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SECOND MISSION〜Final Fantasy VIII・IF〜

〜エスタ(1)・2〜




 エスタ船団は戦闘態勢を整えると、突撃を開始した。
 突然の敵船団の襲撃にガルバディア軍が動揺するのが、遠くからでも見て取れた。
 エスタ軍は白い船とガルバディア船団の間に割り込むようにつっこみ、陣形を整えきれずに右往左往する敵軍を攻撃した。
 その間隙をぬってラグナの乗る旗艦は白い船に横づけした。そしてメッセージを携えた兵士がふたり、白い船に乗りこんだ。
 船長とおぼしき−−−それにしてはずいぶん若い−−−男が白い船の甲板に姿を現した。男は警戒心を隠そうともせず、エスタ兵士となにやら話し込んでいた。
 その様子をラグナはいらいらしながら見守っていた。敵の急襲にうろたえていたガルバディア軍も、すっかり態勢を立て直していた。数はあちらの方が圧倒的に多い。いくらこちらの方が船や兵器の性能がよくても、本気でかかってこられたらそういつまでもはもたない。
 やがて、伝令がラグナのところに戻ってきた。
「やはり、エンジンが故障しているようです。自力航行はまず無理かと」
「んなこたあ、見りゃわかるよ。それで、何人くらい乗ってんだ?何人でもいいや、とにかく、この船が沈むほど乗っちゃいねえだろうが。さっさとこっちに避難しろとは言ったんだろ?さすがに船ごと曳航するほどのパワーはねえぞ」
「そのように伝えましたが・・・・・。しかし、我々がエスタ軍だとわかると、そちらも信用できないの一点張りで・・・・・・・・」
「あ〜〜〜、しまった・・・・・・」ラグナは頭をかかえた。「そりゃそうだ。そんなふうに思われてもしゃーねー・・・・な・・・・・・・・」
 ガルバディア軍の攻撃が激しくなってきた。次々に船の損傷や戦況不利が伝えられてくる。撤退命令を出さざるを得なくなるのは時間の問題だった。
「−−−−わーった。オレが話をつけてくる」ラグナはさっさと白い船の方へと歩き出した。「最初っからオレが行けばよかったんだ。軍人じゃねえのはオレだけなんだからよ。オレもエスタに助けられたクチだとかなんとか言ってごまかしゃなんとかなるかもな」
「いけません!おやめください!!」
「心配すんなって。ちくっと話してみて、ダメなようならすぐ戻る」
「今からでは危険です!!−−−−おい、大統領をお止めしろ!!」
船団長の命令に、兵士が両脇からラグナの腕をがっちりとかかえこんだ。
「ナニすんだよ!すぐに戻るって言ってるだろーが!!」
「だから、今からではもう−−−−−」
その時、飛んできた砲弾が旗艦のマストを一本ふっとばした。船全体が激しく揺れた。
「ここまでです・・・・・・!−−−−全軍に撤退命令!大統領はキャビンに!!」
兵士たちはラグナをキャビンの方へとひきずりだした。
「おいっ!まだひとりも助けてねーじゃんかよ!!」
「これ以上の無理はできません!無茶はしなくていいとおっしゃったのはあなたご自身です!だいたいあなたは、どうしてここにいるんですか?お嬢さんを探すためじゃなかったんですか?!」
「あ・・・・う〜〜〜〜・・・・・・」ラグナは唇をかんだ。「わーった!全軍撤収!オレも自分でキャビンに戻る!だから離せってーの!首がしまるだろーがっ!!」
 兵士たちはしかたなしにラグナから手を離した。その横で、撤収命令を伝える信号弾が打ち上げられた。ラグナは気にいらなそうに首をさすりながら、のろのろときびすを返した。
 その時、誰かが彼の名を呼んだような気がした。
 ラグナは振り返った。
 白い船のへさきで、ひとりの女性が手すりにしがみついて身を乗り出していた。
 彼女は必死になって何か叫んでいた。
 亜麻色の髪が、海風に揺れる。
「−−−−−−−ラグナおじさん!!」
砲声が響く中でも、彼女の声ははっきりと聞き取れた。
「エルオー・・・・・・・・ネ?」
「ラグナおじさん!!!」
間違いなかった。彼女が繰り返し叫んでいるのは、彼の名だった。
 ラグナは彼女の方へと走り出した。
「エルオーネ・・・・・・・・エルオーネ!!」
 ラグナは走った。必死になって走った。
 船尾にたどり着いた時には、エスタ船はゆるゆると白い船から離れようとしていた。
 また、手が届かなくなる−−−−−!
 ラグナは両手を広げ、声の限りに叫んだ。
「来い!エルオーネ!!飛べ!−−−−−−−早く!!!!」
 彼女にためらいはなかった。彼女は手すりを乗り越え、ラグナの胸へと飛んだ。
 なつかしい光景がよみがえった。
 草原を渡る風。
 一面の花畑。
 生まれたばかりの小さなチョコボ。
 初夏の木漏れ日。
 そして−−−−木に登って降りられなくなり枝の上で泣きじゃくる幼い少女。
 次々に浮かぶ思い出と−−−−彼女の体の重みを受け止めきれず、ラグナはしりもちをついた。
 そして、甲板におもいっきり頭を打ちつけた。
「ラ、ラグナおじさん、大丈夫??」
ラグナにのしかかるかっこうになったエルオーネは、目を丸くしてそう言った。
「あ・・・・つっ・・・・・・・・。あんまし大丈夫、じゃ、ねえかも・・・・・・・・・・・・・」ラグナは顔をしかめながら後頭部をさすった。「・・・・・ったく、ちくっと見ねえうちに、すっかり重くなっちまいやがって・・・・・・・・・・・・・」
「ちくっと、って・・・・。あれからもう、17年もたっちゃったのよ・・・・・・・・・・・・・・」
「そっか・・・17年か・・・・・。ついこの間みたいな気がするけどよ・・・・・・・・・・・・・・」
 ラグナはエルオーネに手をのばした。
「もっとよく顔を見せてくれよ・・・・・・」ラグナは彼女の頬に触れた。「・・・・・・美人になったな、エル。思ってた通りだ・・・・・・・・・・・・・・」
「ラグナおじさん−−−−−−!」
 エルオーネはラグナにしがみついた。そして泣きじゃくり始めた。
 ラグナはそっと彼女の背中をさすった。
 そう−−−−−あの頃も、よくこうして抱きしめてやった。
 モンスターに襲われそうになった時。ころんでけがをした時。こわい夢を見た時。ちっちゃいエルが泣きやむまで、ずっと。
 いつしか砲声はやんでいた。そして、静かな波の音だけがあたりを包んでいた。



×××



 キャビンのテーブルの上には、兵士が気をきかせて持ってきた温かい飲み物の入ったカップがふたつ。
 それがホットミルクではなくコーヒーなのが、ラグナには不思議でならなかった。
 エルオーネがすっかり大人になっていたことに、彼はとまどっていた。理屈ではわかっていたはずなのだが。こうして育った彼女を目の当たりにして、17年という時の長さをあらためて感じていた。
「−−−−ラグナおじさん、まだエスタにいたんだね・・・・・・・・・・・」
「ん・・・・・・・・・・・。な〜んかガルバディアには帰りそびれちまってよ。それで、エスタの市民権とって、いついちまったんだな」
「だけど、ずっとエスタにこもっていたわけじゃなくて、世界中飛び回って私を探してくれていたんでしょ?さっき兵隊さんに聞いたわ。−−−−私、すっごくうれしかった」
「ははは〜、それはそうなんだけど、結局今まで見つけられなかったんだよな〜。こんなにあっさり見つかるようなら、意地はってねえでさっさと軍隊を動かすんだった」
ラグナは頭をかきながら照れ笑いを浮かべた。
「それだけでいいの。−−−−だって、私、あの船で隠れて暮らしてたから、見つからなくてもしかたなかったわ」
「おまえ、ずっとさっきの船にいたのか?」
「うん。たまには町に遊びに行ったりもしたけど。−−−−私が10の時から、かな?ママ先生が−−−−私を育ててくれた孤児院の院長先生が、オダイン博士の追っ手に気づいて、あの船を買って私をかくまってくれたのよ」
「オダイン、か。まったく、あのじいさん−−−−−」
「あ、でも、ね。それだけじゃないの。と言うより、今まで隠れてたのは、他に理由があったからよ。船に移ってすぐの頃、ママ先生がこう言い出したの。いつかまた悪い魔女があなたを狙うかもしれないって。だから、どんなに淋しくっても船の人たちの言うことを聞いていい子にしてなさいって」
「魔女・・・・・・・・」ラグナは身をのりだした。「そう、それだ。オレも、魔女がおまえを探しているらしいって聞いて、無理言ってエスタ軍に出てもらったんだ。−−−−魔女・イデアが探しているのは、やっぱりおまえのことか??」
「そう・・・・・だと思う」
「だけど、おまえが10の時って言うと、十何年も前のことじゃねえか。そのママ先生とやらは、そんな前からこうなることを知っていたっていうのか?ガーデンの学園長もそうらしいって話だし。・・・・・・・・どういうことだよ、こりゃ?」
「ガーデンを作って魔女を倒せる兵士を−−−−SeeDを育てようって最初に言ったのは、ママ先生なの。ママ先生とガーデンの学園長先生は、夫婦なのよ。そのあと孤児院は閉鎖して船に子供たちを移し、兵士として有望そうな子供はガーデンで育てて・・・・・・・・・」エルオーネは目をふせた。「それでね。−−−−−おじさん、驚かないで聞いてね。ママ先生の名前はイデア・クレイマー。あの魔女・イデアなの」
「は!?」ラグナはあっけにとられた。「え〜〜と、それって、つまり・・・・・・・。魔女・イデアは、いつか自分がこんなことをおっぱじめるって知ってて、おまえをかくまい、自分を倒すための組織を作ろうって言った、って、こと、か・・・・・・・・・?」
「そういうことになるのかな・・・・・・・・・・」
エルオーネはうつむいた。
 しかし、顔をあげると、きっぱりと言った。
「だけど、あれはママ先生じゃないわ。みかけはそうだけど、中身はママ先生じゃない。ママ先生は本当に魔女だった。子供の頃に魔女になったって言ってた。だけど、あんなことをするような魔女じゃなかった。時々は力を使ったけど、それは、孤児院の子供が病気になったり迷子になったりした時にちょっぴり使うだけで。あんな恐ろしいことは絶対にしない、とっても優しい魔女だった。−−−−何か、あったのよ。そうとしか思えない」
「ん・・・・・・・・。そうかも知れねえな。そうでなきゃ、自分が隠した子供を探すのにあんなおおげさなことをする必要はねえよ」
「そう思うでしょ?」エルオーネはため息をついた。「ああ、なんかやだな。スコールや孤児院のみんながママ先生と戦わなきゃならないなんて・・・・・・・・・」
「スコール?−−−−ああ、そういや、SeeDのリーダーがそんな名前だって聞いたことがあるな。そいつも孤児院の出なのか?どんなヤツなんだ?」
「・・・・・・・・・?」エルオーネは首をかしげた。「・・・・・・・・もしかして、おじさん、まだ知らなかった?スコールっておじさんの子供よ。レインが産んだ」
「その『スコール』ってのがか?!」
ラグナはすっとんきょうな声を上げた。
「そうよ。私が船に移るまではいっしょに育ったの。スコールの方はガーデンに行っちゃったから、それからはあまり会うこともなかったけど」
「・・・・・・・・・そっか。やっぱしおまえと同じ孤児院にあずけられてたのか。息子がいるってことだけは知ってたけどよ、それ以外はとんと。名前ひとつわかんなかったんだ。それで、探そうにも探せなくってさ・・・・・・・・。だけど、おまえが見つかりゃ息子もきっと、って信じてた。−−−−今、元気にしてんのか?」
「うん。名前はスコール。スコール・レオンハート。レインは赤ちゃんの名前、おじさんにつけてもらいたかったんだろうな、ジュニアとかベビーとかしか呼ばなかったの。だけど、レインが死に際、赤ちゃんのことをスコールって呼んだのをいっしょにレインを看取った花屋のおばさんが聞いたらしいの。私は覚えてないんだけど。姓の方は・・・・・・・。村の人たち、レインの子供におじさんの名前を名乗らせたくなかったのかな・・・・・・・・・。孤児院にあずける時、おじさんのことを教えなかったのよ。それで、学園長先生が、ウィンヒルの村長さんがお守りにってスコールにくれたライオンのペンダントにちなんでつけてくれたのね。−−−−ごめんね、ラグナおじさん。せめてスコールがおじさんの姓を名乗っていたら、手がかりになったかも知れないのに。私、まだ子供だったからどうにもできなくて・・・・・・・・・」
「しゃーねーさ。ほんとにそうだったんだから。今、元気だってわかっただけで・・・・・・・・十分だ」
 スコール・レオンハート。それがオレとレインの息子の名。
 スコール・・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・・スコール?
 あり?
 どっかで・・・・・・聞いたことが、ある。
 FHの駅長が話していたSeeDのリーダーってのが確か、そうだった・・・・・な。
 だけど、それ以外でもどっかで・・・・・・・・。
「あ、写真もあるのよ」エルオーネはペンダントをはずした。「私、つい最近、しばらくバラムガーデンにいたの。その時学園長先生にお願いしてもらっておいたのよ。おじさんに会えたら見せてあげようと思って。よかった。こんなに早く役にたって」
彼女はロケットのふたを開け、ラグナに差し出した。
「ほら、これ。学生証用の写真だからすごく無愛想な顔をしてるけど、他の写真でもたぶんこんなものよ。本当に無愛想な子なんだもの」
エルオーネはくすくす笑った。
 ラグナはペンダントを受け取った。
 そして、ロケットの中の写真を見るなり立ち上がった。椅子がうしろに倒れ、派手な音をたてた。
「エルオーネ・・・・・・・・・。これが、本当に、オレの息子、か??」
「そうよ。レインにちょっと似ていると思わない?こんな小さな写真じゃわからないかしら」
ラグナは腰を落とした。そこに椅子はなかった。そして、床で腰をしたたか打った。
「ラグナおじさん?!」
「あた・・・・・・・。ケツも痛えが・・・・・・・・・・足、つった」
ラグナはつっぱった右足をさすった。そして痛みをこらえながら、言った。
「エル、オレ・・・・・・・・・。こいつに会ったこと、ある」
「え??本当?!」
「ああ。−−−−−話も、した。マイク越しだったけどよ・・・・・・・・・」
 デリングシティで魔女に立ち向かっていったSeeDの少年は、この写真と同じ顔をしていた。
 そしてD地区収容所で、内線電話のところに呼び出してもらった時、仲間のSeeDが彼のことをこう呼んでいた。「スコール」と・・・・・・・・・。
 あれが、オレの息子・・・・・・・・・。
「あ〜〜〜、なんであん時、先に行っていいなんて言っちまったんだ〜〜〜〜!!じっくり話をすりゃ、もしかしたらそうだとわかったかも知んねえのに〜〜〜〜!・・・・・・・・・・・・・一生の不覚〜〜〜〜!!!」
ラグナは頭をばりばりかきむしった。
 思いもしなかった彼の反応に、エルオーネはうろたえるばかりだった。




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