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SECOND MISSION〜Final Fantasy VIII・IF〜

〜シュミ族の村・2〜




 エレベーターに乗ってはるか地下、シュミ族の村に向かう。
 村に入ると、あちこちの家から住人たちがわらわらと集まってきた。家からすらめったに出てこない長老までが、村の入り口まで来てラグナを出迎えた。
「ラグナ殿−−−−よくおいでくださいました。お待ちしておりました」
長老は大きな手を差し出した。
「元気そうだな、長老」ラグナはその手をしっかりと握った。「あれからすっかり不義理しちまったってのに、オレのこと忘れてなかったなんて、なんかうれしいぜ〜〜」
住人たちの歓迎ムードは照れくさいほどだった。
「10年前から・・・・・・・・・・ですかな?しばらくお見受けしなかったあなたのお名前をまた雑誌などで拝見できるようになって、それだけでもうれしく思っておりました。ご活躍のようでなによりです」
長老の手は温かかった。そのぬくもりは、彼の言葉になんのいつわりもないことを物語っていた。
「さて・・・・・・・・・・。まずは我が家においでいただけますかな?久しぶりに元気なお姿を拝見したかったのはもちろんですが、あなたにお話ししたいことがありまして、ウォード殿に無理を申し上げました」
「話・・・・・・・・・・・?」

×

 自宅の応接間にラグナを招き入れると長老は、まずは一杯の茶で彼をもてなした。村一番の名手がいれた茶だ。彼はそれをうまそうに飲み干し一息いれると、話を切りだした。
「で、話ってなんだい、長老?なんかすっげー大事な用件みたいだけど」
「お役にたつことかどうかはわかりませんが。今あなたはガルバディアの魔女を追っているそうですな。それで、お耳にいれておいた方がいいかと思いまして」
「魔女・イデアのこと、なんか知ってるのか??」
「いえ。魔女自身のことについては特にありません。しかし、バラムガーデンで内紛が起こったと聞きました。その原因についてでしたら、少々心当たりがあるものですから」
「魔女とガーデンの内紛と、なんか関係があるってのか?」
「たぶん」
長老は茶のおかわりをおつきに命じた。そして話を続けた。
「12・・・・3年前になりますか。ガーデン設立直前の頃私は、一度だけですが、ガーデンの学園長、シド・クレイマー殿にお会いしたことがあります。当時あの方は、資金調達のために奔走しておられました。その時シド殿は、いずれ現れるであろう世界の脅威となる魔女に対抗する能力をもった兵士の養成がガーデンの設立目的だとおっしゃっておられました」
「12、3年前?そんな前から今のような事態が起こることを予測していたのか?」
「それはわかりません。しかし、そうおっしゃっていたことは事実です。そして、資金の大半を提供したのが我々シュミ族のひとり、ノーグという者です」
長老の顔に、悲しみが浮かんだ。
「我が種族の名前の由来はご存じですな?我々は利益を追求することなく、ただ自分の喜びのために自らが持つ能力と時間のすべてを捧げる。それゆえついた名が『シュミ族』。しかし、どんな世界にも異端と呼ばれる者はいます。ノーグは我々にとって異端の者です。彼が価値を見いだしたのは、金儲け。彼がシド殿に資金提供したのも、ガーデンが金になると考えてのことでした。事実ノーグが提案した、紛争地に優秀な学生たちを派遣する傭兵派遣業務は、莫大な利益をガーデンにもたらしました。平時に於いては−−−−脅威となる魔女が存在しない時期は、という意味ですが−−−−ガーデンの維持にも金がかかるし学生たちの訓練にもなるしで、シド殿とノーグの利害は一致していたでしょう。しかし、魔女・イデアの登場で、彼らの協力関係に亀裂が入ったのではないかと思われます」
「つまり・・・・・・ガーデンを対魔女の戦力という本来の形に戻そうとした学園長と、魔女ににらまれて金儲けができなくなることを恐れたノーグとやらとが、ガーデン全体をまきこんで対立したのがあのバラムの内紛・・・・・ってことか?」
「おそらくは」
 ラグナは今の話をもう一度じっくりと考え直してみた。
 当事者に話を聞いてみないと、長老の推論が当たっているかどうかはわからない。しかし、ガーデンの連中が「マスター」と呼んでいたのがノーグだとすると、納得のいく話だ。あの時あんなことになっていたのも、「あの時」だからこそだろう。
 そして、ガーデンが魔女を倒すための組織だとしたら。
 そして、魔女がそれを知っていたのだとしたら。
 暗殺未遂事件の首謀者が誰だろうが、そんなことはどうだっていい。それよりも、彼女にとって排除すべきものは−−−−−−。
「ラグナ殿・・・・・・・・・・・?」長老の声に、ラグナは我に返った。「この話、お役に立ちますでしょうか?」
「ああ。役に立つなんてもんじゃねーよ。おかげで、ずっと疑問に思っていたことがすっきり解けちまったぜ」
長老はかすかに微笑んだ。
「私がお話ししたかったのはこれだけです。さて・・・・・・・・・・。お疲れかとは思いますが、少しあれの相手をしてやってくださいませんか?」彼はそう言うと、隅で控えていたおつきの方にあごをしゃくった。「彼はあなたがおいでになるのを本当に楽しみにしておりましてね。そちらからご連絡をいただいてからというもの、置物を壊すわ何もないところで突然ころぶわで、どうも落ち着きがなくていけませんでした」
「ちょ〜ろお〜〜、なにもそんなことをラグナ殿にバラさなくったっていいじゃないですか〜〜〜〜〜」
おつきは真っ赤になり、あせって言った。
「実際そうだっただろう?今日も、いつお着きになるかもわからないってのに寒い中、朝から外に出て」
「しかたないじゃないですか〜〜〜。ここでのんびり待ってるなんてどーしてもできなかったんですから〜〜〜〜〜」
「しかし、気候のいい時ならともかく、この真冬に−−−−−」
「あ〜〜〜、わかったわかった。あいかわらずだな、あんたたちも。またオレが実力行使でもしなきゃおさまんない??」
ラグナは苦笑いした。
「・・・・・・・・・・これは、失礼しました」
長老は決まり悪そうに言った。
「そいでさ。オレ、ここには休暇のつもりで来たんだ。1週間ばかしゆっくりさせてもらおうと思ってるんだけど、いいかな?」
「もちろんですとも。お好きなだけご滞在ください。みなも喜びます」
 その言葉を聞いた長老のおつきが一番喜んだのは言うまでもない。



×××



 夜がふけた。
 みな寝しずまり、村の中ではカエルの鳴き声だけが聞こえていた。外は雪だが、ここは晩春の気候。かすかに花の香りがただよう気持ちのいい空気が満ちている。シュミ族たちが彼ららしいこだわりでもって作り上げた空間は、人の心を温かくつつんでくれる。
「ラグナ殿・・・・・・・・・・・こんなところにいらしたんですか」
池のほとりでぼーっとしていたラグナは、長老のおつきの声にふりかえった。
「ん・・・・・・・・・・。な〜んか眠れなくってな」
シュミ族たちの熱烈歓迎に少々疲れ気味だったが、目は不思議と冴えていた。
「本当によく来てくださいました。こうしてまたお話しできるなんて、夢のようです」
「オレの方こそ。こんなに歓迎してもらえるなんて、予想外だったぜ」
 おつきはラグナの隣に座った。
「あのあと、お探しになっていたお嬢さんと無事再会なさったと風のたよりで聞きました。その後、いかがお過ごしですか?」
「それがさ・・・・・・・・・・」ラグナは頬杖をついた。「わかんねえんだ」
「わからない?」
「娘を−−−−エルオーネを取り戻した後、エスタでどーしてもやんなきゃならんことができちまってさ。それで、娘を先に女房のとこに帰したんだけど。そのあとすぐに女房が死んじまってよ。娘は孤児院送り、その孤児院もまもなくなくなっちまって、それからは−−−−どこに行ったんだかさっぱりなんだ」
「そう・・・・・・・・・・だったんですか」
「それだけじゃねえんだ。女房のヤツ、オレの子を・・・・・・・・・・・息子を産んでたらしくってさ」
「つまり・・・・・・・・・・探さなければならない人がもうひとり増えたんですね?」
「そーゆーこと。−−−−生まれたっていう時期から考えて、オレがウィンヒルを発つ時には女房自身もまだ妊娠に気づいてなかったかも知んねえが、旅の途中にも何度も電話くらいしたってのに女房のヤツ、んなことひとっことも言わなくってよ。エルがさらわれたことに妙な責任を感じてたから、それ以上オレに心配をかけらんないと黙ってたんだろうが・・・・・・・・・。オレが息子の存在を知ったのは、女房が死んだあとだよ。エルはともかく、息子の方は手がかりがそれこそ何ひとつなくってさ。今でもオレは、息子の特徴どころか名前すら知らねえんだ。それって、な〜んか・・・・・・・・・情けねえよな」ラグナは肩を落とした。「・・・・・・・・・・・17才の男の子ってえだけじゃあ、星の数ほどいるもんな。探し出したいのはやまやまだけどよ、こうも手がかりがないんじゃ、どーにもならねえよ・・・・・・・・・・・・・」
 近くで小さな水音が響いた。カエルが池に飛び込んだ音だ。ラグナはカエルが泳ぐのを目で追っていたが、草に隠れて姿が見えなくなると、ぽつりと言った。
「あ・・・・・・・・・・すまんな。あんたとはなんの関係もないつまんねえ話聞かせちまってよ」
 おつきはしばらく、なにか考え込んでいた。そして、思い切ったようにこう言った。
「あの・・・・・・・・・・。その息子さんは、エルオーネさんとは違って、あなたの本当のお子さんなんですよね」
「そうだけど?」
「だったら・・・・・・・・・ムンバなら、わかるかも知れません」
「ムンバなら?なんで?」
「ムンバは言葉は持ちませんが、血を介して情報を得、伝えます。収容所であなたをお助けしたムンバは、17年前おけがをなさっていたあなたの血をなめたムンバからあなたのことを知ったのでしょう。彼と同様に、あなたのことを知っているムンバはたくさんいると思います。彼らの情報は言葉なんかにはかなわないほど正確で詳しいものですが、ただ、子供や、時には孫までその情報の本人と間違えることがあるのです。血で伝えられた情報は、血に惑わされるというかなんというか」
「それって−−−−息子をオレと間違えるかも知れないってこと?」
「そうです」そこまで言うと長老のおつきは急に手をわたわたと振った。「あ、でも、それは、あなたのことを知ってるムンバが息子さんに、それもおけがをなさってるところに遭遇して、血をなめることがあればわかる、ってことで。それだけでも可能性が低いのに、もしそういうことがあっても私たちがそれを知ることができるかというと・・・・・・・・・・・まず、ないですね。−−−−すみません、無責任に希望を持たせるようなことを言ってしまって」
「気にすんなって。いくらオレがおっちょこちょいでも、そのくらいのことはさっしがつくよ」ラグナはにこにこしながらおつきの肩をぽんぽん叩いた。「気休めみたいな話だけど、そんだけでも元気出てきちまったぜ。−−−−そーだよな。希望は捨てちゃいけねえよな」
ラグナは村を覆う天井を見上げた。
「ホントのとこ・・・・・・・・半分あきらめかかってたんだ。十何年も世界中探し回って、なにひとつわからなくって・・・・・・・・・。でも、今日まではダメでも明日はそうじゃないかも知れないもんなっ。またがんばって探すぞぉ。息子だってひょんなことで見つかるかも知れねえんだ、エルなら、どんなに育っちまってても会えばきっとわかる。−−−−あ〜〜、早く会いてえよなあ。ちっこい時もかーいかったけど、今はきっと美人になってるだろおなあ・・・・・・」
ラグナはどこか遠くを見ていた。その目は、輝いていた。
「エルオーネさんのこと、本当に愛してらっしゃるんですね。実のお子さんと同じくらい」
「とーぜんだろ?エルは、血こそつながってねえけど、オレと女房の大事な娘なんだからよ。なんでそー思っちゃったんだかは未だにうまく説明できねえけどさ。−−−−そーそー、さっきからエルのことを『娘』って言ってるけど、その言葉、軽々しく使ってるわけじゃねえよ。その言葉が一番あうから、そう言ってんだ。息子にゃわりいが、2年いっしょに暮らしたぶん、エルの方がよっぽどか自分の子だって実感があるんだよなあ」
 そしてラグナは、ふと思いついて話を続けた。
「そーいやあん時にオレ、『言葉という便利なものを知らないのは不幸だ』ってなこと言ったよな?あれから考えたんだけどよ・・・・・・・・・・言葉ってのは不便でもあるんだ。だから、いいんだ」
「不便だから・・・・・・・・・・・いい?」
「そう」
ラグナはうなづいた。そしてゆっくりと、一語一語かみしめるようにして話し始めた。
「たくさんの人にいろんなことを伝えるのには、言葉ってのは便利なもんだ。でも、本当に大事なことを本当に伝えたい人に伝えるのには力不足なんだよな。それでも、人間には他に方法がないから言葉を使う。たくさんある中から一番いい言葉を、自分の想いを託せる言葉を選んで。それは簡単なことじゃねえ。選択を間違えることもある。誤解を招くこともある。だけど、思いのたけをこめて選び抜いた言葉は、その言葉のうしろにあるものを、言葉では伝えきれないものまでも伝えてくれる。努力すれば想いは必ず伝わる。逆に言うと、苦しんでも悩んでもそれでも伝えたい、本当に大切なことしか相手に届かない。−−−−だから、いいんだ」
 ラグナは静かに目を閉じた。
 言葉を生業とし、自分が見たものを、自分が考えたことを人に伝えることをなによりの喜びとする自分にも、心から伝えたいこと、伝えたい人はそんなに多くはない。
 そしてそれが相手に届き、心が通じあえたことを感じるのは−−−−かけがえのない幸せ。
 ラグナはふいに、てれっとした笑みを浮かべた。そして気恥ずかしそうにがりがり頭をかいた。
「な〜〜んてエラそうなこと言ってみたりしたけどよ、うまく言えたかな?オレ、書くのはともかくしゃべるのはあんまし得意じゃないらしくってさ。自覚はねえんだけどな」
「わかった・・・・・・・・・・と思います」おつきは言った。「でも、ここであっさりと『わかった』と言っては失礼ですよね。今のお話、もっとゆっくり考えてみたいです」
「そっか。通じたみたいだな。そいつはよかった」
ラグナはにこにこして言った。
 そして急に大きなあくびをした。
「う〜〜〜、な〜んか眠くなってきちまったぜ。慣れねえマジメな話なんかしたせいかなあ。・・・・・・・・・・・・でも、これでやっと寝られそうだ。ぐちっぽい話につきあってくれて、ありがとな」
ラグナはそう言うと、宿の方に戻りかけた。
「あの・・・・・・・・・ラグナ殿」おつきの声に彼はふりかえった。「息子さんと娘さんのこと、私も心がけておきます。なんのお役にもたたないかも知れませんが」
「ん、ありがとよ。−−−−−おやすみ」

×

 それから。
 ラグナは自分が見聞きしたことを針小棒大ほとんど大ボラ話にしたてあげてシュミ族たちを楽しませたり、彼らの制作活動のじゃまをして怒られたり、宿にこもって原稿執筆に熱中したりして過ごした。
 そして6日目の朝。バラムガーデンがフィッシャーマンズホライズンに流れ着いたという情報が彼の元に届いた。



×××



 村を発つ日。
 シュミ族たちはこぞってラグナたちの見送りに出た。なごりはつきなかったが、ラグナは、また来る、と言い残してチョコボに乗った。
 長老のおつきはラグナたちが雪原のかなたに消え、すっかり見えなくなっても、ずっとドームの入り口にたたずんでいた。
 その横には、ムンバが一匹。
 おつきはふっとため息をもらすと、ムンバの頭をなでた。そして、言った。
「おまえはラグナ殿のお役にたてたんだよな・・・・・・・・・・・・いいなあ」
 自分がムンバになれたのなら、あの人の息子を探しに行けるのに。
 自分の身が長老に変化する時が近づいていることを、長老のおつきは一抹の淋しさと共に感じ取っていた。




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