SECOND MISSION〜Final
Fantasy VIII・IF〜
〜D地区収容所・3〜
ラグナとウォードは向かい合って腹ばいになると、互いの右手を合わせた。その上に、キロスが自分の手をそっと置く。 そしてかけ声と共にキロスが手を離すと、ふたりは右腕に渾身の力をこめた。握り合った手はしばらく右に左にとせめぎあっていたが、やがて一方に傾いていき、ラグナの手の方がごんっと床に押しつけられた。 「はい、腕相撲13回目、今度もウォードの勝ち。−−−−13対0だ。まだやるかい、ラグナくん?」 ウォードはニヤニヤしながら指を鳴らした。 「ちくしょー、もういいよ!!」ラグナはごろんと床にころがった。「腕力ではウォードにかないっこないのはわかってんだからよ!!」 「しかし私でも3割は勝てるぞ。力の入れ方を考えればだな−−−−」 「めんどくせえ。そんなことにまで使えるほどオレののーみそはあまってねえんだよ」 「それもそうだ。そんな余裕があるなら、もう少し人の名前が頭に入るはずだな」 「フン、どーせ」 ラグナは気にいらなそうに組んだ足をぶらぶらさせていたが、唐突にすたっと飛び起きた。 「んじゃキロス、今度はおまえが相手だ!今日は絶対勝ち越してやる!!」 「いいだろう。お相手しよう」 そして今度はラグナとキロスが向かい合った。そのふたりの間にウォードが審判役に座った。 その時。 突然、収容所内にサイレンが鳴り響いた。 「・・・・・・・・・・・・?なんだ?」 『脱走警報!脱走警報!SeeDが脱走した。警備兵はただちにSeeDを追跡。発見次第ただちに射殺せよ。繰り返す−−−−−』 脱走?SeeDが?? ラグナは反射的にドアに駆け寄ると、鋼鉄の板に体当たりした。当然のことながら、びくともしなかった。 「ちくしょう、なんだってこんないきなり・・・・・・・・・・・。こんなことまでは考えてなかったぞ!!」 彼はこぶしをドアに叩きつけた。 サイレンにかすかに銃声が混じる。部屋のすぐ外を警備兵が走っていく足音が聞こえる。 ラグナはドアのわずかなすきまに手をかけた。しかしその指は無為に鉄板の表面を滑るばかりだった。 ちくしょう、今、たった今、このドアさえ開けば・・・・・・・・・・! かすかに金属音がした。しかしその音は、鋼鉄の扉に無駄な戦いを挑んでいるラグナの耳には届かなかった。 そしてドアは開いた。急にささえを失って、彼は通路に転がり出た。 「てっ・・・・・・・・・!な、なんでイキナリ開くんだ??」 床にぶつけた額をさすりながら顔をあげたラグナの前にいたのは−−−−。 「ラグナ!」 「−−−−ムンバ??おまえか?おまえが鍵を開けたのか??」 「ラグナ!!」 「なんでまた、こんなにタイミングよく・・・・・・・・・・・・。−−−−−んなことはどーでもいいや。行くぞ、キロス、ウォード!!」 「行く・・・・・・・・?今、か??」 「今行かずしていつ行くってんだよ!今を逃したら、オレたちゃ二度とおてんとさまをおがめねーぞ!!ウォード、館内放送はどこでできる?!」 ウォードは指で3と8を示した。ラグナは吹き抜けを見上げた。銃声や怒号は上の方から聞こえてくる。 「ここは4階・・・・・・・・・・。よし、ちょうどいいや、下に行くぞ!!」 |
××× |
ほとんどの兵士がSeeD射殺に動いていて、階下の警備はすっかり手薄になっていた。ほんの数人残っていた警備兵を襲って武器を手に入れると、ラグナたちは3階の管理室に入った。 そして館内放送のスイッチを入れ、ラグナはマイクに向かって叫んだ。 「SeeD?!脱走中のSeeD!聞こえてっか?聞こえてたら返事をくれ!どこでもいい、近くの内線電話を取れ!!」 ラグナはどさっとコントロールパネルの前の椅子に座った。そして腕を組み、返事を待った。 「どういうつもりだ、ラグナくん・・・・・・・・・?」 「決まってっだろ。SeeDに協力してもらうんだよ。脱走の相棒にするのに、あいつらなら申し分ナシだ」 「しかし・・・・・・・・・・。突然あんな呼びかけをして、応答してくるか?信用してもらえなかったらどうするんだ?」 「そん時は、今日が人生最後の日になるだけだ。オレたちはもちろん・・・・・・・・・たぶんあいつらも、な」 ほんの2、3分−−−−しかしひどく長く感じられた時間のあと、スピーカーがノイズをたて、女の声が聞こえてきた。 『誰?』 「SeeDか?!」 『今の放送をしたのはあなた?誰なの?』 「通りすがりの正義の味方」 『え?』 キロスはラグナの後頭部をおもいきりどついた。 「−−−−−じゃなくって、あんたたち同様ガルバディア政府にたてついたかどでここにほおりこまれた囚人だよ」ラグナは頭をさすりながら言った。「こっから逃げ出すんだろ?協力するぜ」 『どういうこと?』 「あんたたち、何階か知らねえけど上の方にいるんだろ?ちょうどいいから最上階まで行ってくんねーか?」 『なぜ?出口は普通下でしょう?私たちをおとりにして、自分だけ逃げ出す気??』 「いや、そーゆーわけじゃなくって、あんたたちには上に行ってもらわなきゃなんねえんだよ!」 「代われ、私が説明する」 キロスはラグナを押しのけた。 「すまない、言葉足らずで。彼は要点をしぼって話すのが少々苦手でね。−−−−確かに1階にも出口はあるが、簡単には出られない。この施設は普段、半分地中に埋まっている。現在もそのようだ。外に出るためには、1階と最上階のパネルを同時に操作して建物そのものを動かし、出口を作る必要がある。私たちは今、3階にいる。1階は私たちがやるから、君たちには最上階を担当してもらいたい」 相手はしばらく黙りこくっていたが、やがてため息混じりに答えた。 『・・・・・・・・・わかったわ。どっちにしても簡単には下に行かせてもらえそうにないし。あなたの言葉を信用してみるのもいいかも知れないわね』 「頼む。では、私たちはこれから1階に移動する。最上階のコントロールルームに着いたら連絡してくれ」 そして通信は切れた。 「なんでオレだと信用できなくて、おまえなら簡単に信じるんだよ〜〜〜」 「君の言い方が悪いんだ。記事ではすごく説得力のあるいい文章を書くくせに、ペンと口とでは出てくる言葉が全然違うんだからな、君は。−−−−さあ、こんなところでいじけている暇はないぞ。あの派手な放送に引き寄せられて、こっちにも警備兵が戻ってくるはずだ」 「ラグナ!」 なぜかいっしょについて来ていたムンバが外をさして叫んだ。 「なんだ?」 ドアのすきまから外をのぞく。すると、いきなり銃弾が飛んできた。 「ひゃ〜〜〜、もう来てやがる!!応戦するぞ!銃を貸せ!!」 ラグナはマシンガンをかまえ、ドア横の壁にはりついた。弾が十分にあることを確かめ、ウォードに目で合図する。そしてウォードがドアを開いた瞬間、兵士にむけて銃をぶっぱなした。弾は逃げ遅れた兵士たちの足をなぎはらった。残った兵士が撃ち返してくる。とっさに閉めたドアに弾があたり、金属音が雨のように響いた。 「う〜〜、一度で全滅はムリだったかあ・・・・・・・・・・。あと何人残ってんだ?」 身を低くしてドアを薄く開け、様子を見る。最低でもまだ5、6人はいそうだった。 「しかたねえなあ・・・・・・・・・・・。ほれ、おまえらもこれ持って」ラグナは銃をキロスとウォードに渡した。「兵隊たちは左手にかたまってる。これからオレが右手の方におとりになって走るから、連中がこの前を通る時にかたづけてくれ」 「しかし−−−−−」 「しかしもへちまもねえの。そうでもしなきゃ、こっから動けねえぜ?」 「しかしだな・・・・・・・・・・。私たちは、軍での研修以来、ほとんど銃器にはさわっていない。うまくやれる自信がないのだが」 「あら、ま」 「だから、ここに残って待ち伏せるのは、君の方が適任だ」 「・・・・・・・・・それもそうだな・・・・・・・・・・」ラグナは真剣な顔になった。そして、言った。「わかった。おとり役、おまえらに頼む。こんな時にケガしたりすんなよ」 「大丈夫だ。心配するな。そっちの役ならば、君なんかよりうまくできる」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「わかってるよ」 「ムンバも来い。大勢の方がだましやすい」 キロスとウォードは目配せすると、マシンガンを乱射しながら外に飛び出した。ムンバもキロスに言われたとおり、あとを追って走り出した。 「逃げたぞ!追え!!」 ひるんだのか、一瞬遅れて兵士がそう叫んだ。 ラグナはわずかに開けたドアの隙間からライフルの銃口を外に向けた。 警備兵はキロスたちを追って、管理室には目もくれずに前を通り過ぎていった。ラグナはその兵士たちの足や肩、腕を狙って銃を撃った。 何発かの銃声が響いた後、足音は消え、うめき声だけが残った。 「は〜〜〜〜、銃なんぞ持ったのすっげーひっさしぶりだったけど、カンはにぶってなかったかあ。よかったよかった」 ラグナは血を流して倒れている警備兵たちに近づくと手早く武器を取り上げ、吹き抜けから下に投げ捨てた。 「すまねえなあ。急所ははずしといたから、頼むで死にはすんなよ〜〜〜」 吹き抜けの向こう側から顔を出したキロスたちは、ラグナの合図を確認すると戻ってきた。 「さすがだな。銃の腕では、私たちは君にはとうていかなわない」 「どーだ、見直したか」 ラグナは胸をはった。 「・・・・・・・・・・・」 「とにかく、先を急ごう。SeeDたち、とっくに最上階に着いて待ちくたびれているかも知れん」 「そーだな。−−−−−−おし、今度は1階まで一気に行くぞ!!」 いつの間にか、上の方の銃声も止んでいた。 |