SECOND MISSION〜Final
Fantasy VIII・IF〜
〜デリングシティ・1〜
ガルバディアホテル−−−−−。 地下のパブの片隅で、ラグナたち3人はテーブルをかこんでいた。 キロスとウォードの前にはハイボールのグラス、そしてラグナにはコークハイ−−−のふりをしたコーラ。 3人とも、難しい顔をして考え込んでいた。 「まいったな・・・・・・・・・」 「ああ・・・・・・・・」 そしてラグナはため息をつく。 「・・・・・・・今夜、どこで寝よう」 「・・・・・・・・・!?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「ラグナくん、あのな・・・・・・。それも問題かも知れないが、私は、他にも考えるべきことがあると思うのだが」 「はあ?なんかあったっけ」 「なんか、って・・・・・・。私たちは、どうやってガルバディア政府に接触するかを考えていたのではなかったか?」 「ああ、それね。そんなんは今晩無事にベッドにもぐりこめてからでいいだろ?今考えついたところで、もう夜になっちまうしさ」 「それはそうかも知れないが・・・・・・・」 ウォードはあきれながら空のグラスをかかげて、バーテンに酒のおかわりを頼んだ。 気候のためか政策のためか、いつも陰鬱な雰囲気のデリングシティ。そこに珍しく、華やいだ空気が流れていた。 ドールとの和解が成立したその日。ガルバディア政府からひとつの発表があった。近々ガルバディアの未来に関する重要な政策についてのデリング大統領の演説が放送される、と。そしてそれにともない、盛大なパレードが催されることになったらしい。 重要な政策とはなんなのか、なんのためのパレードなのか、市民は詳しいことを知らされていなかった。しかし元来、人間というものはお祭り騒ぎが好きなものだ。ドール侵攻の成果が、特にガルバディア本来の領土内では、事実以上に派手に報道されていたこともあって、なんだかわからないままに人々はもりあがっていた。 パレード見物にあちこちから人が集まってきた結果、デリングシティのホテルはどこも予約でいっぱいになった。それでもゆうべまではなんとか部屋の確保ができたのだが、今日はとうとうどこからもしめだしをくらってしまった。そしてラグナたちは−−−−というよりラグナは、今夜の宿に頭を悩ませることになったのだった。 「さて、ほんとにどうすっかな・・・・・・・」 ラグナは仕事のこと2割、今夜の寝床のこと8割を考えながら、氷が溶けて薄くなったコーラを飲み干した。 「ラグナ・・・・・ラグナ・レウァール?」 「・・・・・・・・ん?」 ふいに名前を呼ばれて、ラグナは顔を上げた。 そこには、ガルバディア将校が立っていた。 なんか見覚えのある顔だな−−−−その軍人の顔をラグナはじーっと見つめた。 そして、思い出した。 「ジュード?ジュード・エドワーズか?!」 「ジュード・『エバンス』だ。あいかわらずだな、ラグナ」 それはガルバディア兵時代の知り合いだった。 「ここに座っていいか?」 「もっちろん!20年ぶりか?いやあ、老けたな、ジュード」 「それはおたがいさまだろう。そっちのふたりはキロスとウォードだな。今もこの方向オンチのお守りをしているのか?」 「ああ。−−−−本当に久しぶりだ、ジュード」 キロスは彼に握手を求めた。ウォードも手をさしだした。 「ウォードも、なつかしいな、と言ってるぜ。そうそう、こいつは兵隊時代のケガのせいで声が出ねえんだ。ナンにもしゃべんなくてもおまえのことを嫌ってじゃないからな」 4人は飲み物を新たに注文し、再会を祝って乾杯した。 「いやあ、ちょ〜〜っと見ねえうちにエラくなっちまったみたいじゃないか、ジュード。将校の制服なんか着ちゃってさ。今は大佐か?大将か?」 「そんなに立派なものじゃないよ。少佐だ。それも、昇進したのはほんの一年くらい前のことだ。私は軍の主流派には乗れなかったから、今の軍の体質を考えると、少佐になれただけでも不思議なくらいだよ。私なんかより、おまえの方がよほど出世したじゃないか。おまえの署名記事、あちこちの新聞やら雑誌やらで読ませてもらっているよ」 「ふふん、まあな〜〜〜。おかげさんで、食いっぱぐれない程度の仕事は黙ってても転がりこんでくるんで、助かってるぜ」 「で、今おまえたちがここにいるってことは、やはりパレードの取材か?」 「パレードね・・・・・・・。それで、ちょいと困ってることがあるんだよなあ」ラグナはマジメな顔になって言った。「そいつ目当てに人が集まってきたせいで、宿を追い出されちまったんだ。そいで、心当たりがあったらどこか寝るトコ」 ウォードは乱暴にラグナの脇腹をどついた。 「あ〜〜、もう、わかったよ!!そんなことは後回しにしろってんだろ?!−−−−寝るトコもなんだけど、おまえ、政府か軍のエラいさんにコネつけてくんねーか?この間のドール侵攻のことで話聞きてえんだけどよ、誰もインタビュー受けてくんねえんだ。定例の共同記者会見くらいはもぐりこめたけど、質問のひとつもできなかったし」 「・・・・・・・・・ドールか。おまえの目的は」 「ああ。今度のパレードもそれとなんか関係ありと見てるからそっちの取材もするつもりだけど、その前に、裏にある事情を調べてえんだな」 「・・・・・・・・・おまえには、政府高官のインタビューは無理だよ」 ジュードは声をひそめて言った。 「なんで?」 「ドールでの対SeeD戦の写真をあちこちに配信したのはおまえだろう?おまえ、あれでガルバディア政府に完全に嫌われたぞ。ドールを攻めた一番の目的は確かに電波塔だったが、デリング大統領は本当は、ついでにドールを植民地化するつもりだったんだ。しかしSeeDの介入で、本来の目的を達成しただけであきらめなければならなくなった。それ自体はおまえとはなんの関係もないことだが、SeeDに手も足も出なかったという事実を報道されたのは決して愉快なことじゃない。実際、その写真と記事は検閲にひっかかって、ガルバディア国内には入っていないんだ。私は立場上、見ることができたが」 「あはは〜〜、やっぱりそうかあ〜〜〜〜〜」ラグナは頭をぽりぽりかいた。「そんな気はしてたんだよな〜〜〜〜。今までもガルバディアとなかよしこよしな記事を書いてたわけじゃねえしな〜〜〜〜」 「だから、政府筋の取材はあきらめたほうがいい。しかし−−−−−−」 ジュードはグラスをじっと見つめ、なにやら考え込んだ。 そして、黙りこくった。 「しかし?」 ラグナはしびれをきらして訊き返した。 ジュードはこっそりとあたりを見回した。バーの中のテーブルはほとんど人で埋まっている。しかし自分たちの方に注意を向けている人間はいないのを確かめると、彼は続けた。 「ここではあまりくわしいことは話せない」ジュードはいちだんと声を低くして、デリングシティ内の地名と、建物の特徴を言った。「ここ、どこだかわかるか?−−−−−キロス?」 「ああ」 「1時間後に、そこに来てくれ。その家の主人には、『エドワーズ』の紹介で来た、と言えば通じるようにしておく。そこで話そう。上官の判断によっては結局何も話せないかも知れないが、そこを宿として提供くらいはする」 そしてジュードはあたりさわりのない別れの挨拶を陽気にすると、バーを出ていった。 「なんか秘密のにおいぷんぷんな言い方をしていたな、ジュードのヤツ。いったいなんだろな?」 「さあ・・・・・・・。しかし、向こうから特ダネがころがりこんできた、という感じはするな」 「やっぱしそう思うか?−−−−だけどよ、な〜んか話がうますぎる気もするよな。信用していいものかな?」 「大丈夫だろう。君が変に警戒するということは、たいてい安心してもいいものだ」 「おいっ、どういうことだよ、それ??」 「冗談だ」 「なんか冗談に聞こえねえんだけどな・・・・・・・」 「冗談はさておき」キロスは真剣な表情をまったくくずさずに続けた。「ジュードは、本当に他の誰かに聞かれることを警戒していたようだ。あの様子、信用に足るものだと思う。ウォード、おまえはどうだ?」 「・・・・・・・・・・・・・」 「場所の確認をラグナくんにではなく私にしたことも信用できる、か。なるほどな」 「おまえら、ふたりしてそーゆーことを〜〜〜〜〜!」 「では、君ひとりで行けると言うのかね、ラグナくん?」 「・・・・・・・・・・うっ」 「そうだろう。だったらそれ以上文句を言わない。−−−−では、30分くらいたったら出ることにしよう。私もその界隈に行くのは初めてだから多少迷うかもしれないが、そのくらい時間があれば間に合うように着くはずだ」 |