▼ 第六話『碧学恒例! 肝試し大会2』
学校自体はそれ程年季の入ったものでは無いし、綺麗なものなのに、辺りが暗いし今夜は少し風も強い。カタカタと揺れる窓ガラスに、いつもなら大人数で賑わう場所の妙な静けさ、明かりといえば先生が持っている懐中電灯一つ。
その上この学校! 何でこんなにいろんなものがいるんだ。
私が視線を泳がせるところに大抵何かある。
祐真くんくらいハッキリした形なら慣れたので、そんなに怖いと思わないけど、そうじゃないものは得体が知れなくて何だか心もとない。
ミカミも、私が後から通るの分かってるんだから少し片して行ってくれれば良いのに、と都合の良いことを考えて、なるべく見ないようにしよう。
ぐっと握りこぶしを作って強く頷く。
「暁さん」
ぎゃっ!
「あはは、大丈夫? やっぱり怖いんじゃない」
鬼だ。コイツ鬼だ。
急に肩を叩かれ振り返れば、お約束のように懐中電灯で顎の下から顔を照らしていた。
分かりそうなものなのに、分かりそうなものなーのーにー!!
物凄い良い反応をしてしまった自分が悲しい。思いっきり尻餅をついてしまった。そのまま膝を抱え込んで額を擦り付ける。
あーもう、嫌だ。こんな大人と一緒だなんて。
「ほらほら、手くらい繋いであげるって、ミカミくんだってそのくらいしてあげてると思うよ」
差し出した手で扇いでいるのだろう。僅かな風が髪を揺らす。顔を上げたくないな涙目になっちゃったよ、でもこのままも駄目だし、いっそ後ろからくるペアと一緒になれば良いのに。
はあ、と重たい溜息を吐いて私は立ち上がりスカートの埃を払った。
「別にミカミは関係ないし、もし、そうだからって私が先生と手を繋がなくても良いです」
苛々と先生の手から懐中電灯を抜き取って、廊下を突き進んだ。
でも、そうだよね。早々に悲鳴を上げてたし、べったりだろうな。ミカミが拒否するとも思えないし。って別に良いじゃん! そのくらいっ!
もやもやする自分に腹が立ってぶんぶんっと懐中電灯を振り回し大股で闊歩した。
―― ……はっ!
思わず暴走してしまったら順路を外れてしまった。そして、先生とも逸れた。
まあ、外れても校内だから迷子になるわけでもないし良いけど。と、思ったものの暗闇の中で見る校舎は普段とは全く異質の物で、私が一人だけであるはずはないのに完全な静寂に支配されているようだ。
中庭は突っ切ったような気がするから、多分特別教棟だと思うけど、うーんと唸って廊下の窓をがらりと開け放つ。
梅雨時の湿っぽい風が吹き込んでくる。
満月にはまだ少し掛かりそうな月がぼーっと浮かんでいる。星は見えない。ここは田舎だから晴れていれば割りと多くの星を確認出来るのに。
「曇ってるのに外の方が明るいんだ」
余りの静けさに堪えかねて独り言をもらした。
懐中電灯持って来ちゃったから先生も困ってるだろうな。
「ちょ、もう、年寄りをそんな走らせないでくれないかな? 暁さん」
ギブアップしてスタート地点に戻ろうと思って、窓を閉めると背後から息せき切って走りよってきたのは先生だ。
探してくれたんだ。当然のことだろうケドちょっとほっとした。
私は素直に謝って膝に手を当てたまま、腰を折って肩で息をしている先生に手を差し出した。さっきとは逆だ。違ったのは先生が素直に私の手を取ったことくらいで……ってあれ? 何だか顔を上げた先生の印象が少し違うような気がする。
「順路を大幅に外れちゃった気がするし、もうギブしましょう?」
「ええ? 外れてないさ。俺はこっちに用があるからね?」
いいつつ足を進める。
私は繋いだ手から引きずられるように後をついていくけど、先生が何処へ向かうのかは知らないが進行方向はあまり良くないような気がする。何というか、不穏な空気が立ち込めているというか。
「先生、そっちはあまり行かない方が」
「あれ? 暁さんって、ああ、見えるんだ? ああ、だから尋常じゃない怖がり方した訳かなるほど、でもすぐ慣れるよ。それにもうそろそろミカミくんも追いつくだろ?」
私の忠告に耳を傾けることなく先生は校舎を突き進む。
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