SECOND MISSION〜Final
Fantasy VIII・IF〜
〜フィッシャーマンズ・ホライズン〜
ラグナたちはガルバディア軍が展開を始めていた内海を避け、セントラ経由の船でフィッシャーマンズ・ホライズンに向かった。 その途中で船は、小さな港町に寄港した。月の涙の影響で荒れ地が広がるセントラ。そこにしがみつくようにしてわずかな人が細々と暮らしていたこんな片田舎にまで、ガルバディアの攻撃が及んでいた。町は破壊され、生き残った人たちも他の町に逃げてしまったあとだった。 −−−−なんでここまでする必要がある・・・・・・・・・・・・・? 計画書通りのことが実行されているのを目の当たりにし、疑問は深まるばかりだった。 その謎を解くヒントが残っているかもとここの取材もしてみたかったが、まずはガーデンの学園長を捕まえる方が先だった。 この港で乗る人も降りる人もいないことを確認すると船は、そうそうにそこを出港した。 船は予定よりも早くフィッシャーマンズ・ホライズンに到着した。 そして−−−−FHにも、ガルバディア軍はやってきていた。 |
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最も被害の大きかった突堤は、修復作業の真っ最中だった。 かなりの被害を受けたとは言っても、全滅かそれに近いほど蹂躙された他の町に比べればかすり傷程度のようなものだった。そして、この町の住人には技術者や職人が多い。自分たちの腕をふるう場を得て喜んでいるかのように見えるくらい、人々の表情は明るかった。 その様子をラグナは、通称『釣りじいさん』と呼ばれている職人頭といっしょに眺めていた。 「そうかそうか。あんた、ガーデンに用があって来たんか。すまんかったのお。知ってりゃひきとめたんぢゃが。駅長の指示で突貫工事で修理しての。とっとと出ていってもらってしまったんぢゃ」 バラムガーデンは前日の朝、すでにFHを離れてしまっていた。 「ま、それもしゃーねーな。ひとこと頼んどかなかったのがまずかったんだし」ラグナは言った。「だけど、ここもガルバディアに襲われてたとは知らなかったぜ。じーさん、無事でなによりだったよ。釣りの穴場がこんなにされたのは気の毒だったけど、壊れたもんは直しゃ済むことだもんな」 「いや−−−−ここは、軍隊に攻撃されてこーなったわけぢゃないよ」 「へ?」 「バラムガーデンがここにつっこんで来おったのよ。まるっきりコントロールがきかんくて、よけるによけられなかったそうぢゃ。その時わしはあのあたりで釣りをしとったんぢゃが」釣りじいさんはひしゃげた鉄筋を撤去しているクレーンを指した。「いや〜〜、さすがにあれにはべっくらこいたの〜〜〜。あんなデカいもんがつっこんでくるんぢゃから。動きはゆっくりだったもんで逃げる時間はあったがの。だけどその時はちょうど、これまたデカい獲物がかかったとこだったんぢゃ。あれがどんなシロモノだったんか、今も気になってしょうがなくてのお・・・・・・・・・」 「つまり、ガーデンの方がガルバディア軍以上に招かれざる客だったってこと?」 「わしにとってはそーゆーことになるかの」釣りじいさんは笑った。「だけどこの町は、偶然ガーデンが来てくれたおかげで助かったんぢゃよ。軍は駅のあたりから上陸したんぢゃ。あっちも被害を受けはしたが、ガーデンの連中がさっさとあいつらをおっぱらってくれたんでそれこそたいしたことはなかったのよ。わしらだけではそーはいかんかったぢゃろうな。ガーデンの激突では死人もけが人も出んかったし。そんでも駅長たちは過激なくらいの平和主義者ぢゃからのお。町中で戦闘が行われたのがそーとー気に入らなかったらしくての。なにはさておきガーデンを自由にコントロールできるように修理して、まるで追い出すように出ていってもらったんぢゃ。しかし、いくら相手は戦うことを商売にしてる連中とはいえ仮にも町の恩人に向かって、なにもあそこまで冷たくせんでもいいと思うんぢゃがのお」 「ん〜〜〜、ナニを言ったか想像はつくな・・・・・・・」 FHの駅長たちの主義主張は、ラグナもよく知るところだった。 「そんでさ、ガーデンが今度はどこに行ったか知らないか?」 「聞いとらんよ。とゆーより、彼らもあてらしいあてがなかったようぢゃ」 「そっか・・・・・・・。そんならまた連絡網を張って待つしかねーな。−−−−そのあいだ、じーさんちで世話んなっていいか?」 「おお、そりゃかまわんよ」 釣りじいさんはふたつ返事で答えた。 そして、ふいに話題を変えてこう続けた。 「ところでラグナよ−−−−あんた、そろそろエスタに腰を落ち着ける気にはならんか?」 「あ?」 「行方不明の子供たちを自分の手で探し出したいというあんたの気持ちはわかるから、エスタ政府は無理にあんたを引きとめたりはせんかったが・・・・・・・・。しかし、魔女・イデアが現れてからというもの、あんたに帰ってきてもらいたいという市民の声も強くなってきたのよ。なんせあんたは−−−−公式には今も、エスタ大統領なんぢゃから」 彼は、ラグナがエスタの大統領だったことを知るエスタ国外に住む数少ない人間のひとりだった。 「そおなんだよ〜〜〜まだ辞めさせてくれねえんだよ〜〜〜〜。オレが辞表を出したの、もう10年も前のことだぜ??」 「エスタはそんだけあんたを手放したくないんよ。あんたみたいにいくら見てても見飽きん、おもろい男はそうはおらんからのお」 「どーゆー意味だよ・・・・・・・・・・」 「このじじいのつまらんぢょ〜だんぢゃよ〜〜〜」釣りじいさんはからからと笑った。「・・・・・・・・って、単なる冗談ってわけでもないのお。あんたはホントにおもろい、他の人間にはないもんを持っとるヤツぢゃ。実際、あんたのようにまっすぐな人間をわしは他には知らん。エスタの市民も、大統領なんて雲の上の人としてでなく、エスタを救った英雄なんて浮き世離れしたもんでもなく、ただひとりの人間としてのあんたを、今も変わらず慕っとる。あんたがアデルと戦い、そして混乱していたエスタを立て直した時代を直接には知らん小さな子供までがそうなのが、なによりの証拠ぢゃて」 「お〜〜い、聞いてる本人が恥ずかしくなるようなこと言うなよ〜〜〜〜」 「いやいや、わしはホントのことを言っとるだけぢゃよ。あんたもたまにはエスタに帰っておるんぢゃから、自分の経験として知っておるぢゃろ?」 ラグナは困ったように笑った。 「エスタにいても、あんたの子供たちを探すことはできる。あんたがその気になれば、軍でも情報部でも自由に動かせるはずぢゃ。あんたがあんたにはなんのゆかりもないエスタのために働いたばっかりに嫁さんの死に目にも会えんかったことは、市民みんながよう知っとる。政府の組織を少しばかりあんた個人のために使ったところで、きっと誰ももんくは言わんよ」 「そいつはオレもちったあ考えたけどよ−−−−やっぱしそーゆー公私混同なことはしちゃあいけねえよ。子供たちのことはあくまでもオレ個人の問題だもんな」 「そーゆーと思ったよ。しかし、エスタ側にもあんたの尽力に報いたいって気持ちがあるんぢゃ。かたいことは言わず、それに甘えるのもいいんでないかい?」 「今だって十分なことはしてもらってるよ。各地の駐在員が他の仕事のついでとはいえ子供たちの情報を集めてくれてるし、そいから−−−−オレがエスタを出たあともずっと、オレへの給料だか年金だかの名目で予算を組んで、ウィンヒルに寄付をし続けてくれてるだろ?そんだけでも、心苦しいくらいありがてえんだ。だから、もしエスタにも魔女の攻撃が及んでそん時オレにできることがあるようならすぐ帰るつもりでいるけどよ・・・・・・・・今はもう少し、オレの好きにさせてくれねえか」 「あんたがそう考えてんなら、わしがどーこー言うことぢゃないがの。そんでもわしも−−−−」 その時、ウォードが町の方から歩いてくるのが見えた。彼はラグナが自分の方を見ていることに気づくと、手招きした。 「駅長をようやくとっつかまえたみてえだな。−−−−んじゃ、じーさん、またあとでゆっくり話そうな」 「ああ。うまい魚料理でも用意して待っとるよ」 |
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エスタへの事実上の玄関口として、ラグナはFHをたびたび訪れていた。そして、駅長たちの人となりも耳にしてはいたが、じかに会うのは初めてだった。 ラグナは、まずはいつも通り儀礼的な会話からインタビューを始め、ガルバディア軍がFHに上陸してきた時の状況、その時の町の人たちの行動といったことを聞き出していった。彼の質問に駅長たちは、冷静に、あるいは軍の横暴を訴えるように答えていたが、話がSeeDたちのことに及ぶと、過敏な反応を返してきた。 「ですけど、あのガーデンの人たちさえこなければ、時間はかかったかも知れないけど、戦いなどではなく話し合いで問題は解決できたはずなのですよ」 フロー駅長は、きっぱりとした口調でそう言った。 「よさないか、フロー」 ドープ駅長は彼女をたしなめた。 「だって、そうではありませんか。もちろん、話し合いより力の方が簡単に解決できます。でもそれは目先だけのこと、暴力は暴力を、戦いは戦いを呼びます。この間はあれで済んだかも知れませんけど、あれでガルバディアにこの町も危険な場所だと思われたに違いないでしょう。そのためにまた襲われることがあるかもと思うと、ぞっとするわ」 「いいから、おまえは少し黙っていなさい」 ドープはぴしゃりと言った。 「・・・・・・・・・すみませんな。見苦しいところをお見せしてしまって」彼はラグナに、申し訳なさそうに言った。「私も基本的には彼女と同じ意見です。ガーデンの人たちの、戦うことで生活の糧を得る、その生き方を肯定する気持ちは、彼らに救われた今もありません。しかし、彼らの存在する意義をまったく否定するのはいきすぎかも知れない、そういう思いもあるのです。・・・・・・・・というか、彼らに出会って、そう思うようになりました」 「どうしてです?」 「彼らのリーダー格らしい、班長と呼ばれていた少年がおもしろいことを言っていたのですよ。『話し合いで解決できればそれが一番いい。しかし、力で押してくる、聞く耳を持たない相手とわかりあうのには時間がかかる。そして、あなたたちがゆっくりと話し合う時間を持てるよう、自分たちのような人間がいるんだ』。−−−−だいたいこんなようなことでしたかな。その少年は自分の考えを言葉にするのが苦手なようで、ひどくつっかえつっかえ、何度も考え込みながらそう言っていました。決して雄弁とは言えない話し方でしたが、自分たちのこともわかって欲しい、その気持ちは十分伝わってきました」 「へ・・・・・・・・・え」ラグナはその話に興味を持った。「その少年の名前はわかりませんか?」 「なんと言いましたかな・・・・・・・・」ドープは記憶をたぐった。「そう−−−−スコール・・・・・スコール・レオンハートという名だったと思います」 「スコール・・・・・・ですか」 ガーデンの所在がわかったらその少年にも会ってみよう。ラグナはそう思い、その名を手帳に書きとめた。 「しかし、そう思えるようになったのは彼らを『追い出して』しまったあとです。いくら自分の目の前で血が流されたのがショックだったとはいえ、彼らには申し訳ないことをしました」 「さっさと出ていってもらったのは当然のことでしょう?ガーデンが来たせいでこの町はガルバディアの軍隊に−−−−」 「私も最初はそう思った。しかし、ガルバディア軍将校の話から考えるに、彼らとは関係なかったようだ。それに、もう少し彼らのことをわかろうとしてもいいのじゃないか、フロー?彼らが剣を向けたのは私たちにではない。私たちの話を聞くことなく武器を持ち出してきたガルバディア軍にだ。そして私たちに対しては、彼らは言葉で理解を求めた。主義は違うだろうが、その態度は私たちと同じだ。それなのに彼らのことをかたくなにこばもうとするのは、あの横暴な軍人たちとなんら変わらないのではないか?」 フローはそれ以上何も言い返せず、黙りこんでしまった。 「話を元に戻しますが・・・・・・・。これが現在わかっているこの町の被害状況です。この程度で済んだのはやはり、彼らのおかげと感謝するべきでしょうな」 ドープは資料をラグナに渡した。駅周辺の建物がSeeDとガルバディア軍の衝突のために損害を受け多少のけが人も出ていたが、死者は皆無だった。 資料の数字を確認すると、ラグナは次の質問に移った。 「壊滅的被害を受けた町は多くありますが、その目的は今のところわかっていません。ここも他と同様、全滅させる意図があったかも知れません。しかし、こちらの町には技術者が多い。植民地にすればガルバディアの益になるとも思われますが。軍がこちらを襲撃した理由をどうお考えですか?」 「それでしたら、軍の将校が私にはっきりとこう言っておりました。エルオーネという娘を探している、と」 「え・・・・・・・」ラグナは絶句した。「エル、オー、ネ・・・・・・・・・・ですか?」 「そうです。現在たぶん20代前半の、亜麻色の髪をした、エルオーネという名の女性。しかしここには、子供から老人までいれても、エルオーネという人はひとりもいません。そう言いましたら、軍が調査しそれが事実であることがわかりしだい、この町を焼き払うと言っておりました。その娘さんが隠れ住める場所をなくし、追いつめるのが目的だったようです」 「それで、あの・・・・・・。将校が言っていたのはそれだけですか?それ以外にも、どんな特徴があると言ったとか、顔写真を見せたとかいうことは−−−−−」 「いえ・・・・・それだけです。その人がどんな女性なのかもっと詳しく聞かせるように要求もしましたが、それ以上のことはなにも。軍にもわかっていなかったのでしょうか?なんの目的でその人を探しているかは言いませんでしたが、それが何であれ、その人物が確実に特定できるよう、特徴くらいしっかりと把握していてもよさそうなものですが」 ガルバディア軍が−−−−つまりは、魔女・イデアがエルオーネを探している?? 20代前半の、亜麻色の髪のエルオーネを。 そしてどんな田舎町までも見逃すことなく焼き払っているのは−−−−エルオーネの居場所をなくすため。そこにエルオーネが逃げ込む可能性をなくすため。 そんな−−−−−バカな!! 「レウァールさん・・・・・・・・・・どうかなさいましたか?」 ドープ駅長は心配げに訊いた。 「え・・・・・・・・・。ああ、すみません。ちょっと考えごとをしていたもので・・・・・・・・・」ラグナは我に返った。「−−−−−それで、今後はどうするおつもりですか?そのような理由でしたら、こうして無事に残ったこの町を再び襲撃することも考えられますが・・・・・・・・・・・・・」 「この町には軍事訓練を受けた者はひとりもいません。それで、バラムガーデンになんとか連絡を取り、警備をお願いしようと思っております。ガルバディアと理性的に交渉する時間を作ってもらうために。それと・・・・・・・・・我々がしたことをわびたいとも思ってますので」 「そうですね・・・・・・・・・・。それが、いいでしょう」 ラグナは声がうわずりそうなのを必死になってこらえてそう言った。 駅長に訊こうと思っていたことはまだいろいろとあったはずだった。しかしもうこれ以上、まともにインタビューなどできそうになかった。 「それでは、そろそろおいとまします。お忙しいところ、ありがとうございました。早い復興を、お祈りしています−−−−−−」 ラグナはなんとか別れの挨拶をしぼりだすと、機械的にドープ駅長と握手をした。 |
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駅長の家を辞するとラグナは、うわのそらのまま波止場の方に足を向けた。 そして人気のない堤防にたどりつくと、ぺたりと腰を降ろした。 「魔女が−−−−−エルオーネを探している、だって??」 「しかし・・・・・・・・・・エルオーネと名のつく娘はあの子ひとりじゃない。そう簡単に決めつけるのは−−−−」 キロスはなだめるようにそう言った。 「んなこたあオレだってわかってる。この10年、エルオーネという名前の娘には山ほど会ってきたもんな。あの子のことじゃないと思えるもんならそう思いてえよ。だけど・・・・・・・・・・魔女がここまでして探さなければならない『エルオーネ』がいったい何人いると思ってんだ?!」ラグナは我知らず声をはりあげていた。「あのエルは、昔、一度は魔女の−−−−アデルの後継者に選ばれてんだぞ。最初は10才以下の感受性の強い少女、ただそれだけの理由でさらわれてった。しかしそのあとあの子は、魔女でもないのに変わった力を持ってるってわかって、アデルが自ら後継者に選び、オダインには実験動物の扱いをされて・・・・・・・。そんな『20代前半の亜麻色の髪のエルオーネ』がほかにいるか?!」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・そうだな。気休めに事実から目をそらしてみたところで、なんの足しにもならない」 あちこちから響いていた補修工事の音はいつしか止んでいた。日は西に大きく傾き、ラグナたちの影を堤防に、そして長く海の上にまで落としていた。 「それで、どうする・・・・・ラグナくん?」 ラグナはけわしい視線を海のはるかかなたに向けた。彼は長い間、石のようにぴくりとも動かず、考え込んでいた。 そして突然、立ち上がった。 「エスタに帰る。今、すぐ」 「エスタに・・・・・・?」 「ああ」ラグナは言った。「そうとわかったからには悠長なことをしてる場合じゃねえ。道理とか倫理とかオレのくだんねえプライドとかにこだわってるヒマはねえんだ。エスタの軍だろうが情報部だろうが、市民ひとりひとりまで全部動員してでもエルオーネを今すぐ探し出してやる。魔女と−−−−イデアと、競争だ・・・・・・!!」 |