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SECOND MISSION〜Final Fantasy VIII・IF〜

〜シュミ族の村・1〜




 トラビアの冬は寒い。
 トラビアガーデンにほど近いこの小さな町も一面の雪景色だった。待ち合わせのパブにたどり着いたとき、ラグナの体はすっかり冷え切っていた。急いで温かいレモネードを注文し、湯気のたつグラスを大事に持ってかじかんだ手を暖める。そして、こんな時には酒の飲めるヤツがホントうらやましいよなあ・・・・・・・・・・としみじみ思いながらアルコールなしの飲み物をすすった。
 レモネードのグラスが空になりかかった頃、新たな客がやってきた。キロスだ。ラグナは店内を見回す彼に手を振った。
「君の方が先に来ているとはな。珍しいこともあるもんだ」
キロスはコートを脱ぎながらラグナの前に座った。
「オレだって日々学習してんだぜ〜〜〜。いつもいつも迷子になるってことはねえの」
と口では言いながらラグナは内心、約束の3時間前にはここに着けるくらいの時間に出てきてよかった、と苦笑いしていた。
「んで、トラビアガーデンはどんな感じだ?」
「ああ。さほど心配することはない」キロスは答えた。「生き残った学生たちが、生徒会を中心に復興活動を始めている。若いってのはいいな。立ち直るのが早い。いまだに腰を抜かしたままの教師たちの尻を子供たちがひっぱたいているんだ。見ててなかなかおもしろかったぞ」
「そっか。再攻撃までしてる余裕はガルバディア軍にはなさそうだし、とりあえず一安心だな」
ラグナはそう言うと、飲み物をもう一杯注文した。
「バラムガーデンの行方は?何かわかったか?」
「ん〜〜〜、ぜ〜んぜん」ラグナは肩をすくめた。「沿岸の街にかたっぱしから問い合わせたけどよ、それらしいものを見たって話も出てこなかったんだな。電波の使えねえこのご時世じゃ、移動してるもんに直接連絡取るってことはできねえし。ま、そのうちどっかに流れ着くだろうから2、3日たったらもう一度訊いてみるけどよ」
「しかし・・・・・・・・・建物ごと移動しているとは、な」
「目の当たりにしたオレにも、まだ信じられねえよ。あ〜んなとんでもねえ設備を持ってたなんてよ。あれにはエスタの科学力もまっ青だぜ」
ラグナは腕を組み、うんうんうなづきながら言った。
「だけど、ミサイル攻撃の正確な時間なんかよく調べだしたな。軍の最重要機密の部類に入るたぐいの情報だろうに」
「カーウェイに聞いた」
「・・・・・・・・・・カーウェイ、に?」
「そ。あいつ、噂通り左遷されちまってたけど、とりあえず元気そうだったぜ。それ見て、魔女がSeeDそのものを目のかたきにしてんじゃないかって推論に自信持っちまったよ。んで、カーウェイのヤツ、思った通りたいしたことは知らんかったけど、そんでもあいつから聞いた話、今後の予想をする役にくらいはたつと思うんだな。あとで資料をおまえにも見てもらいてえんだが−−−−」
「・・・・・・・・・・ちょっと待て」キロスはラグナの言葉をさえぎった。「ラグナくん、君・・・・・・・・・・・。まさか、デリングシティに行ったんじゃないだろうな?」
「あっ・・・・・・・・・・」ラグナは思わず固まった。「え、と、その、電話が通じないわけじゃあなかったし、それに、動いてくれる情報屋のひとりやふたり−−−−−」
「・・・・・・行ったんだな」キロスは椅子を蹴倒して立ち上がると、声を荒げた。「バカか、君は−−−!そんなに死にたいのか?!」
店内の客の視線がいっせいに彼らの方に向いた。キロスははたと我に返り、そっと座り直した。
 そして声をひそめて続けた。
「今度ガルバディア軍に捕まったら殺される、これは冗談でもなんでもないんだぞ。それは君も十分承知していると信じていたんだがな」
「わーってるって。だからあ、あそこに行くっておまえらに言ったらぜってー止められると思ったからこそ黙って・・・・・・・・」
「そういう問題じゃない!!」キロスは声が大きくなりそうなのをこらえて言った。「君がひとりでガルバディアに残ると言い出した時に気づくべきだった。例のごとく、道に迷う心配だけをしていた私もバカだったよ。それが・・・・・・・・・。警戒のきびしい首都、それも将校の家に行っていたとは」
「・・・・・・・・・・・でもさあ、別にな〜んもあぶねえことはなかったぜ。事実、オレはここでこのとーりぴんぴんして−−−−−」
「今回は、な。しかし、次も大丈夫だとは限らないんだぞ!!」
「も〜〜、心配性だなあ、キロス。次なんてねえよ。今回は非常事態だからちょいとばかし無茶したけどよ、もうこんなことしねえって」
「本当か?」
「神かけて誓う」
「そんなものに誓われても信用できるか!!−−−−レインに誓ってそう言えるか?どうなんだ、ラグナくん??」
ラグナは言葉につまった。そして、頼りなげな視線を自分の手の上に落とした。
「・・・・・・・・・やっぱり、な」キロスはため息をついた。「どうして君はそうなんだ。人並みはずれた分析力も洞察力もあるくせに、自分自身のこととなるとなんの考えもなしにほいほい軽返事をするわ無謀な行動を取るわ。それで後悔したことは一度や二度じゃないだろう?」
キロスの言う通りだった。ラグナには、何も言い返せなかった。
 今度のデリングシティ行きだって、こうして無事に戻ってきたからいいようなものの、危険を感じる場面がまったくなかったわけではなかった。一歩間違えたら、後悔してもしきれないことになっていたかも−−−−−。
 ・・・・・・・・・・いや、本当にそうだろうか?
 その時にはオレは、後悔すらできなくなっていたかも知れないんじゃないか?
 そして、オレの代わりに重荷を背負うことなったのは−−−−−−。
「・・・・・・すまない。私も言い過ぎた」キロスは言った。「君の好奇心が底なしなことは私もよく知っている。それを満たすための行動を止めることは、私だってできることならばしたくない。だけど、これだけは忘れないでくれ。エルオーネも、君とレインの息子も、まだ見つかっていない。そして、子供たちの無事を確かめないまま死んだのではレインのところに行けない、そう言っているのは誰でもない。君自身なんだ」
 そんなこと、言われなくたってわかってる。
 わかってる−−−−−−−はずだ。
 それなのに・・・・・・・・・・・。
 ラグナは頭をばりばりかいた。そして、言った。
「・・・・・・・・・・・・悪かったよ、キロス。もう心配かけるようなことはしねえよ」
「それなら、いいんだ」
キロスは静かに酒のグラスをかたむけた。
 その顔は、まだ憮然としていた。
 ヤバいなあ・・・・・・・・・・こいつは、本気で怒ってるよ。
 ラグナは黙りこくってグラスの中を見つめた。
 キロスといっしょにいるのがこんなに気づまりなのは初めてだった。
 自分のことを心配してのことだとわかっているからこそ、よけいに気が重かった。
 もうひとことあやまった方がいいだろうか?−−−−そうは思ったものの、それもまたそらぞらしい気がした。
 こういう場合、どうしたらいいもんかなあ・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・さて、これからだが」長い沈黙の後、キロスは言った。「シュミ族の村に行かないか?」
「シュミ族の?」
「ああ。トラビアガーデンの取材が一段落ついたらあのムンバをどこかに送っていく、という話はしたな?今はこの通りの寒い時期だしムンバがたくさん住んでいる場所はよく知らないしで、シュミ族にあずけるのが一番いいだろうと、ウォードに行ってもらった。で、あいつから連絡があったのだが、あの村の人たちが君に会いたがっているそうだ。せっかく近くまで来ているのだから、行ってやったらどうだろう?」
「そうだな・・・・・・・・」
 17年前、エルオーネを探してエスタに向かう旅の途中、短い間だったが世話になった異種族の住む小さな村。そのうちまた来ると言っておきながら、機会がなくてそのままになってしまっている。
 バラムガーデンの行方はわからない。
 ガルバディア軍を追ってもこれといった収穫はないだろうし、だいたい、またキロスたちに心配をかけることになる。
 さしあたって、次に取るべき行動が見えていない。
 たとえ心当たりがあったところでよほどのことでないかぎり今は・・・・・・・・・・・。
「んじゃ、ここらでしばらく骨休めといくとすっか?今まで取材したこともいいかげんまとめなきゃなんねえしよ。それに、あのムンバともあのまんま別れるのもなんだと思ってたんだよなあ〜〜〜」
キロスは微笑んだ。
 その顔を見て、ラグナはようやくほっとした。



×××



 翌日。
「ちくしょ〜〜〜寒いぞ〜〜〜〜ハナがちぎれるぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ラグナはチョコボの首にしがみつくようにしてそう叫んだ。
「だから出発は明日にしようと言ったんだ!早ければ夕方には道路の除雪が済んで車が走れる−−−−−」
「だけど、シュミ族んとこに行こうと言ったのもチョコボでならこの雪でもすぐに出発できるかもと言ったのもおまえじゃんかよ〜〜〜」
「選択肢のひとつとして提示はしたが、決定したのは君だ!自分が決めたことに文句を言うくらいなら、何かにぶつからない限り止まれないその性格をどうにかしろ!!」
 トラビア地方はいい天気だった。ラグナとキロスはチョコボを駆ってシュミ族の村へと向かっていた。
 柔らかい冬の日差しがあたりを包んでいた。しかし、前夜まで降り続いた雪が厚く積もっていてひどく寒い。道も完全に雪に埋まり、森の木々がとぎれていることでようやくそこが道だということがわかる。風はほとんどないが、それでもしんと冷えた空気は頬を刺すようだった。
 ケンカ腰の会話で寒さをまぎらわせながらチョコボを走らせていくと、やがていくつめかの分かれ道が見えてきた。
「あ〜〜〜、今度は・・・・・・・・・・・・こっち、かな?」
ラグナは左の方にチョコボを進ませようとした。
「違う違う!右だ!どうしてそうも、ものの見事に逆方向ばかり選べるんだ!−−−−−頼むから君は前を行かないでくれ。こんなところで迷ったりしたら、笑いごとではすまないぞ!」
「あははは〜〜〜、すまんすまん」
ラグナは苦笑いしながらキロスのあとについた。だが、一本道をしばらく走っているうちにいつの間にかまた前に出ている。
 もう心配はかけない、昨日ラグナが言っていた反省の言葉を信用していないわけじゃない。しかし、目が離せないことには変わりがないな、とキロスはため息をついた。


×


 森を抜けると、山のふもとにドームが見えた。シュミ族の村への入り口だ。
 その前で、ひとりのシュミ族がうろうろしていた。彼はラグナたちの姿を見つけると、雪道を急いで駆け寄ってきた。
「ラグナ殿−−−−−−!」
それは、長老のおつきだった。
「いよ〜〜、おつきの旦那!久しぶりだな〜〜〜〜」ラグナはチョコボから飛び降り、彼と思いっきり抱きあった。「必ずまた来るって言ったのが、こんな遅くなっちまってごめんな〜〜」
「ウォード殿からあなたがおいでになると聞いて、お待ちしてました。来てくださっただけでうれしいです。全然お変わりなくて・・・・・・・」
「んなことねえよ。オレ、すっかりいいオヤジになっちまっただろ?」
「いえ・・・・・・。本当に全然変わっておられませんよ・・・・・・・・・・・・・」
長老のおつきは感激で涙すら浮かべながらラグナの顔を見つめた。
 目尻にしわができたり髪に白いものが混じったりと、外見こそ年相応に変わった。しかし、どんなに時がたっても褪せぬ印象を残した彼の内側からあふれる輝きは、あの頃と、同じ。
「寒かったことでしょう。さ、中にお入りください。長老も他のみなさんも、みんな首を長くして待っておりますよ」
おつきはチョコボの手綱を受け取ると、ラグナたちをドームの中へと招き入れた。




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