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SECOND MISSION〜Final Fantasy VIII・IF〜

〜ルナサイドベース・2〜




 エルオーネはウォードに連れられて、予定より少し早めにエアステーションに着いた。そこには、ルナゲート行きの小型飛行機がすでに待機していた。
 エスタに来てから彼女は、それまでは見たことも聞いたこともないようなものをたくさん見た。飛行機も、乗るのはもちろん、間近で見ることすら初めてだった。
「・・・・・・・・エスタでは、こんな立派な飛行機まで飛ばせるの。すごいね」
感心するエルオーネに、ウォードは苦笑した。
「え?私、なんかへんなこと言った?」
詳しく説明したかったが、さすがに身振り手振りでは込み入った話はできない。ウォードは近くにいたステーションの職員を手招きした。そして、エルオーネに彼の方を指さして見せた。
「なあに?あの人に訊けばいいの?」
ウォードはにこっとしてうなづいた。
 近づいてきた職員にエルオーネはふたたび、飛行機への率直な驚きを話した。そうしたら彼もウォードと同じく、ちょっと困ったように笑った。
「その、この程度の単純な機種にそれほど感心されても・・・・・・・・・。外でも飛行機くらい飛んでいませんか?」
「いいえ。もっと簡単な、エンジンもついていないようなものを趣味で楽しんでいる人がいるって聞いたことはありますけど。私は見たこともないんです」
「そうなんですか。では、外では航空技術はすっかり失われてしまったんですね」
「失われた?」
エルオーネは訊き返した。
「はい。魔女戦争当時は、他国にもこの程度の飛行機ならあったと聞いています」職員は言った。「エスタには本来、宇宙空間も航行できる大型飛空艇を製造・運用するだけの技術があります。しかし、高速・高性能の航空機を運用するには、安全性の点で地上からの管制がかかせません。それが、アデル封印に伴う電波障害のために不可能になってしまったんです。そのあたりの事情はエスタ国外でも同じなんでしょうね」
 電波が使えなくなったためにすたれた技術がある−−−−それは、電波のない世界をあたりまえとして育ったエルオーネにはすぐには理解できなかった。
 電波障害の影響は、原因がわからなかったエスタ国外の方が大きかった。情報の寸断は、原因不明ゆえの不安と相まって、戦争中以上の混乱を世界中にもたらした。
 しかし、電波障害が冷静に受け止められたのちには、それゆえにさまざまなものが発達した。
 広い海峡をもつっきる鉄道、各都市にくまなくはりめぐらされたオンライン放送・通信網の建設、道路網の整備。そして、はるか過去のものとして忘れさられていた伝書チョコボや人による伝令も、重要な通信手段としてシステムが確立されていた。
 中でも極端な発達を見せたのは、ガルバディア軍のミサイル技術だった。
 電波通信による統制がかかせない空軍は、どの国でもまっさきに消滅した。しかし、戦後一段と軍事色を強めたガルバディアは、陸海軍の強化と共に、空軍に代わる技術の開発を進めていた。 
 そしてこれまでに、長距離巡航ミサイルを完成させていた。移動するものには無力だが都市や施設といった動かないものならば、座標さえ正確に入力すればピンポイントで攻撃できる。もっとも、開発計画を熱心に推進していた当のデリング大統領は、その性能が実戦で証明されるのを見られなかったが。
「我々は現在でも緊急時に備えて航空技術の保持はしていますし、電波に代わる無線通信の開発も行っています。ですが、開発に成功していない現時点では、エスタでも航空機は日常的な移動手段としては使われていません。このように単純な機能のみに限定された低速機ならばパイロットの技量で十分な安全性は保てますが、多数飛ばそうとすれば地上での管制がどうしても必要になりますからね。政府機関が必要な時に使用するだけです」
政府機関。その言葉とラグナとがエルオーネにはやはりうまくむすびつけられなかった。
「ラグナ大統領もよくお乗りになりますよ。お忙しい方だというのもありますが、それ以上に、こういったものがお好きなようで、遠方にお出かけの時はたいてい飛行機をお使いになります。本当は操縦桿も自分で握りたいようなんですが、あれほど方向オンチな人にそんなことをさせるのは怖いですよ。訓練用シミュレーションでもまともな方角に飛べたことがないんですから」彼は苦笑いをしながら言った。「それと、大型飛空艇にも乗ってみたいとおっしゃってるんですが、どんなにゴネられても、それは先ほども説明しましたとおり、現状では無理−−−−−」
彼はそこで言葉を切った。
「ああ、うわさをすれば。お見えになりましたよ」
入り口の方に目をやると、ばたばたと駆け込んでくるラグナの姿があった。
「では、離陸の準備に入りますので失礼します。私がこんなことを言っていたってのは、大統領にはないしょにしておいてくださいよ」
彼はエルオーネに片目をつぶってみせた。彼女はくすくす笑いながらうなづいた。
「は〜〜〜〜、なんとか間に合ったぜ〜〜〜〜・・・・・・・・・・・」ラグナは息を切らしながら立ち止まった。「会議がヘンに長引いちまってさ。ぎりぎりのスケジュールが組んであるからな、ちょいとでも遅れたら日が暮れて出発が明日になっちまうからあせったあせった」
「・・・・・・・・・・・・・・」
またどこかで迷ってたんじゃないのか?とウォードは疑わしそうな目をした。
「今のオレの行動は取り巻き連中が逐一見張ってるからオレのせいじゃないっつーの」ラグナはくっついてきたSPを指して言い返した。「ん?なんか楽しそうだな?」
「うん。待ってる間に飛行機の説明をスタッフの人に聞いていたの。それでね」
「あ、そっか。エルは飛行機に乗るのも初めてなんだ。今じゃ飛行機が飛んでいるのはエスタだけだもんな。オレは戦争屋をやってた頃にガルバディア軍の輸送機に乗ったこともあるけどさ」ラグナは両手を広げた。「空はいいぜ〜〜〜。視界がすっかーんと広がってさ。月並みな言い方だけど、鳥になった気分ってヤツだな。自分で操縦できりゃもっと気持ちいいだろうけどさ、操縦席に座るのすらみんなしてよってたかって止めるんだ。それだけならともかく最近じゃ、シミュレーションすら壊しかねんってつってやらして−−−−」
エルオーネとウォードは目を合わせると吹き出した。
「なんだよ?なんでそこで笑うんだ??」
「なんでもない〜」
「また誰か、つまらんことを言ったな・・・・・・・・・・・」ラグナは舌打ちした。「ま、いいや。昨今、飛行機に乗るだけでも誰にでもできるってわけじゃあねえし。大統領なんてうっとおしいことばっかでうんざりだけどよ、こんな時ばかりはこーゆーのも悪くないよな〜〜〜と思うぜ」
ラグナは子供のようにうれしそうにそう言った。
 やっぱりすごい人なんだ−−−−エルオーネはあらためて思った。誰にでもできるわけではないこと−−−−たとえば、軍隊を動かして自分を探させることができるくらいの権力を持っていることもだが、それ以上に、それにもかかわらず一介の技術者が親しみのこもった悪口を気楽に言える雰囲気をなくしていないことがだ。
「空を飛べるだけでもすごいのに、これから宇宙に行くのよね。本当に?」
「ホントにホント。世界中を飛び回るのがオレのちっこい時からの夢だったけど、まさかそんなとこにまで行けるとは思ってなかったぜ。こればっかりはアデルに感謝しないとな」
「アデルに?」
「そ。もともとルナサイドベースは−−−−−」
その時、スタッフが呼ぶ声が聞こえた。
「大統領、離陸の準備、完了しました!」
「あいよ〜!」ラグナは大声で返事をした。「んじゃ、行ってくるぜ。ウォード、留守を頼むな」
「・・・・・・・・・・・・」
「ん、ありがとよ。今日はばたばたしててキロスには会えんかったんで、あいつにも礼を言っといてくれ」



×××



 天気もよく、空の旅は快適だった。
 エルオーネは窓にはりつくようにしてずっと外を見つめていた。はるかかなたに広がる地平線。豆つぶのような街と建物。今まで想像もしたことがなかった光景がそこにあった。
 そしてあっと言う間に−−−実際には数時間かかったのだが−−−ルナゲートについた時には、少々あった宇宙という未知の世界に行くことへの不安はすっかり消え、期待だけが彼女の胸を占めていた。
「ここから宇宙に行くんだね・・・・・・・・・・・・」
エルオーネははるか天空へと伸びる発射台を見上げた。そのずっと先、暗くなりかけた空にひとつ、ひときわ明るい星が輝いていた。ルナサイドベースだ。
「さっきちょっと言いかけたけど、もともとコイツを作らせたのはアデルなんだ。月のモンスターを観測するためにな」ラグナは先に立ってルナゲートの入り口に向かいながら言った。「『月の涙』のことは知ってるだろ?セントラを壊滅させた、月からモンスターが降ってくる現象」
「うん」
「アレが今度はエスタで起こるらしいんだ」
「エスタで?」
エルオーネはかすかに青ざめた。
「なに、心配することはねえよ。そんなに近いうちのことじゃあない。正確な時期までは予測できてねえけど、科学者連中の言うことじゃ、オレが生きてる間には起こらないんじゃないかってくらい先の話だ」
「それで、アデルが基地を?」
「違う違う。そいつがわかったのはアデルを封印したあとだ。アデルがオダインに研究させてた理論を応用した結果な。−−−−20年前、オダインは月の涙の研究をしていた。その一環としてセントラで前回の月の涙の中心地を発掘してた時に、モンスターの動きを誘発だか誘導だかする物質を見つけたんだ。んで、オダインは、そいつを使えば月の涙を自由に発生させることができるんじゃないかって考えついてさ。かなりの広範囲を不毛の地に変えちまうくらいのパワーがある月の涙を思い通りにコントロールできる、そんな話をアデルがほっとくわけがない。ヤツをせっついて研究させて、オレがエスタに来た頃には立派な兵器を作り上げてた。そんで、そいつの力を十分に発揮させるためには、月のモンスターの動きを把握する必要があった。そのために、ルナサイドベースを作ったんだ」
「それで・・・・・その兵器は、どうなったの?」
「海に捨てた。そんなもんを持ってたっていいことはひとっつもないからな。だけど、月の涙の研究そのものは悪いことじゃあない。アデル封印後も研究を続けた結果、次はエスタで起こるってわかったってわけだ。科学者たちが『ティアーズポイント』って名付けた場所でな」
「怖いね・・・・・・・・。ずいぶん先のことって言っても、この近くで起こるのは間違いないんでしょ?」
「そんなむやみに怖がることはねえさ。確かに、相手は自然現象だ、人間の力で止めることまではできん。だけど、こっちの予測の範囲内で起こる分には対処の方法もある。10年前から、いざ月の涙が起こった時、降ってきたモンスターを殲滅するための施設をティアーズポイントに作ってる。さすがに大規模な施設なんで完成までまだ5、6年はかかりそうだけど、それさえできちまえば、過去の記録になかったほど強大なもんじゃない限りなんとかなる。それでもその周辺地域は向こう百数十年は人間の住める場所じゃなくなるだろうが、なんにもしなけりゃエスタ全土に被害が及びかねんことを考えるとずっとマシだよな。−−−−−とまあ、こーやって今のうちからいろいろと対策を進めてるけどそれは、月の涙が予想地点で起こってこそ十分に生かされるってもんだ。そこで、ここでまた『アデルの遺産』が出てくるんだ。ルナティックパンドラと−−−月の涙を利用した兵器と同じ方法を使って、モンスターを誘導して確実にティアーズポイントに降ってこさせる。そうすりゃ被害を最小限に食い止め−−−−」
そこでラグナは、目を丸くして自分を見ているエルオーネに気づいて足を止めた。
「あ〜〜〜、すまん。つい、難しい話をしちまった。こんな話、つまんねえよな」
「ううん、そんなことはないわ。ちょっとびっくりしただけ。−−−−ラグナおじさん、まるで大統領みたいなんだもの」
「あの・・・・・・。みたい、じゃなくってホントにそーなんですが」
「ごめんなさ〜い。だって、やっぱりなんか似合わなくて」
「オレもそう思うぜ。この10年、自分では大統領の肩書きは返上したつもりで外を飛び回ってたからよけいにさ」ラグナは苦笑いをした。「さ、固い話はこのへんでヤメだ。出発時間がせまってるから、急いで行くぞ。宇宙にまで通信ケーブルを引くわけにはいかねえから、あっちに行ってしまえばそう簡単にじゃまは入らない。予定の仕事だけとっとと片づけちまえばあとは、おまえだけのラグナおじさんに戻れるぞ、エル」
エルオーネはにこっとしてうなづいた。
 しかし、その笑顔がなんとなく悲しげに見えたのがラグナは気にかかった。




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