▼ 第六話『碧学恒例! 肝試し大会1』
……一掃したいとはいった、いったけど……
街頭がぽつぽつと灯り始めた頃。
折角一度は帰宅したというのに、私たちは揃って学校へ向かっていた。
「ミカミ、今のこの状況おかしいと思わない?」
「ええっと珍しい感じですよね」
珍しいとかそういうのじゃなくっておかしいでしょ。
まだ夏真っ盛りというわけでもなんでもない、梅雨時だというのに、うちのクラスでは週末突然肝試しが行われることになった。
それに、百歩譲って肝試しは許しても、なんで私は肝試しに幽霊同伴なんだ。
「暁先輩のクラスって行動力ありますよね。思いついたら即実行だし」
ボク肝試し初めてです。と、喜び勇んでついて来た感じだけど、それはおかしいからね? 今、君は驚かせる側の人だから。って突っ込んでも無駄だろうな。はあ、と溜息ばかりが漏れてくる。
場所は学園内の高等部一階、中庭を抜けて、特別教棟をぐるりとして戻ってくる簡単なものだ。しかし
「ひなたさんって実は怖がりさんですよね?」
くすくすと楽しそうに口にしたミカミを一瞥したあと
「そんなわけないでしょ。今は幽霊なんて日常茶飯事だし、こ、ここ怖いわけない!」
ははっと笑って見せたが我ながら乾いていたような気がする。というか、どもった。偶然。ええ、偶然ね!
「そんなに怖いなら、参加しなければ良いのに、ひなたさん付き合い良いですよね」
「だから怖くないっていってるでしょ! それに、由良や柊木に絶対参加って念を押されてたの、ミカミだって聞いてるじゃない。二人とも楽しみにしてるんならその腰を折るのはどうかと」
ごにょごにょと言葉を繋いだ私の耳に、しゃー……っと、自転車が近づいてくる音が聞こえて反射的に身構えた。
予想通り頭に突然、ぼすっ! と、乱暴に腕が乗っかった。予想していたにもかかわず舌を噛みそうになってかえるが潰れたような声が出た。
「柊木! 人の頭を腕置きにするなっていってるでしょ!」
「いやー、お前の頭はかなり良い位置にある」
人の頭を支えにして、私たちの歩みに揃えゆっくりと自転車を進めるのは柊木要。
由良の幼馴染でクラスメイトだ。
柊木が居るってことは、当然その由良も居るだろう。絶妙なバランスを保っていた柊木の自転車ががたりとバランスを崩し、柊木の腕が私の髪を乱していく。
「やめろ由良! 後輪蹴るなっ!」
あ、こけた。
がっしゃん! と、派手な音をたてて柊木が私の視界からズームアウトした。ま、自業自得だ。あの馬鹿、とぼやきながら柊木と入れ替わった由良が私の乱れた髪を直してくれる。
由良は柊木なんかにかまけていなければ、背も高いし美人だから結構モテる方だと思うんだけど。そういう話は全く聞かない。腐れ縁ってヤツなのかな。
***
校舎前に来るとメンバーは揃っていた。数人欠けているもののほぼ全員だ。
みんな、結構暇なんだな。と、思いつつ自分がそのひとりであることに口を閉ざした。
「それじゃあ、和(なごみ)くんがくじを作ったらしいから同じ番号の人がペアになって順路を進むことー」
「先生、藤堂と呼んでください」
藤堂和(とうどうなごみ)くんは我がクラスの委員長さんだけど、どうも可愛らしい和というお名前が気に入らないらしい。そう呼ぶと、ことごとく訂正して廻るものだから、殆どのクラスメイトから“和(なごみ)ちゃん”と呼ばれている。
それはそうと、そうか、くじか。予想の範疇だけれど私なんかとペアになった人、気の毒だな。今現在不運は薄れていても幽霊憑いてますから。
「心配なら細工しましょうか?」
ぽつりと隣りから天の助けとばかりのミカミの声が掛かるけど、ここで私がミカミの力借りてミカミと組んだらクラスの女子から益々痛い目で見られそうだ。
私はちらりと浮き足立った女子を見てしぶしぶ断った。ここは一人の男子に犠牲になってもらおうじゃないか。
―― ……と、思ったのに
「何で引率の先生が率先して参加しているんですか? 加えて何で担任じゃなくて保健医さんが」
ある意味助かったかもしれないけど、私にとっては毎度お馴染みの先生だ。
出発順も真ん中だしそんなに悪くない。
ミカミは始めの方の順番みたいだった。
パートナーは出発早々悲鳴を上げていた。ああいうの可愛いのかな? 私は小首を傾げつつ五分置きの出発で順番が回ってきたので校舎へと足を踏み入れた。
もう何組かが足を踏み入れたあとだ。人の気配が残っているから、恐怖感はあまりない。
「こんな面倒なことあいつがすると思う? それに俺これでも副担任だったりするんだけど、そんっなに存在薄いかな」
確かにあの担任がわざわざ就業時間外に集まるとは思わない、しかも彼らからいえば子守も同然だろうし。私は、なるほど。と頷きつつ、ちらりと隣を見上げる。
最近は、それ程お世話になることはないが、この先生も割りと人気が高い。
ひょろりとした長身、乙女も羨むほどの綺麗な長い髪は後ろで一つに束ねられている。そして面長の顔には整って涼しそうな目鼻立ちだし、男臭くないし? 個人的には既に見慣れてしまっている上に、此処最近私の周りは美形度が増しているのでそれ程際立っているとは思えない。
ごめんね、先生。心の中で少し詫びたら目があってしまった。
そんなに長いこと見ていただろうか。
「怖かったら抱きついても良いし、何なら腕でも組んで進む?」
「いえ、結構です。別に怖くないですし」
即答でお断りしたものの……校舎内を進むに連れて、後ろから何かに追い立てられるようで、ぞくぞくする。薄気味悪くて、振り向くことも出来ない。
それに、どういうわけか、あれだけ楽しみにしていた祐真くんの姿が見えない。誰と組んでも祐真くんも居れば何とかなるかと思っていたのだけど正直心細い。
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