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SECOND MISSION〜Final Fantasy VIII・IF〜

〜D地区収容所・1〜




 デリングシティ郊外の軍留置所で一夜を過ごしたのち、ラグナは別の場所に移送された。
 そこはD地区収容所−−−−ガルバディアの悪名高き、政治犯収容施設。



×××



 朝から丸一日続いたきびしい取り調べからようやく解放され、ラグナはつきとばされるように雑居房にほおりこまれた。うしろで鍵がかけられる音が無情に響いた。
「・・・・・・・・くっそー、思いっきり殴りやがって・・・・・・・・。ちったあていねいに扱えよな。こー見えてもオレはでりけえとなんだぜぇ・・・・・・」
 ラグナはごろりと床に大の字になった。冷たく固い感触が心地よかった。そのまま寝てしまおうかと目を閉じた時、彼の名を呼ぶ声が聞こえた。
 ラグナは目を開けた。
「あら〜〜〜〜〜」彼を見下ろしていたのは、細身の男と大男のふたり。「おまえら、ここでなにしてんの?」
「施設見学でもしているように見えるか?」
キロスは言った。
「捕まった・・・・・か」ラグナは再び目を閉じた。「なんでぇ・・・・・・・。せ〜〜っかく王子様が囚われの姫君を助けに現れるのを期待してたってのに、王子様まで捕まったんじゃどーにもならねえじゃんかよ・・・・・・・・・・・」
「期待に応えられなくてすまなかったな、姫君。−−−−起きられるか?ずいぶん手荒なことをされたようだが」
「ん〜〜、なんとか、な」ラグナはウォードにささえられて体を起こした。「あいつら、ストレスでもたまってるのかねえ。人のこと、サンドバッグ代わりにしやがってよ。ったく、いい男がだいなしじゃねーか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「大丈夫みたい、だな」
キロスはふっと笑みをもらした。
「なんにしてもすまなかったな。オレのポカのせいでこんなことにしちまってよ」
「君の判断に従うのを決めたのは自分自身だ。自分を責めるさ。それより−−−−疲れているところを悪いが、少し話をしてもいいか?私たちは今日の昼頃ここに連れてこられたばかりで、状況がまったくわからないんだ」
「いいぜ。つってもここじゃインタビューするんじゃなくてされる方をやってっから、オレにもあんまし話が見えてねえけどよ」
「どんなことを訊かれたんだ?あのこと、しゃべったのか?」
「うんにゃ。オレがあそこにいたのは、情報屋からあそこでなんか起こるって聞いたからだと言ったらとりあえずそれで済んじまったんだ。実行部隊のSeeDたちもごっそり捕まってここにほおりこまれたらしいんで、あのことは先にそいつらをしめあげるつもりなんだろうな。んで、あとは、オレが今までに書いた反ガルバディア記事について根ほり葉ほりよ。あん中にオレの顔知ってるヤツがいたらしくってさ。これまでは、今じゃオレたちはガルバディアの人間じゃねえから手を出してこなかったんだけど、この際だからとっつかまえておこうということになったらしいんだな。どおりでしつこかったはずだわ。う〜〜ん、ゆーめーじんってのもつらいねえ」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・ほかには?」
「そんだけ。−−−−あっ、と、そうそう、魔女はあのあと、ガルバディアガーデンに移ったらしいな。こいつは予定通りだ。あとは、何がどうなってるか全然わかんねーや。魔女はなんでガーデンに行ったのか、今何してんのか、それと・・・・・・・カーウェイはどうしてるのかも、な」
「・・・・・・・・カーウェイ、か」キロスは何か考え込みながら言った。「彼のこと、しゃべらないつもりか?」
「ん。まあな」
「SeeDが口を割らなかったらたぶん追求がこちらにくる。そうなったら、この程度のことでは済まないだろう。それでもか?」
「そうだろうな。そんでもしゃーねーだろ?」ラグナはあっさりと言った。が、不意に視線を落とすとつぶやいた。「・・・・・・でも、そうも言ってらんねーのかな・・・・・・・・・」
「ラグナくん、ひとつ確かめておきたい」キロスは、ラグナの気持ちを察して訊いた。「意地でもかばおうとするのは、相手がカーウェイだからか?」
「・・・・・・・・正直言って、個人的感情はある」ラグナは答えた。「だけど、それだけじゃねえ。と言うより、それはおまけにすぎないんだ。これからガルバディアがどうなっていくのかわかんねえけど、いざという時にカーウェイみたいな人間が必要だ。軍や政府の中枢にいる、反魔女派の人間がな。ヤツにはなるべく自由に動ける状況でいて欲しい。だからオレはがんばるつもりだけど、そんでも・・・・・・・・・・・」
「わかった。もういい」キロスはラグナの言葉をさえぎった。「君の考えはわかった。あとは私たちが自分の意志で判断する。これから私たちの身に何が起こっても、それは私たちが自分で決めた結果だ。−−−−そうだな、ウォード?」
ウォードはうなづいた。
「・・・・・・すまねえ、ホントに・・・・・・・・」
「そこであやまってどうする。私たちはほいほいしゃべるかも知れないぞ?」
「それもしゃーねーよな。オレにしたって、いつ気が変わるかわかったもんじゃねえし」
ラグナはニヤリと笑った。しかしその笑みは、すぐに消えた。
「・・・・・・・・・だけど、カーウェイの野郎、今どうしてんのかな・・・・・・・・・。おじけづいてケツまくって逃げ出したりしてねえだろうな・・・・・・・・。そんなヤツじゃないとは思うんだけどよ・・・・・・・・。それに、あの魔女・・・・・・・・・。結局、目的もなんもわからずじまいになってるし・・・・・・・。なんでガルバディアをのっとった?なんで首都を離れてガーデンなんぞに移った?なんで・・・・・・・・・・」
ラグナは腕を組み、しばらくなにかぶつぶつ言いながら考え込んでいた。そして、突然叫んだ。
「あ〜〜〜〜、くそっ!なんもわかんねえままごちゃごちゃ想像しててもラチがあかねえや!ちくしょう、こんなとこ、さっさとオサラバしてやる!!」
「おさらばって・・・・・・・・逃げ出すつもりか?」
「ったりめえよ!こんなとこで腐り果てるつもりはねーぜ!!おまえらだってそうだろ?」
「腐り果てる・・・・・・?」キロスは首をかしげた。「・・・・・・・その場合、『朽ち果てる』と言うと思うな・・・・・・・普通は」
「毎度毎度いちいちそんな細かいとこツッこむなってーの!!」ラグナは真っ赤になってどなった。「あ〜〜〜、そんでも、な〜んか元気出てきちまったぜ!1人よりは2人、2人よりは4人、ってな!!」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・昔、今と同じような状況に陥った時にも、同じようなことを言っていたな、君は・・・・・・・・・・」
「そんなことあったっけ?−−−−まー、なんにしても、自力で脱出ってのはたいへんそうだなあ・・・・・・・。カーウェイが助けてくれる、なんてことにはなんねーかな?」
「期待はしたいところだが・・・・・・・難しいだろうな。カーウェイは、たとえ今もノーマークでも自分のことで手一杯で、暗殺に成功したら利用しようと思っていた私たちのことなど二の次だろう」
「う〜〜ん、やっぱしそうだろうなあ・・・・・・・・。そんなら、エスタはどうかな?」
「どうだろう・・・・・・・・。私たちは、自分たちの行動を逐一エスタに報告しているわけじゃない。事実、最後に連絡を取ったのはもう2カ月近くも前だ。私たちが今ここにいることに気づかないかも知れないし、たとえ気づいてくれたとしても、私たち3人のためだけに行動を起こしてもらおうなんて、虫がよすぎる気がするな」
「それもそーだよなあ。昔売った恩はとっくにおつりをたんまりつけて返してもらっちまってるもんな。−−−−となると、やっぱし自分たちでなんとかするしかねえか・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あっ、そうそう!んじゃ、こんなんはどーだ!?−−−−久々に妖精さんを召還して、妖精さんの力でなんとかする!!」
「妖精さん・・・・・?あれか・・・・・?」
「そうそう!妖精さんがいれば、なんでもできそうな気がしねえか??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それこそ期待するだけ無駄というものだな・・・・・・・・・・・。あの現象が最後に起こってからもう十何年もたっている。それに私たちは、自分で『妖精さん』を呼んだことは一度もない」
「う〜〜ん、これも・・・・・ダメ?−−−−−そんなら、最後の手段だ!」
「・・・・・・?」
「・・・・・・なんだ?」
「寝る」ラグナの声から急に張りが失せた。「逃げ出すにゃタイミングってもんがあるだろ?今はそん時じゃねえから、ここぞという時にそなえてとりあえず寝ておこーぜ。それによ・・・・・・」
ラグナはひたいを押さえた。
「・・・・・・・・・・今チャンスが来たところでオレぁ一歩も動けそうにねえや・・・・・もう限界だあ・・・・・・・。おまえらの顔見たらちったあ元気出たけどよ・・・・・・しょせんは、カラ元気なんだよ、なあ・・・・・・・・・」
彼の体がふらっとゆらいだ。そしてくずれるように壁にもたれかかった。
「おい・・・・ラグナ・・・・・・・!?」
完全に気を失っていた。
「まるでスイッチが切れたみたい、だな・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
 ウォードはラグナを抱き上げた。そして、彼の体をベッドにそっと横たえた。彼はみじろぎひとつしなかった。
「まったく、変なところに気を回しすぎるんだよ、君は・・・・・・。どうでもいいことには大騒ぎするくせに、こういう時だけ・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
 キロスとウォードは静かにベッドのそばを離れた。そして部屋の隅の方に腰をおろした。
「ウォード、さっきの話の続きだが・・・・・。本当にここから出られると思うか?」
「・・・・・・・・・」
ウォードはひどく複雑な顔をした。
 D地区収容所−−−−ここから脱走に成功した者はいない。釈放された者もいない。囚人がここから出られるのは、死んだ時だけだ。かつてここで働いたことのあるウォードは、警備の厳重なことも建物の堅牢さもよく知っていた。
 しかし、内部の構造をある程度知っているというのは、他の囚人にはない強みだ。20年近く前の知識が役に立つ保証はないが、何も知らないよりはいい。
「そうだな。希望は捨てないでおこう。私たちにしたってここで生涯を終える気はさらさらないし、それに、ラグナくんには−−−−−−」
キロスはベッドのラグナの方に目をやった。聞き慣れたいびきの音がかすかに聞こえていた。
「−−−−−あいつには、まだやりとげていない大事な仕事が残っている」




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