SECOND MISSION〜Final
Fantasy VIII・IF〜
〜デリングシティ・2〜
1時間後、ラグナたちは住宅地の中にある1軒の民家のドアを叩いていた。出てきた男にエドワーズの名を告げると、彼はラグナたちを2階の一室に案内した。 そこでは私服に着替えたジュードが待っていた。 「来てくれたか、ラグナ。ガルバディア政府の見解を警戒して、もしかしたら来ないかも、と思っていた」 「それも考えたんだけどよ。あんないわくありげな言い方をされたんでは、来ないわけにはいかねえだろ」ラグナはベッドの端に腰をかけた。「で、続きを話してもらえるのかな?それとも、宿の提供だけで終わり、か?」 「そのことで、上官の意向を確認してきた。おまえにも、デリング政権に対峙するジャーナリストとして協力してもらいたい、とのことだ」 「おいおい、かんちがいすんなよ、ジュード」ラグナは彼の言葉をさえぎった。「確かにオレは、反デリングな記事をたくさん書いてる。デリングの政策には納得いかないことが多いからな。だからと言って、現政権に反対する勢力ならばなんでもかんでも無条件でつくとは思うなよ。デリングとは意見が違うとはいえ、やっぱしろくでもないことを考えてる輩も多いからな。おまえが今どんな立場にいるのか知らねえが、オレの信条に反することにまきこもうってんなら、断る」 「・・・・・・・・そうか」 「でも、賛同できることなら、おまえらサイドの記事を書いてもいい。だけど、その判断材料だけでも提供してくんないと始まらねえよ。で、なんだっけ・・・・・そうそう、だいたい、なんだってデリングは急にハデな侵略行為を始めたんだ?この数年、支配済の地域を押さえ込むのだけで精一杯だったはずなのによ」 「・・・・・・・・・・」 「それも言えねえってんなら、この話はナシだ」 ジュードはしばらく逡巡したのち、言った。 「−−−−魔女、だ」 「魔女?」 「そう。魔女が、ガルバディア政府についた。その力を得てデリング大統領は、ガルバディア勢力のさらなる拡大を謀っている」 「で、その手始めがドール・・・・・・・だったのか?」 「そうだ。電波塔の接収もその計画に必要だったが、それを外交交渉ではなく力で解決しようとしたのも、結局は、どちらが先になるか後になるかの違いしかなかったからな」 「それもわかんねえんだけど。この電波障害の中でいったい何を放送しようってんだ?」 「17年前の魔女戦争のこと、覚えているだろう?」 「ああ」 「デリング大統領は、あの時の恐怖を最大限に利用するつもりなんだ。そのために、魔女の存在の効果的な公開をいろいろと画策している。今度のパレードもだし、電波放送もそうだ。ガルバディアからのオンライン放送が行かないところにも、魔女の姿を見せつけようとな。緊急連絡用に小規模な電波放送設備を持っている地域は少なくない。そこにあらかじめ細工をしておき、大統領と魔女の演説を通常のオンライン放送に割り込ませる。−−−−それに必要な最後の技術的下準備が、現在世界で唯一全世界的放送の可能なドールの電波塔だった」 「・・・・・・・・・なるほどね。や〜っと納得がいったぜ。今25才以上の人間なら、魔女と聞いただけでふるえあがるからな」 「その放送が今夜、あと20分くらいで始まるはずだ。ここで見て行ってくれ」 ジュードは部屋のテレビをつけた。今そこでは、定時のニュース番組を放送していた。しばらく見ていると、天気予報のあとに大統領の演説があるのでチャンネルを変えないように、とアナウンサーが言ったあと画面はCMに切り替わった。 「・・・・・・・・それで?」 「それで、とは?」 「ガルバディア政府としてはそれで話は終わりだろうが、おまえにはまだ続きがあるんだろ?」 「聞くのか?」 「聞きたいね」 「ここから先は、最重要機密だ。聞くだけ聞いてはいさよなら、という訳には済ませられない。おまえの出方によっては、おまえたちを拘束することになる。それでも、話していいのか?」 ラグナはキロスとウォードの方にふりむいた。ふたりとも、おまえの判断に任せる、と無言で答えた。 「・・・・・・・いいだろう」 「ならば、話そう」 ジュードは椅子に深々と座り直し、手を組むと、おもむろに言った。 「軍の一部将校の間に、魔女を排除する計画がある」 「クーデターか?」 「それとは違う。私たちは、現政権を打倒するつもりはない。ただ、ガルバディアが魔女に支配されるのを止めようというだけだ。−−−−−17年前、エスタ魔女・アデルが起こした魔女戦争のために、世界はかなりの痛手をこうむった。そして今、デリング大統領は、再び現れた魔女の力を借りて、今度は自分の方から世界を相手に戦争を仕掛けるつもりだ。その魔女は、確認は取れていないが、アデルの後継者だという話もある。となると・・・・・・・・わかるだろう?」 ・・・・・・・・魔女戦争の、再来。 ドールでの予感、一番嫌な形で、的中。 「今の政権に反対する者は多い。だが、急激な変化も無用な混乱を招くだけだ。だから、政権交代まで謀るつもりはないが、魔女の介入だけは、どんな手段を取っても止めなければならない」 「−−−−−で?具体的には、何をするつもりだ?」 「私に話せるのはここまでだ」ジュードは言った。「これ以上はどんなに請われても、私の口からは話せない。しかしおまえが、私たちの側に立った記事を書いて配信すると約束してくれるのならば、今度の作戦のリーダーとの会見を設定する用意がある。だが、もし、拒否すると言うのならば」 「あ〜〜、もう、くどくど言わなくってもいいぜ。いいだろう。その話、のった。−−−−だけど、こっちからもひとこと念押ししておくぜ。オレはあくまでも、おまえたちに協力するという形は取らない。オレは、オレの書きたいように記事を書く。だけどそれでも、おまえたちの行動が一般市民大多数の不利益にならないものである限り、おまえたちを失望させないはずだ。それで、いいか?−−−−それでは信用できないってたぐいのことをおまえたちが考えているのなら、軟禁でも拘束でも勝手にしてくれ。その方がマシだ」 「ラグナ−−−−−−おまえ、強くなったな」 「んなことねえぜ。昔も今もオレは、やりたいことをやる、やりたくないことはやらない、そうしてるだけだ」 「・・・・・・・・・わかった。それでいい。ジャーナリストとしてのおまえのこれまでの行動を、大佐も高く買っている。その返答で納得してくださるだろう」 「おし。そんじゃ契約成立、だな」 テレビでは、明日のデリングシティ地方はいつもの通り曇りがち、という普段と何のかわりばえのない天気予報が終わっていた。そして、穴埋め的な軽い話題を伝えていたが、アナウンサーはそのニュースを途中で打ち切った。 そして、画面は別のスタジオのノイズ混じりの映像に変わった。 「始まるらしいな」 ジュードはテレビのボリュームを少し上げた。 17年ぶりの−−−−そして若い彼らには初めての電波放送にTVスタッフたちが右往左往する姿が画面に映し出されていた。その向こうでマイクテストに立った、たぶん電波の使えた頃を知っているであろう年齢のアナウンサーも、スタッフたちに負けず落ちつかなげだった。 彼は興奮気味に、これが電波放送であることを告げた。そして努めて冷静に短くビンザー・デリングの紹介をすると、マイクを大統領にゆずった。 デリング大統領が始めた演説の内容は、たった今ジュードから聞いた話の通りだった。演説そのものは魔女を『大使』として派遣し、平和的に他国との交渉をしようというものだったが、本当はそんな生易しいものではないことは明白だった。 「これ、どっから放送してんだ?」 「ティンバーだ。ドールを経由して放送するのに、あそこが一番都合がよかったからな」 そんな会話を交わしながら放送を見ていると、スタジオの中がなんとなく騒然としてきた。 デリング大統領はカメラとは違う方に目を向け気に入らなそうな顔をしながらも、演説を続けようとした。 その時。 白いコート姿の少年が画面に飛び込んできたかと思うと大統領をはがい締めにし、その喉元にガンブレードをつきつけた。 「・・・・・・・なんだ!?」 少年はひどく興奮してSPやTVスタッフたちを牽制しながら大統領をひきずっていき、画面から姿を消した。 変わって画面の外から、回りの人間を制止する女の声が聞こえてきた。その声の主の少女は画面に現れると、叫んだ。 『ティンバー班、聞いてる!?』 そして少女が仲間へのものと思われるメッセージを送り終えると同時に、画面はテスト用カラーバーに切り替わった。 「おい・・・・・・今の・・・・・・・」 「わからない・・・・・・いったい、何が・・・・・・・・・」 ジュードは急いでコートを手に取った。 「すまない、ラグナ。もう少しゆっくりと話を詰めたかったが、司令部に戻らなければならなくなったようだ。それでは、大佐との会見を設定して、2、3日中に改めて連絡する。デリングシティ滞在中は、この家を自由に使ってくれ」 「ありがとよ。今の騒ぎのこともなんかわかったらよろしくな」 「ああ。−−−−それでは」 「あっと、ちょっと待ってくれ、ジュード」ラグナは彼を引き止めた。「そのリーダー格の『大佐』とやらの名前だけでも教えてくれ」 「フューリー・カーウェイ大佐だ」 |
××× |
やがてテレビ画面はティンバーのスタジオに再び切り替わった。そしてアナウンサーが大統領の無事と少年の拘束だけを告げると、オンラインの通常放送に戻った。 「な〜んかエラく込み入った話になっちまったな・・・・・・・・」 「ああ・・・・・・・・」 「ヘタすりゃ第二次魔女戦争、か。アデル並のとんでもない魔女がまた出てきたとはな・・・・・・」 「・・・・・・・・・・」 「さってと〜〜〜〜〜」ラグナはベッドにごろりと横になった。そして、言った。「キロス、ウォード・・・・・おまえらはどうする?」 「どうする、とは?」 「今度のヤマ、そーとーヤバいぜ。それでも首をつっこもうと決めたのはオレだ。だから、オレはいいんだ。だけど、おまえらにまでついてこいとは言わない。今夜のうちにデリングシティを離れればあいつも、わざわざ追ってきまではしないだろ。そーゆーことだから、つきあいきれないと思ったら、さっさと荷物をまとめろよ」 「ラグナくん、君は何か勘違いをしているな」キロスは言った。「確かに君は優秀なジャーナリストだ。しかしそれは、有能な助手がいての話だ。私たちがいなかったら、君が書いた記事の固有名詞の間違いを誰が訂正するんだね?」 「は!違いねえや」ラグナは苦笑いをもらした。「・・・・・・すまねえな、キロス、ウォード」 「・・・・・・・・・・・・」 「そんな言葉はとうの昔に一生分聞いた、とウォードも言ってるぞ」 「・・・・・・・・そんでも言わせてくれよ。ありがとな、ふたりとも」 そしてラグナはふいにむくりと起き上がった。 「さってと!そんじゃ、さっさと風呂入って寝るとすっか?それにしても助かったよな〜〜。今夜は野宿かいいとこレンタカーの中で寝ることを覚悟してたからな〜〜〜」 ラグナはバスルームに入ると、浴槽に湯をため始めた。そして鼻唄混じりに服を脱ぎかけた途中で、ひょっこりと顔を出した。 「あのさ、さっきから気になってることがあんだけどよ。おまえら、さっきジュードが言ってた『カービー』とかいう名前に覚えねえか?な〜んか聞いたことがある気がするんだけど、どーしても思い出せねえんだな」 「『カーウェイ』だ、ラグナくん」 「そうそう、それ。で、心当たりあるか?」 「・・・・・・・・・ある」 「そっか。で、なんだっけ」 「−−−−−ジュリアの夫」 「へ?」 「20年前、一時期君の恋人だったピアニスト、ジュリア・ハーティリーの結婚相手。その男の名が、『フューリー・カーウェイ』だ。結婚当時の階級は確か、少佐だったが」 「・・・・・・・・マジかよ」 「『カーウェイ』という名はそれほど珍しいものではないから、同名異人の可能性もある。かといって、どこにでもころがっているほどありきたりの名でもない」 「・・・・・・・・・そっか。ジュリアのダンナ、ね」 ラグナはバスルームにひっこんだ。 そしてしばらくばしゃばしゃと派手な水の音を響かせていたが、やがてしんと静まり返った。 これはとうぶん出てこないな・・・・・・・・。キロスはバスルームのラグナに、夜食でも調達してくる、と声をかけた。 中からは、うわの空の返事が返ってきた。 |