探しだすことだけに必死で、いざ会えた時にどうすればいいかなんて考えたことはなかった。しかし、居所がわかり、近いうちに会えそうだとなると、単純に喜んでばかりはいられなくなってきた。 これがもっと子供のうちのことだったのならともかく、すでに17才、一番難しい年頃だ。エルオーネに対してでさえあれこれとまどうことが多いってのに、まともに会ったこともない息子をどう扱えばいいもんだか・・・・・・・・・・・・。 う〜〜〜〜ん・・・・・・・・・・・。 そしてラグナは、自分の胸の内になにかもやもやしたものがあるのに気づいた。 −−−−まあ、今のうちから悩んでもしかたねえか。 それがなんなのか深く考えないまま、ラグナはひとりでうなづいた。その時がくればなるようになるだろうさ。−−−−−たぶん。 とりあえず、エルオーネに少しあいつの話を聞いておくか。 まだしばらくは、時間がある。 |
××× |
オペレーションルームのモニターパネルに、月の表面が映し出されていた。現在一番モンスターの動きが活発な地域だ。薄暗い月の地表で、大きな影がうごめいている。 「・・・・・・・・・・・・いつ見ても気持ちのいいもんじゃねえな」ラグナはつぶやいた。「報告書は読んだけどさ。ホント、ずいぶんにぎやかになっちまったもんだな、おい」 「はい。精密な観測記録が残っているこの20年間で最大のコロニーができています」オペレーターが答えた。「予測では、1年後に活動のピークを迎え、その後はいったん小規模なコロニーに分裂するはずです。ピーク時でもエネルギー量は月の涙発生の最低必要量の70パーセント程度、予測誤差は5パーセントです。現状では、警戒の必要はないかと思われます」 「そうあって欲しいぜ。今起こったりしたらサイテーだもんな。−−−−アデルの方はどんなんだ?」 「こちらはまったく変化なし。問題はありません」 20年前、アデルがエスタを支配していた当時も、モンスターの動きはかなり活発だったという記録が残っていた。月の涙が自然発生するほどではなかったため結局何も起こらなかったが、もしルナティックパンドラが使われていたら今頃は、セントラのように荒廃した土地があちこちにできていたことだろう。 そして今また、地上があの頃とどこか似た状況になるのにあわせるようにモンスターが集まり始めている−−−−単なる偶然だろうが、あまり楽しいことではないのに変わりはない。 しかし、1年やそこらでは月の涙対策は済みそうにないし、ただでさえ問題は山積み、起こる可能性の低いことにまで十分に神経をくばる余裕はない。 いつのまにか全部かたづいていればそれが一番いいのだが、ガルバディア軍の動きからしてどうしてもそうとは思えない。軍が今何をやっているのかその目的はまだ見えてきていないし、それ以上に、イデアの行方がまるっきりつかめないというのが問題だ。ガーデン同士の戦闘の時に死んでそのあと魔女派の人間たちが勝手にごそごそやってるのならまだ問題は単純化されるからそれはそれで−−−−−。 −−−−よくないか。 ラグナは思い直した。 エルオーネは心からイデアのことを心配している。自分を守り育ててくれた心優しい女性のことを。 事実イデアは、魔女への偏見や差別もあっただろうに、孤児院の経営者として多くの戦争孤児たちを育て、理解ある男性を得て普通の女性と同じように幸せな結婚もしている。それがイデアの真実の姿だというのならば、彼女が死んだりしたら悲しむ人も多いだろうし、それに、彼女が死ねばそれで終わりというものでもないだろう。イデアの豹変の裏にあるものまで調べ出さないことには−−−−。 「−−−−大統領」 「ん?」 スタッフの声に、ラグナはふりかえった。ドアのところにエルオーネが立っていた。 「ごめんなさい、まだお仕事中だったね。じゃましちゃいけないから、やっぱり部屋で待ってるわ」 「ん、かまわないぜ。ちょうど一段落ついたとこだしな」ラグナは優しい顔に戻って言った。「検査はどうだった?医者の立場からの滞在許可は下りたか?」 「うん、問題ありませんって」 「そっか〜、そいつはよかった。体質的にダメだって言われたら、オレにはどーしようもねえもんな〜〜〜」ラグナはにこにこしてエルオーネの頭をなでた。「そんでも2、3日は仕事がつまってるからあんましかまってやれないけど、ちょっとのことだ、我慢してくれよな。だけどその間タイクツじゃねーかな?なんかヒマつぶしになること−−−−」 「それなら心配しないで。さっき居住スペースの案内をしてもらった時、小説とか音楽とかの娯楽用データへのアクセスのしかたも教えてもらったから」 「お、そんならいいか。なかなか気のきくヤツもいるな」 「うん。それでね。ラグナおじさんが雑誌とかに書いた記事もあったから、さっきまでそれを読んでいたの」 「へ?そんなもん、ここのコンピュータに入ってたのか?」 「そうですよ。知りませんでしたか?」 スタッフのひとりが言った。 「知らんかった・・・・・・・・・・」 「7、8年くらい前からですかね。全部ではないでしょうが、エスタに入ってきた限りの記事はすべて入力してありますよ」 「・・・・・・・・・で、それがおまえらのヒマつぶしになってたわけね・・・・・・・・・・・」 「そうですねえ、この5年くらいは政治記事が増えてきましたから娯楽と言うよりは、外国事情の資料として読んでましたけど。それ以前は観光とか芸能とかエッセイとか手当たり次第だったじゃないですか。私も全部読みましたけど、おもしろかったですよ」 「あ、そうそう。昔、映画にも出られたでしょう?それもコンピュータに入ってますけど、もしかして、これもご存じないですか?」 別のスタッフが言い出した。 「なに・・・・・・・・・・?」ラグナは一瞬固まった。そして、どなった。「−−−−−バカヤロー、んなもん、さっさと消せ〜〜〜!!!」 「え〜〜、いいじゃないですか〜〜。ここでは楽しみが少ないんですよ〜〜〜?」 「アレはオレの若気のいたりなんだってば〜〜〜〜!」 「そんなに恥ずかしがることないじゃないですか?なかなかよかったですよ。私、去年トラビアに出張したんですけどね。その映画のロケ地が近くにあるって駐在員が言ってたんで、そこまで見物に行ってしまいましたよ」 「あ、それいいなあ。来月、ここでの勤務が明けて1ヶ月の長期休暇をもらえるんですが、まだ予定をたててないんです。出国許可、出してくれますよね?」 「そんなにいやなら消してもいいですけど。だけどやはりそのへんは、スタッフみんなの意見を聞きませんと。担当者の一存ではねえ」 その言葉に、まわりからいっせいに反対の声があがった。 「・・・・・・もう、いい。勝手にもりあがってろ」ラグナはがっくしと肩を落とした。「オレ、ちょいと休憩に行ってくるわ。データはあとでオレの部屋に届けといてくれ」 「はいはい、わかりました」 スタッフは笑いをこらえながら答えた。 |
× |
「さて、なんか飲むか。コーヒーでいいか?つっても食材の種類があんましないから、あとは茶とジュースがなんぼかとミルクくらいしかねえけどな」 「コーヒーがいいわ。・・・・・・・・ねえ。私、ラグナおじさんが映画に出たことがあるのは知ってたけど、それ、まだ見てないのよ。ここにあるのなら、せっかくだから今のうちに見ておこうかな」 「・・・・・・・・・見なくていいです」 ラグナはしぶい顔をしながらも、さっきのスタッフたちのもりあがり方を、悪いことじゃないなと思いかえしていた。 エスタの人間は、軽蔑しているとか嫌っているとかとは違うが、他の国にあまり興味を持っていない。それが戦後も鎖国状態を続ける一番大きな要因になっていた。 しかし、少なくともここにいるエリート連中は少し考え方が変わってきているらしい。 オレが書いたものをきっかけに外にも目を向けるようになってくれるのなら−−−−。 あとでデータを見ておくか。まだ提供できるものが手持ちにあるようなら出すし、エスタ向けに何か書き下ろしてもいい。いや、それよりもまずは一般市民の意識調査をした方がいいな。 「・・・・・・・・ラグナおじさん?」エルオーネが心配そうに声をかけた。「どうしたの?また難しい顔をして」 「ん?そんな顔してたか?−−−−いや、ちょっとな。やられっぱなしってのもしゃくだから、あいつらにどーやってしかえししてやろうか考えてたんだな」 「やめておいた方がいいわよ。きっと、やりかえされるのがおちだから」 「あの・・・・・・・・」 なんでみんなこーなんだか・・・・・。ラグナはちょっと情けなくなった。 「だけど、来てよかったな。仕事してるラグナおじさん、かっこよかったわよ」 「お、そっか?」彼はいきなり機嫌を直した。「そんなら、ここでもっとかっこいいとこを見せとかねーとな」 「映画もきっとかっこいいわよね。騎士役でしょ?あとでちゃんと見ておくからね」 「どーしてそこでその話をむしかえすかな・・・・・・・」 これもやり直せるもんならやり直したい過去ってやつかな、とラグナはため息をついた。 その時、スタッフが通路を走ってくるのに気づき、ラグナは足を止めた。 「すみません、大統領。地上からの緊急メッセージが届きました」 「は?緊急??」彼は顔をしかめた。「ちょっと待てよ、オレ、今朝ここに来たばっかしだぜ?それなのに、もうなんかあったってのかよ」 電波が使えないため、地上とルナサイドベースがリアルタイムで通信する手段はない。1週間に1度の物資輸送や1ヶ月に1度のスタッフ交代の時に報告書や個人的な手紙なども送られる。もちろん定期便を待てない急ぎのデータや問い合わせのやりとりも多く、臨時メッセージポッドが飛び交うこともそんなに珍しくはない。しかし、日常業務の範囲内である限り、いちいちラグナに報告が来るはずがないのだ。 通信が半断絶しているような場所だからゆっくりもできるだろうと言われて出てきたのに・・・・・とラグナはいぶかしげに書類に目を通した。 そして、最後まで読み通すと、つぶやいた。 「・・・・・・・なるほど。こりゃ、確かに大ごとだ」 「どうしたの?」 エルオーネは不安そうな面もちで訊いた。 「イデアが、エスタへの入国を希望しているらしい」 「ママ先生が?!」 「うん」彼はなかばぼうぜんとしてうなづいた。「自分の魔力の封印だか制御だかをオダインに依頼したいんだとさ」 「それで?どうするの?」 「入国を拒否する必要はないだろうって、下の連中は結論を出してる。軽微な魔力は感じられても、『ガルバディアの魔女』が発してた異常なまでの力はなくなっちまってるらしい。どうしてだか知らねえが、イデアがおまえの言う『ママ先生』に戻ってるみてえだ。その証拠もいっしょにくっついて来てる」 「・・・・・・・・なに?証拠って」 「『同行者、スコール・レオンハート以下SeeD6名』」 ラグナは書類中の一行を読み上げた。 「スコール?!スコールがエスタに来るの??」 「そう・・・・・・・らしい」ラグナは書類をエルオーネに見せた。「ここに書いてある名前、おまえ、知ってるか?」 彼女はゆっくりと、そこに書き連ねてあった名前を読んだ。そして、言った。 「うん・・・・・!この、リノアって人だけは覚えがないけど、あとはみんな、ママ先生の孤児院でいっしょに育った子供たちよ」 「そんならまあ・・・・・・・・・決まりだな。−−−−おい、ペンを貸してくれ」 ラグナは所定の位置にサインをし、なにやら指示を書き加えると、書類をスタッフに渡した。 「んじゃ、これを至急地上に戻してくれ」 「わかりました。−−−−それで、地上に帰られますか?帰還ポッドの準備は3時間ほどでできますが」 「いや・・・・・・・・。予定通りの日に帰る」 「ラグナおじさん?!」 「イデアのことは、とりあえずオダインにまかせときゃ大丈夫だろ。『ガルバディアの魔女』が自分を訪ねて来ると聞いて、すっかりはりきってるらしいし・・・・・」 「でも、スコールも来るのよ!早く帰らなきゃ!私に遠慮してそうすることにしたなんて言わないでよ。私だって・・・・・・・!」 「うんにゃ、そーゆーんじゃなくって、さ・・・・・・その・・・・・・なんだ」ラグナは頬をぽりぽりかいた。「つまり・・・・・いざ会えるかと思うと・・・・・急に緊張してきちまった。このまーんまあいつに会ったりしたら、ナニを口走るかわかんねえや。どーせ仕事がまだ全然片づいてねえし・・・・・・ちょうどいいからここで心の準備してからにするわ」 スタッフが立ち去ると、エルオーネは重ねて訊いた。 「ラグナおじさん・・・・・・。本当に、すぐに帰らなくてもいいのね?」 「ああ」ラグナはまだ心ここにあらずといった風情で答えた。「エル・・・・・・・悪ぃな。オレ、やっぱ部屋に戻るわ。メシ時になったら呼びに来てくれ」 ラグナはそう言うと、居住スペースの方に足を向けた。緊張した時の常でつっぱらかった脚をひきずり、何度もころびそうになりながら。 |
××× |
夜がふけた。 はるか眼下、エスタ大陸は闇に包まれた。その闇の中に、ルナサイドベースからもエスタシティの明かりがはっきりと見える。 早ければ明日の昼頃には、スコールがあそこに来る。 それを思うと、ラグナはまた落ち着かなくなった。 スコールに会うことが、急に怖くなっていた。 17年は、長すぎたな・・・・・・・・・・。 オレは今まで、子供たちを探しだしさえすれば心の整理がつくと思っていた。そしてそれは、もっと前ならば、彼らがまだ大人の手を必要とする頃だったならば、正しかったかも知れない。 しかしスコールも、すでに一人前と呼んでいい年齢になってしまった。そしてもう、誰かに守ってもらう必要なんかないことを、オレは知ってる。 今となっちゃ、これまでなんもせずほったらかしにしてきた親父が突然現れたところで、あいつにはうっとおしいだけかもな・・・・・・。 ラグナはふっと小さくため息をもらした。 −−−−−やっぱ、こんな気持ちのままじゃスコールに会えそうにねえや。名乗り出るにしろ、他人のふりをするにしろ。 でも、地上に帰ったら会わないわけにはいかないだろう。そして、それまでの時間はあまりない。 だからと言って、こんなこと、本当にしてもいいもんか? エルオーネからあの話を聞いて以来、ずっと考えていたこと。 オレ自身が傷つくのはいっこうにかまわない。だけど、エルオーネにまたつらい思いをさせるだろうと考えると、どうしても言い出せずにきたこと。 それでも。 変えられるのならば。変われるのならば。 いい方向に変われるとは限らなくても。 やってみなければ、何がどうなるかなんて、誰にもわからない。 そして、その可能性があるのなら。 ラグナは意を決して、コンパートメントのドアを開けた。 |