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SECOND MISSION〜Final Fantasy VIII・IF〜

〜D地区収容所・2〜




「・・・・・・・・・・ヒマだな」
部屋の隅でじっと座り込んでいたラグナが突然ぼそっとつぶやいた。
「・・・・・・・・・?」
「寝るのにも飽きた」彼はため息をついた。「何日たった?」
「私とウォードがここに連れてこられてからは7日だ。・・・・・・・・・たぶん」
「じゃあ、あれからもう10日か・・・・・・・」
ラグナは腕を組み直すと、また寝ているような格好に戻った。
 最初の3日間は大変だった。朝から晩まで拷問まがいの取り調べ。この調子で続けられたら何日持つかなー、と心配になっていたら、そのあとはなぜかぱたっとお呼びがかからなくなった。
 ほかのおもちゃでも手に入ったか?訊きたいことがなくなったか?
 しかし、魔女暗殺未遂についてはほとんど追求されなかった。オレたちを必死になって捕まえた元々の理由はそれだったはずなんだが。
 かなり悲壮な決意をしていただけに、ラグナは少々拍子抜けしていた。
 SeeDがしゃべったか?それとも、他に情報源を見つけたか?今、外では何が起こっているんだ?
 取り調べはつらかったが、その場は貴重な情報源でもあった。質問の内容、兵士同士の会話−−−−そういったものを注意深く聞いていれば、軍の意図や外部の様子をわずかながら知ることができる。
 情報のかけらすら得られないまま、狭い部屋に完全に閉じこめられて数日。
 その間に、ウォードから彼が覚えている限りの施設のシステムを聞き、ほんの数回部屋の外に出た時に見た施設内部の様子をつきあわせて、脱走計画はだいたいできた。警備システムが20年前と大幅に変わっていなければ、脱走不可能の神話を破ることができるかも知れない。
 しかしそれは、考えている通りに動ければ、の話だ。
 自分たち3人だけでそんな無茶なことができるとは思えなかった。
 それでも、やりなおしがきくのならば、試してみてもいい。
 だが、実行できるのは一度きり。失敗すればそこには死が待っている。
 途中であきらめておとなしく投降しても同じことだ。ラグナたちが収監されたあとにも、脱走を試みて半日も施設内部を逃げ回ったあげく出口を見つけられなくて自分から監獄に戻った後、射殺されてしまった囚人がいた。これでは、予行演習がてらに外の様子をうかがいに出ることもできない。
 今考えている方法で、一度で逃げ出すしかないだろう。しかし、これを成功させるには−−−−。
 小さな金属音が部屋の中に響いた。顔を上げると、ドアののぞき窓から兵士の目が見えた。
「おい、飯だ」
兵士はそう言うと、のぞき窓を閉じた。
「−−−−なんだ、もう昼かよ」そう言うと同時に、ラグナの腹が鳴った。「・・・・・な〜んもしなくっても腹だけはちゃんと減るんだから情けねーよな、おい」
「・・・・・・・・・」
 鍵を開ける音に続いて、ドアが開いた。そして食事のプレートを持って入ってきたのは、ガルバディア兵ではなかった。人間ですらなかった。燃え立つように赤い毛を全身にまとった生き物。
「・・・・・・・・ムンバ?」
ムンバはひょこひょこと部屋の中央まで行くと、プレートを床に置いた。そして戻っていこうとして、ふと、小首をかしげた。
 その目は、ラグナを見ていた。
 ムンバは四本足でラグナの方に駆け寄り、彼の顔をまじまじと眺めた。
「なんだ?オレの顔、どっかヘンか?まさか、殴られすぎて形が変わってるとか−−−−−」
ムンバはまた首をかしげると、ラグナの腕の傷をざりっとなめた。
「つっ・・・・・!」痛みが走り、ふさがりかかっていた傷が開いた。「おい、いきなりナニすんだよ、おまえ??こんな傷、なめときゃ治るっつっても限度ってもんが−−−−!」
ムンバはラグナのもんくなどおかまいなしに、にじんだ血をなめとった。そしてしばらく舌をぺちゃぺちゃさせていた。
 そして、突然叫んだ。
「ラグナ!」
「『ラグナ』って・・・・・・おい・・・・・・」
「ラグナ!」
「なんだよおまえ、オレのこと覚えてたのか〜〜〜〜!!」ラグナはムンバを抱きしめた。「そうならそうと、さっさと言えよ〜〜。痛い思いさせやがってよ〜〜〜!」
「ラグナ!」
「あ〜〜、もういいよ。気にしてねえからさ。−−−−それよかおまえ、ここで働かされてんのか?大変だなあ、おまえも・・・・・・・・・・。あ、そだ、飯わけてやるから、少し食ってくか?どうせロクに食わせてもらってないんだろ?」
「ぺこぺこ」
ムンバはそれだけ言うと、朝食の皿を回収してドアの方に引き返した。そしてドアを叩くと兵士がのぞき窓から中を確認し、鍵を開けた。ドアのところでムンバはもう一度振り返り、なごり惜しそうに出ていった。
「なんだよ、エンリョしなくってもいいのにな。そりゃ、お世辞にもうまいもんとは言えねえけどよ」
「あまりひきとめるのもまずいだろう。変に長居をさせると、あとで責められるのがオチだ。私たちはもちろん、あのムンバもな」
「・・・・・それもそうだな。せっかくだから、少しくらい話がしたかったけどよ」
 死ななければいいという程度の食事だが、今はこれくらいしか楽しみがない。それに今日は、高飛車な兵士ではなくムンバが持ってきたと思えば、少しはうまく感じられる・・・・・・・・・はずだ。
「ムンバのヤツ、こんなとこにもいたとはな・・・・・・・・・。ウォード、おまえがここで働いていた頃にもいたか?」
ウォードは首を横に振った。
「ふ〜〜ん。そんじゃ、そんなに大昔からいたってわけじゃねえんだ・・・・・・・・・。気の毒にな。どこでどうとっつかまってここにつれて来られたんだか」
「・・・・・・それにしても驚いたな。君の名前を言えるとは」
「話したろ?昔、ムンバに言葉を教えたことがあったってよ。ヒマにまかせてさんざん教えたんだけど、結局覚えたのはオレの名前だけでさあ」
「・・・・・・確かにその話は聞いたが・・・・・・」
「でも、うれしいよなあ。覚えたことはたったひとつでも、それを今も忘れないでいてくれるってのはさ」と、ラグナはそこまで言って、はたと気がついた。「・・・・・・・・・って、なんで『あの』ムンバがオレのことを知ってるんだ??まさか、シュミ族の村にいたヤツと同じ、って、ことは、ない、だろうが・・・・・・・・・・・・」
「今頃気がついたか。私はさっきからそれが気になっていたんだ」
「う〜〜ん、よーく考えてみれば、すっげーヘンだ・・・・・・・・・。そりゃ、偶然ってこともあるだろうけど、そんでも・・・・・・・・・」
「違う個体である確率の方がずっと高いな」キロスは言った。「しかし、彼らには彼ら独特の情報伝達方法があるのだろう。ムンバの生態はあまりよく知られてはないが、血の味で個体を識別することだけはわかっている。そんな変わった能力を持つ種族だ、こういうことがあっても不思議ではない」
「まあ、そんなとこだろうな。でも、うれしいことには変わりねえや。というより、あんときのムンバにこんなとこで再会するよかうれしいかもな。−−−−なあ、いつかどこかで、自由に暮らしてるムンバが突然オレの名前を叫んでくれたら楽しいだろうなあ」
「・・・・・・・そうだな。そんなこともあるかもな」
 『もし、ここから出られたら』。
 その言葉を3人は飲み込んだ。

×

 やはりうまくもなんともなかった食事をそれでも全部たいらげると、ラグナは今度はベッドに横になった。
 そして、低い天井を見つめながら、再び考え始めた。
 チャンスは一度きり。やりなおしはきかない。
 この部屋から出ることだけは、食事時を狙えばわりと簡単にできそうだった。差し入れは兵士2人で来る。3人以上が組んでいたことはこれまで1度もなかった。2人くらいなら、すきを見て簡単に殴り倒せるだろう。
 しかし、そのあとは・・・・・・・・・・。
 施設の出口まで駒を進めるためには、どうしても二手に分かれざるを得ない。
 D地区収容所は、砂漠に潜行する設備を持つ。普段は半分埋まった状態になっていて、事実上出口がない。それが、ここからの脱走を不可能にしていた。
 出口を作るためには、建物を完全に砂に埋めるか、あるいは完全に地上に出さなければならない。そしてそのためには、1階と最上階、2ヶ所のコントロールルームで同時に操作する必要がある。
 建物の操作だけではない。たいていの移動設備が離れた2ヶ所で操作しなければ動かない。
 たとえ3人ででも次々に襲ってくるはずの警備兵とマトモにやりあえるとは思えないってのに、ひとりとふたりに分かれて何ができる?
 計画実行には、協力者がどうしても必要だ。できれば、腕のたつ人間が複数。
 しかし、腕がたつどころか足手まといになりそうな囚人にも、これまで一度も接触できなかった。姿を見かけたことすらない。相当数の人間がここに収容されているはずなのに。
 他の連中とコンタクトを取ってくわしく打ち合わせさえできれば、多少の危険には目をつぶってこの作戦に賭けてみたいところだが、お互いが完全に隔離されているこの状況では危険なんてもんじゃない。死ぬのを確実に早めるだけだ。
 時はまだ訪れていない。
 それでも、チャンスは来る。いつか必ず来る。オレはそう信じてる。
 だけど、それまであとどのくらい待てばいい・・・・・・・・・・?
 今すぐなんとかしたいとは言わない。
 しかし、そんなにいつまでものんびりと待ってはいられない。
 せめて、こうして待っている間に、まだ何かできることはないのか?
 それとも、他の方法は・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・ラグナくん、またあのことを考えているのか・・・・・・・?」
キロスが声をかけた。
「まあな。パーティへのご招待はねえし、となると、あとは食うか寝るか考えるかしかやることねえしよ」
「その通りだが、あまり根を詰めるな。あせってみても、いいことはないぞ」
「あせっちゃいねえよ。あせっちゃいねえけどさ・・・・・・・」ラグナはドアに目をやった。「・・・・・そんでも、今日が何日か、わかんなくなる前になんとかしてえよな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 外の状況が気になるからだけではない。
 太陽をおがむこともできない狭い空間で長く過ごしていたのでは、どんなに気を使っても体力の低下は避けられない。若いとは決して言い切れない年齢ではなおさらだ。 
 あまり時間がたつと不利になる一方。
 窓も時計もない暮らしの中でも、今日の日付を自信を持って言えるうちになんとか・・・・・。



×××



 そして魔女暗殺未遂事件から14日目。
 唐突にチャンスは訪れた。 




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